第61話 初めての経験とツンデレ九尾狐

『エイレーネ』紙にはそう書かれていた。

「いい名前だね♪ 」

 目が覚めてしまったのか寝ているはずのモニカが頷いて賛同していた。

「ごめん、起こしちゃった? 」

 そう尋ねるとモニカは首を振って

「大丈夫、起きてたから♪ それより『エイレーネ』っていい名前だね♪ ライム、その名前にしようよ♪ 」

 そういってモニカがこちらを見て微笑みかけてくる。


「うん、俺もいい名前だと思う、だから母子ともに無事に生まれて欲しい。だから頑張ってね♪ 」

 そういってモニカを見つめてお腹を擦るとモニカは嬉しそうに

「まったく、心配性なんだから♪ 」

「そうだよ、お兄ちゃん! 私が立ち合うんだから絶対大丈夫だよ! 」


 そういって2人は笑って俺を見つめてくる。

「仕方ないじゃん、それだけモニカのことが大好きだってことだよ♪ 愛されてるね♪ 」

 リカリアさんが俺の背中をバシバシ叩いてくる。

「痛い、痛いから! そうだよ! その通りだよ! モニカのことが大好きだよ! 」


 きっと今俺は顔が真っ赤なんだろうな…。

 そんなことを思いながら部屋の襖を開けるとそこにはお団子屋の九尾狐の女の子がお茶とお団子を持って立っていた。

「もう充分過ぎるほど買ったよね? 」

 そういって女の子を見つめると

「はい、だからコレはサービスです♪ 」

 そういってお茶の入った湯呑みとお団子が盛られたお皿を渡された。


「本当に驚きですよ! 私達みたいな魔族の女の子とお兄さんみたいな人が結婚して子供まで授かってるなんて! 」

 お団子屋さんの女の子がさっき自分で持ってきたお団子と湯呑みに入ったお茶を飲みながら話してくる。

「君はここで商品を食べてていいのかな?」

 目の前に座り、俺たちの会話に入ってきている女の子に尋ねると女の子は笑いながら


「少し食べたって大丈夫、大丈夫! お兄さん達がいっぱい買ってくれたから♪ 」

 いや、そういう問題なのか? それに買ったというか買わされたの間違いじゃないか…。

「あっ、お兄さん! 今こう思ったでしょ『俺は買ったんじゃない、買わされたんだ』って…。ヒッドーイ」

 何でこの子は思ったことが分かったんだ? そんなに顔に出てたのか?


「お兄さん、考え込んでいるところを見ると本当にそんなことを思ってたんだね♪ 」

 うわっ、この子俺に鎌をかけてたんだな…。

「でも、あながち間違いでは無いから許してあげる♪ それよりお姉さんは本当にゴブリンなの? 私これでも霊験あらたかな九尾狐様って呼ばれてて精神体が分かるんだけど…。

ムグッ!? フググッ!? 」


 女の子はアルテミアさんに口を塞がれて部屋の外へ引き摺られて行く。

「どうしたんだろうアルテミアさん…。それにモニカの精神体がどうたらって…? どう言うこと? 」

 モニカに聞くとモニカは『分からない』と言って女の子が持ってきたお団子を頬張っていた。

◆◇◆◇

「ただいま! 」

 そういってアルテミアさんが襖を開けて店の方から戻ってきた。

「おかえり~! 何してたの? 」

 リカリアさんが不思議そうに尋ねるとアルテミアさんは苦笑いをしながら

「大丈夫、なんとか説明出来たから」

 アルテミアさんの後ろを見るとゲッソリした女の子が立っていた。


「ちょい、ちょいお兄さん! 」

 そういって女の子が俺を手招きする。

「何? 」

 女の子のところに行くと女の子は疲れた声で

「何であの人が女神様って教えてくれなかったの! 私、スッゴい怒られたんだけど! お兄さん、お団子追加ね!」

 なぜ追加させられるんだ!?

「そんなん決まってるじゃん! 私に恥をかかせたからだよ! お兄さんすぐ顔に出るから何を思ってるのか簡単に分かっちゃうからね♪ 」


 そういってウインクをして、こちらを見つめてくる。

「そういえば、さっき精神体がどうたらって言ってたけど、なんの話しだったの? 」

 女の子に話しを聞くと女の子は下手な口笛を吹いて『知らないよ~♪ 』と言ってお店に戻っていってしまった。


「あっ、リアちゃん…。マズい、そろそろかも…」

 布団に寝ていたモニカが苦しそうにリアを呼ぶと

「お兄ちゃんは部屋から出ていって! 子供が生まれたら呼ぶから!それまでは部屋から出ていって! オリヴィアさんとアルテミアさんは手伝って! フィーはタオルと毛布、それと清潔なガーゼと私のバックを持ってきて! それじゃあ、お兄ちゃんまた後で! 」


 そう言われて俺は部屋の外へ追い出されてしまった。

「まぁ、当然ですねお兄さん♪ 」

 そういって九尾狐の女の子がお団子を差し出してきた。

「ありがとう♪ 」

 そういって差し出されたお団子を食べると俺の目の前に女の子の手が出てくる。


「毎度あり♪ 」

 渋々お金を渡すと九尾狐の女の子は笑ってお金を受け取って喜んでいる。

「容赦ないね君…」

 そういってお財布を逆さまにしてお金がなくなったことをアピールすると

「君じゃないです『エル』っていう名前がちゃんとあります! それに生まれてくる赤ちゃんのことを思ったらお金なんて安い物ですよ♪ 」

 

 そういって店の奥から赤ちゃん用のベットやお風呂など様々なベビー用品が運ばれてきた。

「はい、お兄さん♪ 赤ちゃんに使ってあげてね♪ あと、このお金でお母さん用に飲み物買ってくるから♪ 」

 九尾狐の女の子『エル』は店の外に飛び出して行ってしまった。


「まったく、あの子は…。お客さん申し訳ない。エルが迷惑をかけちまって、あの子お客さんの生まれてくる赤ちゃんを楽しみにしてて…」

 店の奥からこのお店のご主人が苦笑いをしながら話しかけてくる。

「いや、大丈夫ですよ…。それよりコレは?」

 ベビー用品を指差し店主さんに聞くと

「お客さんから貰ったお団子の代金、実はあの子が勝手に徴収してただけでそのお金を全部ベビー用品を買うお金に使って用意したみたいだ。たぶん慌てて店に来たお客さんを見て何か思うところがあったんだろう」


 そういって店主さんはベビー用品を俺に渡してくる。

「まぁエルだけじゃなくて俺も手伝ってやろうと思ったよ、店に入ってくるなり『子供が生まれるみたいなんです。部屋を貸してください!」なんて言ってオロオロヽ(д`ヽ)してるんだから男は度胸、女は愛嬌。ドスっと構えて落ち着いていれば上手くいく! だから安心しろよ♪ 」

 店主のおじさんからそう言われて背中を叩かれたと同時に襖の向こう側から赤ちゃんの産声が聞こえた。


「オギャーァ!! 」

「母子ともに無事ですよ♪ 」

 襖の向こうからリアの声も聞こえた。


「なっ、言った通りだろ! 」

 おじさんはニコッと笑って肩を叩いてきた。

 俺はホッとしてしまったのか涙が頬を伝っていた。

「本当に良かった! 」







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