第23話『勇者の行先』
俺はシュナちゃんの家から外に飛び出したが、辺りには魔物の気配は感じられなかった。それは、先ほど助けを求めて叫んだ時に返事がなかったことからも分かっていたことでもあるが。ここで俺の頭に一つの疑問が浮かぶ。
てか、どこに行ったらいいんだ?
先ほども同じ状態に見舞われたが、パニックが起こっている最中にどこへ行けばいいのかというのが分かるのはその様子を空から眺めている神様くらいのものだろう。まぁ、そんな者が本当にいるのかは知らないが。
何か今後の行動方針の決定に役立つ手掛かりはないものか、と辺りを見渡してみる。しかし、辺りは不気味なほど静まりかえっているだけで何の手がかりもクソもない。
どうする…。
結局は周りの様子から決めるのではなく自分の頭で考えて決めることにした。先ほどの失敗が思い出されるが、こうする他に手がないのだ。
しかし、よく考えてみたらアイデアというのは浮かぶものである。
正門のほうから炎が上がっているんだから絶対に正門のほうに敵いるじゃん。
ごく当たり前の話である。
しかし、そうと決まれば話は早い。
さっそく正門のほうに向かおう、と思い正門のほうへと行動を開始しようとする。しかしその時、裏門のほうから甲高い小さな悲鳴のような音が俺の耳に聞こえた。
気のせいだろうか?
そう思って耳を澄ましてみるも、悲鳴は一度聞こえたきり二度とは聞こえてこなかった。
やはり気のせいだったのだろうか。風が木々をかける音がそんな風に聞こえたのかもしれない。
しかし…。
「やっぱり気になるわ!!」
そう、やはり気になるものは気になる。もし本当にあれが悲鳴だとしたら、俺が助けに行くべきだ。俺はそれだけの力を手に入れたのだから。皆を助る自分の姿のことを思うと、心の底から心地よい気持ちになる。
この力はみんなのために使う、この俺をここまで守ってくれたこの村バジュラのために!!
身体もそれが正しいことだと認めてくれているように、そのことを思うだけでテンションが上がるのを感じる。俺はこれがやりたかったんだ。
よし、今後の行動方針は決定である。俺は正門へと向けていた体を反転させ、裏門のほうへ駆け出す。だが、その速度は今までとは段違いである。まるで風を切り裂きながら地面を疾走している気分だ。今までの頑張って早く走っている感覚とはまるで違う。
「やば、なにこの足の速さ!?」
自分のことなのに未だあまりのギャップゆえに妙な違和感を感じざるを得ない。今までの生活が一体何だったのか、と少し口に笑みが浮かんでしまう。
気づいたら別の魔物の身体に憑依してましたーなんてオチは笑えないぞ…。しかもその相手が、モルガンとかだった日には終わりだ。
まぁ、もちろんこの手でその身体を両断してやったのだからそんなはずはないのだが。
そんなことを考えていると、ふと自分の中である疑問が浮かぶ。この突然空から降ってきたかのような力は何なのだろうかと。
きっかけは、俺を絞め殺そうとしたホブゴブリンの奴を撃ち殺した時だ。ガチガチに固まって全く思い通りに動かない俺の身体が解きほぐされていくような開放感と爽快感が全身を包んだかと思うと突然力が沸き上がってきたのだ。
そして、それはもう一人のホブゴブリンを殺した時やモルガンを殺した時にも同じことが言える。あの快感は言葉につくしがたい、その快感を思い出すだけでつい背筋が震えてしまう程だ。
ひとつ考えられるのは、何かしらの悪事を働く魔物を殺すことで俺の力は増すという推測だ。これまでの前例を考えればそうとしか考えられないだろう。
いやぁ、しかし俺にそんな力があったとはねぇ…。まさに勇者の力じゃないか。こんなことなら早く教えてほしかった。
そう思うと同時にまた一つの疑問が浮かぶ。逆になんで教えてくれなかったのだろうか、という疑問だ。
皆おそらくは俺の秘められしこの異能力のことを知らなかったのだろう。だとしたら驚くだろうな。この俺がこんなに強くなったのだから、はっはっはっは。その様子を想像しただけで俺はすごく愉快な気分になる。
旗から見ているものがいたら明らかにおかしい奴だと思われるような、にやけた顔をして俺は走る。不安はもう一切ない。
俺は、以前までを二倍する以上の速さで裏門を目指して疾走する。そんな俺の足取りは軽いものだった。
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