4-10 先触れ?行動予定?

 危険なひょうたん森を迂回する道と合流したら、道幅が広くなった。これならいちいち降りて【インベントリ】にバスを一度収納しなくても、対向馬車ともすれ違うことができそうだ。


 それに、ひょうたん森ルートより凸凹も少なく、バスの揺れがあまりしなくなり快適に進めるようになった。



 合流地点から数キロ進んだ辺りでMAPに人の反応が現れる。


 人数が少し多い? 50人ほどが集まっている……盗賊か?

 MAPで確認すると、14人が赤表示になっていて犯罪履歴がある。


「山本先生、少し止めてもらえますか?」

「ええ、どうしたの? この先に何かあるの?」


 皆が心配そうに集まってきた。


「50人ほどが集まっているのですが、そのうちの14人に犯罪履歴があるのです。盗賊の待ち伏せかな?」

「多分その場所って、王都から来た組が1日目に野営をする地点だと思うけど、50人は盗賊にしても多いわね……ちょっと危険かも。ミラ、アーシャどう思う?」


 王都を拠点としている冒険者のレイラさんたちが相談を始める。


「待ち伏せかな? でもそれだと犯罪者が少ないよね? 犯罪履歴までここから判るのが不思議だけど……」

「盗賊に商隊が襲われているとかかな? でも逆なら分かるんだけど、犯罪者側が2PTなんだよね? それだと余程の手練れが集まった盗賊なのかな? 近付くのはかなり危険ね」


 レイラさんが情報をくれるが、それ以上は行ってみないことには分からないそうだ。

 困った時のナビー先生だ!


『ナビー、待ち伏せか? それとも誰かが襲われている?』

『……いいえ、商都から王都に向かっている商隊と、王都から商都に向けて道路整備に従事している犯罪奴隷の整備要員がたまたま同じ場所で野営することになったみたいです』


『道路整備?』

『……はい。当然誰かが整備しないことには、このように綺麗な道は維持できないでしょう? アスファルトではなく土なので、雨が降ればぬかるんだりしますし、そのぬかるんだ場所を荷馬車が通れば道は凸凹に荒れてしまいます。それを均すのが、彼らの仕事ですね』


 生えた雑草や、道にかかってきた枝や蔓などを落とすのも彼らの仕事だそうだ。



「どうも、道路整備の犯罪奴隷のようですね」

「ああ、それなら問題ないわ。大体2PTの犯罪奴隷に1PTの騎士隊が護衛についているので、危険はないわね」


 この騎士隊は囚人の監視も込みだが、どちらかというと魔獣から囚人を守ってやっているのだそうだ。

 【奴隷紋】で縛ってはいるが、当然囚人は武装解除しているので戦力はほとんどないのだ。




 あまり関わる必要はないかと思い、素通りしようとしたが、騎士に止められてしまった。


「俺たちは勇者パーティーです。聞いていませんか?」

「聞いてはいたが、到着は3日後ぐらいだと言っていた……それにこの乗り物はなんだ?」


「俺たちの世界の乗り物です。馬と違い一切休憩がいらないので短時間でここまで来れました。今から急げば閉門前に王都に到着できますので、行かせてもらいますね」


 案の定バスの中の美少女を見た犯罪者たちは、下卑た言葉を投げかけてくる。


「バカな人ってどこの世界でもやっぱバカっぽいのね……」

「ほんと……黙ってれば労をねぎらって温かいスープぐらい出してあげようかと考えるのに……」


 桜と茜が怖い。まるでGでも見るような冷めた目でバスの窓から見下している。

 夕飯の準備中のようだが、桜と茜のお怒りを買った彼らに温かいスープの差し入れはないようだ―――


 ちらっと見えたのだが、何トンもありそうな鉄のローラーがあった。草を引き、トンボで均したところをこの重いローラーを数人で引き土を固めるのかな? 実に大変そうだ。二度とやりたくないと思えるほどの刑務作業だから刑罰になるのだろう。日本の刑務所のように快適ではないようだ。


「龍馬君、さっさと行きましょ」

「そうだね。では急ぎますので失礼します」


「ああ、王都の方には連絡しといてやるよ」


 特にこれ以上引き止められることもなく再出発したのだが、レイラさんが少しお怒りだ。


「何あいつ! 勇者様のパーティーに対して横柄な態度だったわよね」

「レイラ、仕方ないわよ。道路整備の警護なんかに回される騎士なんて下っ端だからね」


 どうやらさっきの上から目線の騎士の態度が気に入らないようだ。

 俺的には突っかかってこないだけでも良いと思うのだけどね。


 さぁ、閉門までに到着したい。凸凹のない、均されたばかりの綺麗な道なのでスピードも結構出している。


 遠くに王都の外壁が見えた辺りで、美弥ちゃん先生が俺に声をかけてきた。


「ねぇ龍馬君。この時間に行ったら迷惑じゃないかな? 夕飯時だし、向こうにも準備があるのじゃない?」

「う~ん、でもさっきの騎士が連絡してくれているだろうし、大丈夫じゃない?」


「商都の時がそうだったけど、寝る場所や夕食とか、王城になるのかな? 絶対用意されているよね? 私、堅苦しいのは嫌だな……」


 今度は桜が意見を言ってきた。


「他の娘たちはどう? 桜が言うように多分今日はお城に呼ばれると思う」


「龍馬先輩! 皆、別の部屋に分散されて、食事に睡眠薬とか入れられて、朝起きたら奴隷の首輪をされていたとかにならないですか?」


「あはは、優ちゃん、ラノベじゃないんだから大丈夫でしょ?」


 優ちゃんだけかと思ったら、中1トリオの3人もムッチャ警戒しているみたいだ。

 雅、他の2人にラノベ脳的展開を吹き込んだのお前だな。雅の方を見たらプイッてした。


「絶対大丈夫とかはないだろうけど、そんな危険なリスクを冒さないでしょう。失敗して俺たちの反感を買って邪神討伐なんかやんないとか言われて困るのはこの国の方だしね」


「旦那様、今日はわたくしが先行して、国側にある程度こちらの意向を説明しておきましょうか? 貴族が登城する際には、先触れを出すのが一応本来のマナーです」


「成程。セバスにはある程度事情説明はしているからね。今日はセバスだけ先行してもらい、今後の俺たちの行動予定を伝えてもらっておけば、余計な時間は取られなくて済むね。じゃあ、バグナーさんとはここで一旦お別れだね。レイラさんたちはバグナーさんを護衛して王都に送ってあげてください。面倒事を任せて悪いけど、セバスに先触れとして言伝をお願いするね」


「はい。お任せくださいませ」


「あ~~残念、今晩はアカネたちの作ったご飯、食べられないのか~」

「レイラさん、何時でも訪ねてきてくれたら作ってあげますよ」


「「「アカネ、本当! 嬉しい!」」」


 レイラさんパーティーの3人から歓喜の声が上がった。『今晩は』とか言ってるし、これは先に釘を刺しておいた方が良いな。


「レイラさん、言っておきますが入り浸ろうとしないでくださいね。部屋が余ってるとか言って寄生しようとかしたら出入り禁止にしますからね」


「わ、分かっているわよ! リョウマ君はアカネたちと違って意地悪ね!」

「あの……私も時々アカネさんたちの食事を食べに来ても宜しいでしょうか?」


「バグナーさんには今後もいろいろお願いすることもあるでしょうから、宝石商人としての用事が落ち着いたらまた訪ねてきてください」


 王都の手前1km地点でバスを止め、馬車を【インベントリ】から出して馬を繋ぎ移動の準備ができる。

 馬たちも空中を魔法で引っ張られるより、自分で走れるのが嬉しいようだ。


「アレクセイ、今回お前はセバスの従者として行ってもらうね」

「わ、分かりました……」


 あはは、あからさまに緊張してる。王城に行くことになるからね。

 ちょっと礼節が心配だが、セバスの従者としてなら問題ないとセバスから許可を得た。




「「「リョウマ君、助けてくれてありがとう! この恩は必ず返します!」」」


 レイラさん、ミラさん、アーシャさんが姿勢を正してあらためてお礼を言ってきた。


「俺たちが王都に入った時に案内をしてくれればいいですよ。入り浸りは許しませんけどね」



 セバスを先触れとして送り出し、俺たちは自分たちの拠点を確保する。

 街道から少し離れた平原に屋敷を召喚した。


「龍馬君、ここだと街道から見えちゃうよ?」

「でも桜、林がある地点まで戻るとなったら2kmほど引き返さなきゃいけないよ? もともとこのお屋敷は来客を想定して内部を亜空間拡張してないから、学園組以外にならバレてもいいんだよ」


 俺が学園組には内緒だと言ったので、山本先生が質問してきた。


「学園組に内緒なの? どうして?」

「山本先生、これまでにもズルいってすぐ言いがかりをつける人が一杯いたでしょ? 俺が造った物なのに、当たり前のように住まわせろとか言いかねないですから商都では内緒にしたのです」


「龍馬君、なんで私の方を見るのかな……」

「美紀と友美はその代表みたいな存在だったじゃないか。何度体育館でズルいって言われたことか……現にこのお屋敷を見た時にも言ったよね?」


「そ、そうだけど……う~~」


  *   *   *


 なんでも城壁の周囲は1kmほど綺麗に伐採しているのだそうだ。魔獣や不審者が街道以外から近付いても、何カ所かに建てている物見櫓から一目瞭然で発見できるようにしてあるのだとか。



 夕食を食べながら皆に今後の指示を出す。


「一応明日からセバスに伝えている通り行動するね」

「どういう予定なの?」


 山本先生が不安そうに聞いてきた。


「明日9時に俺・美咲・フィリア・美弥ちゃん先生・山本先生・桜・茜で王都に入ります。それ以外の者はこの場で待機です。最初に国王と謁見し、お屋敷とマンション寮を出せる場所を交渉して確保します」


「私はそこで管理人として住んでいいのね?」

「はい。最初の3カ月ほどは学園生限定にしますが、以降はこの世界の住人の入居もOKです。もともと商都のマンションも含めたら120人の入居が可能ですので、空き部屋ができますからね。埋めないと勿体ないです。家賃はこの世界の相場を見てから決めてください。あ~そうなると貴族の居住区はダメですね。比較的安全な一般住人側にマンション寮用の土地を買いますね」


「ちょっと不安ですが仕方ないですね……」


「商都から学園生がこっちに到着するのは早くても8日は掛かるので、それまでに山本先生も俺たちとレベル上げに行ってもらいます。暴漢などに襲われても大丈夫なくらいまでは強くなってもらいます」


「それは助かります。弱いとやはり不安ですので、ある程度強くなっておきたいです」


「国王と交渉が終えたら、俺・美咲・フィリアとで神殿に行って聖女様の神託を聞こうか」

「ふむ。よろしく頼むのじゃ……」


 おや? フィリアの歯切れが悪いように感じる。


『……マスターが聖女の神託といつも言っていますが、商都の神殿に行った時にフィリア様自身で神々と会話できましたからね……聖女を介す必要がないのです。そもそもナビーがユグドラシルを介せば回答してもらえますし……』


『なっ⁉ それならそうと教えろよ!』

『……どのみち聖女の顔を立ててあげないといけないので、フィリア様は歯切れが悪い感じでよろしく頼むと申されたのです』


『あ~そういうことか……聖女はフィリアが選んだんだったな。一応聖女様の神託で行動ってのが双方にとって大事ってことか。聖女の必要性が軽んじられるのは良くないんだね』


 面倒だが、聖女にとっては神の言葉を俺たちに告げることで周りから崇拝され、俺たちも国や貴族から邪魔されることなく行動できるわけだ。



「他の皆は国王から許可を得たらすぐに連絡するので、王都観光をしてていいからね。各自20万ジェニー渡しておくから、また服を買ってくるように。お金はマイヤーに渡しておくね。お小遣い帳への記入も忘れないように。茜と桜は料理部員と食材の確保を頼むね」


「「分かったわ」」


「旦那様、服は商都で買ったので奴隷たちには必要ないかと……」


「マイヤー、俺たちは彼女たちのことを奴隷とは思っていない。勿論無償で面倒を見る気はないけど、身内として同じ扱いをするつもりだ。だから、ある程度自由に着替えることができるだけの服は料理部の者と同じだけ与えてあげたい。特に靴は品が悪いと歩くのもままならない。冒険者用の物は俺が用意するけど、普段用は自分たちで好きなデザインの物を買ってくるように」


「ご配慮ありがとうございます」


 皆、服の追加が嬉しいようで何よりだ。女の子なのでお洒落はしたいよね。


「ん、私も龍馬と行きたい……」

「そうです兄様! 菜奈も一緒にいたいです!」


「じゃあ、神殿での用事が終わったら合流しようか?」


「ん、分かった」

「仕方がないですね。それで我慢します」


 雅と菜奈以外も一緒に行動したいと言い出し、最終的に神殿の用が済んだ後は全員で移動することになった。


 いよいよ明日は王都に入ることになる。何も起きなければいいのだが―――

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