第5話 恋愛について

恋愛についても僕はうそをついてしまいます。

例によって拗れた理想が本心を押しつぶしてしまうのです。

それによって僕はだいぶ相手に負担をかける恋愛をしてきています。


僕はいかにも恋人らしくベタベタするのは好きじゃないと周りに言い散らかしてきました。

それ故、人前では恋人に冷たく当たったりして、そっけない態度を取っていました。不機嫌になる恋人を見ないふりをしていました。


しかし、ひとたび二人きりになると、ふと帰り道に手を繋いだり、家に帰れば抱きしめたりして、すっかり恋人に甘えてしまっている自分がいるんです。

そんな時、僕はいつも「いやいや、てめえ何様なんだ」と我に返ります。

「さっきは冷たくしちゃったけど、ごめんね。」と、贖罪かの如く甘える低俗で、醜い自分を殺したくなるんです。


相手を好きだという気持ちは本物です。

他の人に目移りするようなことはないし、恋人がいるなら他の女の人と遊ぶことさえ憚られるくらいの心持でいるのに、それほど思っているということを真っ直ぐに表現することができない。

さらに本来であれば、僕はだいぶ甘えたがりで、連絡もそれなりに取りたいほうで、都合があえばそれなりに会いたいほうで、すぐ嫉妬してしまう、女脳的な所謂、メンヘラ寄りの人間です。


でもそんなこと、腹を裂かれても、カミングアウトできない、したくない。今更そんな女々しいことを言って嫌われたくない。

「僕のことが好きですか?」とは聞かずに、遠回りに遠回りを重ねて、相手から「好きです」と言って貰える様に動いてしまう、どうしようもない臆病者です。

原因は僕の抱えている矮小な心にあると思うのです。


長く一緒にいれば、知り合うきっかけ作りのために本当の自分を捻じ曲げて作った仮面的な自分を好きになってもらっても仕方がないということに気付き、本当の自分を好きになってもらおうと動いて、それ見せても繋がっていられる人達が「幸せな恋人たち」として生きていくことができる。相容れなかったら、破局。

一口に言い切れないとは思いますが、それが一般的な男女の流れだと僕は思っています。

そんなことは僕の中でもわかりきった事実なのですが、僕はこの事実の「破局」に大きな拒否反応を示してしまうのです。


僕の中で絶対的な恐怖が、好きな人に嫌われること、失うこと。

人間であれば、誰しもが恐怖することだとは思いますが、僕の場合もはや病的にそれが怖い。

自分に自信がないので、導入である仮面的な自分を作りすぎてしまったが故、今更本当の自分を受け入れてもらえる気がしない。

結果僕はエゴを振りかざして、さらに仮面を作って、その恐怖を遠ざけて生きてきてしまいました。


こんなちっぽけな人間がのうのうと、恋人らしくベタベタするのが嫌いだなんだとのたまうなんてちゃんちゃらおかしい話です。

恋人の胸の中に顔をうずめて、自分が傷つかないように保身保身で生きている都合のいい男が、今更真っ当な恋愛なんて望む資格はねえよって話です。


でも僕は恋人が好きです。恋人のために何かしなければという思いはあるんです。

きっとこういうことを考えているということ、相手はどこか気付いている節があるのではないかと思います。僕が変わるのを待ってくれているような気もします。

こんなうだつの上がらない男に付き合ってくれている間にも、きっといい出会いはあるだろうに。

それでも側にいてくれる相手のために、僕はとにかく少しでも変わらなければならない。変わるべきなんだと、そう思うんです。

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