無もなき魔女と無力なモノ

獅子に追われし哀兎

第1話 新たな災厄

カツン。カツン。カツン。カツン。

暗い暗い道を、10にも満たない少女は進む。

その身に合わぬ黒いハイヒールを履き、真っ黒のゴシックドレスをきた、全身真っ黒の少女は進む。

進んでいくと次第に、円形の机と大理石で作られた椅子に座る四人の女性の姿が視認出来た。


そうーー此処は、世界の行く末を決断する神聖なる魔女の会談場。

人はその会談場を畏敬の念を込めーーその名を五魔女会談と呼んだ。


この場で決められた事こそが全てであり世界の法、それが例え矛盾に満ちていようと誰も文句は言えない。

この場にいる彼女達ーー魔女達は神に選ばれ、その寵愛を受けし絶対なるもの達なのだからだ。

「さぁ、会議を始めましょう」

「今日の案件はーー」

「どうせ、また人間の王が喚いてるとかでしょ?」

「いやー、あたちとしてはあんのクソ女王の案件だと思うねんよ!」

「キャハハハハハハ‼︎アレが攻めてくんの?ヤバくねヤバくね。キャハハハハハハ」


皆が皆、思い思いに口を開く。

コレは、既に会談ではなく雑談の場のような雰囲気を醸し出していた。

そんな中、二人の魔女の内一人は、イライラしながら進行を見守り、もう一人は溜息をついていた。

「はぁ。皆、静かにしてちょうだい。今から大事な話をするから」

「大事な話って何?簡潔にお願い」

黒い魔女はイライラしている様子を隠さずに告げる。

其れを見ていた魔女達全員が厄介事だなと理解して口を閉じる。

黒い魔女がイライラしている時は大抵が面倒事が起きる予兆なのだ。

故に、その場にいる魔女は皆黙って聞く態勢を整える。

皆の準備が整った事を確認した溜息をついた魔女は、口を開く。

「六番目の魔女が生まれました」


ザワッ。

魔女達は驚愕に目を見開き、その瞳に危ない色を浮かべる。

「つまり、この中の誰かが神降ろしの儀を行なっ、た……そう言いたい訳?」

黒い魔女は、他の魔女を睨みながらそう言いいつける。

その瞳は、溜息をついた魔女、シスフェルにも向けられた。

「それは違うわ。早とちりは良くなくってよ。ジャンヌ」

シスフェルは黒い魔女、ジャンヌにそう告げる。

ジャンヌは、苛立ちを強めて黙り込み考え始める。

「あたち達の誰でもないんならあのクソ女王が神降ろしの儀を無断で行なったのかなよ?」

この喋り方の可笑しい魔女、ミリャレイは嬉々とした表情を浮かべて、口を開く。

「キャハハハハハハ‼︎なら、オシオキが必要?ヤバくねヤバくね。キャハハハハハハ」

この馬鹿みたい笑う魔女、ルナマハはその白魚のような手に人の骨を丸々使った様な鎌をいつの間に手に収めていた。


「いや。案外人間の王が新たに召喚させちゃたんじゃない?」

五人目の魔女、リフレディアは小さく嘲笑う様に言い放つ。

「で、真相は?」

ジャンヌは、今にも襲い掛かりそうな程の闘気を放ちながらシスフェルに問いかける。

「神のお告げが下ったわ。 世界の『敵』であり『永遠の使者』であり『白き魔女』が産まれる。故に排除せよ、とね」

シスフェルは珍しく感情を露わにしながら、神のお告げを他の魔女に告げる。


「理解した。つまり産まれた直後に抹殺せよということだな」

「はい」

ジャンヌとシスフェルの遣り取りに他の魔女は、首を傾げる。

「つまーり?」

「あたち達は?」

「如何すれば良いの?」

馬鹿丸出しの魔女達に呆れながらシスフェルは説明する。


「いつか。厄介事のタネになる六番目の魔女を潰すのよ。その為に私達は各支配地で探させればいいのよ」

「なっるほどー」

ルナマハは理解した様に頷き、他の二人も同様に首を振っていた。

魔女になった者には支配地が与えられた。

支配地にいる人間を時には争わせ、時には殺す、魔女はそうして神のお告げに従い管理していた。

各支配地には国があり、その国の王に探させる訳だ。

魔女となる者には、何かしら普通とは違う所がある。

その為に探すのは簡単だろう、とこの場の全員は考えていた。


「五魔女の長、リフレディアが此処に決断する。今日をもって、我等が安寧を揺るがす六番目の魔女を見つけ次第殺せ!如何なる手をもってしても!」


「「「「我等が神に誓い、その決断を我等は了承す‼︎」」」」


魔女達の契約はここに成立するのだった。



****



「お父さん!お父さん!どこ!どこぉ!」

そう叫ぶ少女の眼の前にあるのは真紅の炎、悲痛な叫び声に答える者は誰もいない。

だが少女は、状況が理解出来ずに叫ぶ。

まるで、そうしなければならないかのように。

(何で、叫ぶんだろう。無駄なのに。)

「おい!逃げるぞ!」

(少女と同じ顔をした少年が少女の手を引く。

双子の兄だろうか?何故逃げるんだ?何処に逃げるんだ?もう周りは火の海なのに。)


「早く!早く逃げないと!来るぞ!」

(えっ!?何が?!)

少女も兄の言葉を聞き、涙目で頷き走り出す。

逃げ出そうとすると少年達の前に目がいっちゃってる数人の男が囲む。

「魔女め!逃げ出すつもりか!殺してやる!」

そう言い放ち、男は手に持った松明を投げつける。

(うわっ熱そう!)


少女が燃えた瞬間、目が覚めた。

「うわぁ。何とも変な夢だなぁ」

眠そうに目を細めながらベッドを降りる俺、西河賢吾27歳彼女持ちは顔を洗いに洗面台にへと向かう。

洗面台でサッパリして、さぁ飯を食おうとした。その時ーー

ピンポーーン‼︎

チャイムの音が聞こえてきた。

(宅配便か?)

賢吾は、頭をボリボリと掻きながらドアへと向かう。

「はいはーい。開けますっよ」

ドアを開けると見馴れた可愛い姿があった。

「賢吾さん!おはようございます」

俺の彼女である佐和田魔理沙だった。

魔理沙は、満面の笑みを浮かべて立っていた。

思わずその笑みに見惚れてしまい、その手の物質に気づかなかった。

魔理沙は、満面の笑みを浮かべたままーー

ブスリ!グサッ!

俺の体に包丁を突き刺した。

は?

理解出来ずに、魔理沙と包丁を交互に見ているとまた包丁が、今度は心臓に突き刺さっ

た。

思わず膝から崩れ落ちる。


「ま、り…………さ」

「賢吾さん。私気づいちゃたんです。今二人で一緒に死ねばずぅーと、ずぅーと、若いまま永遠に私達の愛は続くんだって!だから、死んでください。私も直ぐに向かいますから、安心してください」

俺の彼女は、ヤンデレでした。

グサッ。グサッ。グサッ。ドサッ。

耳にまた肉に包丁を突き刺す音が聞こえた。

それと遅れて何か重いものが倒れる音が聞こえた。





(あぁ、俺も死ぬの、か……まだ、卒業してないのに……チキらずにやれば……良かった……)



これが、チキン西河賢吾の最後に思った事だった。

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無もなき魔女と無力なモノ 獅子に追われし哀兎 @awareusagi

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