4-3 簡易ハウス?マジックポーチ?
この人数だとログハウスのリビングじゃちょっと狭いな。
でも、ワイワイ皆でする食事は楽しい。中学の卒業式の日に、クラスの皆で最後に行った居酒屋の喧騒を思い出す。テーブル一杯に並べられた料理を皆が取り皿で少しずつ好きなモノを取って食べる――そんな感じになっている。
卒業式の後の打ち上げに俺もちゃんと呼んでもらえたんだよ? 別にクラスメイトに嫌われていたわけじゃないよ? 他校の奴らといろいろ揉めてたから、巻き込まないように自分から距離をおいていたんだからね!
「龍馬、そういえば蜂蜜取りに行ったとき、蜘蛛の糸が欲しいとか言って、蜘蛛狩ったよな? さっき野営場所を作ってる時に騎士が教えてくれたんだけど、ひょうたん森の小さい方の森に湖があって、その湖の周辺に吸血蝶ってのがいて、その蝶がこの時期繭を作るそうだぞ」
三田村先輩が騎士から聞いた情報を話してくれる。
「吸血蝶ですか……名前からして物騒ですね。繭を作るのなら蝶ってより蛾の仲間なのかな?」
「どうだろう。そもそも蚕は人の手なくしては繁殖できないって授業で習ったし、別物と考えていいんじゃないか? 魔獣らしいし、繭の大きさもソフトボールぐらいの大きさらしいぞ」
「話の流れからして、その繭が糸になるんですね?」
「ああ、蜘蛛糸より細くて、何でも幼虫時に大量に血を吸った個体ほど、真紅のような色の繭を作るそうなんだ」
「マジですか!? じゃあ、個体差でピンクやワインレッドのような色合いのも獲れそうですね」
「そうらしいぞ。選別して色分けして織られた布は超高級品らしい。真紅に近いほど値が良いそうだ」
「旦那様、吸血蝶の糸で織った真っ赤なパーティードレスは、貴族の息女にとっては憧れの品でございます。染色した糸とは違い、糸そのものが赤く発光しているかのように見えるのです」
「へ~、赤い糸か……」
『……マスター! 吸血蝶の糸が欲しいです! 調べた結果、繭を形成するのはこの時期だけです。春になったら羽化してしまうので、この時期しか獲れないようです。湖の側にある洞窟内に雨露をしのぐように密集して繭を形成していますので、一度で沢山取れます。吸血蝶自体が繭の中ですので安全です』
幼虫時は葉っぱだけではなく、蛭のように魔獣や動物に吸い付き血を吸うのだそうだ。
そして吸ったその血の量で繭の糸の色が変わるらしい。沢山吸った個体は真紅の糸を出すそうだ。
『でも、森自体が危険なんだろ?』
『……マスターなら、何も問題ありません! 桜に可愛いピンクの下着をプレゼントされてはどうでしょうか? きっと喜ばれますよ? そうだ、美紀にはワインレッド、ルフィーナには真紅の下着が似合いそうではないですか? チロルに真紅のゴスロリドレスを作って差し上げます! 可愛さ10倍マシです!』
想像してしまった。赤系が似合う女子を的確に選んでいる辺りがあざといが、確かに皆、似合いそうだ。
【飛翔】を使えばすぐだろうし、何人か連れて繭取りに行ってみようかな……なんかナビーに上手く乗せられた気もするけど、下着はともかく皆の喜ぶ顔も見たい。
『……そうだ、マスターに頼まれていたモノがいくつか完成いたしました』
このタイミングで、俺のご機嫌取りか……吸血蝶の糸、それほど欲しいの?
『……違います……たまたまいま仕上がっただけです』
心を読んで否定してきた―――
『別にいいけど……何が完成したんだ? 追加で頼んだベッドか?』
『……何台かは出来ていますが、そっちはまだです。出来たのはポーチと、簡易ハウスです』
『お! 家、出来たのか! で、ちゃんと5トン未満に納まったか?』
『……物理的には無理があったので、この後マスターに【重力制御】の付与で4.5tの重さに調整して頂く必要があります』
『家に付与魔法が使えるなら、もっと軽くした方が良いだろ』
『……ダメです。【亜空間倉庫】から出し入れする仕様ですので、普通の建築方法と違い基礎がなされていないので、軽すぎると強い風で吹き飛ぶ可能性があります』
『なるほどね、ポーチの方はどんな感じだ?』
『……はい、少し勿体ないかと思いましたが、丈夫なラッシュバッファローの革を使いました。色は黒と茶色の二色あります。三田村にも1個差し上げてはどうでしょう? 時間停止の付与もされるのですよね?』
『それもそうだね。三田村先輩、何度言っても【亜空間倉庫】1枠しか解放しないし、俺のオリジナルの【インベントリ】と違って時間停止はできないからね。料理を沢山いれて1個上げようかな』
『……簡易住居も1つ差し上げてはどうでしょうか?』
『ナビーは随分三田村先輩に肩入れするよね?』
『……彼はマスターにとって良いご友人になると思うのです。三月や古賀もそうですね』
『あれ? 水谷先輩は……うん、言わなくていい。悪い人ではないけど、トラブルメーカーだよね』
「三田村先輩、【亜空間倉庫】ってレベル幾つまで上げました?」
「いや……俺は1枠でいいって……」
「そうですか、良い物差し上げようと思ったのですが、残念です。レベル2ないとダメですしね」
「龍馬! 良い物ってなんだ!? お前の良い物とかなら、物によっては、レベル2にするのもやぶさかではない」
『やぶさかでない』とか初めて聞いたよ!
「ログハウスのような、簡易ハウスを造ったのですよ。ログハウスと違い、注意点が幾つかありますけどね」
「マジか!? 【亜空間倉庫】をレベル2にする! 是非譲ってほしい!」
「じゃあ、この後さっき言ってた繭獲りに付き合ってくださいね」
「エッ! 湖の周辺ってかなり危険だって騎士が言ってたぞ……」
「大丈夫ですよ、他にも何人か連れて行きますから」
「龍馬先輩、私も行きたいです!」
「あ、それなら私もいいかな?」
「ん、付いていく」
「私も行っていいですか?」
話を聞いていた穂香、友美、雅、薫の順で同行を求めてきたが、う~ん。
「友美はどうなんだろう。俺、あなたがどれくらい戦えるか知らないんだよね。デンジャーの鳥の時は、ただ吹っ飛ばされていただけだったでしょ? どんな森か分かっていないので危険かもしれない」
「でも、その娘たちは危険かもしれない森に連れて行くのでしょ?」
「この3人は連携練習もかなり自己練していて、見ていても安心できるほど強いよ」
「そうなんだ……」
「まぁ、いいか。行ったことない森だから全員に【マジックシールド】張っておくので、余程のことがない限り大丈夫なようにはしておきます。俺入れて6人、もう1人行けるな……」
「あ、それなら磯崎さんを誘ってあげていいか? まだレベルが低くて、危なっかしいんだ。龍馬のチートなシールドがある安全な状態でレベルアップしておきたい」
美咲か、美紀でも誘おうと思っていたが、三田村先輩は磯崎さんを誘いたいようだ。レイドパーティーにしてレベルの低いヒーラーの沙希も連れて行くことにした。
「良いですよ。じゃあ、磯崎さん一緒に行きますか?」
「ええ、お願いします。足手纏いにならなければ良いのですが……」
相変わらず控えめな人だ。彼女を誘ったってことは二人に進展があったのかな?
『……進展は全くないのですが、お互い気になっているようです』
『磯崎さんが道中で、かっこいい騎士に気がいってなくてホッとしたよ。三田村先輩に薦めたのに、たった二日で違う人に心変わりしていたら目も当てられない』
『……この場にくるまでの戦闘で、ここにいる騎士たちより、三田村の方が強いしカッコイイと思っているようです。以前に増して好感度は上がっていますね』
『へぇ~、三田村先輩、道中活躍してたんだね』
さて、出かける前に付与魔法で仕上げておくとしよう。ログハウスの中の、俺しか行けない工房への扉に向かう。
「ん、龍馬なにするの?」
「兄様、また何か作られるのですか?」
相変わらずこの2人は俺をよく観察している。というよりストーカーレベルで見ている。
「ちょっとね?」
「ん、行っていい?」
「菜奈も見てていいですか?」
「別に武器とか造るんじゃないぞ?」
結局付いてきて、マジックポーチを強請られた。
「兄様、これ可愛いです!」
「ん! カッコ可愛い!」
「何だよカッコ可愛いって……」
「ん、おしゃれでカッコイイのに可愛さもある?」
「お前たちには【インベントリ】をコピーしてあげてるから、今更超劣化版のマジックポーチなんかいらないだろ?」
「兄様は分かってないです! これは良い物です!」
茶色のポーチが可愛いと2人に奪われた。
《マジックポーチ》
・内容物の表示は【クリスタルプレート】と連動表示可能
・表示上、横5マス・縦10マスの50マスの1枠分
・1マス100kgの重量制限が有り、最大5トンまで収納可能
・生物は昆虫でも収納不可、但し植物は収納可能
・時間停止機能
・個人認証機能
革自体にそれほど高位の付与を付けられなかったので、中に魔石を収納できるようにし、その魔石に付与する事によって完成させることができた。
工房から出てセバスを呼び出す。
「セバス、三田村先輩、これを差し上げます」
黒い革で作ったポーチを手渡す。
「これは……おや? 物が収容できるマジックポーチでございますね?」
「龍馬、俺はこんな女子が持つような可愛いモノいらないぞ」
セバスは鑑識魔法を使ったようだが、レベルが低いのか詳細までは解っていないようだ。詳しく見えるのならもっと驚くと思う品だからね。
先輩はそれ以前だな。それにウエストポーチとか、最近男性向けの品も多いのですよ。
「セバスは【亜空間倉庫】は何マス持っている?」
「わたくしは、20マス所持しております」
「このマジックポーチは、1枠分50マス収納可能だ」
「1枠分でございますか!? オークが25頭も収納可能ですな。国宝級の品です。このような品、とても頂けません」
「へー、国宝級なのか……1枠増えるのなら貰っておこうかな」
バグナーさんがメッチャ欲しそうに見ている。レイラさんたちもか……あげないけどね。
「セバス、これには【時間停止】の付与が付いている。この意味分かるな?」
「!?…………」
セバスが固まった。
「ちょっとリョウマ君! それ見せてくれませんか!?」
「見せるのは良いですが、バグナーさんにはあげませんよ?」
「こんなとんでもない物貰っても、すぐに売らなきゃ命が幾つあっても足りませんよ」
1枠分のマジックポーチやマジックバッグは偶に闇系のダンジョンボスでドロップされるそうだが、時間停止の付与の付いた物は国内で10年に一度ぐらいの確率でボスドロップがあるかないかだそうで、国や大商人、Sランクの冒険者しか持っていないのだそうだ。
「セバスや三田村先輩ならこれを狙って盗賊が来ても返り討ちにできるでしょ?」
「旦那様、こんなレジェンド級の品受け取れません。何十億する品か見当もつきません」
「三田村先輩、中に作り置きしてある食べ物を大量に入れておきました。騎士たちに振る舞っても、5日分はあるでしょう」
「それは有難い! 俺はこれがどんなに凄い品でも遠慮なく貰うぞ?」
「ええ、他の人はバグナーさんが言ってたように、自らを守れるほどの実力が足らないのであげられません。冗談抜きで命が幾つあっても足らないですからね」
こんな話をしているのに、料理部女子には通じなかった。
「龍馬君、私たちの分はあるんだよね? 雅と菜奈ちゃんが可愛いの持ってるみたいだし、私たちの分も勿論あるよね?」
料理部員には全員あげましたよ……しかも全員茶色を選んでた。
まぁ、うちのクランメンバーは全員レベルアップさせて、上級冒険者並みの実力は付けてもらうつもりなので問題ない。
山本先生も欲しそうにしていたが、襲われて死なれても嫌なのであげられない。
レジェンド品は危険を伴うので、自己を守る実力のない者に、そう易々と配って良い物ではないのだ。
皆には少しこの場で待機してもらい、三田村先輩の【亜空間倉庫】レベル2の習得の為のレベルアップも兼ねて、吸血蝶の繭を取りにひょうたん森の中に向かうのだった。
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