4-2 龍馬ツアー観光?車酔い?

 大型バスを出発させると、優ちゃんが横にやってきてマイクを握った。

 何をするのかと思ったら―――


「皆様~、今日は龍馬ツアー観光を御利用頂き~、誠に有難うございます♪ 本日、道中をご案内させて頂く優と申しま~す♪」


 それっぽく口調を真似た可愛いバスガイドさんだった。



「「「あはは、バスガイドさんよろしくね~」」」


 皆もノリの良いことで……。


 だが、観光する所は何もない。街道周りは、草原、林、森しかないのだ。この草原、サファリ観光できるほど安全じゃないよ? 優ちゃんもすぐマイクを置いて、皆の所に戻った。ちょっと言ってみたかっただけのようだ。



 10分ほど経ったころMAPに魔獣反応がでた。詳細を見たらスライムのようだ。よし、検証も兼ねて轢くことにした……結果……轢けなかった。当たる寸前、危険を感じたスライムは薄くなって車体の下を潜り抜け躱したようだ。


「兄様……何轢き殺そうとしているのですか? バスに傷がついたらどうするのですか?」

「スライムだし、低速でなら凹んだりは大丈夫だと思ったんだ。それと、武器じゃない物で殺した時の経験値や【自動拾得】が機能するのか検証したかったのもある」


 更に15分ほど走ると、オーク2頭、ゴブリン4頭の混成部隊がMAPに表示される。流石にこいつら轢いたら、バスのバンパーが凹んでしまうだろう。


「ハティ、先行して倒してくれるか?」

「ミャン!」


 速度を落とさないまま扉を開けると、凄い勢いで飛び出して走り去っていった。このバス、時速50km出ているのにあっという間に見えなくなった。ハティの奴、何キロで走ってるんだ? 犬が駆けるというより、兎っぽい飛ぶような走り方だ。地面すれすれをピョンピョンと跳ねる……いや、滑るような変な違和感のある走りだ。おそらく何かの魔法を併用して走っているのだろう。


『……狼というよりチーターの走りに近いのです。ハティは一歩の飛距離を重力魔法を使って間延びさせているので滑るような違和感があるのですね』


「旦那様、あの子狼はいったいなんなのですか? ちょっと普通ではないようですが?」

「セバスの鑑定魔法で見えなかったのかな?」


「わたくしの所持スキルをご存知でしたか。はい、一応見えたのですが、表示上ではごく普通の子供の狼の魔獣でした。でもそれだと、先ほどの速度はおかしいのでございます」


 なかなか良い観察判断だ。ハティにも俺同様に隠蔽魔法を掛けているのだ。


「隠蔽しているけど、あの子は既に王種のホワイトファングウルフという個体に進化しているんだ」

「なんと! 子供なのに既に王種でございますか!?」


「ご主人様! それは本当なのでございますか!?」


 俺と少しまだ距離感のあるアルヴィナの方から声を掛けてきた。


『……マスター、アルヴィナの種族の白狼族は、フェンリルを神として崇める一族です。そして、白狼がフェンリルに至れる個体だと信じているようです』


『それで、ハティを凄く気にかけているのか。ハティも好意的なアルヴィナにすぐ懐いていたよね』



「そうだぞアルヴィナ、ハティはまだ小さいが立派な王種だ」

「私が以前いた村の族長様が、『シロ』と名付けた王種をパートナーとしていましたが、族長様が亡くなられたら、仲間の下に帰るとおっしゃられていなくなってしまわれました。いずれは神獣様になるだろうと村で期待されていたようでしたが、次の族長に仕えるのは嫌だったようで帰られてしまいました」


『……シロが出た後の村は信仰の対象がいなくなり徐々に人口も減って寂れていったようです。アルヴィナの両親が村を出るきっかけにもなった出来事のようですね』

『従魔と言わず、パートナーって言ってることからも、神狼信仰が強い村だったのかもな』



「そうなんだ。俺とアルヴィナとは最初からちょっとした縁があったんだな。その『シロ』がハティの群れのリーダーだよ。それと、フェンリルは神獣じゃないよ。聖獣だ。神に創り落とされる神獣には魔石は無いが、聖獣は元が魔獣なので、魔石を体内に持っている。それでどっちか判らない個体は判別できる」


 神獣だと崇めていたものが、聖獣だと知って少しショックだったようだ。それでも、追いついた先で待っていたハティをバスに回収した時は、ハティ様とか言ってモフっていた。




 現在少し速度を落とし時速40kmほどで走っているのだが、それでも結構揺れる。1時間ほど走った辺りで、チロルと獣人数名に乗り物酔いの症状が表れた。


「旦那様、乗合馬車なんかよりずっと快適なのですが、このゆっくり上下に揺れるのが気持ち悪くなるようです」

「馬車は敷板が固いから、振動でお尻が擦れて痛くなるのよね……この乗り物は凄く快適よ。馬車より揺れないし、何より暖かい」


 レイラさんには好評のようだ。

 冷暖房付いてるしね……馬車と比べたら、リクライニング機能があるので、ゆったり足も延ばせるし快適でしょ。ゆっくりとした揺れはサスペンションがそういう仕様なんだろうね。


 乗り物酔いは可哀想なので一旦バスを止めて、外で休憩をする。酔ったチロルにヒールを掛けたけど、少し良くなった程度でぐったりしている。



 久しぶりにスキルを創ってみた。


 【魔法創造】

1、【リフレッシュ】

2、・乗り物酔いや、人酔い、鬱状態などをリフレッシュする

  ・魔法発動後、12時間ほど持続して、そういう状態になりにくくなる

3、イメージ

4、【魔法創造】発動


 本来リフレッシュとは精神や体を元気にするって意味合いだけど……まぁ、俺のイメージ次第でどうにかなるかな?


「チロル、もう1回だ……違う魔法を試してみる【リフレッシュ】どうだ?」

「あ! ごしゅじんさま、気分わるいの治った! ありがとう!」


 ちゃんとお礼を言える良い娘だ。可愛いので頭をヨシヨシして撫でてあげる。他にも酔った娘が数人いたので、魔法を掛けてあげた。


「車酔いの予防にもなるので、酔いそうな人は魔法を掛けてあげるよ。それと、個人香にリフレッシュ効果のある娘がいるから、その娘の近くにいると酔いにくくなるよ」


 殆んどの者は掛けてくれと言ってきた。アスファルトの舗装道路じゃないから揺れるもんね。




 水分補給とトイレ休憩をした後再出発する。最初はあれほど楽しかったのに、だんだん運転に飽きてきた。俺以外に運転できそうなのは教師の二人。


「先生、ミッション車の運転できますか?」


「私、オートマ限定免許だけど、運転した事はあるのよね。勿論こんな大きな車両は乗ったことないけどね」

「先生は、マニュアル車も乗れますよ♪」


 山本先生、限定免許でMT車を運転しちゃダメでしょ。それにこのサイズのバスは大型免許が要るので、普通は乗れません。有料で人を乗せる営利目的なら、更に大型二種免許が要るのですよ。学園所有のバスなので大型一種免許で運転できますけどね。


「じゃあ、美弥ちゃん先生にちょっと代わってもらおうかな」

「ええ、一度大きいの乗って見たかったの♪ 一番星カッコいいよね! ね! ね!」


 何だそれ? 金星? 意味分からないし、何がバスに関係しているのだろ?


『……検索の結果、昔の古い映画のようです。『トラック野郎』とかいう映画の一番星号という電飾で飾った『デコトラ』のことではないでしょうか?』


『知らないよ! 何時の時代の映画だよ……』



 意気揚々と運転を代わった美弥ちゃんだったが―――


「あぅ~、足が届かないです」


 思いっきり腰を浅く掛ければかろうじてつま先が届くが、ブレーキが効くほど強く踏めそうにない。危険すぎるので却下だ! 可愛かったけどね!


 落ち込んだのを料理部の娘たちにヨシヨシされている。可愛いのだが、なんだかな~。


「龍馬君、私が運転してみていい?」

「でも山本先生、AT限定免許なんでしょ?」


「両親がMT車しか乗らなかったから、実家に帰った時にちょっとね――山奥の農家だったから軽トラックなの。検問とか巡回のパトカーもいないような山奥だったから……つい」


「今更過去の違反をどうこういう気はないですけど、知っていて違反行為をするのは感心できません。そういう『このくらいなら』的な軽微な違反行為の中から人が死ぬような重大事故に繋がるのです。王都で管理人を任せるのですから、今後は人の規範となるよう些細なことでも違反行為には気を付けてくださいね」


「ええ、注意します」


 偉そうなことを言っているが、俺も菜奈と自転車の二人乗りとか、無灯火走行のようなことをやっている。ただこの世界の法は貴族優位になっているので、『まぁいいか』が命取りになりかねない。


 で、山本先生の運転だが、俺より上手かった。視線を先に向け、事前に窪みや段差がある場所を避けて通っているため、俺より揺れ自体がかなり抑えられているのだ。


 素人の俺は目の前にばかり気を取られ先読みまで余裕がなかったようだ。セバスにも教えてもらった。貴族の御者を任されるほどの者は、そういう技術も持っていないと成れないのだそうだ。


 何回か商隊と鉢合わせになるが、こちらを目視できる前にバスから降りて、一度【インベントリ】内にバスを消し去って、対面通行も上手くいっている。


 時々出る雑魚魔獣はハティに任せてある。一度、獣人や友美、美紀の戦闘もしっかり見ておきたいが、ゴブリンやスライム程度では参考にならないしね。


 それにしても魔獣に殆んど遭わない。バスがデカすぎてビビって避けているのかと思ったが、進行10kmの範囲内にも魔獣はいない。街道から少し逸れたサイドには多少いるのに。


 理由は2時間後に分かった。


 ひょうたん森の手前で、野営準備をしている学園残留の救出に出発した三田村先輩たちに遭遇したのだ。騎士たちが通ったすぐ後を通る形になっていたので、街道にいた魔獣は殲滅されていたのだ。



 貴族がメインの騎士にバスを見せたくなかったので、500mほど手前で一旦降りて、徒歩で野営している場所に向かう。



「三田村先輩! お疲れ様です」

「龍馬、もう追いついてきたのか? 俺たちの二日後に出発したんじゃなかったのか?」


 三田村先輩にはそっと耳打ちで大型バスのことを打ち明ける。


「成程な。ガソリン食うけどいいのか? 車はもっとここぞという時に使うんじゃなかったのかよ?」

「どのみちバスってガソリンじゃなくて、軽油なんですよ。なので、いまある分がなくなったらお終いですね」


 まぁ、車についてはすでに対策は考えてあるけどね。


「ディーゼルエンジンか、そういえばトラックとか大型車って、殆んどがディーゼル車だって聞いたことがある。学園に軽油のストックはなかったのか?」


「ええ、そもそもあのガソリンは車用に保管していたものではなくて、草刈り機や災害時の発電機用に置いてあったものです。ガソリンに比例してオイルもちゃんと混合油にできる分置いてありましたよ」





「先輩たちはお昼前なのに野営準備ですか?」

「お前も森の中で野営になるのを避けて、手前で一泊して朝出発したじゃないか。同じ理由らしいぞ」


「騎士たちならそういう場合のなんか便利な魔道具とかあるのかと思っていました。魔獣除けの結界石みたいな?」

「いやいや、そんなログハウスみたいな規格外な便利道具とかないみたいだぞ」


 この数日に騎士にいろいろ教わったようだ。


「そうだ、うちも今からお昼をここでするので、三田村先輩たちにも振る舞いますね」

「マジか! 有難い! 騎士たちってお昼は干し肉と固い乾パンでさっと済ますんだよ……」



 桜と茜に許可をもらい、ここで俺たちもお昼にした。


 騎士たちが可愛い娘たちに色めき立っていたので、近寄っただけで食事の提供はしないと釘を刺しておく。だって桜や未来のおっぱいをエッチな目でロックオンしてたからね。近寄るのも禁止してしまった。


 法的に10歳から親同士による婚約が解禁され、貴族は騎士学校に通っている16~18歳で婚約し、学校卒業と同時に結婚し、十代での出産も当たり前なようで、彼女たちはとても魅力的に見えるようだ。


 この世界では一般人で学校に通えない者は16歳~20歳くらいまでに結婚するのが普通なのだとか――


 日本ならこの位の年齢の女子に手を出したら、即警察に捕まり、世間にはロリコン認定されて社会的に抹殺されるんだよ。



 数人の女子が嫌がったので、騎士たちには食事は提供したけど、別行動だ。

 結局俺たちは三田村先輩たち学園組とログハウスを出して中で食べることにした……外寒いしね。

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