キャンパスの森

@takumi999

第1話

夜のニュースを見ていた。

それは高校生のボランティア活動の特集だった。

活動的かつ華やかな女子高生や男子高生がハキハキとインタビューに答え、それを見ているスタジオのアナウンサー共々、関心の声をあげる。

24歳、独身、会社員、神崎都。

小中高大学共に平凡な人生を送り、誰からも注目なんてされなかった。そりゃあそうだと都自身も思う。

— 人に注目なんてされなくない—

そう思っていたからそれ相応に生きてきたのだ。

生きてきたという言葉は、積極性を帯びた言葉のように聞こえる。都は生きてきたのではなく、自然の摂理やその状況に応じて適応してきただけなのかもしれない。じぶんの人生を振り返りそう思った。

なぜ今日はこんなにも感傷的になってしまうのだろう。

いつもは見過ごすニュース番組の特集もなぜか都を物凄く泣きたい気分にさせた。

今日は金曜日。明日は休日だ。

都はごく普通の会社員。新卒で初めて入社したこの会社は、給料は安いことを除けば、昨今のブラック企業らに比べると働きやすい会社といえるだろう。

給料は安いが生活に困るレベルではない。なので会社に不満はあまりない。

もしあるとすれば、無理な納期を押し付けてくるクライアントや、稀に嫌味をいう上司やお局くらいである。

しかしこれらも我慢できないというわけではない。

所詮、平日の17:00を過ぎればみな他人なのだ。

そう割り切ってしまえば都にとっては何のストレスにもならない。


なのになぜ

今日は涙が出てしまうのだろう。


都は自分の今までを振り返る。

自分の人生を白いキャンバスに置き換えると、何が描かれるだろう。

何色の絵の具と何種類の筆が要るだろう

答えは簡単だ。


一本の細い筆と、一種類の絵の具さえあれば描けてしまう。


それくらい自分の人生は

単純で、希薄なのだ。


どうして私はいままで何も生きてこなかったのだろう。

どうしてテレビの前の彼女たちのように生きることをしなかったのだろう。


都にとっての生きる。

それは......



ぼんやりと考え事を巡らせていると電話が鳴った。


「もしもし。」

『俺です。こんばんは。』

都の大学の同級生の金子だった。


「久しぶり。どうしたの?」

『来月の同窓会のハガキもう届いたかなと思って。返事きてないの神崎さんだけだったから。どう、来られそう?』


そうだ。数週間前に同窓会の案内が確か来ていたことを思い出す。あとで返事をしようとして忘れていた。


「ごめんなさい。忘れてた。来月の第3土曜日よね。大丈夫です。出席でお願いします。」

『よかったー。人数多い方が盛り上がるもんね。じゃあ楽しみにしてます!

夜分遅くにごめんね。おやすみ!』


金子は機嫌良さそうに電話を切った。


私が出席したところで喜ぶ人がいるのだろうか。

都は金子の謎の上機嫌に疑問だった。


本当は出席でも欠席でもどっちでもよかった。だから返事をするのも忘れていたのだ。


あぁ

何か考え事をしていたような。。。。


あぁそうか

私の人生の意味って

一体何なんだろうなって


しょうもないこと考えてたっけ。


しょうもない?

しょうもなくないや


つまらない人生を送ってきたことを心底後悔してるんだ。

今からやり直せるなら死んでもう一度ゼロからやり直したいと思う。


辛いことがあるわけでもないのに

どうして死にたいなんて考えてしまうのだろう。


人間にとって一番怖いのは

「無」

とういものなのかな、と都は思う。


本当の意味の絶望を経験していないからこそ、そう思うのかもしれないが。。


こんなに薄っぺらい人間になってしまったこと、それ故に死んでしまいたいとすら思う自分。


すべてが嫌になった。

「無」である自分に絶望する自分。


側から見たら滑稽だ。


もう寝よう。

明日は休日だ。

寝れば忘れられる。

今日は時間を気にせず、気の済むまで寝よう。


都はそう思い、眠りについた。








起きたら、全てがゼロになっていますように


そう願いながら







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