第11話



【三人称の例2ページ】



ヤスオは腹痛とミチコの毒舌に堪えながらハンドルを我が家へと向かわせる。



「食あたりなんて、あなたも人間だったのね。ところでユリは上手くやってるかしら?」



「ああ、ついに彼氏ができたんだろぉ? ワイルドな俺は、この際、例の告白も兼ねて一旦トイレに帰りたいだろぉ? ぶちかましたいだろぉ? ワイルドだろぉ?」



ギュルルル



無理な流行りネタを外したおかげで静まり返った車内に、ヤスオの腹が鳴り響いた。



「あら、凄い音」



「頑張れ俺! ヒーヒーフー」



「出産か! あなた見て、このユリの受信メール!」



挫けずボケたヤスオに哀れみ、ミチコは一応ツッコんだが、続く言葉は人権問題を匂わせる。



「お前、親子とはいえ、娘に内緒でメール着信自動転送は悪趣味だぞ!」



「あら、あの子は物理的に心配ないって!」



ヤスオの腹痛はしだいに深刻さを増し、必死にハンドルをさばき、虚ろな目で我が家をとらえた。



「……ユリには時が来た。この際話す。心の整理が出来たか分からんが今しかない!」



ギュルルル!!!



「はうぅぅううう!!!」



ミチコはヤスオの苦しむ姿を見て「ウケる」と笑いころげ。古いマイブームをぶつける。



「ユリの貞操と掛けまして」



「またか……と、整いました」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る