6-24

 これまで何度か、テイルから強制召喚を食らった事があった。

 でも今回は違う。

 こっちが進んで彼女の所へと向かう事になった。


 一体何の因果でそうなったのか――――


「不満そうな顔なの。不愉快なの」


 一通り事情を話した後の第一声がそれ。

 そりゃこんな顔にもなるよ。 

 まだ話してないとはいえ、こっちはテイルの名声も考えて話を持ちかけたってのに。


「いや、なんというか……ステラさんと同一人物とはとても思えないなと思って」


「同一人物っていっても理屈がそうってだけで、人格は異なるの。比較されると腹が立つの」


「向こうは心配してたのに」


「そんなの知らないの。どうせ上から目線で哀れんでるだけなの」


 ……こんなに卑屈な性格だったっけ?

 どうもステラに対するコンプレックスが相当強いみたいだ。


 まあ、兄弟姉妹でも仲間でもない、自分と同じだけど同じじゃない存在がいて、一方は王女様で一方は辺境の地で孤立した研究者。

 これは捻くれても仕方がない。


「そんな事より、ビリビリウギャーネットの件は引き受けるの。確かに実験としてはやる価値があるの」


「お、乗ってくれるか」


 名声の事を伝える前に、向こうが乗り気になってくれた。

 なら敢えて話す必要はないか。

 逆にプライドを傷付ける事になりかねないし。


「改良が終わって実証実験をやるタイミングだったの。丁度良いの」


 改良……?

 あれからそんなに時間が経った訳じゃないのに、もうそんな事が出来ているのか。

 研究に関しては本当に天才的なんだな、人格は兎も角。


「お待たせしましたー★ 出るタイミングをずっと見計らってたんだよ^^」


 ……ネクマロンのウザさが微妙に増している。

 髪型も変だ。

 なんだそのお団子ヘアーは、男だろお前は。


「こちらがビリビリウギャーネット改め『ビリビリオフゥネット』だよ! スタン効果の即効性を大幅に上げたから、悲鳴をあげる間もなく失神させる事が出来る筈さ!」


「もうビリビリウギャーネットで覚えたんで、そっち正式名称にして貰える?」


「えー……わかったよ。じゃ、これを持っていって」


 前回も預かった縦笛だ。

 これの上の部分の筒を手で押さえて、下の部分を引っ張ると発射……だったっけ。

 こんな普通の縦笛の何処にあれだけ巨大な網を収納出来るのか全くわからないけど、深くは考えないようにしよう。


「ところで、その世界樹の旗ってのにはイーターの属性を解析する機能はないの?」


「属性? それはちょっと聞いてないけど、多分ないんじゃない?」


「ならちょっと待ってるの。助手、例の奴を持ってくるの」


「例の奴ってなんですか?」


 ……意思の疎通がまるで出来てない。


 割と本気で恥ずかしかったのか、無言で自ら取りに行ったテイルにちょっとだけ同情。  

 にしても、一体何を……っと、もう戻って来た。


「このタグを旗に付けるの。そうすれば、属性を解析出来るようになる筈なの」


「え……そんなん可能なの?」


「この天才テイル様にかかれば、これくらい楽勝なの。っていうか、その世界樹の旗ってアイテムの役割を考えたら、属性だけじゃなくあらゆる解析が必要なの。恐らくそれを今研究している筈なの」


 確かに……イーターを一点に集中させて回避しやすくするってのが当面の目的なんだろうけど、本命はイーターを安全に集めての情報収集だろうしな。

 もし今後、イーターを撃破出来るような魔法や武器が開発されたら、今度は一網打尽用のアイテムにもなるだろうし。

 まあ、その場合旗も無事じゃ済まないだろうけど。


「それと、旗を立てる時にはDGバズーカを有効利用するといいの」


「成程。あれで風の魔法を強化すれば……」


 いやでも、バズーカ使うとなると両手が塞がるから、立てるのは無理じゃないか?


「違うの。立てた旗を氷の魔法で地面に固定させるの」


「あ、そっか。その手があったか」


 っていうか、固定方法はあんまり深く考えてなかったな。

 流石天才研究者、見るべき所をしっかり見てるな。


「ところで、刹那移動は問題なく使えてるの?」


「ああ。今のところは問題ないみたいだ。精度はやっぱり高くないけど」


「そこはこれから改良していかなくちゃいけないところなの。でもまずは安全確実にテレポート出来るかどうかが大事なの」


「……テレポート出来ない場合ってあんの?」


 おい、目を反らすな。

 っていうか、ただ単にMP全消費するだけなら別にいいけど、まさか次元の狭間みたいな所に飛ばされて二度と戻って来られない……なんて事態になったりしないよな?


「致命的な失敗は起こらないと思うの。ただし、全く見当違いの場所に移動する可能性はあるから、そこは気を付けるの」


「まあ、それくらいなら実験の段階では仕方ないか」


 取り敢えず、これで下準備は揃った。

 後はカラドリウスが大量発生する場所――――というか、奴らを呼ぶエキゾチックゴーレムが生息するアルテミオ周辺のフィールドへ向かえば良い。

 開けた場所だったから、危険が迫ったら直ぐわかるのも都合が良い。


 問題は段取りだな。

 幾らエキゾチックゴーレムを誘き寄せる事に成功しても、そいつがカラドリウスを呼ばなかったら意味がない。

 あの時は確か、依頼品のミョルニルバハムートって武器で攻撃したら仲間を呼んだんだよな。


 ダメージは最小だったけど、あの攻撃が仲間を呼ぶって行動を誘発した可能性は高い。

 となると、同等の威力の攻撃が必要かもしれない。


 またミョルニルバハムートを借りに行くか?

 でもあんな重いの、俺では到底扱えないよな……


 いや、やっぱり借りに行こう。

 あの攻撃とは関係なく仲間を呼んだ可能性もあるし、攻撃を受けた事自体がきっかけだった事も考えられるけど、所詮は机上の空論。

 同じ条件下で行動する方がリスクを極力回避出来る。


 聖水を消費するのは勿体ないけど、この際仕方がない。


「それじゃ、ビリビリウギャーネットは借りていくな」


「一通り終わったらここに来て成果を報告するといいの」


「了解」


 さて、アルテミオへ行くか――――





「試作品で良ければ持っていくと良い。私はもう引退したからね」


 あの時の依頼人――――名前は確かエギブダだったか、彼は研究の一線から身を引いたらしい。

 報告の際、余り感情の起伏が見られなかったように感じたけど、どうやらあれは諦めの境地だったみたいだ。


「申し訳ありません。力になれず……」


「いや、そんな事はない。お陰で限界を悟る事が出来た。感謝しているよ。有効利用出来るのなら、是非活用してやってくれ給え」


 以前会った時よりも幾分穏やかに、エギブダ氏は快く承諾してくれた。

 とはいえ、問題はあの全長4.8メルトのどデカいハンマーをどうやって使うか……だよな。

 持ち運びは刹那移動でどうにかなるけど、世界樹の旗と違って、これは魔法で持ち上げるのは不可能だ。


 となると、やっぱり腕力強化アイテムか魔法が必要になってくる。

 今更ブロウに頼る訳にはいかないからな。


 ……待てよ。

 目に前にこの武器の専門家がいるんだ、聞かない手はない。


「あの、参考までに聞かせて貰えると嬉しいんですけど、この武器ってどういう使われ方を想定していました? やっぱり、腕力が図抜けた戦士が装備するイメージですか?」


「いや。そんな事はないよ。王都で『物質の重さを一時的に入れ替える魔法』が開発されているとの噂を聞いてね。それを当て込んで作ったんだ」


 ……どういう理屈でそんな魔法が作られてるのかは知らないけど、少なくとも俺程度のレベルで習得出来る魔法じゃなさそうだ。

 せめてアイテムだったら良かったんだけど。


「ありがとうございました。では、このミョルニルバハムートは引き取らせて頂きます」


「うむ。夢破れたとはいえ、私の情熱と野望が詰まった武器だ。宜しく頼むよ」


 それじゃ、刹那移動で宿の近くの空き地に行こう。

 世界樹の旗と同じ場所に置いておけば、一括して移動出来る。


 というか……このテレポートに失敗したら相当マズい事になるよな。

 精度低いし、微妙に位置がズレるだけでも良くない。

 もし公道にでもテレポートしてしまったら、交通の妨げになりそうだ。


 まあ、その時は周辺住民に協力して貰うとしよう。

 どうか上手くいきますように――――




 ――――お、狙い通り空き地に着いた。


 これは助かった……けど、貴重な運をここで使い果たしてやしないか心配になるな。


 さて、それよりも『物質の重さを一時的に入れ替える魔法』ってのをダメ元で探ってみよう。

 難しいようなら、当初の予定通り腕力を上げるアイテムか魔法を探せば良い。

 それすら無理だったら……ミョルニルバハムートは諦めて、魔法でエキゾチックゴーレムへの攻撃を試してみるしかないだろう。


 もうそんなに聖水残ってないし、実験の為の実験をやる余裕はないんだけど……


 さて、魔法の研究・開発なら城の三階だったっけ。

 またステラに話を聞きに行くのは流石にちょっと憚られるし、自力で探そう。





 三階にやって来た……はいいけど、知り合いがいないからどこの研究室も入り辛い。

 以前、職能適性テストの時に【タブレーラー】って魔法を扱ってた研究者……は魔法専門って訳じゃなかったな。

 

 ……仕方ない。

 出来れば頼りたくなかったけど、エメラルヴィに聞いてみよう。

 声技のテストを受けた時、研究室にいたしな。

 

 確か四階の――――そうそう、ここだ。

 取り敢えずノックをして……


「……どうやら、死にたいみたいねェ?」


 扉を拳で叩く寸前、凄まじくドスの利いたオカマ……オネエの声が聞こえてきた。


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