3-17 獣舎?料理バトル?

 門を出る時に門番に指を差され、そっちを見たらハティがいた。自分の3倍ほどもあるホーンラビットを咥えてお座りをしている。咥えてはいるが乗っかっているという方が正しいか。


 どうやら門番はハティが俺の従魔だと知っていて、冒険者たちから襲われないよう見守ってくれていたようだ。

 ハティを忘れていたことを申し訳なく思い、謝ろうと近づいたらハティが逆に謝ってきた。


『ごしゅじんさま、だまってさんぽに行ってごめんなさい……』


 どうやら誰にも告げずに散歩に行ったので、置いて行かれたと思っているようだ。兎は腹が減っているのではなくて、俺が怒ってるかもと思い、お土産に狩ってきたみたいだ。【インベントリ】があるのに、態々咥えて待っていたのは俺に見せるためで、【インベントリ】の中にも何種類かの魔獣を狩ってきているそうだ。


『別に怒ってないぞ。でも、これからは出かける時は誰かに一声かけるようにな。でないと、いなくなってるのが分からないから、今回みたいに置いてけぼりになっちゃうからね。それはハティも嫌だろ?』


『おいて行かれるのはイヤ……』


 ハティにも責任があったようなので、軽く注意して俺も謝った。ナビーは早期から気づいていたくせに、敢えて教えてくれなかったようだ。以前にも言われたが、もっと自分の従魔のことを気にかけてあげるべきだと怒られた……御尤もです。


 皆、異世界の街の観光に浮かれていたのだ。雅や未来や沙希も商都観光でハティのことを忘れていたほどだ。普段から気分次第で違う好きな人の側でくつろいでいるから、多分誰かと一緒にいるだろうという考えが皆どこかにあったのだ。



『ハティ、これから街の中で夕飯にするから、その兎も【インベントリ】に入れておいてくれるか?』

『うん。わかった~』


「『従魔の首輪』を付けていなかったので、入門させられなかった。街に入るなら仮布を渡しておくけど、ギルドに行って本登録をして首輪を付けてくれるか?」


「ありがとうございます。下手に冒険者に襲われていたら、怪我させていたかもしれないので助かりました」

「首輪をしていなかったら、襲われても文句言えないからな。でも、怪我させるとかは無理だろ? 育ってからならともかく、今は可愛い愛玩ペットだろ?」


「あはは……」


 笑ってごまかしておく。子供なのに王種とか言ってもどうせ信じないよね。



 面倒事が起きる前にギルドに行ってハティの従魔登録をしておこう。渡された首輪は赤い色をしていて、この赤い色が従魔契約済みという意味合いがあるのだそうだ。門番が渡してきた仮布も赤い色をしていて、意味的に同じことらしい。


 本登録の首輪にはギルドカードの縮小版的なミニプレートが埋め込まれている。これも神器で、倒した魔獣をカウントして、主人のギルドカードに討伐した魔獣がカウントされる仕組みになっているそうだ。


『……マスター、その首輪は可愛くないので、ナビーにお任せください』

『うん?』


『……埋まっているプレートが大事なのであって、首輪に使われている革はこちらで変更しても良いのです』

『そういうことね……分かった。ハティに似合うのを頼む』




 ハティの登録で屋敷まで戻る時間がなくなったので、獣舎をログハウスの横に設置した。獣舎内の馬房に馬5頭を入れて、各自用意してあった寝藁を敷き、餌の飼葉と水桶に水を満たす。馬たちも広くて綺麗な馬房に満足気だ。


『ハティもシロみたいに大きくなったら獣舎だな』

『ハティは大きくならないもん!』


『あはは、冗談だよ。ハティは大きくなっても家を傷つけたり汚したりしないから、俺や沙希や雅たちと、気分次第で好きな場所で寝ていいからな』

『うん! 汚さないよ! えへへ♪』


 他の獣たちと違う扱いが嬉しいようだ。俺からすれば、ハティはペットというより大事な家族と思っているからね……依怙贔屓はするよ? しまくるよ?



「見事な獣舎ですな! 馬房も素晴らしい! 横の家より大きいのでは?」

「ログハウスの内部は空間拡張されているので、見た目より中は広いですよ。バグナーさんたちは今晩此処に泊まってもらいますので、中に入れるように個人認証しておきましょう」


「ここも認証が要るのですか……」



 全部屋のベッドを一度撤去し、バグナーさんとアレクセイは個室、レイラさんたちは1つの部屋にベッドを3つ出して寝られるようにしておいた。



「リョウマ君、宿屋より綺麗で快適なんだけど……お風呂も使っていいの?」

「勿論使っていいですよ。入る順番とかは5人で話し合ってくださいね」



 風呂やトイレの説明は帰ってからだ。もうすぐ貸切の時間になるので、急いで『うさうさ亭』に向かった。



  *  *  *



「本日は当店を御利用頂きありがとうございます。私は当支店支配人で料理長のモコミチと申します」


「「「モコミチ!?」」」


 料理部女子が騒いでいるが、君たちの知っているイケメンオイル職人とは違うからね!


「公爵様を通して無理なお願いをして申し訳ないです。何分勇者パーティーということで、こういう場に出ると冒険者に絡まれてゆっくり食事もできないと思いまして」


「そうでしょうね。本来貴族であろうと貸し切りはいたしていないのですが、本店オーナーが勇者様一行なら無償で提供しろとおっしゃいまして、すぐに許可が頂けました。本日は料理人一同、腕によりをかけて作らさせていただきます。では、今暫くお待ちください」


 どうやらモコミチさんはコース料理を提供してくれるようだ。


「龍馬君、ハイこれ」


 桜が皆に紙を配っている。なんだ?

 採点評価だ。何品出るか分からないが15品目評価できるようになっている。

 1~15の番号が振ってあって、その横が空白になっていて料理名を書き込むようだ。

 更にその横に各項目ごとに点数を入れる様式だ。


「100点満点中の何点か評価して書いてね」


 例をあげるとこんな感じだ。


番号 料理名 素材 料理技術 創意工夫 見た目 味 総合点

1  前菜  95点  100点   80点  95点 85点 455点



 どうやら1カ月に1回は部活で休日に外食して、こうやって評価して部活動としていたみたいだ。


「桜、これちょっと失礼じゃないか?」

「相手もプロなんだから、評価されて当たり前でしょ? それに店側に評価を見せることはしないわよ。評価表は持ち帰って、何がどう悪いのか、どう良いのか後で検討会をするのが目的なんだから」 


 評価して話し合うのは部活動の一環で、それを料理に反映させないと、部として食べに出る意味がないとのことだ。


 奴隷の娘たちも、おもしろそうなことをやっていると興味津々なので参加させる。



 最初にウエイターがお品書きを持ってきた。


 本日の夕食

 1、前菜

 2、スープ(ホーンラビットの煮込みスープ)

 3、パン

 4、魚料理(レインボーフィッシュのムニエル)

 5、果汁のシャーベット(ブドウ果汁)

 6、メインの肉料理(オークプリーストのガーリックステーキ)

 7、サラダ(生野菜の果汁ソース掛け)

 8、チーズ(高原ヤギのチーズ)

 9、デザート(フルーツの盛り合わせ)

 10、紅茶、焼き菓子




 メイン料理はオークの上位種の実演鉄板焼きステーキだった。モコミチさん、オリーブオイルを大量に使ってニンニクを炒め、目の前で高々とドヤ顔で塩振ってたね。塩振り……違う料理人だよね? なんか混じってるよ?


 でも皆の受けはめっちゃ良かった。俺も期待を裏切らないこのシェフが気に入った。



 結論だけ言うと全部美味しい……だが、少し物足りない。

 うちの変態料理部と比べたら、味に深みがないのだ。これは調味料が原因なのはすぐに分かった。


 奴隷たちと料理部との採点にかなりの差ができていた。



料理部の総評平均点

素材 料理技術 創意工夫 見た目 味 総合点

90点  97点   78点   94点 82点 441点


 見た目と料理技術の点が高いことから、シェフの腕が良いことが伺える。

 だが、味は82点とそれなりの点数になっている。


茶道部の総評平均点

素材 料理技術 創意工夫 見た目 味 総合点

95点  100点  87点   98点 89点 469点


 料理部よりはかなり良い点だ、見た目や技術的なことは文句なしって感じだね。


奴隷たちの総評平均点

素材 料理技術 創意工夫 見た目 味 総合点

98点  100点  96点   100点 98点 492点


 めちゃくちゃ良い点数だ。数回しか料理部の料理を食べていないので、まだスレていない、口が肥えてないってことかな?

 でも、舌が肥えてくると変わってくるのだろうな……俺や菜奈みたいに。


 ちなみにチロルちゃんは全項目満点だった。めっちゃ可愛い笑顔でモキュモキュ食べてた。

 何気にチロルに出された分は、子供の食事量を考え、ちゃんと少なめに配慮がされていた。俺たちと同じ量だと最後まで食べる前に途中でお腹が一杯になっていたことだろう。こういうところは流石一流店だと感心した。


 最後の締めの紅茶を飲みながら皆で採点をしていると、モコミチさんが料理人を全員連れて挨拶に来た。


「勇者殿どうでございましたでしょうか?」


 これには勿論俺ではなく、勇者の美咲が答える。


「とても美味しくいただけました。本日は急な貸切りをありがとうございました」


 だが、ここで目ざとくモコミチさんが桜の採点評に気付いた……気付いてしまった。


「おや? それはひょっとしてさっきお出しした料理の評価でしょうか?」


 これには見つかってしまった桜が答える。


「はい。私たちも料理をするので、外で食べた時はこうやって各自評価をし、後で勉強会をするのです」


「そうですか。お若いのに勉強熱心で良いことです。宜しければ、我々の評価を見せていただけないでしょうか?」


『……マスター、勉強熱心な素人の可愛いお嬢ちゃんと思って、今は微笑ましい笑顔をしていますが、その評価表を見せるのはマズいかと……』


「ええ、どうぞ」

「あ……」


 ナビーが忠告してくれたが、止める間もなく桜が評価表を全て渡してしまった。


「真っ白で肌理の細やかな上質な紙ですね……」


 異世界の紙に驚きつつ、奴隷娘たちの評価表を満足げに見ていたが、料理部に変わった時点で顔色が徐々に厳しくなった。


 ちなみにこの世界の標準言語は日本語だ。俺たちの世界のMMOやラノベ、アニメなどを参考に創られた世界観だと言っていた。


「御嬢さん……この採点をした方々はどなた様でしょうか?」


 提示された用紙の名前を見たら、茜、桜、綾、雅、俺だった。

 どうやら、メインで出した自分が自信満々で調理したオークステーキの評価が気にいらないようだ。


 そういえば、以前桜が言っていたな……肉料理が得意なのは茜と自分だって。

 雅と俺は大の肉好きだしね。綾も現料理部部長として、味覚は鋭いので採点は厳しいものになっている。


 どうしても低い点が納得いかないとごねるモコミチさんに桜がキレた!


「一応美味しいって言ってるでしょ! でも、どうして元々油の多い豚肉に大量のオイルを使うのよ!? 入れ過ぎで油っぽいのよ! 揚げ物じゃあるまいし!」


 一応って……まぁ、俺も同意見だ。他の者も同じ理由で点数が低かったようだ。


「はぁ~、素人には高度な調理法は分からないようですね……」


 あぁ~あ。変態料理部にそれ言っちゃうの?


「龍馬君! フライパンとカセットコンロ出して! 後、普通のオークのヒレ肉を厚み1cmほどでお願い」


 ほら~、桜の奴、本気で怒っちゃったじゃないか……こいつ、肉料理めっちゃ旨いよ?


「調味料は何がいる?」

「塩、胡椒、ブランデーも頂戴。それと例の牛の脂身あるかしら?」


 オリーブオイルに対抗して敢えて牛脂を使うのか。桜の奴とことんやる気だな。わざと上位種を使わないで、格下のお肉でもっと美味しく調理する気なのだ。


 ・筋に包丁を入れ、余分な脂身を落とす

 ・熱したフライパンに牛脂を引いて良質な油を出す

 ・適度な量の油が出たら牛脂を回収し、ニンニクスライスを軽く炒める

 ・焼く方の片面に軽く塩コショウをし、少し強めの中火で焼く

 ・キツネ色の良い焼き色が付いた頃に、焼いていない方の面に塩コショウを振って、返して焼く

 ・軽く焦げ目を付けたらブランデーを垂らしてフランベする


 火が上がって獣人たちから悲鳴が上がったが、桜は気にすることもなく肉を焼きあげる。

 完全に中に火が通る前に取り出して、一口大に切り分ける。まだ肉の中心はほんのりピンク色をしていて美味しいそうだ。豚肉は焼き過ぎると肉が固くなってバサバサする。かといって牛のような生焼けはあたりそうで怖いので、火加減が難しいのだ。


 お皿に取り分ける頃には、ほんのりピンクだったお肉の中心も余熱で綺麗に火が通る。流石だ。


「まず龍馬君食べてみて?」

「モコミチさんじゃなくて俺?」


「ええ、好きな人に一番に食べてもらいたいのよ……」

「「「キャー! 桜先輩、言うね~!」」」 


 桜、俺をキュン死させる気か! 可愛い奴め!


「はい、ア~ン……」


 めっちゃ恥ずかしいが、ここで引いたらいけない。桜のア~ンに素直に口を開けて食べた。菜奈や他の嫁たちにちょっと睨まれたけど、桜に文句を言う人はいなかった。


「何これ! メッチャ旨い! モコミチさんには悪いけど、雲泥の差だ。決め手はA5クラスの牛脂を使ったのと、フランベでの香り付け、最適な焼き加減ってところかな」


「お塩のタイミングも大事なのよ。焼く直前じゃないと、塩で折角の旨味のある水分が出ちゃうのよ」


 獣人娘たちが横で涎を垂らしてる。君たちマジで垂れてるよ? 可愛い娘がそんな顔しちゃダメでしょ!


「チロルおいで、はいア~ン」

「ごしゅじんさま、チロル食べていいの? あ~~ん」


 可愛くモキュモキュしてたが、目を真ん丸にしてこう言った。


「さっき食べたお肉より美味しい! こっちの方が美味しい!」


 子供は素直だな……。

 チロルの横で涎を垂らしているミーニャにも食べさせてみる。


「ミーニャ、アーン」

「ご主人様! 私も食べさせてくれるのですか!?」


「いいから、ほら! ア~ン!」


 ミーニャはパクッと食べた。


「美味しいです! 凄く美味しいです!」


 調子に乗った俺はすぐ横にいたアルヴィナにもやってみた……。


「アルヴィナ、ア~ン!」


 ノータイムでパクッときた……この娘は恥ずかしがって食べてくれないと思ってたけど、狼娘だけあって肉の匂いの誘惑に負けたようだ。


「嘘……美味しい! さっき食べたのより遥かに美味しいです! 別物です!」


 アルヴィナのこの発言で、モコミチさんが我慢できず、横から手掴みで一切れ皿から奪って食べた。



「美味しい……上位種じゃないのに……何故ここまで差が……」



 桜の完勝だった!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る