ちっぽけ

モネルナ

ちっぽけ.1

 昼飯時。

 食堂に入り食券を買おうとする。ふと、「焼きカレー」の文字に目が惹かれる。どんなものだろうか検討がつかない。食通ならすぐに想像がつくのだろうが、あまり私は食に詳しくない。

 興味本意でそのボタンを押してみる。食券を手に持ちカウンターに行く。カウンターに食券を出すと、黄色い番号札を渡された。二番か、早いな。

 スマホを弄り、時間を持て余す。

 「黄色の二番ー。黄色の二番ー。」とおばちゃんの呼ぶ声が聞こえる。

 スマホをしまい、受け取りに行く。

 私の目の前になんとグラタン皿が出てきた。グラタン皿にはカレーが一面にのっており、その上に更にチーズがチラついていてその焦げ目がとても食欲をそそられる。

なるほど、これが焼きカレーか。

 私は席に戻り、焼きカレーを食べ始める。熱々のカレーは猫舌の私にはつらいものもあったが、このつらさは楽しいものであった。

 ふと、グラタン皿をみると左側は綺麗に食べられており、右側はまだ手付かずの状態だった。私は右利きだから、必左側が先に食べてしまう。何故なら、右側は食べづらいから後回しにしていまうのだ。

 私はグラタン皿を回そうとし手を伸ばしたが、次にその手を引っ込めた。回したら負けの気がしたのだ。その時は回す事は食に対する重大な冒涜に感じられる程、私は回す事を嫌った。

 今思うととてもちっぽけなただの対抗心だったのだろう。私の中の行き場のない対抗心がここに向いたという気まぐれだったのだ。

私はそのまま、食べづらい右側を右手で食した。私はちっぽけにも勝った気がしていた。

 綺麗に完食した私は厨房にグラタン皿を戻し、食堂を後にした。

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