開幕 雷神の御子

リシュメア王国 王都リシュタール。


王宮にて第3王子レインドが新たに習得した雷神の魔術を披露しようとしていた。


11才になる王子は、ここ数百年の間,習得することが不可能という結論さえ出ていた雷神魔術をわずか9才で獲得した。


以前から卓越した魔法資質と桁外れの魔法力を有していたが、レインド王子の快挙に王国の民の喜びようはすさまじく、祝いの祭りは一週間も続いた。


「レイ、無理をしちゃだめよ!いいわね!」

「ティア姉さまは心配しすぎです、でもがんばりますね」

レインドが微笑むだけで周囲の精霊たちまで喜んでいるかのような錯覚に陥るほど、彼の笑顔は人を柔らかい気持ちにさせてしまう。


ティアと呼ばれたのは第一王女のレシュティア姫である。

レインドの姉であり、リシュメアの宝石と呼ばれる輝く美貌を持つ王女である。

しかし性格は残念な要素が多く、おてんばで戦闘魔法をこよなく愛する武闘派であった。何よりも重度のレインド好き。

レインドは雷神術の申し子であるが、彼女は水系統の魔法の達人でもあった。


そのとき開始を待つ陣幕に第1王子 マルファースが小走りで入ってきた

「マル兄様!」

レインドが思わず抱きついた。

「レイ!準備はできたか?無理はしちゃだめだぞ、何か異常を感じたらすぐに詠唱やめていいんだからな!??な!?」

「マル兄様まで大げさです、練習では失敗したことのない簡単な魔法です」

「だ、だが雷神術の第二方陣を使うのだろう?」

「それがね、方陣使わなくても『紫電』撃てるようになったんだ。」

得意気であるが偉ぶらず、少しだけ照れながら答えるレインド。

「うおおおおお!!!なんということだ、さすがは俺の弟だあああ!」

マルファースはレインドを抱き上げ何度も高い高いをしてしまう。

「うあ!マル兄様ぁ! あははは!!」

「お兄さま! レイが怪我でもしたら大変ですよすぐおやめになって!」

レシュティアが悲鳴を上げながらマルファースをいさめると

「うおお、すまんすまん!つい嬉しくてな」

しょぼんとしながらレインドをそーーっと降ろすと、まだ物足りないのか頭を撫ではじめた。


「レインド殿下、そろそろお時間でございます。両殿下もご自重ください」

侍従長が咳払いをしつつ、マルファースとレシュティアを一瞥する。

二人とも名残惜しそうにレインドから離れると観客席に向かった。



レインドの雷神術、そしてその中でも人の身には撃てぬと称された幻の呪文 『紫電』がいともあっさりレインドの愛杖から放たれた。

目標の大岩を吹き飛ばし地面ごと爆散したその轟音と破壊力に見る者は圧倒された。これほどの魔法行使であれば常人なら魔法力の枯渇によりショック死することさえありうるレベルの破壊力と魔法量である。


しかしレインドはけろっと観客たちに丁寧なお辞儀をしていたのだ。レインドとどうにか繋がりを持ちたい貴族の子女たちの黄色い歓声がいつまでも止むことはなかった。


「ジンの奴にも見せたかったなぁ」

「ええ、ジン兄様なら泣いて喜んだと思いますわ。後一週間お戻りが早ければと泣いて悔しがるでしょうね うふふ。」

レシュティアはいまだ興奮冷めやらぬ様子のマルファースと最愛の弟の才能と可能性を想像しにやにやと怪しい笑いを漏らしていた。


レインド王子の行く末に一点の曇りなし、そう断言しても良いと誰もが確信していた矢先であった。


この演術から2週間後、レインド王子が原因不明の病に倒れてしまった。


2018/7/13 誤字・誤植訂正

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る