第7話

 実の両親を亡くし、子どものいない叔父夫婦の家に引き取られたその時から、傍らにいつも共にあった、年上の心優しき青年。

「お前に…一体何があったんだ」

 目の前に広がるビジョン。

 なだれ込んで来る、人々の恐怖に満ちた思い。

「こんなものを見せて、おれに何をしろと…!」

 少年は奥歯を噛みしめる。


 ユーリには、昔から不思議な力があった。

 己の繋がる者に対し、持ち物を媒介として思いを伝える能力が。

 どこだ。

 お前はどこにいる?

 お前はおれに、何を伝えようとしているんだ?

 崩れ落ちそうになる体を気力で支え、彼はひたすら前に足を進める。


 火種はとうに尽きていたが、街路には今も様々な食べ物の香りが満ち、時折吹き抜けるぬるい風が露店のひさしを静かにはためかせている。

 天辺より傾いた太陽も、変わらぬ光を投げかけている。

 だが、常ならば行き交う人々の喧騒に満ちているはずの町に、生きる者の姿はなかった。

 立ち並ぶ店々が祭りの痕跡を鮮やかに残す中、生きる者たちの姿だけが失われている。


「なぜだ…」

 彼の存在が、世界のどこにも感じられない。

 歯を食いしばり、重い足を引きずるようにして、一歩、また一歩と踏み出してゆく。

 いつも通りの町並み。

 いつも通りの風の音。

 ただ、いつでもあるはずの気配だけがなかった。

 そこに息づく者たちの、気配だけが…。

 十字に伸びる街の中心、広場にある明るい色の煉瓦を積んだ噴水は、豊かな水を吹き上げ、変わらぬ風景を湛えてはいたけれど。

 常に人影が絶えることない、町のシンボルである噴水を囲むベンチを、埋める姿はない。

 誰もいない。

 誰もいなくなった広場の中、ただ一人歩いていた彼の足が止まった。

 少年の瞳がふと伏せられる。

 まるで宿る痛みを、気取られたくないとでも言うように。


「…答えろ、ユーリ」

 視線の先には彼の到着を待っていたかのように、かつてユーリに贈ったナイフとともに、一冊のブックが置かれていた。

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