東京トランジット
村山
プロローグ
1988年12月23日午後6時37分。吉祥寺駅を定刻通りに出発した列車は、阿佐ヶ谷に着く前にトンネルに入り、再び停車した。
暗闇には細々と裸電球が光り、懐中電灯を手にした国境警備隊が慌ただしく動いているのが見える。
今、ここには"国境"がある--
ソビエト連邦の大部隊が国境を越えて満州と朝鮮に侵攻して来たのは、1945年5月の事である。水際作戦に失敗し瓦解した日本軍は全く反抗できず敗走を重ねるだけで、その後北海道を占領した赤軍は樺太千島列島及び北海道を「併合」し、「アイヌ北海道ソビエト社会主義共和国」を樹立しソ連の版図に組み入れた。7月上旬、青森にも上陸。日本がポツダム宣言を受諾した8月15日以降も戦闘は継続され、9月2日とも言われる最終的な停戦地点はいよいよ仙台市に迫ろうという勢いであった。
9月28日には無条件降伏した日本を分割統治することとなる山の手合意が締結され、旧東京市の範囲と大阪市は米英中ソにより分断され、本土全体も米英ソによって西と東に引き裂かれることとなった。
不幸にも米ソの対立は深まり、とうとう1949年10月3日に首都圏と東北地方を領土とする
それから40年後、米ソによる日本分断が固定化され、首都東京にも"反ファシスト防壁"いわゆる東京の壁が築かれた後の話である。
東京トランジット 村山 @mryn0316
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