第27話 雪山での死闘1
ここはどこだ? どうやら身体の感覚はあるから生きているのは何となく理解できる。
どうやら弓矢や鉈といった装備はなくなってないらしい…。
辺りが暗いということはたぶん雪に埋もれているんだろう…。
そう思い手で掻きわけ上を目指すと何とか雪の上に顔を出した。辺りには何も無く、ただ白銀の世界がひろがっている。
「マズいな…。とりあえず木の倒れかたを確認すると俺が流されてきたのはあっちみたいだな…とりあえず流された場所まで戻ってそこからみんなの足跡を辿って合流するか」
そう独り言を呟いて流された場所を目指して歩き出す。
◆◇◆◇
「どうしよう? どうしようノルンさん! ライムが、ライムが…」
そういって慌てている。とりあえず私が年長者なんだから落ち着かなくちゃ。
「弟君は、あんなことじゃ居なくならないよだから私たちは弟君が私たちにオトギリソウを任せたってお願いされたんだから私たちは弟君がいつ帰ってきてもいいようにオトギリソウを摘みに行きましょう! 」
きっと、きっと平気だよね弟君。
◆◇◆◇
クソったれ! まだ俺をつけ狙ってやがった・・・。
上空には片腕のスノーマンティスが飛んでこちらを追ってくる。
「クソっ、どうしよう? このままスノーマンティスと一緒に合流するのはみんな丸腰だからマズいな…俺がここで奴を殺るしか方法はないか…」
振り返り、引き絞った矢を放つ。
放った矢は鎌で弾かれる。
「チッ、クソが! 」
毒瓶に矢尻を浸そうと瓶を探すが見当たらない、どうやらさっきの雪崩でどこかにいってしまったのだろう・・・。
散弾はあと5発、矢はあと15本、剣鉈が1本
ロープが1本、ダイナマイトが1個…。
武器になりそうなものはこれだけか…。
クソっどうやってこの局面を乗りきれってんだ…。
「フシャァァァァァァッッッッッッ!! 」
スノーマンティスは雄叫びをあげ鎌を振り上げ襲い掛かってくる。
その攻撃を前転でかわし駆け抜ける。
クソっ、どうやってスノーマンティスに致命的な一撃を喰らわすためにはどうやって攻撃をすればいいんだ?
まったく思いつかない…クソっ、とりあえず逃げながら考えるしかないか。
スノーマンティスの攻撃をかわしながら木々の生い茂る森にむかって駆け抜ける。
◆◇◆◇
「ノルンお姉ちゃん、あっちです! あっち側が南です! 」
そういってリアちゃんが気丈に振る舞っているけど
「ライム大丈夫だよね? 絶対戻って来るよね? アイツの帰りをモニカさんは待ってるんだよ、お腹に子供がいるのに…。お父さんがいなくなっちゃダメだよ…。そんなの悲しすぎるよ! 」
ミソラさんは気が動転していて冷静に物事が見えてない。リアちゃんは気丈に振る舞ってるけど1番動揺してる…。
リカリアさんは正直、何を思ってるのか分からない…。
私がなんとかしなくちゃ!
「とりあえずみんな落ち着こう! 弟君は絶対に平気だから、だから私たちは私たちに出来ることをしっかりしよう! 」
弟君がいなくなっただけでこんなに動揺するなんて…。やっぱり弟君はスゴいや
弟君、戻ってくるまでこっちは任せて! だから絶対戻ってきてね。
私は弟君の無事を雲の切れ間から見えた茜色の空に願い、みんなをまとめてオトギリソウの生息地にむかい歩みを進める。
◆◇◆◇
状況はいっこうに悪くなるばかりだ空の切れ間からはオレンジ色の空が見えた。
「蟷螂が夜、目が見えるのか分からないけどこっちはほぼ見えなくなるからなぁ…」
そんなことを言っていても時間とスノーマンティスは待ってくれない。スノーマンティスが上空から執拗に鎌を振り下ろしてくる。
その攻撃をなんとかかわし森に辿り着く。
「よしっ、これで奴は飛びづらくなったはずだ、今のうちに距離をひろげて逃げなくちゃ! 」
それにしても雪の中スニーカーだと歩きづらい雪下駄とか長靴とかこの異世界にあるのなら適した靴で来るべきだった。
「まだ追ってきてるよ、しつこいな」
後ろを見ると生い茂る木々の中をスノーマンティスが駆けてくる。
「どうするか・・・。って! うぉぉぉぉぃっ! 」
雪に埋もれて隠れていた縦穴に気づかず足を捕られ落ちていく。
「ヤバイヤバイヤバイィィィィ~!! 」
暗く深い縦穴に落ちていく…
「痛っ、ここはさっきの縦穴か? 」
辺りを見渡すと洞窟は氷漬けになっていて
地面は滑りやすくなっている。
滑り落ちてきた穴を見上げると予想以上に穴が深く、この縦穴を登り脱出するのは困難だと理解した。
「この横穴がどこまで続いているか、出口があるのか分からないけど、とりあえず前へ進もう」
自分を鼓舞するように呟き、暗闇の中を1人で出口を探しに奥に進むことにした。
◆◇◆◇
「ファイヤー! 」
基礎魔法で覚えた『火属性』の魔法を唱えて指先で小さく灯りを維持する。
「やっと明るくなった…。ここ、思ってた以上に凍ってるな。あとよ~く見るとあっちに水が流れてるな…この水を辿っていけば、もしかしたら出口があるかもしれない」
そう呟いて手元の灯りを頼りに水を辿っていく…。
しばらくすると道が2つに分かれてしまっている。
「水は右に行ってるのか…。よしっ、水を辿って行こう!」
水を辿っていくと、そこには淡く輝く苔の様な物が蠢いている…。
「なんだこれ? 」
その淡く輝く物を触ろうとすると
「お兄さん、だぁ~れ? 」
どこからか幼い女の子の声が聞こえる。
「うおっ! なんだ! どっから声が! 」
辺りを見回してみても何1つ生物は確認できない。
「ここだよ、お兄さん! こっち、こっちだよ! 」
手の先からさっきと同じ声がする。
「もしかしてこれか? 」
そういって淡く輝く物を触ろうとすると
「これとかそう言うのは失礼です! 私はこう見えてもライトスライムって言ってスライム界ではエリートなんですから! 」
そういってライトスライムは淡い光を放つ球体になって、まるでこっちを見る様にポニョンポニョン揺れていた。
「ごめん、ごめん。凄く綺麗な光るゼリーだなって思って…。本当にごめん」
そういって頭を下げるとスライムの女の子は慌てた声で
「別にそんな謝ることじゃ無いよ! それと今更思ったんだけどお兄さん、私の声が聞こえるの? 」
ライトスライムは、驚いて仰け反る様な
リアクションを取ってくる。
まぁ、そうなるのが普通だよね。
「今更、気づいたの? ちなみになんだけどここから外に行くにはどうしたらいいか分かる? 」
ライトスライムに道を尋ねると
「外の世界には不思議な生き物がいるんだね同じ種族以外と初めて喋った♪ 確か、外への行き方は昔からの言い伝えだと奥に進むと地底湖があるんだけど、その先に地上に続く道があるんだって! 」
どうやら 地上に続く道あるにはあるらしい。
「ありがとう! えぇーっとライトスライムってのは種族の名前だから君の名前は? 」
そうライトスライムに聞くと
「お兄さんっておかしな人だね♪ 私はライトスライムのオリヴィア。道がいりくんでるから私が案内してあげるから肩借りるね♪ 」
そういって腕をつたい肩に乗っかってくる。
「じゃあ地底湖を目指して行こう! あっ、そういえば名前? 」
2人になり出口もあることが分かったからか自然と笑みを浮かべていた。
◆◇◆◇
「ここが言ってた地底湖かな? 」
思っていたより大きな湖が目の前に現れる。
「そうです! ここがさっき話してた地底湖です! 確か泳いで向こう岸に行くと地上に続く道があるって話です」
この寒い中を泳いで湖を渡るのか…。
「なるほど…寒そうだね。って言うかスライムは水、平気なの? 」
肩に乗っかりプルプルしているオリヴィアに尋ねるとオリヴィアは肩から降りて湖に入っていく。
「ちょっ、平気なのオリヴィア!? 」
肩から降りて湖に行くオリヴィアを追って行くと
「これで水が平気って分かりましたか? ライムお兄さん」
声の方向を見るとそこには幼い女の子の姿をしたスライムが居た。
「もしかしてオリヴィアなのかな? 」
不思議そうに女の子に声をかけると
「そうだよ~! 私だよ~! 」
そういって手を振ってくるオリヴィアの後ろの湖面が揺れる。
「オリヴィア、後ろ!! 」
そう叫ぶと同時にオリヴィアに駆け寄りこちらに引き寄せる。
「何? ライムお兄さん? 」
オリヴィアは不思議そうにこちらを見つめる。
「ギャァァァァァァィィィィィ!! 」
湖面から蛇のような生き物が雄叫びをあげ顔を出してこちらを睨み付けてくる。
「一旦退いて態勢を立て直そう! 」
そういってその場からオリヴィアを連れて離れる。
◆◇◆◇
「どうなってんの? 何あれ? 」
オリヴィアを抱えて湖から離れつつオリヴィアに尋ねるとオリヴィアは「うぅ~ん」と唸りながら何か考えている。
「どうしたの? 何か思い出したの? 」
オリヴィアに尋ねると
「あっ! 思い出した! あれアクアワームっていう魔獣です! 」
そういって納得したのか1人頷いている。
「そのアクアワームを倒すにはどうしたらいい? 」
装備を確認しながらオリヴィアと意見を交えて対策を考える。
「えっ! あれは確かここの主みたいな存在であれを倒すのは無理だよ! 諦めようよ~」
オリヴィアが服の裾を引っ張り引き留めようとしてくる。
「地上に家族がいるんだよ、こんなことで立ち止まってられるかよ! 」
そういってロープを少しずつ使い矢に散弾をくくりつける。
「武器も少ないからな、今回使うのはこの散弾をくくりつけた矢を5本だけだ」
矢筒にはその細工をした5本だけ入れてアクアワームの居た地底湖にむかう。
「えぇー本当にいくの~?」
嫌々ながらもオリヴィアは、後ろをついてきてくれた。
◆◇◆◇
「クソったれ、こいやゴラァァァァ! ったくどいつもコイツも人の邪魔ばっかりしやがって! 」
腹の中に溜まっていたイライラを湖面にむかって大声で叫ぶ、すると同時に湖面からブクブクと気泡が浮かび上がりアクアワームが現れる。
さてさて、どうやって倒しますか…。
武器の残数を見る限り無茶や無駄撃ちは出来ない、とはいえこのアクアワームを倒さないかぎり地上に脱出することはほぼ不可能。
近くに落ちてた石を思いっきりアクアワームにむかって投げると石は弾かれて落ちてくる。
「マジかよ、どんだけ弾力性があるんだよ…」
アクアワームの皮膚はゴム製品の様な皮で矢も簡単に弾かれそうだ。
「でも、こういう奴は基本、内側からの攻撃は弱いはず…でも、発勁なんて俺は出来ないからコイツをアイツの口に撃ち込んで内側からの破壊してやる」
散弾のついた矢を構え、アクアワームとの距離をつめていく。
「お兄さん右! 」
アクアワームの側面から触手の様な物が生えていて、こちらに攻撃を仕掛けてくる。
「なんだよ、そのチート能力は! 」
攻撃はたぶん内側からの攻撃しか通用しない、さらに相手は無数の触手を使って攻撃を仕掛けてくる。
「やっぱチートだろ! 」
無数の触手を持ち前の俊敏性でかわしながら近づいていく…。
「ライムお兄さん! あとちょっと! 」
下からオリヴィアの声が聞こえる。
アクアワームの口元に近づき…
「これで終わりだ! クタバレェェ!! 」
散弾をくくりつけた矢を引き絞り、口の中に矢を射つ…。
口の中で散弾が弾ける音と同時にアクアワームは倒れ大きな水しぶきを上げて湖底に沈んでいく。
「やっ、やったよ! スゴいよ! ライムお兄さん! 」
オリヴィアが驚きの声をあげて駆け寄ってくる。
「よっしゃあ! これで地上に戻れる! ここまで案内してくれてありがとうオリヴィア。ねぇオリヴィアは、このあとどうするの? 」
オリヴィアは少し考えて
「特に何も考えてない」
そう伝えてきた。
「じゃあさ、俺と一緒に地上に行こう! 恩人をみんなに紹介したい、だから行こうぜ! 」
オリヴィアの前に手を差し出すと
「分かった! ついていくよ、よろしくね~!! 」
差し出した手を掴んでオリヴィアは立ち上がって微笑みかけてきた。
「でもその前にこの極寒の湖を渡らなくちゃね♪」」
…忘れてた、水がかなり冷たいこの湖を渡らなくちゃいけないんだった。
「大丈夫、なんとかなるはず! とりあえず地上を目指して向こう岸に行こう! 」
そういって俺とオリヴィは一緒に地上を目指して極寒の湖の中に足を入れた。
「冷たっ!! 」
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