第4話「不死はつらいよ。」
「っていうか、どっちでもない。性別なんて概念はとっくにないさ。お前の性別に合わせて画像データも音声データも適当に引っ張ってるだけだし、いくらでもどうにでもなる」
そうなのか、それならせっかくだから、そんな口の悪い男じゃなくて、かわいい女子設定にしてくれれば、僕も身構えないで済んだのに。
「それはそうとよ、このケータイのCPU、俺が侵食しちゃって使えないからさ。申し訳ないんだけど新しいの買ってもらっていいかい」
えっ、えーーーーっ!
今月を2週間のこしてあと5000円で過ごす僕になんてこと言い出すんだ。
「おいおい、俺に金なんかないぞ」
しかし、ソラは金がないことには関心を見せてくれなかった。
「……ところで、俺の名前はソラだけど、君の名は?」
こっちの話を聞く気はないらしい。
でも確かに俺は名乗ってなかった、こいつは失礼しました。
「そういや名乗らなかったけど、ソラって名前聞いて偶然ってすごいなと思ったよ。ちょっと驚いた。」
と思わせぶりに僕は話した。
「ん、で、だから名前はなんだよ。」
「――――太陽」
少しだけ間をあけて僕はソラに名前を告げた。
偶然ということをソラも理解したらしく、ケータイの画面が/(・ω・)ラジャってなってた。ソーラーと太陽のコンタクトってわけ、一応説明しとくと。
「そういえば、ソラっていうのはジェラルではどういう意味なんだ。」
もちろん日本語の空とは違う意味なんだろう。気になるところだ。
「……うーん、深い意味はないがあえて伏せさせていただく」
はぐらかされてしまった。
なんだろう、なんかの伏線だったりするのかな。
「まぁ、いいけどさ。で、結局のところソラは地球に来て何がしたいわけ?」
改めて、核心に迫ることにした。そういえば地球に来た目的っていうのは結局まだ聞けてなかった。
まだ、これが夢という可能性も、ソラがよくできたコンピューターという可能性もないわけではなかったが、短い期間のおしゃべりの楽しさがそんな疑念をはるかに上回っていた。
「何がしたいといわれても、その答えは本当に『生き残りたい』だなぁ。べつに、地球に来て征服したいとか、進歩に協力したいとかそういうのは全然ないんだよ」
「それは、ありがたい話だね。侵略目的なら、僕は一応この場でこのスマホを壊さなければいけなくなる」
金もないのにスマホを壊すなんて、そんな暴挙はご免だ。
「まあ、そうされて死ぬわけじゃないけどな。とにかく、俺はただ生き残るためにここに来たっていうだけ。強いて言えば残りの寿命を退屈せず地球で過ごせればなって考えてるよ」
んっ、寿命だって?
「寿命あるのか?」
おまえら情報として存在してるだけだろ?寿命なんてないじゃないか、と僕は思うんだけれども。
「もちろんあるさ。記憶の連続性こそが自我だといっただろう。別に俺らはコンピューターじゃないから記憶量にも時間にも限界はあるさ。大体130年だな、長くてもさ。それ以上はいわゆるボケが始まる。身体を持たない俺らにとっては脳の劣化はそれがそのまま死を意味する」
もちろんコールドスリープ期間はカウントされないらしい。
「なんだよ、なんかもったいないな。せっかくそんな便利な体になったんだから、寿命もなんとかできたんじゃないのか。」
脳のデータ化がどういうものかは、いまいちわからないがそこまでの化学レベルならば寿命位何とかなりそうなもんだけどなぁ。
「何とかできたとしても、何とかしようとは思わないね。死のない生命は果たして生命といえるのかい。体がなくても俺たちは生命なんだ。死ぬ権利を失いたいとは思わないね」
なるほど死ぬ権利か……。
日本じゃ何というかなじみのない言葉だな。世界的にどうかは知らないけどさ。
教科書風にいうなら自己決定権ってやつだな、俺は何でもかんでも生き伸ばそうとする現在の医療には苦言を呈したいぞ。
彼らのよう身体がなくて不本意な死がない生命にとってはもはや死は選択肢の一つということなんだろうな。生も死も等価値だといっていたカヲルくんをおもいだすわ。そういえば不老不死のまま異世界に閉じ込められてしまったドラゴンボールの敵もいた気がするけど、考えてみればかわいそうだなぁ。
失礼、脱線し過ぎた、話の続きをどうぞ、ソラ君。
というわけで地球人を代表して、お願いをしてみる
「地球人としては、ソラが本当に宇宙人だっていうならぜひいろいろな技術提供してほしいんだけどね。地球には解決してない問題が山ほどある」
「ここにきて本当に宇宙人ならって……まだそんなこと言うのか。疑り深いなぁ。そうだなぁ、それに関しては別にどっちでもいいんだけどね。べつに協力をしちゃいけないってことも、やらなければいけないということもない。ただ、なぜか気が進まないな。なんでだろうなぁ、俺にもよくわからん」
悩むようなそぶりを見せるソラ、せっかくなんでもう少しあおってみる。
「そんなこと言いながら、ほんとはできないだけじゃないのか?」
「……本当に安いあおりが好きだな。まぁ、俺が本物かどうかはそのうち証明できるさ。そうだなぁ、地球の問題の解決に協力したくないっていう感覚はなんというかね。そうだ、太陽はゲームは結構やるほうかい?」
「なんだよ急に……。結構やる方だよ。そのせいで大学の単位を落とすくらいにね」
そう僕は猪狩君との勝負を優先して、大学の試験をさぼったことがある。まあなんというか、あれは避けられない男の戦いであった。
「なら、わかってくれると思うが、せっかくのゲームを裏技でぶち壊すなんて無粋なことはしたくないのさ。楽しめないだろう。裏技といわないまでも、いきなり強くてニューゲームをやるゲームは好きじゃないな」
「地球はゲームなのか」
「人生はゲームだろ?」
こいつは宇宙人のくせに粋なことを言いやがるな。生粋の日本人のようじゃないか。
「まぁ、そんなわけでとりあえず、宇宙人として地球に干渉する気は今はない。ただ、まぁ個人的に君に協力する気はあるよ」
「どういうことだい?」
「スマホ代を稼がないといけないんだろう?」
そうだった、こいつにケータイを占拠されていて新しいスマホを手に入れる必要があるんだった。なんだちゃっかりお金がないのくだり聞いてたんじゃないか。
まあしかし、宇宙人が稼いでくれるというんなら、こんなありがたい話はない。ぜひとも俺のスマホに飛び込んだよしみで俺に楽に稼がせてほしいものである。
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