4-4 食器泥棒?ゲテモノ食材?
マジックポーチを腰に下げて、出し入れの練習を皆が行っている。
取り出し時に装備している必要があるので、【インベントリ】の方が便利だ。傷むと困る食糧や回復剤をマジックポーチに入れ、マジックポーチは普段【亜空間倉庫】に入れておけば邪魔になることはないから、【亜空間倉庫】【インベントリ】『マジックポーチ』を上手く使い分けてくれればいいかな。
ログハウスから出たら、騎士隊の隊長さんが食事提供のお礼を言ってきた。
隊長さんの名前なんだったっけ? 桜たちが嫌がってすぐログハウスに引っ込んだので、碌な挨拶もしていない。う~~ん忘れた、まぁいいや。
『……可哀想、関係ないとはいえ、学園仲間の救出に行ってくれている人なのに。可愛い女子をちょっとエッチな目で見るのは男の性でしょうに』
『隊長云々より、騎士の中の独身組の目がヤバいんだと思うぞ。桜たちからすれば絡みたくない相手だろう。嫌がってるのに、絡ませることもないよ。三田村先輩たちと違い、俺たちはどうせ今日だけの関係の人たちなんだし』
「勇者様たちの世界の料理は美味しいですね。皆、学生だと聞きましたが、その辺の高級店より美味しかったです」
「そうですか、彼女たちにもそう伝えておきます」
「宜しければ直接お礼を言いたいのですが」
「騎士の若い人の中にエロい視線で胸ばかり見る者が多いので関わりあいたくないそうです。ごめんなさい」
「申し訳ないです! その者らはまだ未婚者でして、美しい女性ばかりなのでつい見惚れてしまったのでしょう。不快な思いをさせてしまい、まことに申し訳ありません!」
「その言葉も合せて伝えておきますね。別に怒っている訳ではないので、そんなに恐縮しなくても良いですよ。只、不快な思いをしてまで関わる必要がないと思っているだけですので。隊長さんたち騎士側からすれば、異世界人を助けに向かってやっている。という風になるでしょうけど、俺たちクランとしては『同じ学校に通ってた人』というぐらいの薄い関係性しかないのです。ですので、こうやって食事提供しているのは、彼らの救出をしてくれているからというのではなく、仲間の三田村がお世話になっているからということの方が強いです」
「はぁ、そうなのですか」
隊長さんからすれば国の命令で動いているので、理由なんかどっちでも関係ないのだろうな。
セバス、マイヤー、アレクセイ、リリー、ベルとで騎士たちに出した食事に使った食器を回収してもらったのだが―――
「龍馬君、食器が色々足らないんだけど――」
お怒り気味の茜からすぐに連絡が入る。繭取りに出掛けるの何時になることやら。
「隊長さん、さっき回収した食器が足らないとのことです」
「エッ? まさか騎士の誰かが盗んだとでも言われるのですか?」
ちょっと怒気が含んでいるが、事実騎士が盗んでいるのだ。
「時間が惜しいので、俺が対処します……」
隊長と盗った盗らないでああだこうだ言い合っても時間の無駄だ。
「騎士の皆さん! 食事提供時に使用した食器が却ってきていないそうです。ナイフとフォークがセットで5組、平皿が7枚、ガラスのサラダボールが8個、ガラスのコップが10個だそうです。高級な品ではないのですが、うちもないと困るので、返してください」
皆、知らん顔だ。中には『騎士が窃盗行為などするはずない!』と怒ってくる者もいる。
『ナビー先生! 盗った奴らにマーキングお願いシャース!』
『……どう解決するかワクワクして観てたのに、またナビー任せですか! 困ったマスターですね』
ナビーさん、そう言っている割には嬉しそうな声なのだけど。
すぐにマーキングしてくれたので、【魔糸】を飛ばして、食器をくすねた3人を一本釣りで引き寄せる。
「勇者パーティーを舐めてるのか? こんな下らないことで勇者一行の時間を割くとか……さっさと返さないと天罰が下るぞ?」
天罰という言葉で皆、御免なさいと言いながら涙目ですぐに返却してきた。
「お前たち! 騎士の面汚しめが!」
隊長さん超お怒りです。
エエエッ!! チョイ待ち! 隊長さん、剣を抜いて殺そうとしている!
「隊長さん、ストップ! なに殺そうとしているのですか!?」
「命までは取ろうと思っていない。だがその手癖の悪い腕を切り落としてくれる!」
「そこまでしなくていいです! 別に罪を問う気もないです! 騎士たちも物珍しい異世界の品が欲しかっただけでしょう? それほど悪意があってやったことじゃないと女神様もおっしゃっています。その証拠に、彼らに犯罪履歴は付いてないでしょ?」
ナビーが言うには、高額商品や大量に盗まない限り窃盗として記録しないようになっているそうだ。理由は、空腹を理由に、露店から1つ2つ食糧をくすねただけで窃盗が付いたら、子供とかだと大きくなった時に犯罪履歴のせいで仕事に就けないからだそうだ。
直接脅して奪い取る強奪は即座に記録されるようで、凶悪と判断されると記録されるみたいだ。
ちょっとした軽犯罪は履歴に残らないのだ。
「女神様が罪に問わないというのであれば、今回の件は保留にいたします」
「そうしてあげてください」
「だが、お前たち! このことは、領主様には報告させてもらう!」
食器をくすねた3人は凄く項垂れている。若い騎士ばかりだった。無駄に30分も時間を食ってしまった。
繭取りに向かう者たちを【レビテト】で浮かせ【魔糸】で連結する。【飛翔】を使ってナビーの案内で吸血蝶が繭を作っている洞窟の側まで引いてゆっくり飛んでいく。
『三田村先輩、良かれと思って食事提供したのですが、なんかすみません。俺たちは繭を取ったら出発しちゃうけど、先輩たちは今後やりにくいですよね?』
『まぁな、さっきのあの3人の中に、吸血蝶の話をしてくれた騎士もいたんだよ。若い騎士の方が俺と歳も近いので話しやすかったからな。でも仕方ないな、窃盗はやっぱダメだ』
まじめな三田村先輩からすれば、仲良くなっていた騎士が窃盗行為を働いたことがショックだったようだ。
『……実は騎士ってそれほど厳格な人ばかりじゃないのですよ?』
『そうなのか?』
『……騎士になってる人は、貴族家の三男以降の者が多いのです。家を継げない者が騎士になって国に仕えているのです。なので、特に若者の中にはちょっと拗ねた傲慢な者が多いそうです。街のゴロツキや衛兵から賄賂を受け取っている者も多いですしね』
『あまり聞きたくない話だな。騎士ってもっと厳格な者が成るのかと思っていた』
『……あの隊長のように厳格な人もいますけどね。でも、そういう人は家格が高い上位貴族出の人が多いのです。あの隊長も伯爵家の四男だそうです。役職持ちを上位貴族が占めるので、下位貴族出身の者が余計捻くれるのも仕方がないのかもしれないですけどね』
三田村先輩たちには申し訳ないが、商都までの道中を騎士たちと上手く付き合ってもらうしかないな。
飛んで向かったためにほどなくして到着したのだが―――
「おい龍馬! 洞窟ってあれだろ? 洞窟の前にでっかいワニがいるじゃないか!」
「そんなの俺も知らないですよ! それにあれ、ワニっていうより、もう恐竜ですね」
洞窟前で15mほどの大きさのワニが日向ぼっこをしていた。
この湖は結構大きく最大幅は3kmほどあるようだ。琵琶湖の1/6ほどかな?
水を求めて、周辺から色々な動物や魔獣が集まってきている。このワニもその一匹だね。
「龍馬先輩……これ普通のワニなんですか?」
「いや、鑑定魔法で見たらどうも魔獣みたいだ。水系の魔獣で、普通のワニの攻撃力に【アクアボール】のような水魔法を撃ってくるそうだよ」
「龍馬、物理プラス遠距離魔法とか、ちょっと倒すの無理っぽくないか?」
「そんなことないでしょう。確かにおっかないけど。上部の背中の方は岩のように固いそうなので、白い腹側や首元が弱点です。寝てる間にサクッとやっちゃいましょう。雅、その刀でこっそり近づいて首を落とそうか?」
「ん、がんばる」
念のため穂香が盾を持って同行した。
パキッ。
その同行した穂香が、小枝を踏んで枝を折ってしまった。ワニの目がゆっくり開き、目の前の餌を爬虫類特有の鋭い目でギロリと捉える。
「雅ちゃんごめん!」
「ん、問題ない……おっかないけど……大丈夫」
いきなり体を半回転させ尻尾攻撃を先頭にいた雅に叩き込んできた。穂香は一瞬で雅の間に割り込み盾を構えて衝撃に身構える。
『ドンッ!』という車同士がぶつかったような衝突音が上がり、穂香は吹っ飛ばされた。錐もみ状態で、ぶっ飛んでいく穂香を【飛翔】で追いかけキャッチする。やっぱモデル体型の穂香じゃ体重差があり過ぎるな。重力魔法で何か対処策を考えるか。それに雅のような隠密系のパッシブもとってなかったしね。盾が重いんだから歩くとそうなるよね。
「穂香大丈夫か?」
「ふぁい……だいじょうぶれす……」
目が回っているようだが、【マジックシールド】の効果で外傷はなさそうだ。
その間に雅が切り込んで、ワニに大ダメージを与えていた。
首元に大きな傷ができているが、雅の刀の刃の長さでは一刀両断はできなかったようだ。
「あれ? 雅そいつ回復してる! 中級魔法の【アクアラヒール】を持ってるみたいだ!」
「ん! 回復魔法は厄介!」
友美と三田村先輩も参戦した。薫は槍を射出して、首元に集中攻撃を加えている。穂香を再度投入して、俺は磯崎さんと待機している。だってあのワニおっかないんだもん!
こっそり付いてきていたハティが参戦したそうにしているが、俺に止められてすぐ横で一緒に観戦している。
おそらく沙希のことが心配で付いてきたのだろう。
大打撃を与えてはワニにヒールをされて回復されるを繰り返し、15分経っても未だ決定打に至らない。
MPが底をつきそうになったのか、ワニが逃げ出したので俺も参戦する。
「皆、もっと頭を使いましょうよ……」
俺は以前にワニハンターとかいう奴がワニを素手で捕まえていたのを思い出し、ワニの顔に毛布を被せて視界を奪う。
「ん、テレビで見たことある! 龍馬はやっぱり凄い!」
急に大人しくなったワニに近づいて【魔糸】で口元をぐるぐる巻きにして口を開かなくする。
そして手足を背中側に引っ張って背中の上で拘束したら、もう何もできないワニの置物が出来上がりだ。
【魔糸】のドレインとかも有効なのに雅は使わなかった。あとで少し指導かな。
魔法の【ブライン】や爬虫類は寒さに弱く、動きの鈍るアイス系魔法も有効なので試してみても良かった。
「急に暴れると尻尾は危険だから切っておくか」
「龍馬、拘束するより止めを刺した方が良いだろう……」
「それもそうか、ワニの心臓ってどこかな? 頭を刺した方が確実かな?」
何度か頭部に刀を差していると、ワニが死亡して何人かのレベルが上がったようで、白黒世界に変わる。
「お! レベルが上がった!」
三田村先輩と磯崎先輩、後、薫もレベルが上がったみたいだ。
「三田村先輩! 【亜空間倉庫】をレベル2にするのですよ! たった2ポイントですので取ってくださいね!」
「そんなに念を押さなくても分かってるよ……ああ、でもこの2ポイントがあれば、【瞬歩】を取れるんだよな」
「三田村先輩、別に良いですけど【簡易ハウス】はあげませんからね」
「分かったってば! ログハウスの小さい物なんだろ? あんな便利な物なら是が非でも欲しいって」
三田村先輩の【亜空間倉庫】をレベル2にし、薫や磯崎先輩もお目当てのスキルのレベルを上げて現実世界に戻る。
今度こそいよいよ洞窟に入って繭の採取だと思っていたのだが、近くにあった赤い光点がこっちに向かってきている。
「ん! なんか来た! カニとカメ?」
『……マスター、バイトタートルというカメですが、まんまスッポンです。女子の美容に良いそうですし、美味しいそうですよ? シザーズクラブも美味しいそうです』
『はいはい、カミツキガメにハサミガニね。もうこの世界のネーミングセンスは英語交じりの適当設定だということは理解した。カニも、ハサミの部分が美味しいのだろ?』
『……その通りですね。ナビーもカニ食べたいです。カニ味噌……』
「みんな、どっちも食用で美味しいそうだぞ……」
「ん! カニ食べたい!」
ワニの血の匂いで、周辺の魔獣が寄ってきたようだ。美味しい食用だそうなので、勿論狩るけどね。
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