リーダビリティ
「いったい、誰がこんなこと……」
両膝を抱えてしゃがみ込んでいたココナが、弱々しく、ぽつりと呟いた。
花火用に使う予定でいた蝋燭の、頼りない灯りで薄暗く照らされた休憩室に集うボクたちの間には、絶望――とまではいかないけれど、重たい空気が漂っている。
「それを考えるよりも、まず先に、手分けして、なにか脱出口になる場所とか、脱出に使えるなにかがないか、調べて回ったほうが良い」
ボクが提案し、皆元気をなくしているようでありながらも、それ以外にないだろうなと同意を示し、ボクたちは、手分けして、この最上階にある各部屋を調べて回ることにした。
一人で行動するのは危険が伴うだろうからと、二人一組になることにして、ボクとココナ、マキトとヒロタ、シュンとサキがペアになることに決まった。
美少女と別のペアにされたマキトは、その組み合わせに、当然のように不満をぶつけたけれど、サキは極度の人見知りなので、そのサキが一番打ち解けているのはシュンだからと、ぶつぶつと文句を言うマキトを、なんとか納得させた。
この危機的状況下にあって、一人一人が、身勝手な要望を通したりすれば、危険度がそれだけ増すことにもなりかねない。
炭鉱の中に、大勢が閉じこめられたりするなんて事件が現実に起きたときも、皆が一丸となって協力したおかげで、その窮地を脱することができたという例もある。
『クローズドサークル』――そう呼ばれるような、外界と隔絶された場所に閉じこめられたりした場合、もっとも危険視されるのは、命の危機を前に、それぞれが投げやりになったり、不満をぶつけ合ったりして、その輪が乱れてしまうことなのだ。
そこらへんのことは、幼い子供でもあるまいし、マキトも分かってくれているはずだ。
あと、そういった状況下におかれた場合、他の皆を勇気づけたりしてくれるような、リーダビリティをとる人物の存在が重要になってくるわけだけど、この中で、それに見合う人物は、残念ながらいないように思える。
ボク自身も、自分でその器じゃないことぐらい自覚している。
マキトは、普段は気の良いやつだけど、意外と落ちこみやすかったり、怒りっぽいところがあったりもする。
天然ココナは問題外。
ヒロタは、態度だけは一人前だけど、実は臆病なチキン男子。
シュンは、頭は良いけど、控え目で、周りを引っ張っていくような強さはない。
サキもまた、まだ出会って間もないけれど、控え目な上に人見知りだから、上に立つのは無理だろう。
誰か一人でも、しっかりとした大人がいてくれさえすれば――。
どうしてもそう望んでしまうけれど、いないものをとやかく言ったところで、状況は改善されない。
とりあえず、柄じゃないけど、できるだけ、皆を一つにまとめられるように、頑張ってみるか……。
そんな風に考えながら、ボクは、ココナと一緒に、奥で閉じていた防火シャッターの傍に並ぶ病室の一つを調べて回った。
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