第60話 元気な女の子

「えっ…!? 生まれるって子供が!? 」

 あまりにも急なことでテンパっていると

「それ以外なにが生まれるの! しっかりして! とりあえずリアちゃんを呼んで! 」

 モニカは思いの外落ち着いていてリアを呼んでくるように頼まれた。


 買い物が終わりホクホク顔で宿に戻っているリアに追いつきモニカが生まれそうだと伝えると

「お兄ちゃん落ち着いて、モニカさんはもう生まれてるから…。でも何となくなにが言いたいのか分かった。場所は何処? 」

 そういうとリアはフィーに持ってもらっていた鞄を受け取ってモニカの場所を聞いてくる。


「すぐそこのお団子屋さんで部屋を借りてそこに居るから案内する! 」

 そういって今来た道を少し戻ってお団子屋さんに入る。

「いらっしゃいませ! あぁ、さっきのお兄さん! こっちですよ♪ 」


 店員の女の子が手招きをして店の奥に入れてくれる。

「ありがとう、モニカは大丈夫? 」

 店員の女の子に聞くと女の子は頷いて

「今は落ち着いたよ♪ 」

 そういって親指を立ててウインクしてきた。


「ありがとうね、お店の部屋を借りちゃって」

 そういって女の子に微笑みかけると

「いえいえ、困ったときはお互い様ですぅ~! 」

 店員の女の子は手を擦り合わせて上目遣いでこちらを見つめてくる。

「分かった…。お土産用に包んでくれるかな…」


「ありがとうございます♪ 」

 そういって女の子は部屋に通してくれたあと店先に向かって

「お母さ~ん! お団子あるだけだって! 」

 いくらかかるんだろう…。不安になって俺はお財布を見つめた。

◆◇◆◇

「もぅ~、あんまり無駄遣いはダメだよ!」

 そんなことを言われてもモニカが苦しそうだったからここの部屋を貸してもらったんだよ!?

 俺が唖然としていると後ろにいたリアが

「お兄ちゃんの事はひとまず置いといてモニカさん平気? 」

 そういってリアがモニカのお腹に手を当てて確認をするとモニカは少し苦しそうに笑いながら

「今は落ち着いたよ♪ 」

 と返事をしていた。


「お兄ちゃん、今日か明日には生まれると思う。お兄ちゃん、お父さんになる準備はいい? 」

 そういって2人は俺を見つめてきた。

「もちろんだよ! そんなことは子供を作ろうと思ったときから覚悟していたよ♪ 」

 そういってモニカのお腹を擦ると


「うっ、嘘! この子、ライムにはやく会いたがってるみたい…」

 そういってモニカが苦しみ始めた。

「お兄ちゃん、ちょっとどいて!! 」

 リアに肩を掴まれ後ろに引っ張られる。

「リア、俺にも何か協力できる事はあるかな? 」

 

 そういってリアに話を聞くと

「とりあえず今は落ち着いて! それにそんなに慌ててたらお願い出来ないですって!」

 そう言われて俺は部屋の外に追い出されてしまった…。


「まあまあ、お兄さん落ち着いて♪ これでも食べてさ♪ 」

 そういって店の女の子が俺の口にお団子を突っ込んでくる。

「おいひぃ…このふぇは何?」

 団子を突っ込んできたうえに女の子は手のひらをヒョイヒョイと手招きをしている…。

「お団子は1本銅貨10枚です♪ 」


 勝手に口に突っ込んできたのにお金を取るのかよ! 商売魂スゲェ~な!!

 俺はポケットから財布を取りだしお金を渡すと

「今日の宿賃まいどあり! 今日は奥さんと一緒に休んでいっていいからね♪ 」

 そういって店の女の子はお金を受け取り

「それで良いんだよねお母さ~ん!? 」


 そういって女の子はパタパタと店の奥に行ってしまった。

「とりあえず他のみんなに伝えに行かないとマズイよな? 」

 そう思ったのでとりあえず俺は絶対零度にいる他のメンバーに話しに行くことにした。

◆◇◆◇

「と言うことで今日はお団子屋さんに泊まることになりそうです」

 みんなにそういうと

「私たちも行っていいですか! 」

 そういって身を投げ出してくるけど

「ごめん、大勢で行ったらお団子屋さんに迷惑がかかっちゃうと思う(またお団子を山程買わされそうだから)だからとりあえずアルテミアさんとフィーとオリヴィアとリカリアさんに来てもらうことにした。


「じゃあミソラ、みんなのことを任せるからね♪ 」

 そういってミソラの頭を撫でると

「問題児を置いていってあとは任せるって…後で何か奢ってくださいよ♪ あと赤ちゃん抱かせてくださいね♪ 」

 そういってミソラたちは笑顔で俺達を送り出してくれた。

◆◇◆◇

「ねぇ、どうして一緒について行くのが私達なの?」

 横を歩くアルテミアさんが不思議そうに尋ねてくる。

「ついてきてもらった理由は簡単だよ♪ オリヴィアはモニカの身の回りのことを1番分かってるから、フィーはリアの手助けを、リカリアさんには赤ちゃん用の肌着を、そしてアルテミアさんはモニカと子供に何かあったら女神の力で何とかしてもらうためについて来てもらったんだよ♪ 」

 そういってアルテミアさんに笑いかけると

「何も無いわよ♪ 元気な女の子が生まれるわよ♪ 」


 俺がアルテミアさんを見るとアルテミアさんは『アッ!』という顔をしたあと下手な口笛を吹いて知らんぷりをしている。

「ねぇアルテミアさん、最初からどうなるか知ってたの? 」

 アルテミアさんに聞くと

「シラナイヨ…。ホントダヨ♪ 」

 笑顔がひきつってるよ…。


「女の子なんだね…? 名前どうしよっかな…? 」

 そんなことを呟くと後ろにいたオリヴィア達が

「えっ! 女の子なの!? 私達も一緒に名前を考えてもいいですか!」

 オリヴィアは嬉しそうにニコニコしてこちらを見てくる。


「良いよ♪ 一緒に考えよう」

 そういうと他の2人も『私も一緒に考える』と言ってお団子屋さんに着くまであれこれ考えていた。


「お兄さん、お団子代は銀貨2枚ね♪ 」

 店につくと全員分の団子セットと高級茶葉を買わされた…。

「ただいま~、今戻ったけどモニカは平気?」

 部屋の扉を開けて寝ているモニカの隣にいるリアに聞くと

「さっき寝たばかりなので静かに…って何をそんなに買ってるのお兄ちゃん! またモニカさんに怒られるよ! 」

 呆れた顔でこちらを見つめる。


「ねぇライムこの名前はどうかな? 」

 そういってオリヴィアとフィーが何か良い名前が考えついたのか紙に名前を書いて俺に持ってくる。


 紙にはこう書かれていた。

【エイレーネ】


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