第42話 ユキの弟子1

「俺を弟子にしてくださぁぁぁい!! 」

 ユキの店先には若い男が地面に土下座をして頭をさげている。

 いったいどういう状況だ? 目の前には土下座をして青年が弟子にしてくれと叫んでいる。

「とりあえずユキに会って下着を返そ」


 店の裏側の勝手口からユキの工房に入っていく。

「ユキ~! 入るよ~! いる~! 」

 工房の中は暑く鉄を打つ音が聞こえる。

「ちょっと気づいてないみたいだから行ってくる」


 そういってユキの肩を叩きに行くと

「フゥァァァァッ! 何? どうしたの!? ビックリさせないでよ! 」

 熱く熱された鉄の塊を持ったまま振り返ってきた。

「オィィィィィッ!! こっちの方がビックリしたから! そんなもの持ったまま振り返るなよ危ないだろ!? 」


 熱されて、こちらに向けられた鉄をかわしてユキの作業を1度中断させる。

「俺を弟子にしてくださぁぁぁい!!! 」

 相変わらず外の青年が叫んでいる。


「なに今の声は!? 」

 ユキが不思議そうに表の玄関を確認しようと立ち上がる。

「あぁ、何か外で弟子にしてくれ! って青年が叫んでた。あぁ、それと先にちょっとこっちにきて! 」

 

 そういってユキの腕を掴んで勝手口の方に行く。

「お姉さん、このあいだはごめんなさい! これ、あの時の下着です」

 そういってチーがユキから盗んだ下着をユキに返す。

「お願いします! 俺を弟子にしてくださぁぁぁい!!!!! 」


 うるさい! いい加減にしろ!

「ちょっとうるさいから注意しに行ってくる! 」

 そういって俺はユキの店の中に戻り店側のシャッターを上げて青年の前に立つ。

「ちょっと、いい加減にしろ! うるさいから! 近所迷惑! 」


 そう青年に伝えると青年は足元に近づいてきて再び弟子にしてくれと叫んできた!

「うわぁ、スゴい声量! どうしたの? 」

 ユキが店の奥から4人と一緒にやって来る。


 いきなり初心者殺しの通称があるオーガ、さらにリザードマンが3人も入ってきたのに驚いたのだろう青年は口から泡を吹いて白目をむいてその場に倒れてしまった…。

「ありゃ、気絶しちゃったよ…。どうしよっか? 」

 ユキが倒した青年を見たあと俺を見つめてくる。

「分かったよ、とりあえずコイツが起きるまでは俺も一緒にいるよ。」

 

 ミソラにはリカリアさんを呼びにいってもらい青年を居間に寝かせる。

「やっほー、呼ばれたから来たけど何か用? 」

 ミソラに呼びにいってもらっていたリカリアさんがユキのお店にやって来る。

「あっ、ごめんね呼び出しちゃって♪ 実は頼みたいことがあって…。いいかな? 」


 リカリアさんにフウ・スイ・チーの3人がこの町に住むことになったのを伝え街に行き大工のおじさん達に家を作ってもらえるようにお願いをしてきてほしいことを頼むとリカリアさんはミソラと一緒に街にむかってくれた。


「うっ、うぅぅぅ~ん…」

 青年を寝かした部屋から唸り声が聞こえてくる。

「やぁ、起きたみたいだね♪ おはよう! 」

 そういって青年に手を差し出すと

「俺を弟子にしてくださぁぁぁい!!! 」


 またか…。まったくコイツは人の話を聞けよ!

「だってよ♪ どうするユキ? 」

 後ろにいるユキに声をかけると青年はビクッと身体を震わせたあと俺の耳元で

「オーガですよね? 大丈夫なんですか? 」

 と不思議そうに見つめてくる。


「あぁ、うん…。ってかユキがこの店の鍛治師だけど」

 俺はみんなのまとめ役だということを青年に伝えてユキにどうするか聞くとユキは少し考えてから

「ここまで来てくれたんだし無下にするわけにもいかないよね…」

 そういってユキが頷くと青年は不思議そうに

「えっ、何で人間の言葉が喋れるんっすか」

 そういって青年マジマジと俺とユキを見つめてくる。


 まぁ、それが普通の行動だよね…。

◆◇◆◇

 それにしてもどうしてこの青年はここに来たのだろう?

「ねぇ、君は街から何日かけてここまで来たの? 」

 そう尋ねると青年は姿勢を正して俺とユキを見つめてくる。

「ねぇねぇ、急にどうしたのかな? 黙っちゃったけど」

 ユキが耳元で不思議そうに囁いてくる。


 すると青年はこちらをむいて急に語り始めた。

「俺はアルっていいます! 鍛治見習いでここから歩きで北に5日行ったところにあるローグっていう城下町からやって来ました。そこで俺は武具工房で見習いとして働いていました…」


 なるほど、要約すると城下町で見習いとして働いていたアルはそこで客が持ってきたユキの防具に一目惚れして店の1番高価な物と交換してしまって、親方にしばかれて、追い出され、俺がよく取引に行く街『ポートランド』に行って、こことの取引で手に入れた交易品だということを知ってここまでやって来たって事か…。


「スゴいな…、それより大丈夫だったのか

? 」

 アルは『何が? 』というような顔でこちらをポカンと見つめてくる。

「いや、だから親方にしばかれて5日間も歩いてきて大変だったな? 大丈夫か? って意味で声をかけたんだけど…。えっ説明しないと分からなかった? 」

 

 アルに尋ねるとアルは少し考えて『分かんなかったっす』と言って笑っていた。

「とりあえずユキがこの店の店主で鍛治師だから彼女に聞いてみてくれるかな? 弟子入りするなら家を追加で作らなくちゃだからさ」

 そういってユキを見るとユキは頷いて

「とりあえず今日はゆっくり休んで、また明日ここに来てよ♪ そういえばライムの家って客間があったよね? 」

 こっちを見つめながらさりげなく押し付けてくる。


「いいんですか? ありがとうございます! 」

 おい、誰もまだ泊めるなんて言っていないのだけど勝手にOKにするなよ!

「本当! ありがとうライム! 」

 おいぃぃぃっっ! 申し訳なさそうな顔をするならユキ、お前が何とかしろよ!

 

 そんなこんなでアルは大工の方々が家を作り終わるまで家に泊めることになった。

「ライムさん! よろしくお願いしまぁぁぁぁっす!!!!! 」

 うるさい、本当にうるさい!

 とりあえずモニカとオリヴィアに説明しないと…。

◆◇◆◇

「う~ん、仕方ないよ♪ 私はいいけどオリヴィアもいい? 」

 難色を示すと思っていたモニカが予想外なことにOKをいただいた。

「モニカさんがいいなら私もいいですよ♪ 」

 

 オリヴィアもすんなりOKを出してくれた。

「それじゃあ、今から連れてくるね」

 玄関の外に待たせておいたアルを呼びに行く。


「良いってさ♪ まぁ、入りなよ」

 アルは軽く会釈をして

「今日から家が出来るまでのあいだよろしくお願いしまぁぁぁぁっす!!! 」

 そういって元気よく挨拶をして顔をあげるとそこにはモニカとオリヴィアがいて、またもや気絶してしまった。


「あちゃ~、また気絶しちゃったよ…」

 どうやらアルがこの町に馴れるには時間がかかりそうだ…。

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