王都フォレル編
5-1 第6商店街?拠点確保?
翌朝、朝食を食べた後に俺・美咲・フィリア・美弥ちゃん先生・山本先生・桜・茜とで王都に向かう準備をする。1㎞ほどの距離だが、江口先生の4WDミニバンで向かうことにした。この7人乗り4WD車は何かと役に立ちそうだ。この世界のパーティーが基本1PT7人というので尚更都合がいいのだ。悪路でも4WDなので問題なく進む。
『……マスター、国王がお出迎えしてくれるようで、現在城を出て城門前に向かっているようです』
『そうなの? 9時に行くと伝えているけど、待たせるより到着を早めた方が良い?』
『……そうですね。30分後ぐらいに出発すれば丁度良いタイミングで向こうの歓迎準備も整います』
『国王自ら歓迎の準備の為に、早めに門に向かってくれているのか……』
という訳なので、向こうの準備が整うまで時間調整を行う。
そうそう、昨日の就寝前にセバスから報告のコールが入り、上位貴族から散々愚痴られたようだった。
予想通り王都内にいる上位貴族を集めて晩餐会の準備をしていたらしい。国王はなにも言わなかったそうだが、元々この世界の住人で準男爵だったセバスは、国の要職に在る大臣たちからかなりの時間拘束されたようなのだ。
上位貴族たちは当然のようにセバスから俺たちの情報を聞き出そうとしつこく質問したみたいだ。
勿論一切セバスは語らなかったようだけどね。セバスに申し訳ないと思っていたのだが、マイヤーが『それが執事であるあの人の仕事なのです! お役にたてて何よりです!』と、嬉しそうに言い切ったので、そう思うことにした。
良い頃合いだとナビーが教えてくれたので、王都の城門前に向かう。城門前には騎士が沢山控えていた。
今回はそのまま車で目前まで向かうことにした。異世界からの勇者だという印象付けの意図があるのだけどね。馬車なんかよりずっとインパクトがあるだろう。バスは流石に驚きそうなので止めておく。
目前まで行くとセバスが前に出てきた。
「旦那様、お待ちしておりました……」
セバス! たった1日で随分やつれたね……ごめんよ!
「苦労したみたいだね……」
「ええ、あはは、ですがいろいろ国王様が昨晩のうちに手配してくださったようですので、私の先触れも役に立ったかと思います」
綺麗に整列した騎士の一団の中から、身なりの良い50代の威厳たっぷりな人が進み出てきた。
うん、間違いなくこの人が国王様だね。マリウス公爵とそっくりだ……流石兄弟。
「勇者殿、よくおいでくださった。私が国王のプリウス・A・フォレルです」
ふーん兄弟なのに姓が違うのか? 偉ぶってなく、マリウスさん同様口調も穏やかだ。
『……爵位を継いだり、領地を頂いた場合に、その土地由来の家名を引き継いだり、新たに領地名を付けて家名にしたりしますので、家名は変わってきますね。フォレル家を名乗れるのは王族(現王の親と子)のみです。例え弟妹でも王の引継ぎが終えた後では王家の家名は名乗れなくなります』
国の名を冠した家名を引き継げるのは、たとえ兄弟であってもその中の1人のみのようだ。
国王の名乗りに対して美咲が一歩前に出る。
「この度の勇者召喚に応じた、ミサキ・ヤギュウと申します。精一杯頑張ってできるだけ沢山の人々を救いたいと思っています。その為にはこの世界の方々の連携協力が必要です。フォレル国王様、私は中立でいないといけませんが、何分この世界のことは分かりません。今回勇者召喚に巻き込まれただけの学園生も沢山いますので、この国の法に意図せず触れた場合のご配慮をお願いします」
美咲ちゃん、真っ先に学園生の法律違反への配慮をお願いとか、どうやら商都での一件を山本先生にでも聞いたのかな? でもそういう交渉ごとは勝手にやらないでほしいな……美咲、人が良いからすぐ言質をとられていろいろやらされそうなんだよね。
桜と美弥ちゃん先生が目で合図を送ってくる……どうやら俺と同意見のようだ。後で忠告しないとだね。
「なんと美しい方なのだ……勿論、ある程度の免責は致します。それと各国一丸となって勇者殿のサポートもいたす所存です」
うん? 各国一丸? 気になるワードだがそれ以上語られなかった。
その後に残りのメンバーの自己紹介も終え、王城に向かうのかと思いきや、セバスが頼んでおいてくれた件を早速手配してくれたみたいで、これから案内してくれるのだそうだ。
国王自ら俺たちのお屋敷を建てられる土地と、マンション寮の土地を見に連れて行ってくれるようだ。
門から入って5分も歩かないうちに最初の場所に到着した。後ろにぞろぞろと王都の住民が付いてきたけどね。騎士が30人ぐらいで、人員整理をしてくれているのでトラブルにはならなさそうだけど、人酔いしそうだ。
書類を持った文官らしき人が説明してくれる。
「まずはここです。この通りはメイン通りの一本裏側になります。小、中規模の店舗が並ぶ門寄りの場所です」
マンション寮の玄関側が北になり、ベランダ側が南になるので日当たりは良さそうだ。
「第1区画のメイン通りの商店街を第1商店街、メイン通りの一本裏手の通りを第2商店街、ここは第3区画のメイン通りの裏手側の第6商店街と言われる場所になります」
文官さんがエリアの説明をしてくれたが、正直さっぱりだ。どのエリアがどれだけの価値があるのか判らないのだから、聞いてもあまりピンとこない。
『……1階を食堂にするならこの場所は良いのではないでしょうか。勿論メイン通りの中央広場に近い方が客は沢山入るかもしれませんが、店舗が密集して沢山並ぶ中心街だと、大きな建物では日照問題が起きます。ここなら影ができても道路に落ちますし、お向かいの店舗も元から窓のない日を嫌う魔法屋です。宿屋自体大きなものだったので苦情もないでしょう』
『魔法屋ってなんだ?』
『……魔法の教本や魔法のスクロール、魔道具など、魔法に関する道具を専門で販売している店ですね。魔石や杖、ローブなんかも売っていますので、マスターや菜奈、沙織、沙希などは好きなのではないでしょうか?』
『うん! 是非行ってみたい! で、ここで良いかな? 他の候補地も用意されている?』
『……あと1カ所用意されていますが、ここが良いと思われます。王都は古いですから、それほど広い良い土地は余っていませんので』
「山本先生、ここが良いと思います。丁度ベランダ側が南で日当たりは最高のようです。1階の店舗もここなら繁盛するでしょう」
「龍馬君、この場所、私たちが住まない? なんか凄く良さそうよね?」
山本先生に聞いたのに、桜がここを気に入ったみたいだ。
「商売をするなら良いかもだけど、勇者の美咲が住む居宅となったら貴族街の方が良いんだよね。誰でも行き来できるこの場所は、勇者パーティーにはあまりよくないかな」
「あ、そうか……」
「それにお屋敷の方が大きいから、ちょっとここだと土地が足らないかも」
「龍馬君、私はここで問題ないけど、この空地ってどうしてできているの? 店舗街なのに、何故かここだけぽっかり空いてるのがなんか気になって……」
山本先生の質問に、文官らしき人が答えてくれる。
「10カ月ほど前にここにあった宿屋が焼ける火事がおきまして、広い土地が空いたのです。両サイドの店舗も幾らか焼けたのですが、宿屋の所有者だった者がこの土地を売って弁済いたしております」
両サイドの建物はかなり新しい。というかこの周囲にそれほど古い建物がないのでは?
『……この王都は人口増加に伴って、外壁を外に延長しています。このエリアは9年前に拡張されてできた新しいエリアなので、比較的綺麗なのです』
「宿屋だからこれだけの土地が空いたんだね」
「はい。宿屋には馬屋や従魔を預かる場所も要りますので、広い土地が用意されます。調理場から出火したようで、あっという間に全焼してしまったようです」
この世界の家は殆ど木造作りだからね。耐火仕様じゃないとあっという間だったろう。
試しにマンション寮を置けるか確認してみるが、俺の魔方陣は青色表示でまだ余裕があった。
「どうします? 出せると魔法判定は出ていますけど……」
「一度周囲に悪影響がないか見ておきたいわね」
それもそうか。
「国王様、召喚してもいいでしょうか?」
「ふむ。私も弟から聞いた『家を召喚』というのを見てみたい。その為に親衛隊長の反対を押し切ってついてきているのだ」
『……ぷふふっ、王城で勇者一行が来るのを待ちなさいと親衛隊や大臣たちに止められているのを、どうしても家の召喚が見たいと朝から言い張ってごねて外出したようです。国王が外に出ると、今のように警護で人手が沢山いりますからね』
なら見せてあげましょう。
「【ハウスクリエイト】【マンションタイプB】召喚!」
青になった場所で通りに合わせるような位置に調整し召喚した。
「「「おおおっ!」」」
周囲からどよめきが上がった。見た目は只の箱型マンションだ。
この世界の住人からすれば、中身の方が驚くと思うよ。なにせ冷暖房完備で冷蔵庫にトイレと共同だけど大きなお風呂まで付いているからね。
中が見たいと騒ぐ国王をなだめて、お屋敷の土地を先に見せてもらう。外の拠点で皆が待っているからね。
街の中心に向かって歩くと城壁がまた中にあった。成程、拡張して伸ばした城壁の中になった部分は壊さないで残すんだ。戦争時や、魔獣の大群が来た時の有事の際は、この門も役に立つんだろうね。
貴族エリアは中央に在る広場から十字に伸びている道を北側に進むとあるようだ。貴族エリアの中に入るには門番がいる大きな門を通らないと入れない。北にそびえたっている王城も、このエリアの最奥に位置している。
どんどん奥に進むと建ち並ぶ建物がだんだん大きく、庭が広くなってきている。
最終的に案内された場所にはちょっと引いた……。
「ここが今回勇者様に用意した最良の場所になります。いかがでしょうか?」
とにかく広い……古い洋館の建物もある。そのまま住んでも問題ないほど手入れがされている場所だ。
「ここは、どういう場所でしょうか? 両サイドのお屋敷も同じぐらい広いようですが?」
「ここは侯爵家の所有していた土地でしたが、3年前に不正が発覚して没収され、現在国の所有物になっています。右隣は現王の妹君であるお方が現在お住まいです。左隣は王家縁の侯爵様がお住まいになられています」
『……要するに、両隣王家所縁の者なので、ある程度こっそり監視ができるかなと打算的な思惑もあるようです。現に今、両家の門衛として2名ずつ立っていますが、本来雇われていた者たちとは違う、国が用意した暗部の者が立っています。ここを選ぶと出入りは逐一報告されるでしょうけど、それはどこに行っても同じことなので、もうここで宜しいのではないでしょうか?』
ナビーが裏事情を語ってくれたが、元々織り込み済みのことだ。どこにいても監視は付くだろう。
「茜どう? お屋敷4つ分ぐらい入りそうな広い土地だから、ここなら裏庭で菜園もできそうだよ」
「どうして私に聞くの?」
「茜が拠点のリーダー的存在だからだよ。A班、B班が野外活動中はC班の茜がセバスと協力して拠点の管理をしてくれないとね」
「分かった。私はここは静かだし、街中のような臭いもないから気に入ったけど……桜はどう?」
「うん。臭くないのが良いね。何で街中はあんなに臭いの? あれだとちょっと衛生的に心配だよね」
「まぁ、基本ボットン便所だからね」
「ウイルス性の病気とか怖いわね……」
「赤痢やコレラとかは定期的に発生してるみたいだね。でも、気を付けるにこしたことはないけど、食材には全て【クリーン】を使うので、俺たちはあまり心配いらないかな」
「そっか、あのいま建ってる建物はどうするの? 雰囲気は良さそうなんだけど、うちのに比べたら中身が違いすぎるのでいらないよね?」
「国王様、場所は気に入りましたが、あの建物はいらないのですが……」
「取り壊しても問題ないか?」
国王様が文官の人に聞いてくれる。
「問題はないのですが……勿体ないです。80年前に有名な建築士が手掛けたとても良いものです。大事に手入れされていて、状態はとても良いです。古さゆえの木の趣きがでています」
「ふ~ん、ならもらっておこうかな。ちょっと建っている場所を端にずらして、アレクセイや今後雇う男たちの住居にしよう」
場所はここに決定した。どっちもかなり良い場所なので高そうだ。
菜奈に連絡してお屋敷を菜奈の【インベントリ】に保管してもらい、王都に全員来てくれと伝えた。
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