第27話「スネークによろしく」
かくしてラぺリングはうまくいった。世の中というのは便利なもので、ソラが用意していたロープは業務用の壁を上るためのものだった。体を固定するためのベルトとそれとロープをつなぐ命綱がしっかりついていたので、安全に上ることができる。
見張りに見つかることなく、比較的容易に屋上までたどり着くことができた。
「さて、ソラよ。ここからどうする。5階まで見つからずに行かなければいけないんだろ?スニーキングミッションじゃないって言っておきながら完全にメタルギアソリッドなんだが…?」
しかも装備なしで、見つかったら即ゲームオーバー、レーダーなしっていううエクストリームモード。
「監視カメラで相手がどこにいるかわかるうえに、照明を落とすから君は俺の指示に従って歩いてくれればそれでいいよ、見つからないルートとタイミングでリードする、非常にイージーさ。」
「イージーかな。ソラのことは信じてるが、不測の事態とかないのか。」
「ビルの中の警備スタッフ5人しかいないしな。2階の執務室に大使館の職員が10人くらいいるようだが、3階より上は手薄だ。さすがに姫がいる5階は巡回警備員が一人、扉の目の前に一人と二人体制だが、それ以外の階層は、規則的に警備員が巡回してるだけだ。」
5人しかいないなら確かにまず見つかることはなさそうだな。
「でも扉前の警備員はどうするんだ。さすがにどうにもならないだろう。正直言ってぶっ倒す自信はないぞ。」
やれって言われればやれるさもちろん、でもね相手銃持ってるじゃない?そりゃあ、無理だよ、ビビってる訳じゃぁねえんだぜ、リスクを避けたいだけなんだ。
「警備員の通信システムに割り込んで、2階の執務室に緊急事態が起きたとか、何とか言ってそっちに向かわせればいいだろう。侵入者がいるとは向こうも思ってないから警備なんてざるだよ。通信内容を傍受してるがそこまで緊張感もって警備してるわけじゃなさそうだ。そりゃあそうだろ、自分のとこのお姫様を囲ってるだけだしな、まさか侵入して奪還されそうになってるとは思ってないよ。」
お飾りの警備…、そりゃあそうか。警察が動いてるわけでもないし、そもそも姫がここにいるってわかってる人間も少ないしな。警備はあくまで姫が外に逃げ出さないようにするためのものか。
「オーケー、それは良しとしよう。それでどうやって姫を連れて脱出するんださすがに姫を抱えたままラぺリングするわけにもいかないだろう。」
そんな時間的余裕があると思えないし、なによりラぺリングの用意が二人分ない。
「姫を強奪したらあとは、照明を落として多少強引に突破しよう。扉等は全部開けることができるから、太陽はそのまま一気に駆け下りて、駐車場まで向かってくれればいい、そこからは任してくれ。姫が従ってくれれば楽だが、最悪の場合は多少眠ってもらうこともやむをえまい。」
強硬な意見が飛び出したなおい…。
なんか穴ばかりな気がするけど、ソラがうまくいくっていうんだから何とかなるんだろう。信じるぞおい。死ぬのも捕まるのもご免だ、そしてうまくいった場合の1億を忘れるなよ。
というか正直僕は一億に目がくらんで、正常な判断を失ってる気がする。よく考えたら僕すでにビル登ってるじゃん、パルクールやってるんじゃないんだからすでに常識外れの行動だよ。でもね、一億って言われたらリスクよりリターンに目がいっちゃうのよ人間って、あらためて自分が俗物だと感じるぜ。
「さて、行こうか太陽。いまなら階段に警備がいない。一気に5階まで駆け下りてくれ。タイミングを見計らって、警備を扉の前からどかすから、その隙に姫を部屋から抜け出させるんだ。」
正直、気が進まないままだったが、一度深い深呼吸をしたあと、ゆっくりとビルの屋上のドアを見つめた。ドアは夜の暗闇に溶け込むように僕には見えて、ここに入るには並々ならぬ覚悟が必要だと僕には思えた。
「よしっ。」
覚悟を決めた僕は扉をあけた。
「一気に5階まで駆け抜けてくれ。」
ソラがそういったので、僕は下り階段をダッシュで降りるという、小学生以来の技を敢行した。もちろん下から3段目位でジャンプして踊り場に降り立つ感じで。
意外に楽しいぜ階段ダッシュ!
軽快に僕は階段を駆け下りていって、あっという間に目的の階にたどり着いた。
階段とフロアーは壁で仕切られていたので、目の前にはいま五階のフロア―に入るための扉がある。もちろん普段は施錠されてるのだろうが、ソラが開錠してるんだろう。
もし、扉がコンピューター制御じゃなかったらどうする気だったんだろうな。
「その時は、その時で開錠用のツールを用意していた、鍵穴を解析するのなんてそんな難しいことじゃないからな。ま、コンピューター制御で助かったけどな。」
以前聞いたが、今のところ地球上でソラに開けられない扉はないらしい、鍵穴さえついていれば。
ヘッドセットからソラの声が聞こえてくる。
「さて、扉を開ける前に状況を整理する。駆け下りると同時に偽連絡を入れたので、今5階フロアーには警備員はいない状態だ。5階の警備員二人ともが2階に向かったよ。本当にざる警備だ。なので、臆せず姫救出に向かってくれ。救出と同時にビル全体の照明を落とすから、そのまま俺の指示に従って地下駐車場に向かってくれ。」
ラジャ。心の中でそうつぶやいて、僕はフロアーにつながるドアーをあけて、姫がいる部屋へと走り出した。廊下は幅3mといったところか、人が二人余裕で通れるくらいの広さで、廊下の両側に部屋に入る扉がついている、扉は6枚見えるので、1フロアー6部屋かな、実際には、通り過ぎるときに中央の扉がエレベーターであることが分かったので部屋数は5部屋ということだ。
「姫の部屋は、そのエレベータ―の隣だ。」
姫の部屋の目の前についた。エレベーターからものすごい近い…いま警備員が帰ってきたら言い逃れできないな。
「大丈夫だ、警備員二人は愚かにもエレベーターで2階に向かったから。これ幸いとエレベーターを2階と3階の間で止めさせてもらった。外部との連絡も遮断したから、彼らはしばらくエレベーターから出ることはできない。」
さすがソラだ、そして愚かすぎるだろう警備員。なんで2人そろって、一番重要な階の警備をおろそかにしてしまうのか。
「よし、じゃあ部屋に入るぜ、あれっ?」
僕は扉のノブを回して中に入ろうとしたが、扉があかない。どうもロックされているようだ。
「当たり前だろ、なんでカギが開いてると思ったんだよ。」
とソラがヘッドセットから嘲笑の声を出した。
「おまえ、鍵開けといてるんじゃないのかよ。」
「ここ、電子ロックじゃないんだよね。」
「どうすんだ。」
探偵もののように体当たりして壊すか。
「それは、やめたほうがいい。そんなに扉は簡単に壊れない。まぁ任せといてくれ。」
そういうと、背中に背負ったバッグからロボソラ(例の魔改造したディアゴスティーのやつだ。)が動き出した。
「おれを鍵穴のところに近づけてくれ。」
僕は、言われるままにソラを手にとって鍵穴に近づけた。
「どうする気だよ。」
僕の疑問をよそに、ロボソラの手が形状変化して細い針のようなものになった。
「ピッキングってやつだね。」
針でカチャカチャやること数秒、カチャっと音がした。
おいおいおい、本当に開錠しやがったよ。すげぇなこの宇宙人。まぁ宇宙人だしな、すごくて当然なのか?
「よし姫様とご対面と行こうぜ。」
改めて開錠されたドアノブをまわして、僕はそっとドアを開いた。
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