第31話『ザックvsザギュートⅢ』
両者は再び激突する。
その激しい激突は、まるでずっと再会を望んでいた恋人たちのようだ。今度は放さないと言わんばかりに二者の一撃は拮抗する。
二者は微かに振れあいながらもその場を大きく動くことはない。ザックの表情が徐々に苦虫をかみつぶしたようなものへと歪んでいく。
というのも半ば勝利を確信していたのから一転、想像すらしていなかった二撃目が繰り出されたのだ。その失意は言わずもがな。それだけならともかく、ザックは伝説級の性能を誇るハルバードとまたしても、竜骨のガントレットをしているとはいえ、その拳で渡り合わなければならないのだ。
並の拳であれば、とっくにその拳は容易く両断されてしまっているだろう。
ザックの並外れた威力を誇る必殺の武技と竜骨のガントレットを以てすれば、同じ土俵で戦うことは出来る。しかし、それは簡単なことではない。明らかに拳の威力が上回っている場合ならまだしも、それらが同等なものへとなった場合には、当然ながら拳の方に負担がかかる。
その勝負は、木刀で真剣にその技術を頼って戦いを挑んでいるようなものなのだ。当然、より劣った武器は傷つけられ、竜骨のカイザーナックルをはめているザックの右拳もまた…。
「くっ!」
何か硬いものが砕かれるような音と共に、ザックから苦痛を必死に覆い隠すような声が漏れる。けれども、ザックはその歯は割れんばかりに食いしばり、その場から一歩も引かない。そこに込められている意思の力のほどはどれ程か。
拮抗するカイザーナックルとハルバードは、その後も微かに振動を起こすだけで、まるでその空間に固まってしまったように動かない。
ザックの苦痛に歪む瞳に映る、ザギュートの口元にはまだ余裕を感じさせる笑みが浮かんでいる。まるで戦闘行為それ自体が楽しくて仕方がないとでもいうように。
どれほどの時間せめぎ合っていたことか。
徐々に両者の武器から、それぞれ蒼炎と真紅の光が薄れていく。長時間発動による武技の霧散だ。
それを見計らっていたかようなタイミングでザックはザギュートから大きく飛びのくと距離を取る。
肩で荒い呼吸を続けるザックのその表情は苦痛に歪んでいた。
右拳に装備していた屈指の硬度を誇る竜骨のガントレットは指の半ば辺りから大きくひびが入り、そこからはドクドクと鮮血が滲みだしている。そして、淡黄色だった竜骨のガントレットは滲みだした血によって赤く変色していた。
ザックの皮膚は強固な防御力を誇る。並大抵の金属であれば傷一つつけることは出来ないだろう。しかし、それは並大抵の金属の話である。つまり、ごく一部の希少金属では傷を負うということ。
ザギュートがその左手に握るハルバードは伝説ともされる超希少金オリハルコンからなる。その高度はミスリルを優に超える。ゆえに、ザックの皮膚をもってしても防ぎきれないのだ。
ザックからは先ほどまで村人たちの前で見せていた余裕は、もはや微塵も感じられない。
逆に余裕の表情を浮かべているのはザギュート。ザックの二撃をもろに食らい、その上ザックの最強の一撃を相殺した直後だというのにその呼吸にはいかなる乱れも見られない。
「威勢がよかったのは最初だけか?やはり、お前が弟を殺したとは考えられんな…。今からでも遅くはない、弟を殺したやつを正直に話せ。そうすれば命だけは助けてろう」
ザックは言葉につまる。
目の前の敵が何を言っているのかは不明だが、ここでそれらしい嘘をつくことでこの場をうまく切り抜けれるのではないかと思ったためだ。
先ほどの打ち合いからも分かることだが、ザックとザギュートの実力差は歴然だ。ザック最強の一撃をザギュートは余裕をもって相殺することが出来る。もはや、ザックに勝ち目はないと言っても差し支えないだろう。そうであれば、話合いで解決させるのは悪い手ではない。
ザックは考える。正確な所までは分からないが、ザギュートが言うザックでも勝てないほどの敵を倒すことが出来る魔物がバジュラにいるとすれば考えられるのは2人だ。シュナ、そしてマキュリス。
そこまで考えたザックの頭の中に、ふとマキュリスの正門で反乱軍カタストロフの大軍を前にした時に浮かべた覚悟を決めたような顔が思い出される。
(へへっ、マキュリスの野郎だって覚悟を決めて戦ってんだ。ここで戦士頭たるこの俺が最初にへりくだるわけにはいかねぇじゃねぇか)
ザックは先ほどまでの渋面を改め、ザギュートに食ってかかるように破顔する。
「はっ!!そんなやつ知らねぇよ、どっかで迷子にでもなったんじゃねぇのか?」
わかりやすい挑発である。
ザックもそれは自分でも分かっていた。しかし、それは己への鼓舞でもある。通常の戦士であればここで戦意を喪失してもおかしくはない。なにせ、自らの持てる最強の一撃ですらザギュートには通用しなかったのだから。
ザギュートの姿が、やけに大きく見える。しかし、引くわけにはいない。ザックは村の人々の安全を守るための戦士、その長たる戦士頭なのだから。
「それが答えか…。いいだろう、貴様を殺して他をあたるとしよう!!」
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