第56話 絶対零度

「いらっしゃいませ!」

宿屋【絶対零度】の暖簾をくぐると従業員の人達がずらりと並び挨拶をしてきた。

「うむ、苦しゅうない!」

 何が苦しゅうないだ!道も分からず泣きべそをかいていたくせに!


「ヴァネッサ様とそのお友だちですね?どうぞ( ゚∀゚)つこちらへ!」

 女将さんらしき人が部屋を案内してくれる。

「ここが2人部屋でライム様とモニカ様、夫婦のお部屋になってます。そしてこの部屋の隣が・・・でその隣が・・・」


 部屋の説明が終わり、とりあえず部屋に入って荷物を置いたら宴会場に集まることにした。

◆◇◆◇

「ひさしぶりだね!温泉楽しみだね!」

 モニカはそういってこっちを見つめてきた。

「確かにひさしぶりだね2人きりって・・・」

 そういってモニカを見つめると

「あっ、うん・・・。それもそうなんだけど温泉もひさしぶりだよね♪」


 頬を赤くしながら微笑みかけてきた。

 はて?モニカと一緒に温泉に行くのは初めてなのだが・・・?

「やっほ~!遊びに来たよ!」

「モニカさん、手伝いに来ましたよ!」

 ミソラとオリヴィアが部屋の扉を開けて入ってきた!疑問は残るけどまぁいっか!


「ほら!2人とも早く宴会場に行こっ!」

 あのしっかり者のミソラも楽しみなのが目に見えて分かる。

「モニカさん立てますか?車椅子も持ってきますか?」

 オリヴィアはモニカを心配そうに見つめている。


「大丈夫?手、貸すよ!」

 そういってモニカの身体を支えると

「ありがとうライム、オリヴィアもありがとう♪じゃあ、お言葉に甘えて車椅子に乗ろうかな?お願いしても良い?」

 オリヴィアは「分かりました」と言って車椅子を取りに行ってくれた。


「それにしても大きくなったな俺たちの子」

 そういってモニカのお腹を擦るとモニカは嬉しそうに微笑んで手を重ねて一緒にお腹を擦り始めた。

「あっ、今お腹蹴ったね♪」

 内側からお腹を蹴ってくる感覚があった。


「本当!私も触らせて!」

 隣に立って俺たちを見ていたミソラも興味があるのかモニカのお腹を触りたいと言ってモニカのお腹を擦り始めた。

「おまたせしました!車椅子持ってきました!」


 オリヴィアが車椅子を持ってやって来たのでそれにモニカを移して宴会場に向かうことにした。

◆◇◆◇

「あっ、ライム達が来た!お疲れ様~!」

 ユキが宴会場の扉を開けて、こちらに手を振ってきた。

「うん、お疲れ~!今からご飯?」

 そういってみんなを見ると

「そうらぁよ~!わらぁしとアルテミアはぁ先に飲んでぇるけど良いよれぇ?」


 マリアさんとアルテミアさんはお酒を飲んでいてもう酔っぱらって出来上がっている。

「ヴィーナスも飲みなさいよぉ~!私のお酒が飲めぇないのぉ~?」

 うわぁ、アルテミアさん完璧に絡み酒だよな・・・。

「ちょっと!無理ですよ!私はお酒飲めないんですから!」


 ヴィーナスが口元に運ばれるお酒を必死に拒んでいる。

「アルテミアさん、ヴィーナスが困ってるから・・・。ねっ?ご飯にしよっ!」

 そういってアルテミアさんとマリアさんが持っている酒瓶を強奪して席につく。


「あぁ~!私のお酒~!返して!返してよぉ~!」

 駄目だ、この人・・・。

 マリアさんは俺を追ってきて酒瓶を取り返そうと頭上に掲げた酒瓶をピョンピョン跳ねて必死に取り返そうとしてくる。


「ダメだって!いい加減にしなよ!酔いすぎだって!」

 マリアさんにそういって宿の人に持っていてもらって今日はマリアさんとアルテミアさんの2人に酒を渡さない様にお願いをして

「今日は2人が酔っぱらいの世話をしなよ!いつも迷惑かけてるんだから今日は恩返しをしなよ!」

 それぞれヴィーナスとヴァネッサに任せることにした。


「って、言わんこっちゃない・・・( ´Д`)」

 マリアさんとアルテミアさんを見ると2人は互いに凭れ掛かりながら眠っていた。

「とりあえず夕飯を食べたら部屋に運ぼっか・・・」

 そういって俺たちは仲居さんが運んできた夕飯をみんなで食べることにしたんだけど・・・。


「コレは何?」

 刺身が凍ってる・・・。それにコーラも・・・。

「こちらは【絶対零度】の看板メニューの刺身のシャーベットとカチコチコーラです!」

「じゃあコレは?」

 土瓶蒸しが・・・。炊き込みご飯が・・・。

「そちらは土瓶氷と冷や混ぜご飯です」


 いや、ちょっと待てよ!何で凍ってるんだよ!刺身のシャーベット何て食いたくねぇよ!

「えぇ~っと、何で全部凍ってるんですか?」

 何で全部凍ってるのか仲居さんに聞くと仲居さんは笑いながら

「だってここは絶対零度ですよ♪暖房のない厨房は何でも凍っちゃいますよ♪」


 ごめん、何を言ってるのか意味が分からないんだけど・・・。

「えっ?これで暖房がついているんですか?とてもついているなんて思えないのですが?」

 ミソラもそう思ってたんだ・・・。少し肌寒い感じなのにこれで暖房ついているんだもんな・・・。


「はい、暖房を最高温度に設定して居るんですが・・・。その代わり温泉は源泉に直接入れる温度なので効能は期待出来ますよ♪」

 源泉に直接入れる温泉ってどんな温泉だよ・・・。


 刺身のシャーベットは申し訳ないが残して部屋に戻り、着替えを持って大浴場に行くことにした。

「大丈夫モニカ?オリヴィア、モニカのことよろしくね♪」

 オリヴィアにモニカのことを任して俺は男風呂の暖簾をくぐって脱衣所で服を脱いで浴場に向かうと・・・。

「うおぉぉ~!!広っ!つ~か誰もいない!貸し切りじゃん!」


 テンションが上がった俺は思わず叫んでしまった・・・。

「うおぉぉ~!!広いっすね!」

 アルやフウ、スイ、チーの3人も後ろからゾロゾロと浴場に入ってくる。


「ねぇ兄ちゃん、露天風呂って何?」

 窓に貼られている案内図を指差してチーが尋ねてくる。

「露天風呂!?行くしかないでしょ!」

 外に続く扉を開けて俺達は露天風呂に向かう。


「兄ちゃん達待ってよ~!」

 結局全員で露天風呂に行くことにした。

 露天風呂は広くてちょうど良い温度だった!

「大兄ちゃん!この温泉ちょうど良いよ!」

 そういってチーは背泳ぎをしながらフウに向かって泳いでいく。


「チー、泳ぐなってお風呂はゆっくり入る場所だろ!」

 そういってスイがチーを嗜めていると・・・。

「ちょっとリア!落ち着いて!ゆっくり行こうよ!」

 フィーの慌てた声が聞こえる。


「露天風呂だぁ~!?」

 リアの間の抜けた声が近くで聞こえる・・・。

 近くで!?

 顔をあげるとそこにはタオル1枚のリアが立っていた・・・。

「何でライム達が居るの!?」


 どうやら露天風呂は男湯と女湯が繋がっていて混浴になっていた様だ・・・。


「待ってリア!みんなも来るからって・・・」

 フィーが呆然としている。

 何だよ、結局みんな露天風呂で合流しただけかよ・・・。

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