第5話「宇宙人は楽しいの?」
結局のところ、ソラと出会った日、僕は大学にも行かずにずっとソラとお互いについて話し合うことになってしまった。
スマホに向かってずっと語り続ける僕は傍から見たらおかしいやつにみえたかもしれない。しかし、よく考えればスマホに話しかけてるのは普通の行為だった。
もっともずっと部屋にいたので、傍から見てもくそもない。
「さてソラのせいですっかり大学をさぼってしまったけど、サークルくらいには顔をださないと」
今日大学に行けなかったのは仕方ない、すべてこの突然の来訪者のせいなのだ。
僕は全然悪くない。
「おい俺のせいにするなよ。最初から行く気ないみたいなこと言ってたじゃないか?サークルねぇ……太陽は一体何をやってるんだよ?」
おっ、サークルのことを聞いてしまいますか。
「キックボクシングだ。こう見えても結構俺は強いんだぜ」
僕は自分で言ってしまう痛いやつだった。
「キックボクシングか。――――なるほど。人間同士で殴り合ったり蹴りあったりするんだな。痛そう、なんでこんなことわざわざするんだか」
ソラは会話中わからない言葉が出てくるとその場でネットワークに介在して調べてるらしかった、「――――なるほど」と言ってる間は調べてる時間らしい。
文字情報より映像情報を重視するらしく、ほんの2,3秒あれば、例えば今のキックボクシングの話題なら、少なくてもネットで検索できるような映像は全部把握できるそうだ。
「体を持たないのに痛いっていう感覚わかるんだねソラ。そうだな、たしかになんで痛いこと、わざわざやってるかといわれると謎なんだが、鍛えてそれの成果を試合で出すっていうのが、生きてるって感じでいいんだよね。レベルを上げてボスに挑むみたいな感じでさ。ソラにはないのかそういうの」
「そもそも、スポーツっていう概念がないからな。俺らも身体があった時代はスポーツしてたらしいが、知識としてと、ゲームの世界としてしか存在してない。君たちでいうサッカー的なゲームはわりと流行ってるぞ。身体能力がいらないかわりに勝つために必要なのは情報処理速度で、俺なんか全然雑魚だけどな」
要はテレビゲームをしてるってことなんだろうな。そうか、文明はきわめるとゲーマーの文化になるんだな。素敵やん。でもなあ……。
「なんつーか、つまんなそうだな。お前らの世界」
正直そう思った。身体がないってそりゃあ、身軽なんだろうし不都合なこととか、不便なこととかないんだろうけど、それって面白いのかな。
不都合、不条理がある。それで個体の優劣があってこそスポーツは面白い。それがないっていうのは。
「ひどいな、簡単に人の世界をつまらないとか言ってくれるなよ。それなりに楽しいんだ。ただまあ、今日少し地球の文化に触れてみてわかったが、お前らはそんなに不便そうなことばかりなのに、楽しそうだよな。なんていうか新感覚だな」
「ジェラルはさ、そんだけ高い情報処理能力を持って、いったい何を話したりして楽しんでるの。すぐ何でも把握できるならつまらなくないかい?」
知ってる話ばかりしたってつまらないと思う。ぼくはちなみに会話に露骨にそれが出るタイプだ。
「それは、きみの
僕は小学生でおまえは大学生かよ。なんか馬鹿にされたような気がする。
「ジェラルでは地球人が今持っていない概念を持ってるからね。そういう話がメインさ。それを説明するのは少し難しいな」
ソラの語り口が楽しそうになってきた。しかし、そろそろ時間がやばい。
「って君とおしゃべりしてるとサークルに間に合わなくなる、行こう」
ソラとの会話を断ち切って、サークルに行く準備を始めた。準備といっても大概の道具は部室にあるので、ジャージに着替えてタオルを持っていくくらいだ。もちろんスマホがないといろいろ不便なので、この宇宙人ごと持っていく。変な奴に思われても困るので、移動中のこいつとの会話は、電話を装うことにしよう。
「ときにソラよ。お前のことは誰かに紹介してもいいのかい」
ぜひ紹介したいやつがいた、何かあった時にいろいろと頼めるやつでそしてこういうことが好きそうなやつ。最初の方で話に出したメカおたくの後輩だが、絶対食いつくに違いない。下手すりゃあスマホを分解しそうだが、それは止めないとな。
「俺に拒否権なんぞないだろ。好きにしてくれ。ただ、あんま目立つようなことになると、俺は間違いなくこの世界中のやつに追われるだろうな。そうしたら、俺は身を隠すというかネットの闇に潜むだろうから、それはおもしろくない。できれば口の堅いやつだけに話してくれ。なんでも話しちゃうギャルみたいなやつは勘弁だな」
「大丈夫だ俺の知り合いにギャルはいない……。」
「そうだな、お前はオタクっぽいからその心配はないか。」
さらっと余計なこと言われた、そうだよ大学生で格闘技やってる奴なんて結構オタク気質で集団スポーツとか嫌いなんだよ。うるせぇ、余計なお世話だバカヤロー。
まぁそんなわけで、僕はソラを連れてサークルに向かうのだった。
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