第2話「光速プロローグ」


「どうも君たちのデータを見る限り、宇宙人はUFOで来るっていうのが多数派の意見のようだね。あと宇宙人ってグレイ型っていうのか? なんか眼がでかい奇形な変な奴……失礼だなぁ。そんなわけないじゃないか」

 たしかに僕の宇宙人のイメージもあれなんだよな……。あるいはタコの形をしているか、それとも無機質系美少女か、どれかを想像する。


「UFOっていうか。宇宙人なら円盤みたいなもので来るんじゃないのか?目撃情報もあるみたいだし」

 未確認飛行物体だから何でもありだけどここで、僕が言うのはいわゆるアダムスキー型のUFOってやつだな。


「君は見たことあるのか?いわゆるUFOってやつを。まぁ、そこはおいといても、考えてくれよ、そもそも乗り物なんかを使って、ほかの知的生命体がある星になんかたどり着けるわけないだろう」


 会話をはじめてわかったがソラはとてもおしゃべり好きだ。すこし会話を振ればものすごい長く語りだす。

 しかもすごい上から目線だ。まぁ文明レベルがだいぶ違うらしいから仕方ないのかもしれないが、人間がサルに話しかけるみたいなもんなのかな。だとしたら、サルに語りだしてるこいつは、やばいやつなんじゃないだろうか……。


 会話するのに青い画面じゃ味気ないということで、ケータイの画面には人の顔がうつしだされている。

 ソラはイケメンがいいとネット上からイケメン画像を引っ張ろうとしていたが、そこは俺の要望でショボーン(´・ω・`)の顔にしてもらった。状況で

( ̄∇ ̄)(≧∇≦)( ̄。 ̄;)(●`ω´●)などいろんな顔文字をつかってくれる。

 おかげですごい親しみやすい。


「ちょうど最近地球外生命体がいるかもって星が発見されたらしいが、それだって5光年離れている。近いとかって言われてるけど光の速さで5年だぜ。とてもじゃないがたどり着けない。俺たちの文明でもさすがに光を超える速さの乗り物は作れなかったよ。まあ、というかそんな必要はなかったんだがね」


「でも、君は宇宙人なんだろう。5光年が遠いというなら、今ここにいるのはおかしいじゃないか」

 光の速さで5年なら、宇宙船とかだったら一体何年かかるというのだろう。


「――君は察しが悪い男だな。俺は、体を持ってここにきてるわけじゃないだろう。スマホっていうんだっけ? 情報端末の中から話しかけてるということは、つまりそういう形でしか話しかけられないということだよ」

 情報端末からしか話しかけることができない……。

 はっ、とした。確かに僕は察しが悪いのかもしれない。なるほど、必ずしも星間移動にを伴う必要はないのか。宇宙人が有形であるとは限らないと、そういうことなのか。


「つまりは、体を持たずに移動してきたと……?」

 どうやったのかは分からないが、ソラは今、身体を持っていないのだ。


「察したのかい?そのとおり、俺たちはやはり光速を越えて移動することはできなかった。もちろんワープも開発されなかった。だが、光にはなることはできた」

  光になるだって?にわかには信じられない話だ……。


「それで、はるか遠くの知的生命体に出会うために、光そのものになって移動してきたということか?」

 光速で移動出来れば、現実的な時間での惑星間移動が可能か……。


「ご明察だ。光そのものというより情報そのものなんだがね、多少、光本体より速度は落ちるがそれでも十分早い、光速の99.9%まで速度を出すことに成功した。現に俺の星からこの地球までほぼ50年でたどり着くことができた」


「50年か、50光年離れてたってことか、思ったより近いね。」

 だって宇宙って確か150億光年の広さがあるって聞いたことがあるぜ。


「……いや、だからちっとも近くないんだってば。とんでもない距離なんだよ」

「わかってる、わかってる、ただ口から出ただけだ。むきにならないでくれ。なんとなく何万光年って単位の方が、SF好きには、なじみがあるからつい近く感じるんだよ」

 だってさ、どっかの波動砲を撃つ戦艦とかって、5万光年くらい先の惑星とかを目指してなかったけ。それに比べれば50光年なんか散歩みたいに思えちゃうよね。


「ずいぶんこの国のSFは宇宙をなめてるんだな」

 あ、はいすいません。地球人を代表して僕は心の中で謝った。


「ところで、当たり前のように聞き流してしまったけど、光そのものになったってどういうことよ? ――って言ったのは僕なんだけどさ。なんとなく根拠レスでそう思ったってだけで、にわかには信じがたい」


 消去法で宇宙人は光となってやってきたという解が導き出された。しかし、意味が分かったわけじゃない。だって、消去法ってそういうものだよね。正解の理由がわかって選んだわけじゃないのだ。


「その答えが出てるなら理解してほしいんだけど、俺らの民族、民族って言い方はちょっと違うか。まぁ俺らは自分たちをこっちの発音に近い感じでいえばジェラルって呼んでるんだが、ジェラルの人々はかなり昔に身体っていうのを放棄しているんだよ」

 どうやらこの度、ジェラル人が地球にやって来たようです。

 ジェラルって、なんとなくゴージャスな名前だなあ。ジュエルっぽい?


「俺たちジェラルの祖先はさ、脳機能さえ維持できれば生命として問題ないという結論に達したんだ。そして脳そのものの仕組みさえ理解し、個々のデータを抽出した。その結果情報そのものを自我として確立させることに成功したんだ。ジェラルの文明はそういうレベルまでたどり着くことができた。それが今からもう、千年以上前の話だよ」

 情報自身が自我だって……。ちょっと何を言ってるかがわからないな、自分の身に置き換えて考えることができない。


「――すげぇ話だけど、データそのものが自我っていうなら、なんだろう。なんか知らないけどもやもやするんだよ、全然理解できない。うーん、じゃあ、同じデータを持ったソラっていう存在は何個かいるってことになるのか」


「たしかにデータ自体は、バックアップすることができるがそれに自我はない」


「いや、そういう事が聞きたいんじゃなくてさ、そうだな、たとえ僕のドッペルゲンガーがいたとして、全く同じ機能でも、それは自分とはいえないんじゃないかと思うんだよ。」

 ドッペルゲンガーっていうのは、全く自分と同じ姿をした空想の存在だ。出会ったら死ぬらしい。しかしあまりにも、想像を超えた話をされているので、質問自体が的を射ないものになるな。


「あぁ、なるほどもやっとしてるっていう言い方がわからないでもない……。そうだな俺の自我っていうのは、記憶の連続性を元にしている。記憶の連続性さえあれば自分であって、前の記憶を引き継げる存在は一つしかない。だから俺は常に一つだ。」

 うーん、バックアップはじゃあどういう状態になるんだろうなぁ、理屈としてはなんだかソラがいっぱいでてくるような気がするんだけどさ。


「うーん、じゃあ、もしかすると実はすでに自分はいなくて、前の記憶を埋め込まれていて、自分は生きてるって思いこんでるだけってこともある?」


「……まぁ、否定はしないが、データは引き継がれているし、俺はずっと生きてるって認識あるから、問題ないんじゃないか。そんなこと言ったら君だって、昨日の自分と今日の自分が、本当に同じ自分か、どうやって判断するんだ」

 うっ、考えたこともなかったが、そんなこと普通疑わないよな。昨日の自分の続きが今の自分だと俺は思いたいけど……。

「難しくなってきた。そうか、そうかもしれない。確認しようはないかもね……」


「だから今のおれは情報としての存在なんだが、あんまり君たち人類の脳とシステム自体は変わらないと思ってくれ。体という器を必要としなくなっただけだ。脳をコピーできないUSBにして持ち運べるようになったくらいの認識でいいとおもうよ」

 うーん、イメージしづらいなぁ。

 雑に言うと、脳だけが移動してる生命体ってことか。気持ち悪いなあ。常に夢を見てるような感じなのだろうか。


「そうか、まぁそれでいいよ説明されても難しくてわかんないだろうから、ソラのことは脳だけの存在って感じで理解しておくよ。僕らが何年先に理解できるようにのかはわからないけど、きっと人類も将来そういう道をたどるんだろう」

 僕は無理やり納得することにした、自分で言ったことではあるがそういう将来をたどる人類ってなんかやだなあ。

 ソラはオッケーという意味で親指を上げるサインをスマホ上で示す。

 

「――それでとにかく自己存在を情報化することで、自分を光として発信できるようになった。つまりその瞬間、俺たちは星間移動ができるようになったんだ。」

 

 全く新しい概念だな……。円盤とか言ってた矢追純一の立場がないじゃないか。確かに光として移動してくるなら、宇宙人が地球に来れたっておかしくない。


「それで、君は一体なんでまた地球に来たんだい?」

 はじめはソラの存在を疑うだけの僕だったが、気が付けばどんどん彼に興味が湧いてきていた。これ以上の異文化コミュニケーションはない。

 こんな機会を逃すのはもったいなすぎる。

 そして地球人代表の僕とジェラル人との文化交流はまだまだ続いていくのだった。

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