嗤う道化師と余命博打

祭 仁

第1話『ライフカジノへようこそ』

 周りは暗く、ほとんど何も見えない。古びた扉がギシギシと音を立てて開いた。そこには、とても真面目そうなスーツ姿の男が立っている。

「こんばんわ。お待ちしておりました。先崎せんざきしん様。」

 信は、その男を見て困惑を隠せない表情をした。

「お前は、誰だ?」

 男は、深々と一礼をし顔をあげると、語った。

「これは、これは⋯⋯失礼しました。私は、ここの扉の奥で、ライフカジノのディーラーをしておりますクラウン・ジョーカーです。以後、クラウンとお呼びください。」

 信の困惑は一層酷くなり、眉間にシワを寄せている。

「ライフカジノ?」

「左様でございます。ライフカジノとは、ベットをお金でなく余命。つまりとする賭博のことでございます。」

 クラウンは嗤ってそう応えた。

「命を賭ける?なぜ僕がこんな場所に⋯⋯?」

「仙崎様、あなたは────死んだのです。正確には、昏睡状態なのですが⋯⋯まあ同じようなものです。」

 一拍子の間があり、信は力強く応えた。

「嗚呼、確かに僕はさっき車に跳ねられた。その時の記憶もしっかりと残っている。死んでもおかしくないと思っている。だから早々の事じゃ驚かない⋯⋯けれど、いきなり命の賭け?訳が分からない!!まだ、地獄や天国の方が信じれるさ。」

 クラウンは、いかにも演技がかった身振りで腕を組み、唇の下に人差し指を当て考え込んでいるフリをして、静かに語った。

「先崎 信様、生き返りたくはありませんか?」

 信は、唾を飲み込んだ。

「何がなんであれ、生き返れるなら……生き返りたいに決まってる。」

 クラウンは、嬉しそうに両手をポンと合わせて

「決まりですね!詳しい事は中で話しましょう。」

 クラウンが信を、扉の向こうに招き入れる。信は、それに従いコツコツと扉の向こう側に足を入れた。

 クラウンは、嗤った。

「────ライフカジノへようこそ。」

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