第28話 雪山での死闘2
「寒ぃぃぃぃぃぃ!! 」
オリヴィアから拝借したスライムの一部をファイヤーを唱えて燃やし冷えた身体を温め濡れた服を乾かす。
「ただいま~、ライムお兄さん大丈夫? 」
スライムの身体は切り離すと蝋燭の様に燃焼するらしく湖を渡り、岸でガクガク震えていた俺を見るに見かねて、身体を切り離し火を起こすように言ってくれた。
「お帰り、補充は出来た? 」
オリヴィアは切り離した分のスライムを補充しにさっきの湖に水を吸収しに行っていた。
「大丈夫なの? そんなインナーだけの格好で…」
オリヴィアは不思議そうにこっちを見てくる。
「さすがに濡れたまま外の雪山に出る訳にはいかないし、なにより寒い! 」
火にあたりながらオリヴィアに力説すると
「そっか~、私たちスライムには熱とか感じる能力が必要なくて退化しちゃったからな~風邪ひかないようにしてね♪ 」
そういって隣に腰をおろす。
「とりあえずここから地上に出たら、みんなと合流してオトギリソウを手にいれなくちゃ、オリヴィアもみんなに紹介するからついてきてね」
そう伝えるとオリヴィアはニッコリ笑って
「本当に不思議だね、私はスライムで種族が違うのにそんなに気にかけてくれるなんて」
不思議そうにこちらを見つめていた。
「俺は種族の壁とかは取っ払ってみんなが笑い合える町を作ろうと思ってるから、それに俺と一緒に町を作ってる子たちだって魔人や亜人種の女の子だから気にしないと思うよ、だから行こう俺たちの家に! 」
乾いた服を着直して、オリヴィアと一緒に地上に向かう。
「この先にある急な坂を下れば外に出られるって話だよ! 頑張ろ! 」
そういってオリヴィアは隣ではしゃいでいる。
(どのくらい時間が経ったか分からないけど、きっとみんななら上手くやってるはず!
問題はあの片腕のスノーマンティスだけだな)
◆◇◆◇
坂を下り洞窟を抜けると外は朝日に照らされ白く輝く銀世界だった。
どうやら夜は明けて約半日、寝ずに縦穴の中をさまよっていたらしい。
「うわぁ~、明るい! 明るいよライムお兄さん! これが太陽って言うんだね! スゴいスゴいよ! 」
縦穴から出たことのないオリヴィアは周りをキョロキョロ見渡して「スゴい、スゴい」とはしゃいでいる。
俺も周りを見渡し周辺に魔獣がいないか確認をする。
「ねぇねぇ、これからどうするの? 」
オリヴィアが目を輝かせてこちらを見つめてくる。
「そうだなぁ~、とりあえず仲間に合流するのが最優先かな? あとここが山のどこらへんなのかも確認しなくちゃ」
そういって歩き始めるとリアの薬学書で見たオトギリソウが生えていた。
「これが生えてるってことは山の南側か? 」
生えているオトギリソウをいくつか摘んで矢筒に入れる。
「ねぇ何それ! 美味しいの? 」
オリヴィアが物欲しそうに見つめてくるので手近にあったオトギリソウを採ってオリヴィアに渡す。
「美味しいのかな? 」
そういってオリヴィアはオトギリソウをムシャムシャと食べ始める。
「うわぁ~、不味い(-_-;)ウォェェェ~」
そういうとオリヴィアの身体が透き通った水色から深青緑色に変わって手を交差させてバツを作っている。
「毒は無いですけど、とっても苦いです! これ何に使うんですか? 」
口をオエオエさせながらオリヴィアが不思議そうに尋ねてきた。
「煎じて内服薬にして使うと妊婦さんに良いんだって地上に家族がいるって言ったと思うけど実は俺の子供が今、妻のお腹の中にいるから妻のために摘みたかったんだよ」
そう伝えるとオリヴィアは頷いて
「確かにそういう効能はあるみたいだけどかなり苦い、不味い、これを飲むには工夫が必要! 」
そういって木の棒で雪に何かを書き始める。
「苦味を減らすために甘藻を使えば苦味もまろやかになるから飲みやすくなるかも…」
どうやらオリヴィアはオトギリソウを美味しく飲むためのレシピを纏めているらしい。
「美味しそうなのが出来そう? 」
オリヴィアに声をかけるとオリヴィアは嬉しそうに頷いて
「もちろん! 私に任せてよ! でも甘藻って地上にもあるかな? 」
首をかしげて聞いてくる。
「分からないけど無くても代わりになるのを探そうぜ! 」
そういって先を進もうと周りを見渡すと
「ねぇライムお兄さん、あの虫はなんて言うの? 」
向こうからこっちにむかってくる虫を指差し確認をしてくる。
オリヴィアが指差す方を確認するとそこには…
「なんでアイツがこんなところにいるんだよ…。オリヴィア、走るぞ! 」
そこには片腕のスノーマンティスがこちらを見ていた。
マズイ、もしかしたら気づかれたかもしれない。
後ろからスノーマンティスの雄叫びが聞こえる。
「なんですか? あの生物は? 強いんですか? アクアワームみたいにやっつけちゃいましょうよ! 」
オリヴィアはそういって後ろを確認しながらついてくる。
「まだ距離はあるな…」
朽ちて倒れている木の加工を始める。
「板状になればいい、オリヴィアあの虫があと100mぐらいになったら教えてくれ、それまでに秘密兵器を作るから」
そういって朽ちた木を削り2枚の細長い板を作る。
「何を作ってるんですか? お兄さん! ライムお兄さん! アレがもうすぐ来ます! 」
慌てた様子で伝えてくる。
「こっちも出来たよ! オリヴィア乗って! 」
そういってオリヴィアに背中を差し出す。
「ライムを信じる! 」
そういってオリヴィアは俺の背中に乗ってきた。
「やっしゃあ! 行くぞオリヴィア! ちゃんと掴まっとけよ! 」
即席で作った木の板を着けて雪の上を滑っていく。
「よしっ! でもまさかスキーをやるとは…」
そんなことを呟きながら森の中を滑走していく。
◆◇◆◇
しばらくすると背中にいるオリヴィアが
「さっきのヤツあきらたのかな? 」
どうやらスノーマンティスを引き離したらしい。
「このまま一気に森を抜けて、そのあと周辺を確認するから! 」
背中にいるオリヴィアにそう伝え木々中を滑走していくと森の出口が見えてきた。
「うわぁぁぁぁ! なんでここに昨日のスノーマンティスがいるの! 」
森の外から声が聞こえる。
「オリヴィア、速度をあげるからしっかり捕まってて! 」
森の出口を目指し速度をあげていく。
「ライムどこ~!! 」
森を抜けるとそこにはミソラたちが後ろから迫ってくるスノーマンティスを確認しながら俺の名前を呼んで探していた。
「みんな無事か? 」
大きな声でみんなに聞こえるように手を振り滑っていく。
「よかった、この馬鹿! どんだけ心配させてんのよ! 」
ビシィィィッッ!
ミソラがこっちに飛んで来て、いきなりビンタをされてしまった。
「イハァイよ、ミソラ。なんで俺、叩かれたの? 」
頬を擦りながらミソラと背負っているオリヴィアと一緒にみんなのところへ行く。
「大丈夫ですか? でもお兄ちゃんが悪いんですよ、本当に心配したんですよ! 」
リアは涙を流しながら胸に飛び込んできた。
「本当だよ! 弟君がいなくなって大変だったんだから…」
ノルンお姉ちゃんが首に手を当てて肩を回して疲れきった顔でこっちにやって来た。
「あのさ、感動の再会の途中、申し訳ないんだけど来てる! 来てるから! 」
リカリアさんが慌てて肩を叩いて報せてくる。
後ろを確認すると片腕のスノーマンティスが飛んでこっちにむかってくる。
「本当だ・・・。みんな、この子を頼む! 」
そういって背負っているオリヴィアを降ろしてみんなに任してスノーマンティスにむかって滑っていく。
「もう、いい加減にしろ~! 」
後ろではミソラが手を振り挙げて怒っているが今は気にしないようにしよう。
「もういい加減、お前と戦うの飽きたんだけど…。そろそろ決着つけようぜ! 」
矢をつがえてスノーマンティスを見据える。
「まずは落ちろ! 」
つがえた矢を射ちスノーマンティスの羽を射抜く。
残りの武器は矢が残り6本とダイナマイト1本、それと剣鉈とロープ…。
矢にダイナマイトをくくりつける
「これで決まってくれるといいんだけど」
そう呟いて踵を返し来た道を戻る。
「みんな、ここから離れておいてくれ!それとオトギリソウは手に入れておいたから合流はリアとあった竹林の中の草原で待ってて! 」
そういって森の中にむかって足を進める。
◆◇◆◇
まずは1本の矢にロープをつける。
その矢を木に撃ち込みロープを地面におく。
「しかもここでそっち側に立ってくれるとか死にたいのお前? まぁ、そっちの方が楽だけど…」
スノーマンティスは木と俺のあいだに立ち鎌を振り挙げてこっちを威嚇してくる。
「さてと、じゃあさっさと決着をつけようか」
矢につけたロープを張り木の周りを回る。
すると木と俺のあいだに立って威嚇していたスノーマンティスは木に巻きつけられ身動きがとれなくなっていた。
「これで終わりだ! 」
ダイナマイトに火を着けて矢を射つ
スノーマンティスに刺さったと同時に爆音が辺りに響きわたる。
「やっぱりまだ死んでないか…」
くくりつけたスノーマンティスを見る両腕が弾け飛び身体はボロボロだがまだ息がありロープを切ろうとロープにかじりついている。
「無駄だよ、それにこれのためにお前を木に巻きつけたんだから俺は巻き込まれたくないからここでさよならだ! 」
スキー板をつけて山を滑り降りていく。
後ろから轟音とともに白く巨大な壁が辺りの木々も巻き込んで迫ってくる。
「やっぱりこうなるよな、距離もとったし大丈夫だと思うんだけど…」
後ろを振り返るともう、すぐそこまで迫ってきていた。
「クソッ、予想以上に速い! 」
雪崩はスノーマンティスがいたであろう場所の木々を蹂躙する。
「これで確実に死んだだろ? っていうか死んでくれ! 」
そんなことを呟きながら全速力で雪崩から逃げていく。
しばらくすると雪崩の勢いが弱まり辺りは静寂に包まれる。
「やっとこれで終わったかな? 」
スノーマンティスが生き残ってないか警戒するが特に何もなく時間がすぎる。
「やっと終わった…。あとは山の麓の竹林に行ってみんなと合流しなくちゃ…。あぁ~ミソラ、絶対怒ってるよな、あの反応」
周りを見渡して気づいた…。
「まさかこんなことになるなんて…」
周りには高い木以外何も見えない。
みんなとはぐれた場所に戻りそこから合流
地点に行こうと思い、自分の滑ってきた跡を辿ってみたのだが思っていた以上に雪崩が激しく途中で跡が消え、ただそこには白銀の世界が広がるだけだった。
「ここどこだ~!!」
叫んだあと、とりあえず下山することにした。
◆◇◆◇
バシィィィィィッッッッ!!!
頬を叩く音が青空に響きわたる。
「やっぱりこうなるよな…。にしても本当に手加減なしだね。かなり痛い」
頬を擦りながらミソラを見ると
「あたりまえだ! また1人でむちゃして!
生きてるからいいものの死ぬ可能性だってあったんだからね! その自覚が貴方にはあるの? 」
ものすごい剣幕で怒っている。
「ごめん、本当に悪いと思ってる。けどなんとかなったし結果オーライってことじゃダメかな? 」
ミソラに尋ねると即答で
「ダメに決まってるでしょ! 私はここに来る時にモニカさんからライムは無茶な事をすると思うから全力で止めてって頼まれてるの! 妻子を残して死ぬ可能性だってあったんだよ! 子供が生まれても父親がいないとかそんな悲しいことは絶対ダメ! もう無茶はするな! 」
ポロポロと涙を流しながら文句を言ってくる。
「ごめん、本当に悪かったから、ごめんなさい」
そういって頭を下げて謝ると
「謝っても許さないから! 帰ったらモニカさんに昨日、今日ってあったこと全部伝えてやる! 」
あぁ~、家に帰ったらモニカからまた説教だ…。まぁ、死なずに説教が聞けるだけまだ良いんだけどな…。
「なに笑ってるんだ~! こっちは真剣に言ってるのに! 」
口をヘの字にして手を振り挙げて怒っている。
あぁ良かった生きてて、そんなことを心の底から思える日常がこの異世界でも出来たことを実感した。
「もぉ~っ、2人とも家に帰るよ! ほら、ミソラも怒るのそこまでにして弟君ももう土下座やめて、ほら立って! 」
ノルンお姉ちゃんが手を差し出してきた。
「帰ったらみんなからのお説教だからね♪ 」
訂正
「やっぱり嫌だぁぁぁぁぁ~!!! 」
ノルンお姉ちゃんの指示でリカリアさんとミソラに引き摺られながら下山することになったのは云うまでもない…。
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