6-11
アカデミックファンタジア @academicfantasia 6月15日
私はワルキューレの代表取締役社長、終夜京四郎です
アカデミックファンタジア @academicfantasia 6月15日
日頃より弊社が制作・運営するアカデミックファンタジアをプレイして頂き、誠にありがとうございます
アカデミックファンタジア @academicfantasia 6月15日
しかしながら、現状このゲームは既にある数多のMMORPGと大きな差はなく、目立った改善や立て直しの施策もない状況です
アカデミックファンタジア @academicfantasia 6月15日
このままではやがて淘汰され、ありふれたゲームの一つとして誰の記憶にも残らず消えてしまうと危惧しています
アカデミックファンタジア @academicfantasia 6月15日
そこで私は一旦制作チームと袂を分かち、私個人のコミュニティと力を合わせ全く別のアカデミックファンタジアを作ると決意しました
アカデミックファンタジア @academicfantasia 6月15日
ワルキューレの代表取締役社長としての立場のまま、このゲームに新風を吹かせたいという一心での決断です
アカデミックファンタジア @academicfantasia 6月15日
今、私は私のスタッフと共に、他のどのゲームとも違う唯一無二のゲームを開発中です
アカデミックファンタジア @academicfantasia 6月15日
そしてそれこそが、真のアカデミックファンタジアであるとここに宣言します
アカデミックファンタジア @academicfantasia 6月15日
この声明は終夜京四郎からワルキューレ及び旧アカデミックファンタジアへの宣戦布告である
――――この一連の呟きは、何故か削除される事なくアカデミックファンタジアの公式アカウントに残り続けていて、今もこうして閲覧可能だ。
これに関しては、様々な憶測が流れている。
一番多いのは、当然と言えば当然だけど……プロレスっていう見解だ。
注目を浴びる為に社長がこんな痛い発言を敢えてして、内部抗争が起こっているように見せかけている――――つまりはヤラセによる炎上商法狙い。
ほとぼりが冷めたら社長が謝罪の呟きを送信して、開発を終えたver.2に移行するという流れを予想している人が多いらしい。
でも、これは普通に考えればあり得ない。
ワルキューレは株式会社なんだから、株価が急落しかねないネガティブな発言は絶対に出来ない……とネット上の名無しさんが言っていた。
実際、社長が悪目立ちして会社の運営が傾いたって話はニュースでたまに聞くし、あながち間違ってないのかもしれない。
他に呟きが消去されない理由としては、『社長がwhisperの管理・運営をしているスタッフを囲い込んだ』『内部抗争は真実で、whisperの管理スタッフが社長側についた』『呟きを消すと社長からクビにされる』『社長が密かにアカウントを乗っ取った』『そもそも社長がwhisperの管理・運営をしていた』などが挙がっている。
いずれにしても、社長が退任しないまま自社のゲームを公然と批判するのは異例中の異例。
それだけでも相当痛い行動だけど、そこから更に『自社以外のチームで作り直す』と宣言した日には目も当てられない。
案の定、終夜京四郎は一日で『知る人ぞ知るゲーム関係者』から『史上最大級にヤバい経営者』へと退化を遂げた。
ただ、思いっきり叩かれているかというと、どうもそんな雰囲気じゃない。
『面白そうだからもっとやれ』『ネタ提供ごちそうさま』って感じで騒ぎ立てている人々もかなりいる。
恐らく殆どが、〈アカデミック・ファンタジア〉とは何の関係もない、ゲームファンですらない人達だろう。
でもそれは当然の流れだ。
こういう事が起これば、そういう反応は必然的に生まれる。
誰だって予想がつく。
なら終夜京四郎もこの状況は想定していた筈。
そして、その騒動の矛先が――――自分の娘へと向けられるのも想像に難くないだろう。
終夜は現役女子高校生で、そんな彼女がワルキューレで働いているとなれば、好奇の目がそっちに向くに決まってる。
……なんでこんな馬鹿げた事をしたんだ?
水面下で動いていれば、少なくとも終夜が巻き込まれる事はなかった。
しかも、テスターの俺達がまだ全然進められていないこの段階で……
それとも――――他のテスターが粗方進め終わって、もう最終調整くらいの段階に来てるのか?
いや……それはないだろう。
そもそも俺達以外に全くと言っていいくらいPCはいなかったし、そんなにテストが進んでるとは思えない。
ダメだ、訳がわからない。
わかってるのは、アカデミック・ファンタジアがこれまでにないくらい注目を集めているって事くらいだ。
あの呟き以降、公式アカウントは全然機能していない。
公式サイトもアクセスが殺到してるのか、頻繁にサーバーダウンを繰り返し、今は閲覧さえ出来ないらしい。
ユーザーの問い合わせも相当な数来てるだろう。
これがスマホ用のゲームやブラウザゲームだったら、〈裏アカデミ〉もプレイ不可になっていただろう。
ログインする為にはまず公式サイトにアクセスしなくちゃいけないからな。
でもアカデミック・ファンタジアは昔ながらのソフト購入型のオンラインゲーム。
公式サイトを経由しなくてもログインは出来る。
裏アカデミのサーバーは明らかにアカデミック・ファンタジアとは違うから、プレイに支障はない……と思う。
とはいえ、この状況で脳天気にゲームで遊ぶ気にはなれない。
終夜が心配だ。
SIGNで連絡入れても既読すら付かない。
一応、あいつの住むマンションは知っているから、行こうと思えば行ける。
でもこの状況で家に戻ってるかどうかはわからないし、下手したらマスコミが張ってる可能性さえある。
大々的とまではいかなくても、テレビでニュースになってるからな……
あーもう手詰まりだ。
なんでこんな事になったんだ?
平凡なオッサンって印象じゃなかったけど、まさかここまで常識外れの行動に打って出る人とは思わなかった。
……本当にあの呟き、終夜京四郎なのか?
いやでも、本人以外があんな宣戦布告する理由ないよな。
それ以前に、終夜京四郎が水面下でワルキューレと対立してるなんて知ってる奴、殆どいないだろうし。
当然ワルキューレのスタッフが社長を偽ってあんな呟きを投稿する訳ないし、本人以外考えられない。
くそ……考えれば考えるほどこんがらがる。
一旦頭を冷やそう。
今何時だ?
6月16日(日) 16:22
もう夕方か……
幸い雨漏りはちゃんと直ったし、店の方は問題ないけど、ここは……ミュージアムは人の出入りが一切ないままこの時間になってしまった。
別に珍しい訳じゃない。
こんな日もある。
カフェに来る人がみんなこのミュージアム目当てな訳じゃないし。
でも、こうして雨も降ってない日曜に一日中閑散としてる現実を実感すると、少しだけ気が滅入る。
特に最近は、朱宮さんやrain君みたいなレトロゲー愛好家と知り合いになった所為か、家庭用ゲームってまだまだイケるじゃんって気持ちが強くなってた。
これが当たり前なのかもしれないけど……やっぱり辛い。
ここは――――俺は――――もう必要とされていないんじゃないか――――
「すいませーん」
……え?
今の声は、間違いない……
「春秋君ー? こっちにいるんですよねー?」
「終夜……?」
「あ、そんな所にいたんですか」
そんな所――――確かにカウンターや入り口付近じゃないから、そんな所と言われても反論は出来ない。
終夜が直ぐに見つけられなかったのも当然だ。
ずっと棚の上にいたからな、拭き掃除しながら。
「っていうかお前……」
「?」
「なんでいるんだよ! つーか自由に行動出来るならSIGNの返事しろよな! 心配するだろ!」
思わず棚から落ちそうになるくらい絶叫してしまった。
こっちは胃に穴が空きそうなくらい心配したってのに……
「す、すいません。そんな高い所から怒鳴られると雷落とされたみたいでなんか嫌です」
「表現が古い……」
たまにそういう所あるよな、こいつ。
古いゲームはもう死んだとか言って切り捨てる癖して。
……そういう所も含めて、俺はこの子の事を知らな過ぎるのかもしれない。
知ってどうする、と思わなくもないけど。
「で、大丈夫なの? 今どういう状況か説明してくれるんだろ?」
「はい。その為に来ました。実はわたしのスマホなんですが……取り上げられてしまいまして」
「え? なんで?」
「一応その、あんな事しでかしたのはわたしの父親ですから」
あ……そうか。
「社内調査の対象になったんだな?」
「はい。当然ですよね。今や父はワルキューレにとって最悪の存在ですから」
そりゃそうだ。
あの呟きでユーザーの不信感えらい事になってるだろうし。
「やっぱり解任要求するの? その辺の仕組みとか流れは知らないけど」
「それは……あの」
やっぱり言い辛いか。
上手くいってないとはいえ、実の父なんだしな。
ってかそれ以前に、外部にそんな重要な情報漏らして良い筈ないか。
「まず降りて話しません? 棚の上に乗っかってる人と話すのは、少し首が疲れるっていうか……」
……それもそうか。
俺も少し混乱してるんだろう。
それと……相当安堵してる。
状況はどうあれ、終夜が無事だったのと、そこまで落ち込んでないのは正直ホッとした。
そこまで長い付き合いでもないけど、もう浅い付き合いとは言えないしな。
オンラインゲームで得た仲間。
それが俺の終夜に対する認識だ。
でも向こうは俺を無理矢理にでも『友達以上恋人未満』に仕立てようとしている。
そういうところも含めて、俺はもう少し終夜の事を知っておかないといけないのかもしれない。
彼女を本気で心配するのなら。
「っしょ、っと」
「え? 脚立とかないんですか? そのまま降りて大丈夫ですか?」
「いつもやってるから大丈夫。たかが身長より少し高い程度の棚だし……」
とはいえ――――他人に見られながら降りるのは滅多にない経験。
それを意識したのが間違いだった。
意識が散漫になると、いつも出来ている事が出来なくなるのは定石で――――
「っと……ととととと……おおおわああああ!?」
「え? え、えぇ――――」
バランスが崩れたと自覚した時には、もう世界が回っていた。
不幸中の幸いで、棚が倒れるという事はなかったけど……棚板にかけようとした足が滑って重心を失った俺の身体は、為す術なくそのまま床に叩き付けられた。
終夜の身体に――――これっぽっちも触れる事なく。
まあ、終夜は棚の傍までは寄って来てなかったからな。
巻き込まなくてよかった。
「春秋君!? 大丈夫ですか!? 怪我は!?」
でも、こういうシチュエーションで何もハプニング的な事態が起こらないあたり、この子には異性としての縁はないんだろうな……と、ミュージアムの天井を見ながらそんな馬鹿げた事を思ったりした。
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