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コンシューマRPGにおける孤島は、まずなんといってもお宝。
貴重なアイテムの入手は当然として、ここまでで最も強い武器や防具の入手、そして経験値やお金を豊富に落とすレアモンスターの登場が期待出来る。
というのも、孤島は通常、船などの特別な移動手段がなければ立ち寄る事が出来ない。
逆に言えば、それらの移動手段をゲットしたご褒美が、孤島にあるという解釈も可能。
海や空を移動出来る手段を手に入れたら、まずワールドマップで孤島が何処にあるかをチェックするのが常識だ。
シナリオを進める上で必ず立ち寄らなければならない孤島は比較的少なく、ボーナスステージ的なアイランドとして配置されている事が多い。
だから最上位の鍵や魔法が必要なケースもあり、それらを持っていない為に宝箱を開けられず、歯痒い思いをするケースもある。
……とまあ、これはあくまで家庭用ゲームの話。
この裏アカデミにおける孤島――――最果ての地ディルセラムが、それらの美味しい要素をたっぷり盛り込んだ宝島とは限らないし、その可能性は寧ろ低いだろう。
仮にレアモンスターがいたとしても、倒せない強さだったら何の旨味もないしな……
「最終的には島の中央を目指すけど、先に街か村に立ち寄っておきたいんだけど、構わない?」
お、ステラから良い感じのナビ発言。
確かに拠点があった方が何かと都合が良い。
ただ、孤島に街や村があるんだろうか?
そもそもイーターが蔓延っている島らしいし、仮にあったとしてもとっくに潰されてるんじゃ……
「それはいいけど、拠点になりそうな所あるの?」
「んーん。多分あっても廃墟。それでも見ておきたいから」
……まさか腐乱死体がゾンビ化して襲ってきたりしないだろうな。
違うゲームになっちゃうよ。
アカデミック・ファンタジアは全年齢向けのゲームで、年齢制限はない。
幾ら裏とはいえ、グロテスクな表現の心配は要らない……筈。
っていうか、この美麗グラフィックで死体とかゾンビとか出されたらゲーミフィアの画面叩き割る自信があるぞ。
「それじゃ、まずポジレアを使うね」
イーター感知魔法が発動される。
この魔法はタブレア同様、空中にモニターを映し出し、そこに周囲の様子をレーダー感覚で表示する。
モニターの中央が現在地で、その周辺にイーターがいれば、モニター内に真っ赤な点が出現するらしい。
空中モニターに……赤い点は見当たらない。
少なくとも、この近くにイーターは生息していないらしい。
「にしても、世界樹があってイーターも存在してるのに、なんで世界樹は無事なんだろう?」
「それは行ってみないとわかんないね」
だから調査に来た、とステラは呆れたように返してきた。
まあ、確かにそうだ。
考えられる事は幾つかある。
世界樹が独自の進化を遂げて、イーターに捕食されない何らかの力を得たとか。
イーターから世界樹を守る謎の存在が現れたとか。
でも、そんなのは全部机上の空論に過ぎない訳で、結局は現地で確かめるしかない。
俺の刹那移動によって、危険を最大限排除した上でそれが行える。
ステラがここに来るのを望んだのは、きっと希望の可能性が最も高いからなんだろう。
ちょっと緊張してきたな。
何気にこのイベント、かなり重要っぽいし。
本筋を進める気はそんなになかったんだけど、どうやら俺は核心に近付きつつあるみたいだ。
「イーターは多分中央付近にいるから、出来るだけ島の外周に沿って移動しよう。定期的にポジレアを使うから安心だよ」
……中身が10歳とは思えないくらいしっかりしてるな。
まあゲームキャラにはありがちだけど。
幼女くらいの年齢のキャラがやたら有能で頭も良いってパターンな。
良いんだよファンタジーなんだから。
そこにリアリティを求めてたらロマンもクソもない。
ゲームは娯楽。
娯楽なら、キャラが立ってる方が良いに決まってる。
アカデミック・ファンタジアといっても、別にアカデミックである必要は何処にもない。
タイトル詐欺なRPGなんて沢山あるし。
「ところで、ステラに一つ聞きたい事があったんだけど」
「いいよ。歩くだけだと退屈だしね」
「君とテイルは記憶や思考を共有してるの?」
ステラとテイルの関係は、ある意味ではクローンに近い。
世界樹のエラーによって枝分かれした世界と元々の世界樹の中にあった世界とが折り重なり、それぞれの世界にいた同一人物が本来なら統合されるところを、別人物として独立した存在となった。
だとしたら、テレパシー的な繋がりがあっても不思議じゃない。
「ないよ。テイルとステラは同一人物だけど、それはあくまで生物学的な話。実際には、お互い『もう一つの可能性』みたく感じてると思うよ」
「ステラがテイルに成長した可能性もあるし、テイルがステラのような成長期を過ごした可能性もあった、って感じ?」
「そうだね。連続する時の中で、ある一人の人物を二つの瞬間だけ切り取ったとして、その二つは記憶を共有してる訳じゃないでしょ?」
「でも、年上の方はどうなんだ? 中身が年上なのはテイルの方だよな。あっちはステラの記憶を持っていたりはしないのか?」
「しないよ。何も繋がってないから」
あくまでも別個体か。
やっぱりクローンに近い感じなんだな。
クローンが本体の記憶を持ってないのと同じ……って訳じゃないけど、それに近いものって事なんだろう。
「そろそろポジレア使うよ」
どれくらい歩いたか――――三分くらいか?
リアル生活で三分の徒歩は、せいぜい二百とか三百メートル程度なんだろうけど、RPGにおける三分のフィールド移動は街から街へ移動出来るくらいの時間だ。
でも、今のところ集落らしきものは見当たらない。
「イーターもいない」
そっちは朗報か。
まあ、イーターの調査もしたいらしいから、ステラにとってはそうとも言えないかもしれないけど。
「しばらく、このまま海の傍をぐるっと回るよ」
「了解」
普通のRPGやネトゲでは味わえない緊張感だ。
けれど――――
「イーター、いない」
……それも、同じ行動を十回繰り返す頃には随分薄らいできた。
なんだ? この島……
もうかれこれ三〇分は歩いてるのに、ここへ来た時に見かけた漁港や桟橋さえ見当たらない。
海岸に沿って歩いてるから、必ず一周する筈なんだ。
って事は、三〇分かけても一周出来ないほど、超広大なマップって事か……?
いやいや、流石にそれはない。
そんなゲーム嫌すぎる。
頻繁に敵とエンカウントしながらなら、それくらいかかるダンジョンやマップもあるけど、一切敵と遭遇せずに三〇分歩きっぱなし……なんて島、どう考えても無理がある。
これはもしや――――
「何かの力が作用して、目的地に辿り着けないようにされてるのかも」
ステラも気付いたみたいだ。
普通に考えたらそうなるよな。
普通のRPGは歩行速度で三〇分移動し続ければ、世界一周くらい余裕で出来るぞ。
「嫌な予感がするね。シーラ、念の為に刹那移動使えるかどうか確認しておいた方がいいかも」
「え?」
「例えば、魔力とか魔法的な何かでこの状況を作られてるとしたら、魔法での脱出を禁じる魔法みたいなのもあるのかもしれない。ポジレアはちゃんと使えてるから、魔法そのものが使えない訳じゃないんだけど」
マジかよ……
他とは名前の傾向が違うから偶に忘れそうになるけど、刹那移動は世界樹魔法。
魔法での脱出が封じられた空間では使えなくても不思議じゃない。
不思議な力でかき消されるとか!
もしそんな事態だとしたら、俺は何の取り柄もないただの足手まとい。
それ以前に、この島から脱出する術を失ってしまう。
試すのも恐ろしいが……やるしかない。
頼む。
ここじゃない場所へ移動してくれ――――!
「……」
うわっダメだ!
景色一緒!
これ完全に封じられてる!
「しまったね。これは予想してなかった。人為的なのか、元々魔法使用が出来ない土地なのか。どっちにしても」
聞きたくない、その先は聞きたくない……
「わっはー、シーラは役立たず確定だね」
「ハッキリ言うな!」
「でも妙だよね。シーラのその魔法、まだ試用段階なんだよね? それを封じる事が出来るものなのかなあ」
俺には魔法の事はわからないから、何とも言えない。
ただ、専門家のステラがそう言うんだから、異常なのは間違いない。
刹那移動だけが狙い撃ちされたのか?
でも、そんな事あり得るか?
この魔法を俺が使えるのを知っているのは、テイル達とパーティメンバーくらいしかいないのに……
いや、もう一人いる。
刹那移動って名前や原理は知りようがないにしろ、俺が瞬間移動出来るのを知っている人間がいる。
「キリウス……」
思わず、自分の口からその名前が漏れた。
いやいや落ち着け俺。
これはゲームなんだ。
特定の人物が、特定のユーザーの魔法を妨害するなんて、どう考えてもあり得ない。
でも……もし『特定のユーザーの魔法での移動を禁ずる』っていう感じの魔法なりアイテムなりが、このゲーム内に存在してる場合は?
何しろ、研究を題材としているゲーム。
そういう効果を持った何かが生み出されていても不思議じゃない。
ゲームのシステム上、それくらいは余裕で可能だろうし。
「シーラ。このままじゃ埒が明かないし、中央を目指そっか」
刹那移動っていう唯一の強みを失った俺に、拒否権はない。
10歳の女の子(外見は18歳だが)に逆らえない高校生プレイヤー……
大いにアリだな。
「わかった。行こうか」
遥か年下だろうとNPCなら何の問題もない。
他力本願でも最終的に役立てればオールOK。
中央へ向かえば、そこで何かを成し遂げれば、刹那移動が使えるようになる展開も十分あり得る。
……もしシーラに没入してたらそうは思えなかったかも。
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