うそつき人間 経過観察中

かずまみむめもし

第1話 動機

「昨日、新しいおもちゃ買ってもらったんだよ!」 嘘です。

「あいつと喧嘩しても余裕で勝てるよ!」 嘘です。

「彼女のこと考えて、別れることにした!」 嘘です。

「一人でいても別に平気なんだよねー!」 嘘です。


物心ついた時にはもう、僕の中に理想とする自分がいました。

周りから何においても特別な人間だと認められ、頼られ、でも嫌味っ気がなく、どこかミステリアスで、とことん自立している、自分。

普通の人なら、あくまで理想としてある程度は割り切るところでしょうが、僕は本気でこんな人間になりたいと思っていました。

正確に言えば、「楽をしながら」こんな人間になりたいと本気で思っていました。


しかし、理想とあまりにかけ離れている自分の本質。

どうにかして理想に近づきたい。

そんな時僕は、理想に近づこうと努力をするという選択ではなく、「嘘」を使って自分を塗り固め、本質を隠すという選択をしました。


見た目だけは煌びやかな「嘘」

周りの人達は、街頭に集まる虫のように僕の元へ集まってきます。

おもしろいように他人からの評価が理想に近づいていくことに味をしめた僕は、さらに自分に嘘を塗りたくります。


気付けば僕は塗り固まった嘘に囚われ、動けなくなってしまいました。

さらに、自分は他人に嘘をついているという罪悪感による追い討ち。

今更、僕はみんなが思っているような人間じゃないんだと、本音を吐露することもできず、何も変わらないまま、毎日を過ごしています。


こんな自己承認欲求丸出しな男が、ここで慣れない文章を書こうと思ったのは、そんな自分から脱却するためです。

自分は特別でありたい、という気持ちを捨て切れない拗らせた自分の中にある「本音」を、文章として抜き取っていけば、自分は普遍的な人間だという意識の立ち返りができるかもしれないと思ったからです。

意味不明な理屈だとか色々思うことはあると思いますが、僕はこれが前に進むための一歩だと、半ば決め付けで、とりあえず突っ走ってしまおうと思っています。


ここで嘘を書くつもりはありません。

文字通りノンフィクションな自分をさらけ出していきます。


「一年前に買ってもらったおもちゃで、ずっと遊んでるよ。」 本当です。

「あいつと喧嘩したら100%ボコボコにされるよ。」 本当です。

「彼女が大好きだったけれど、他の男に取られただけだよ」 本当です。

「一人はやっぱり、寂しいよ。」 本当です。



―うそつき人間の経過観察、始めます。

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