Lost Name

朝花倉

第1話 名無し

 名


 名とは有形、無形の事物を他の有形、無形の事物と区別して言い表す呼び方である。




「…おい!!起きてるのか?」


「んっ?…あ!答えはx=8です。」


「何を言ってるんだ、今は現代文の時間だ。お前は!!寝ぼけてるんじゃないよ!」

 と先生にどやされ起きた。

 

ここは高校、俺は高校三年の男だ。身長は170センチ体重は普通くらいか。ちなみにボクシング部だ。


「おーい、テスト返すぞ」


「えーー!!」とみんなが一斉に言う。


「順番に取りに来いよ、安藤、井上、岩下……」

 順に呼ばれていく、何故か俺がまだ呼ばれない。

「……涌井、渡辺以上だ。あと名無しがいたぞ!!」


「あっ俺です!」


「お前か!しっかり名前くらい書けよ!」


「すいません!」


 うっかり名前を書くのを忘れてた。

「おーい、採点に間違い無いか確認したらまた集めるから持ってこいよ。」

 集めるらしい。とりあえず採点確認をして持っていく。

 

 あっ!名前書かねーとな。



 …あれ。ペンが進まない。



 名前が書けない。



 待て、おかしい何でだ。

 いや、考えすぎだろう。まだ寝ぼけてるんだ。


 …そうだノートに名前書いてる。ただの度忘れだ、

「度忘れもここまでくると怖いけどな」と小声で言ってすこし笑って、ノートをみた。

一葉いちよう高校 三年 …………』

 ……あれ、名前書いてない…

 待て、わかった学生証に書いて…ない。

「これにも…これにも書いてない。」

 いくら探しても名前が書いてある物がない。


 何でだ。


「おーい、テスト回収するぞー」

 テストをみんなが持っていく。


 わからない。


まだなのか?聞こえてるか?」


「すいません、少し待ってください」

……あれ?先生今なんて言った?


 お前


 先生はいつも名前で呼ぶのに…もしかして。

 隣の席の奴に声をかける。


「ちょっとこの答案用紙に俺の名前書いてくれねぇか?」

「なんでだよ、面倒くせぇな。」


「少し手が痛くてさ、わりぃな」


「仕方ねぇな。」

 なんだ?こいつこんなに挙動不審だったか?


「…おい、名前なんだっけ?」

 …えっ?

「ふざけんなよ、そんな冗談やめてくれよ」と肩を軽く叩く。


「…ハハハ、すまんな俺字が汚いから他の奴に書いてもらえよ。」と笑って済まされたが目が全く笑っていなかった。


 …みんなも俺の名前を忘れてる?


 逆側席の奴にも同じ事をしたが同じ回答が帰ってきた。


 何でだ、何でだ、何でだよ!!


「先生!!俺の名前を黒板に書いてください!!」と叫ぶ。

 クラスで笑いが起こる。


「何でだ?」

「お願いします!!」


「訳が、わからんが。」と黒板を向く先生。


 ……30秒経った、先生は黒板に向かいあったままだ。

「…悪い。少し考え事をしてしまった。名前を書くのはまた今度な。」

 その考え事は俺の名前だろう。


「…はい。」素直に頷いた。

 この先生に聞いても答えは出ないことを悟る。


 俺は教室を飛び出した。

 すると後ろから

「待てどうした!!」


 まただ、


 …お前


 何が俺に起きてる?

 どうすればいい?


 学校から出ると雨が降っている。


 そうだ家に帰ろう。

 そうすれば俺の家族が名前を…


 家族が名前を…家族って誰だ?


 家ってどこだ?


 嘘だ嘘だ嘘だ。

 家族も家もわからなくなってしまった。





 誰か助けてくれ、名前を教えてくれ。



 街を歩く、濡れながら。



「キミ大丈夫かい?」と警察が声をかけてきた。

 …今ここで名前のことを言っても変な奴としか思われないだろう。

「はい、大丈夫です。」

「キミ名前は?」

「…」

「本当に大丈夫かい?学校の時間だろうし、その服一葉高校の服だよね?名前は?」

「…」

 走って逃げる。ここで何を聞かれて、それに答えてもどうせ解決にならない。最悪病院に送られる。



 公園まで逃げた、どうにか巻けたようだ。


 ベンチに座った。

 顔を伏せる、どれだけ思いだそうとしても出てこない。

 むしろ頭が割れそうになる。



「どうしたの?」

急に声をかけられた。また警察かと思い前を向くと、黒い大きな傘を差した高校生くらいの女の子が立っていた。

その女の子は綺麗な黒髪、眼の色も黒なのだが、吸い込まれてしまうような深い黒。すごく美人だ。しかし今はそれどころでない。


「…うん、どうもしてない。」と嘘をつく。

どうせ話をしても困らせるだけだ、ならもう言わないのが一番の答えだろう。




「君、わからないんじゃない?」


「…えっ。」

「やっぱりそうだった。」と笑う


「…えっ?」

 呆然としてしまった。

「そんなの決まってるじゃん…」


「私も君と同じだからだよ。」


「…同じ?」あまりにも突然のこと過ぎて、形容できないような顔になってしまった。


「そうだよ、君と同じ『LNC』だよ!!」


「『LNC』?」


「そう、Lost Name Children。略して、LNC《エルエヌシー》。」


「まぁそこらへんの話も教えてあげるからついて来る?君は前に進むかい?それとも、そこで今起きた出来事を嘆いて止まってしまうかい?」と言い手を出してきた。


 俺は藁にもすがる気持ちで手を掴んだ。



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