番外編_ある彼女の時間_X
都心から少し離れた駅にあるバー。
繁華街ではなくて、近くには地方大学があるくらいで、あとは住宅街。
お店に入ったのはたまたまだった。
少し落ち着いた場所がいいと思って検索したら、このお店がヒットしたから。
雰囲気も良くて、お客さんもそれぞれが静かにお酒を楽しんでいる。店内にはジャズのスタンダードナンバーが流れていた。
カップル向けのお店なのか、店内はカウンター席、テーブル席、ソファー席ともに、カップルばかりが訪れていた。
ナッツをつまみながら、お手洗いに行った連れが戻るのを待っている。
と、乱れた靴音が聴こえた。
音のした方を見ると、ソファー席のあたりで、大学生くらいの年齢と思われる若い女の子がふらついていた。見たところ今から店を出るところのようだけど、かなり酔っているらしい。すぐそばに同じく大学生くらいと思われる男の子が立っていて、ちょっと困ったような顔をしている。
「だあいじょうぶだよー、ぜったいうまくなるから~!」
女の子はかなり上機嫌で、ふらつきながらもキュートな笑顔で男の子に話しかけていた。ミディアムボブの髪がふわりとゆれる。
あれは破壊力が高いなぁ、と横目で見ながら考えた。
男の子は少しだけ恥ずかしそうに笑って、女の子と一緒に店を出て行った。
男の子は、おそらく女の子をいつでもフォローできるようにしているつもりなんだろう。女の子の傍についている。
けれど、腰を抱いて支えるとかはしていない。身体に触れていい関係にはまだ至っていないらしい。
初々しいなぁ、と私は思う。
頑張れ、男の子。今夜はひょっとしたら、キミの大事な瞬間かもしれないよ。
彼と彼女の幸せを願って、私は目のまえのグラスをほんのすこし持ち上げてから、口に運んだ。
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