希望の3人

 エルナバーグに入城してから約2ヶ月が過ぎた。

あの戦闘で亡くなった兵士たちの葬儀や事後処理、関係者の身の振り方なども一段落してきたところであった。

タラニスとキュウエルは勅命を果たせなかったことを説明するために王都へ帰還し、近衛隊もジン王子と共に王都に戻ることになった。


レインド王子は重傷を負いいまだ意識が戻らない  と報告され、レグソール伯はタラニスやキュウエルたちの後ろ盾になることも了承する。

シルメリアは正式にレインド王子の専属護衛の担当になり、怪我からもすっかり回復し以前にも増した魔法力と新たに多数の呪文も使いこなすまでになっていた。

真九郎はレグソール伯に雇われた戦闘指南役という役をあてがわれ、レインドの剣術指南以外にも任された任務が多岐に渡り充実した日々を過ごしている。



午後の鍛錬を終え、レインドと水浴びをしているといつものようにシルメリアが現れて小言を言い始める。

「何回言ったら分かるんですか、洗浄魔法は私がかけますから」

「稽古の後の汗はこうやって水浴びしつつ汗を流すの気持ちがよいのだ、なあレインド?」

「はい、師匠!」

最初は冷たがっていたが今ではすっかり慣れてしまったようだ。

「殿下まで!まったく変な影響ばっかりうけてもう!」

小言を聞きつつ洗浄魔法と乾燥ですっきりした二人は、昼寝から起きたマユに芸を仕込み始める。

「いいですか殿下、水浴びばっかりしてるとすぐ風邪引いちゃいますからね」

「シルメリアもやってみなよ、気持ちいいんだよ」

「わ、私はいいです・・・・」

真九郎が仰向けに寝そべりながらふと呟いた。

「風呂に入りたいなぁ・・・・米も食いたい・・・・・」

「ふろってなあに???」

レインドが真九郎を真似て寝そべりながら聞いてきた。

「風呂っていうのはな、こう、このくらいの箱のような容器にお湯を張ってそこにつかるんだ」

手で大きさを説明する真九郎は子供のように目を輝かせていた。

「お湯につかってどうなるのです?」

マユを抱っこしようとしていたシルメリアはついぞ沸いた疑問をぶつけてみる。

「湯船につかるとなぁこう疲れが抜けていくのだ。ふはぁ~とこう思わず声が出てしまうほどに気持ちいいのだ」

「聞いてるだけで気持ち良さそうですね・・・」

「そうなのだ!江戸には皆で入る大きい風呂、銭湯というのがあったなぁ」

「エドーというのが真九郎様がいた町なのですね」

「江戸か・・・米が食いたいものだ・・・味噌汁と漬物と米が食えたらもう死んでもよい・・・・」

今まで弱音のようなものを一切口にしなかった真九郎の言葉に二人は何やら危機感を感じる。

「あの、ふろーに関してはあてがあるので今度聞いてみます。後はコーメ?ですが、詳しく教えてください」

「聞いてくれるのか!!!」

シルメリアの手を握りつつ真九郎は思いのたけをぶちまけた。

真九郎の手の暖かさ、力強さを感じることに夢中で上の空だったシルメリア・・・・

「で、よいか??」

「え?ええ、そうですか・・・・もうちょっとだけ教えてください・・・・」

「ねえ、今度一緒に市場に行ってみようよ。エルナバーグの市場なら色々そろってるかもしれないよ」

「それは名案だな、異国の市場というのは言葉にしただけでわくわくするものだな」

「あ、僕はね、明日用事あるからシルメリアと一緒に行ってきたら?」

「よし、さっそく明日行ってみましょう!米米米米米米米米米米米米米・・・・」

「・・・・はい。ご一緒いたします」

シルメリアの耳はりんごのように赤くなっていた。




真九郎が米探しに全精力を注いでいた頃。

レグソールとタラニスの間で交わされた協議により、政務副官のニーサによってある計画が始動していた。

実務能力に秀でたニーサはレグソールによってその手腕を見込まれ、政務副官として頭角を現した逸材である。

冷徹な印象を受けるクールビューティーな女性でとっつきにくい、怖いと部下たちからは距離を置かれていたニーサ。

このたび副官から特務官に昇格し専用部署を用意される異例の事態であった。

彼女がまず行ったことは10才になったら行われる魔法力と資質の調査結果の分析であった。

着目したのはエルナバーグの人口調査結果と資質調査の年代別結果に若干のずれが生じていたことであった。

狙いは届出をしていない子供、その可能性である。

やはり、と目を輝かせたニーサはレグソール伯の許しを得て、ある公募をすることにした。

『レインド王子の介護に魔法力が欠如している者、もしくは著しく少ない者、10才~20才 を募集する』

給金は使用人の倍ほどの値段である。


実際、一週間ほどで応募は100名を超えた。

人手を確保しつつ選別作業を続け、わずかでも魔法力がある者を除いていき候補を15名まで絞った。

さらにドワーフ工房などの協力を得て作られたより感度の高い測定器を使用し15名のチェックを行う。


その結果、当初100人いた中で適正があったのは3名であった。

ニーサの予測では1人見つかればかなり幸運であろうと想定していたことから、この結果には驚いた。

レグソール伯の命で、候補に残った12名の生活がかなり悲惨であったため職を斡旋することも怠らなかった。

そしてその3名である。

魔法を使わず使えずに生きてきた3名は皆独特の目つきをしていた。

全てを憎むかのような闇を抱えた目だ。

1人目は、褐色の肌に金髪、目つきが少々悪いもののこれからが期待できそうな美しさを持つ15才少女だった。背も高く引き締まった体つきをしていた。

2人目は、一般的なリシュメア人の背格好である。灰色の髪と噛み付きそうな気配を漂わせる16才の少年

3人目は、赤系の髪の毛から猫のような耳がツンと伸びている。獣人種の中でも珍しい猫人族の少女だ。年齢は13才。まだ体格は小さいが活発そうな雰囲気を子。このなかでは一番明るそうなタイプであった。


ニーサが驚いたのはこの3人、あれ、とか それ に該当する言葉でしか呼ばれておらず、かろうじて名前があった猫少女も役立たずの隠語がつけられていたのだった。

魔法が使えない者たちへの壮絶な環境に改めて衝撃を受けたニーサだったが、3人に伝えるのだった。


「あなた方は厳正な審査の結果、選ばれました。しかし、レインド王子の介護の仕事ではなく、護衛などの任務になります」

「なんだって!俺たちをだましたのか!?魔法が使えないからまただますのか!!!」

少年が食って掛かった。言われても仕方がないことだと思いながらも想定した返答をすることにした。

「騙すつもりはありませんでした、あなたたちでしかできない使命があるのです。役職と給金、住居、食事もこちらで負担します」

「ど、どうせあたしたちを奴隷かなんかだと勘違いしてるんだろ!でもいいさ、金もらえるならなんでもやってやる!」

「・・・・ちゃんと食べ物もらえるならがんばる・・・・」


想像以上に3人の心は荒んでいるようだ。

「これからみなさんはある人に会ってもらいます。それが最初の仕事です、そこでその人を見て感じてください」

わけのわからない命令を受けつつ3人が案内されたのは練兵場であった。

これから起こること見ておくように言われ見学席に座らされる。


「では模擬戦を開始します、両者準備はよいか?」

「いいぜ」

「よろしくお願いします」


1人は王国軍の兵士、中でも隊長クラスの人物だ。

両手に長杖を持ち構えていた。

もう1人は・・・・・奇妙で奇抜な衣装を着た妙な男であった。

手に持つのは変わった長さの杖を、根元のほうで持っている。

3人は顔を見合わせ、なんだあの男はということになった。


兵士は開始早々、短時間詠唱可能な氷つぶての呪文を放った。

しかし、奇妙な男の姿は既にそこにはなく背後から兵士の首に杖を突きつけていた。

「ま、まいった」

「勝者、真九郎!」

「「「「「「「おおおお!!」」」」」

兵士たちからその動きを賞賛されつつ、負けた兵士も戦闘の解説と動きの説明を素直に聞いている光景は不思議だった。



ニーサは3人に尋ねた。

「あの奇妙な格好の人は、シンクロウという人です。あなたたちにはどう見えましたか?」

「体の動きを早くする呪文を最初にかけていたんだろ!じゃなきゃ人にあんな動きは無理だ」

そう言い放ったのは少年であった。

「念のため言っておきますが、身体強化の呪文は発見されておりません」

「じゃあ、幻惑呪文かなにかなの?」

褐色の少女が突っかかる。

「あなたにはどう見えました?」

猫耳少女は恐る恐る答えた。

「すごく早いけど、無駄のない洗練した動きをしたんだと思う・・・・猫人族でも無理だと思うけど」

「ほぼ正解ね、次の動きを見ていてちょうだい」


次に始まったのは5対1の戦いであった。

シンクロウと長杖を持つ5人の兵士。

5人は長杖を回転させつつ代わる代わるに突きや打撃、大振りの回転攻撃を加えていくがシンクロウの持つ変な杖に打ち払われていく。

「す、すごい・・・・・」

観客席の3人は身を乗り出して食い入るように試合を観戦している。

さらにここからシンクロウは篭手・胴・面と杖の打ち上げ、最後に突きの寸止めで5人を圧倒し試合が終わった。

試合後の反省会を行っていたシンクロウの姿を3人は呆然と眺めていた。


「では感想を聞こうかしら」

「あ、あの杖がすっごい魔道具なんだ、きっとそうだ!」と少年。

「わ、あたしもそいつの意見に賛成」と褐色の少女

「魔道具でも使わないと無理だと思う・・・・」猫耳少女。


「はい、全員不正解、魔道具の類は一切使っていません」

「「「ええええええええええ!」」」

「答えは簡単よ、彼は、緋刈真九郎はあなたたちと同じ、魔法力がない、魔法を使うことができないただの人間よ」

「嘘だ!!!ただの人間にあんなことできるわけないじゃない!あたしをまた騙そうっていうの!?」

「本当よ、これを見てちょうだい」

ニーサが取り出したのは新型の魔力測定器である、ニーサにあてると魔力針が大きく動き、3人にあてると何の反応も示さなかった。

「彼が反応しなかったら、信じてもらえるわね?」

3人が渋々頷く。


ニーサは真九郎の側まで行くと事情を説明し3人のところまでやってくる。

「真九郎様、この子たちが先日お話した魔法力がない子供たちです」

「そうであったか、拙者、緋刈真九郎と申します」

自分たちに丁寧なお辞儀をする人間がいるなんて、ありえない。

ニーサは測定器を真九郎に向けると、針は3人と同じく一切動かない。

「ね、魔法力ないでしょ」

「「「・・・・・・」」」


「そなたたちの名は?」

「それがこの子たちは、・・・・・」

ニーサの説明に、真九郎はおいおいと泣き出した。

「なんてことだ、子供らがそんな目に・・・」

3人は自分たちの境遇に誰かが悲しむなど、想像することすら出来ない環境であったことから不思議な人だとしか見えなかった。


困り果てたニーサになだめられようやく落ち着いた真九郎は3人に言葉をかける。

「強くなりたいか?」

「「「え?」」」

唐突に問いかけられた言葉、今までの短い人生で願い続けた思い。

虐げられることなく、自分の身を守れる力、生き抜くための力・・・・・

「もう一度聞く。強くなりたいか?」

「当たり前じゃないか!!!強くなって、あいつらを見返してやるんだ!!!」

「そうか、そなたらはどうだ?」

「はい、強くなりたい・・・」猫耳少女は答える。

褐色の少女はきつい目で真九郎をにらみつけた。

「強くなりたいに決まってるじゃない」

「分かった。ニーサ殿、この子らは俺が引き取りたいと思うがよろしいか?」

「私としては構いませんが、よろしいのですか?」

「何を言っているか、子供らが自らの手で明日を切り開く力を与えるのが大人の役割だ」

「わ、分かりました。こちらのほうで住居の手配などいたします」

「お手間をとらせます。では悪がき共これから仕事だ」


流されるまま3人は真九郎について行った。

途中でシルメリアを救援に呼び、3人の衣服を新調することにした。

3人を身奇麗な格好にさせ洗浄魔法で体も清めると、見違えるほどかわいく、凛々しくなった。

その足で戸惑う3人を、紹介された料理店に連れて行き、店員に若い子が好きそう料理をかたっぱしから持ってこさせた。

3人は必死で食べていた、これを逃したらもう二度とありけないと覚悟を決めたかのように。

そして徐々に、手が止まっていき、ぽろぽろと1人、また1人と泣き出した。

「あたし、こんなおいしいものがあるなんて知らなかった・・・・どうしてこんなことしてくれるの?」

「子供はそんなこと気にしなくていいのだ、早く食え冷めてしまうぞ」

シルメリアは奴隷に落とされそうになったことがあったためか、もらい泣きをしているようだ。

3人は満足いくまで食事をしたことで、ようやく落ち着いたところだった。


「そうだな、名前がないのはやはり不便だし、これから必要になるな」

「ねえ、よかったら、真九郎様に名づけ親になってもらうのはどう?みんなは嫌かしら?」

シルメリアの問いにすっかり大人しくなった3人はこくんと頷く。

「名づけ親か・・・・・拙者の故郷の言葉でもかまわないか?」

「あまり卑しい名前は遠慮したいです、そうでなければ・・・」

「俺もそれでいい」

「あたしも」

「分かった・・・・では・・・・うーん・・・・・・」

しばらく唸っていた真九郎であったが、手を叩くと

「よし、これしかなかろう!まずはその褐色の美しい肌を持つ可憐なお主だ」

「あ、あたし??え?可憐って??」

「そなたは ナデシコ 野に咲く美しい桃色の花をつける可憐な花からとった、どうだ?」

「ナ、ナデシコ・・・・・・う・・うあああああああああああ!!!」

ナデシコは人目をはばかることもなく号泣した。優しく抱きしめるシルメリア。

「あ、き、気に入らなかったか!??」

「うああああああ!!!、う、う、うれしいですーー!!!」

名前もろくになく、日々生きることに必死だった彼女が得た、美しき可憐な花の名、溢れる感情を整理できぬまま涙が止まらなかった。

「そうかよかった、じゃあ次はな、お主だ、猫のかわいらしい耳を持つ少女」

「は、はい・・・・」

「そなたは サクラ。故郷の国は皆がサクラの花を見てお祭りをするのだ、儚くも美しくかわいらしい花の名だ」

「サ、サクラ・・・・・・・うう・・・・かわいいよぉうれしいよぉうううう」

泣き続けるナデシコとサクラを抱きしめつつ、どこかうらやましそうなシルメリア。

「気に入ってくれたようでよかった。では最後はお前だな」

「おう・・・いいの頼むよ・・・」

「正直、お前が一番悩んだ。なので質問をする。どういう強さを手に入れたい?」

「どういうって・・・分からない強くなりたい」

「強さにはいくつかある、奪う力、逃げる力、守る力 など様々だ、お前はどのような強さを望む?」

「俺は・・・どんな時でも生き抜く力が欲しい・・・」

「そうか・・・・ならば、ヨシツネ。遥か昔、大戦乱の時に皆が思いつきもしない方法で窮地を乗り切り大戦果をあげた英雄の名だ」

「ヨ、ヨシツネ・・・・・お、俺にも名が・・・・」

こぶしを握り今までの人生を反芻するかのように自分の名を繰り返している。



次の日から真九郎はレインドの朝稽古に3人も参加するように言いつけた。

レインド王子も魔法力がないことに驚いたが、王子の師匠であったことに驚くしかない3人。


「えっと、ナデシコ、サクラ、ヨシツネ これからよろしくね、同じ魔法が使えない同士仲良くしよ」

笑顔で挨拶するレインドに3人は地に伏せ平伏するしかなかった。

「あの普通でいいのになぁ・・・・・」


3人には一からの稽古になる、まずは素振りを徹底的に教え込む。

鏡神明智流道場で子供たちに指導していた経験が役に立つ日がこようとは、わからないものだ。

以外にも3人の中でいち早く才能の片鱗を見せ始めたのはサクラだった。

身体能力がすぐれていることもあり、刀で切るということを本能的に理解しはじめたようだ。


ニーサが借り上げてくれた民家は4人で住むには十分すぎる広さで、庭でも十分な鍛錬ができるスペースが確保されていた。

魔法が使えない4人での生活は大変であろう、ニーサのはからいで食事や炊事などの家事を担当するメイドが毎日来てくれるようになった。


剣術の稽古の他、徹底的に指導したのは礼節であった。

礼に始まり礼に終わる。

当初はめんどうがったヨシツネだが、ナデシコとサクラが真面目に指導を受けるのを見て渋々学んでいた。

ナデシコとサクラは女性ということもあり、シルメリアが様々な世話を買って出ていた。

そのこともあり2人にとって憧れのお姉さんになったシルメリアは、真九郎のすごさを語って聞かせられるものだから自然と2人はますますやる気を見せていく。





3人の稽古と平行して行われたのが、武器作成の道筋をつけるということだった。

真九郎はニーサと共にエルナバーグのドワーフ工房を訪れていた。

ドワーフ族は低い背とがっちりとした筋肉質の体、さらには豊かな髭が特徴と聞いていた通りである。

ニーサのなじみのドワーフは時間通りに来たニーサと共に現れた真九郎を値踏みするように見つめる。

「お前さんがシンクロウとかいう妙な奴か」

「お初にお目にかかる、緋刈真九郎と申します」

妙な格好をしているから、きっと妙な行動や粗暴であるに違いないと決め付けていたドワーフは己の浅慮を恥じた。

「すまない、俺はこの工房で親方をやってるジングだ。ニーサそれで用件はなんだ?」

「真九郎様、お願いします」

「うむ・・・」

作法にのっとりゆっくりと刀を抜く。2人が虚脱状態に入ったので、10秒ほど待ち反応をうかがう。

「う、なんだ・・・そ、そいつは・・・・・い、いったいなんだ・・・・・」

ジングの目にうつったモノは明らかに戦闘に使う武器だ、しかしこの美しさはなんなのだ・・・・

しかし不思議なことがある、この武器の名前が出てこないのだ・・・・・・切るための武器・・・・・

「やはりジングでも同じ現象が起こるのですね」

「真九郎さんよ、この武器はいったい何なんだ??」

「これは拙者の国では か・・・・・と言います」

「え?何だって???」

「・・・・・・です」

「ジング、あなただけではないのです、皆に同じ現象が起こっています」

「皆ってどういうことだ・・・・・」

「真九郎様の武器の種類を聞かされようとすると、私たちはその言葉を認識できないのです。さらにその武器を認識したとたん、私たちは意識を喪失した状態になってしまうのです」

「なんてこった・・・・・・そ、そういう術がかけられた魔道具ではないのか????」

「残念ながら・・・・・ちょっと衝撃的な結果から伝えますと、この武器には魔法力が一切混ざっていません」

「んな馬鹿なぁあああああああああああああ!!!!そんなことありえるかあああ!」

「お気持ちは分かりますが、事実です」

冷徹に言い切るニーサ。

「分かった、ちょっと見せてもらっていいか」

ジングが刀に手を触れようとした瞬間だった、バチッ!という音と共に弾かれてしまった。

「・・・・・・・・・は?」

「そうです、この正体不明の武器に我々は触れることができないのです」

「そんなもの、どうやって複製すりゃあいいんだ!」

「なのでその方法を探っています」

「待てよ・・・・もしかしたら可能性はなくもない」

「ほ、本当ですか!!!」

「キルディス山脈の麓に古い採掘場があるんだが、その奥に古代遺跡があるのはあまり知られてないんだ」

「古代遺跡・・・・ですか?」

「見物に行ったことがあってな、その遺跡に魔法力が一切ない一角があったんだ。しかも加工用の炉や鍛冶設備があってな不思議だと思ったもんだ」

「それがどのような可能性なのでしょう?」

「その武器が作れるか複製できるかは、ともかくとして手がかりはあるかもしれん、何しろその炉は絶縁炉だったからな」

「絶縁炉?」

「そいつを複製できるとなれば、絶縁炉を使う以外方法はないだろうな」

「ジング、その遺跡の場所詳しく教えてもらいます」

「あ、ああかまわないが」

「あなたも行くのですよ」

「断るわけにはいかないみたいだな」

「工房ギルドには私から連絡と許可を取ります」

真九郎は2人のやりとりを聞きながら昔見た刀鍛冶の鍛冶場を思い出していた。

はたしてどうなることやら・・・・・・・






次々と飛び込む雑務や細々とした用事を済ませている中、エルナバーグを震撼させる事件が起こった。

第一王女レシュティアが前兆のない竜巻のごとく突如来訪したのだ。

自ら馬を駆りわずかな近衛を連れた突然の訪れにエルナバーグは大混乱に陥った。

レインド意識不明の報にいてもたってもいられず、マルファース王子に後は任せて行ってきなさいと許可をもらったその足で王宮を飛び出したのだった。

総督府は蜂の巣をつついたような混乱振りだ。

「王女殿下はどこか!!?」

「本物とは限らぬぞ!衛兵は何をしておった!!」

「レインド殿下の警護を徹底させるよう伝えるのだ!」



そんな騒ぎも気にせず稽古を終えレインド、ヨシツネと共に毎度のこと水浴びをしていた時だった。

稽古場に使っている井戸の近くの城壁広場に1人の女性が飛び込んできた。

「レイ!!!!なんてこと、なんでこんなびしょ濡れに!!!?」

「お前!!お前かあ!!!お前がレイにこんな真似を!」

振り乱した金髪は日輪の輝きを受けその女性を彩る星々のように煌いている。

見た者の眼を釘付けにしてしまうターコイズブルーの瞳。

天上の彫刻家でもなしえぬであろう均整の取れた美が集約された存在であった。

「また天女様がこられたのか?」

ヨシツネもシルメリアを見慣れているにしても、魂が抜けたようにその美しさに呆けてしまっていた。

「ねえさま!!!」

「レイ!!!ああ、よかった重態というのはやはりガセだったのね」

タオルで拭く前にも関わらずドレスが水に濡れるのも構わずレインドを力の限り抱擁する。

「ねえさまとは、レインドの姉君であらせらるか?」

「うん、ティアねえさま!!!」

久しぶりに姉に会えたことがうれしくてたまらないようだ。

して、嫌な予感がする真九郎であったが

「さあ、よく拭かないと風邪を引くわよ・・・あ、乾燥させるわね」

すっと無言詠唱乾燥呪文を行使しレインドと視界に入ったヨシツネにも乾燥をかけた。

「さて、レイを濡れ鼠にしたのはあなたね!?」

「何のことだ?」

「ティア姉さま、これは稽古なんです稽古!」

「そんな稽古あるわけないでしょ!」

「えっと、そうだシルメリア呼ぶからそれまで待って!いい?ちゃんと待っててね!」

「シルメリアがいるの!?分かったわ」

レインドは巡回の兵士にシルメリアを探すように頼むとすぐに3人の所へ戻った。

案の定、レシュティアは真九郎につっかかっている。

「あなたねえ、稽古と言いつつ魔法の使えなくなったあの子をいじめてたんでしょ!!」

「師匠はそんなことしない!」

「え?」

予想外の援護射撃だった。

「すいません、真九郎さんはそんなこと絶対にしません」

真九郎が優しく頭を撫でてくれるのがヨシツネにはうれしかった。

「そ、そうなの・・・・だからってびしょ濡れにする必要はないでしょ!」

「そ、それは汗が・・・・」

「言い訳する気!?」

「いやだから・・・・・」

「姫様!!!!」

突如後ろから走りこんできたのは、息を切らしてやってきたシルメリアとレインドだった。

「シルメリア!!!あなたがついていながら、どうしてレインドをびしょ濡れにさせたりするの!」

「も、申し訳ございません、やめるように伝えたのですが」

「そら見なさい!やっぱりいじめてたんでしょ!」

「違うよティア姉さま!真九郎は僕に剣の稽古をしてくれてたんだ」

「・・・何の稽古?」

「あ、そうだった・・・・認識障害が発生しちゃうんだね・・・・」

「えっと、姫様、こちらの真九郎様はレインド殿下がご自身を守れるようにと・・・特殊な操杖術を教えているのです」

「操杖術?・・・・・ふーん・・・・」

いぶかしげに睨み付けるレシュティアは真九郎に指差すと

「じゃあ私と勝負よ、操杖術でいいわよ魔法は使わないであげるわ!」

「あの姫様そこまでしなくても・・・・・」

「だめよ!レインドに変な虫がついたらどうするのよ!」

「真九郎様は信頼に値するお方です!」

「へぇあなたが信頼するほどの人ね・・・・おもしろいは絶対勝負してもらうわよ!」

「嫌な予感がしていたのだ・・・・・」


こうして真九郎はその足でレシュティア姫と勝負するはめになったのだった。

「ええい、邪魔だわこんなもの!」

何を思ったか姫はスカートの裾を思いっきりやぶき、太ももが顕わに姿になると長杖を器用に回し始めた。

「な、あ、あのような・・・・破廉恥な姿・・・・・お、おう?」

「真九郎様、落ち着いてください!!!いつも見たいに勝っちゃえばいいんです!あ、怪我させないでくださいね!」

「しんくうろとやら!行きますわよ!」

独特の構えは棒術のようでもあり、姿勢を低くしたレシュティアの構えに思わず視線が太ももの先に集中してしまった真九郎。

なんと、・・・・・見えそう、見えなさそうで見え・・・・

パチン!と頭部をしたたかに叩かれパタンと気絶してしまっていた。

「・・・・え?」

「し、師匠・・・・」

拍子抜けしたレシュティアを他所にシルメリアはペタンと膝をつくと搾り出すように呻いた。

「し、真九郎様・・・・・かっこわるすぎです・・・・・」




2018/7/22 誤字・誤植、一部表現修正

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