2-9-10 美咲先輩の気持ち?龍馬の気持ち?

 うちの班員4人と奴隷娘6人を連れて更に1kmほど王都側に戻る。


 【身体強化】のレベルが低い奴隷たちは、たった1㎞の距離だが辛そうに歩いている。いずれ解放してあげる娘たちに【カスタマイズ】を使って強化するのは流石にできない。自分で選択してスキルを獲得できない彼女たちのAPポイントは、結構余って保有していたのだが、そうそう教えてよいことでもないので今は使用しないで保留とした。


 そうなのだ、この世界の住人にはAPポイント制はないのだが、AP自体は所有しているのだ。彼女たちの【クリスタルプレート】上では表示もされていないのだが、俺の【コネクト】で繋いで覗くと、どうやら【カスタマイズ】というスキルで弄れる事が分かった。



 適当に開けた場所があったので、木や草を【ウインダガカッター】で刈り取って土魔法で整地する。



 俺の上級魔法を見て奴隷娘たちは凄い凄いと騒いでいたが、体育館ほどの拠点施設を召喚させたら、口をあんぐり開けて、皆固まってしまった。




 拠点の裏に【インベントリ】から浴場を取り出し、薬草を放り込んで濃い目の薬湯風呂を作り皆の到着を待つ。


 ほどなくして古賀さんを先頭に皆がやってきた。


「古賀さんお疲れ様! 大丈夫ですか?」

「ああ、なんとか大丈夫だ」


 古賀さんを労っていると、列の中から大影先輩が駆けてきた。


 そして第一声がこれだ……。


「龍馬君! 学園から車持ってきてるんでしょ! なんで熱のある彼女をおぶらせて歩かせるのよ! そんな良い物持ってきているなら、最初から出しなさいよ!」


 言ってることは間違っていないのだが、言いがかりだ。


 自動車のことは三田村先輩たちには口止めしたし、他の人には内緒にするつもりだったのだが、どうやらタイヤ痕が至る所に残っていたそうで、ばれてしまったようだ。街道は土を踏み固めたものだから仕方ないか。


「車を走らせるのにはガソリンが要るのですよ? 大影先輩がそれを提供してくれるのですか? それならいくらでも出し惜しみしないで使ってあげますが、限りがあるモノなので、いざというときに自分の仲間にしか使う気はないです」


 そう言われては大影先輩も何も言い返せなくなったようだ。だが今回はここで思わぬ援軍がきた……本来の所有者である教師たちだ。


「あの、小鳥遊君? ひょっとして私の車も持ってきてたりする?」

「あはは、ええ……高畑先生の車もあるかな……」


 続くように山本先生や他の教師に取り囲まれる。


「勿論返してくれるよね?」

「くっ……流石に所有者が返してくれと言ったら、返さない訳にはいかないですね」


「ありがとう! あなたのことだから、もっとごねるかと思ってたので助かるわ」


 本来この先生たちは気付きもしないで車を学園に置いてきたので、俺のモノだといえなくもない。

 『ごねる』とかちょっと言い方にムカッときた……では、ごねてやろうではないか!


「気付きもしないで学園に置いてきたモノの有用性が分かったら返せとか……俺から言わせればふざけんなと思うのですよね。なので、今から学園に転移して、元あった場所に返してきます。ちゃんと返しますので欲しい方は自分で取りに帰ってくださいね?」


「「「…………」」」


 この意地悪な発言を聞いた桜にグーで殴られそうになったので、この場で返すことにした。

 でも、ガソリンはあげないからね!



「ねぇねぇ、龍馬君! 先生の車も持ってきてる? ね? ね?」

「美弥ちゃん先生の特注軽自動車も持ってきていますよ。あれ、普通のより座席高くしてあるでしょ? くくくっ……」


 ちみっこの美弥ちゃんは、普通のシートだと頭がちょこんとしか出てなくてちょっと危なっかしいのだ。よく運転中に未成年者だと思われてお巡りさんに止められ、免許証の提示を求められていたらしい。


「良かった~! これ結構高かったのよ~。実はローンがまだ2年も残っていたんだよね~……えへへ」


 そう言って運転席に乗ってにっこりはにかんだ……美弥ちゃん可愛いな~。



 その後、獣人に気づいた生徒たちが騒ぎ出して、耳や尻尾に触ろうと群がったので、ログハウスを出して個人認証を付与し、中に退避させた。日はまだあるが、さっさと入浴してもらって今後の予定を伝えようと思う。


 余談だけど忘れないで、古賀さんの体を先にマッサージ治療してあげましたよ。古賀さんは全身筋肉痛で【ボディースキャン】で見たらいたるところが真っ赤になっていた……古賀さん頑張ったね!



 先に少し薄汚れている奴隷娘たちを桜たちに頼んで入浴させる。入浴後に、俺がストックから出してあげた服に着替えた奴隷娘たちは可愛いさが3割増していた。


「うゎ~、皆、更に可愛くなったね」

「あの……ご主人様、シャンプーとかいう石鹸凄いです! 尻尾の毛がフサフサになりました!」


 獣人の娘を中心に凄く驚いているようだ。小さな村出身のリリーとベルはお風呂自体初めてだったようで、凄く喜んでいた。


「うちは基本毎日お風呂に入るから、君たちもそのつもりでいてね」

「「「奴隷の私たちも、お風呂に毎日入れるのですか!?」」」


 この世界では、お風呂に入れるのは貴族でも上位貴族か大商人、王族、神職の者だけらしい。街に公共の浴場もあるみたいだけど、基本はお祝いや何かの催しがある時ぐらいにしか入らないそうだ。夏場なら大きな桶に水を溜めて沐浴するが、一般家庭では清拭だけで済ますのが普通のようだ。なにせ共同井戸から水をくみ上げて自宅に運ぶだけでもかなりの労力がいる。それを湯にするのにも薪が要るのだ。そう簡単に入浴はできない。


 彼女たちにログハウス内を一通り見せて一部屋与え、ベッドを6つ並べて取り敢えず寝るだけの部屋は作った。


「あくまでこの建物は移動中のモノだから、少し狭いけど我慢してね。王都に行ったら、各自個室を与えるのでそれまでの辛抱だ」


 俺はそう言ったのだけど、彼女たちはフカフカの寝具で寝られること自体を喜んでいた。この世界では綿布団が一般的で、高級品として羊毛布団が使われるそうだ。昔のせんべい布団が一般家庭の寝具のようだ。



 奴隷娘たちは部屋で待機してもらい、美咲先輩を呼び出して少し会議を開くことにする。議題は三田村先輩のことと護衛依頼についてだ。



 護衛依頼についてはすんなり了承されたが、三田村先輩のことは思ったとおり、かなりもめた。


「私は絶対嫌よ! いくら部屋を分けるといっても、同じパーティーになるなら移動中は一緒に行動することになるのでしょ? 龍馬君は分からないかもだけど、イヤらしい視線を感じるのよ!」


 意見を出したのは桜だが、最初同行を認めていた娘たちも桜に賛同した。

 1人擁護したのが美咲先輩だった。


「でも、エッチなのは男ならみんな大差ないと思うのだけど? 龍馬君とか三田村君よりエッチじゃないかな?」


「「「そんなことないです!」」」


 女子が俺を擁護してくれるが……正直大差ないと思う。


「どっちがエッチかはどうでもよかろう。ようは、好意のある者から向けられる視線は不快じゃないが、他の興味のない男から同じように見られたら不快だというだけじゃ」


「「「なるほど……」」」


「美咲先輩、三田村先輩があなたに好意を持っているのは知っていますよね?」

「…………はい。確信はないですが、そうかなぁ~という程度には……」


「で、美咲先輩にその気はあるのですか? 三田村先輩が付いてきたいというのは、それが一番の理由なのです」


「私は自分より強い人しか好きになれません……だから、君しか……」

「「「キャー! 柳生先輩キター!」」」 


「私の裸を覗いたんだから、責任取ってくださいね!」


 嫁たちが眉間に皺を寄せて、俺を睨んでいる……俺は悪くないよね?


「龍馬よ、妾は三田村にとって、連れて行くのは酷な話だと思うのじゃが、好きなおなごが、目の前で違う男に好き好きと言っておったら辛かろう?」


『ナビー、お前の意図が分からない。三田村先輩を連れて行くのにどういう意図があるんだ?』

『……はい。マスターにも気心の知れた男性のご友人が必要かと……あと、女性問題にはベルをあてがえば解決するのではと思っていましたが、やはり人の心の変わりようはびっくりするほど早くて……』


 ベルはこの快適なログハウスで、友人とともに過ごせることを喜んでいるようだ。もう既に三田村先輩への好意など頭の片隅程度しかないそうだ……ナビー大誤算である。


『そういうことか、確かに女子では話しにくいこととかあるけど、これまでもそんな仲の良かった奴なんかいなかったし、別に今更だよ』


『……だからです。交友関係は男女問わず多い方が今後のマスターの心の育成には必要不可欠だと思います』

『女子の反対を押し切ってまですることじゃないな』


「フィリアの意見もそうだけど、相手が邪神ってのもまずいんだよね。嫉妬や妬みとか、そういう状態で邪気に感化されたらあっという間に邪神の邪気に染まっちゃうらしい」


「「「それ一番ダメでしょ!」」」


 それは君たちにも当てはまるんだけどね。


「俺の【邪気無効】のパッシブスキルも完璧じゃないからね。念のために【精神攻撃無効】【誘惑無効】【即死攻撃無効】も創ったけど、美咲先輩の元から持ってる天然モノの無効効果と違って、俺のはMPを使う。つまり、なんらかで魔法発動を阻害されたり解除されたら、耐性魔法の持続発動が途絶えてしまうんだ。その間に邪気を喰らったらヤバい……一応みんなに渡した指輪が持続発動型だけど、それも魔力供給が断たれたら機能しなくなる」


「そこまでの心配はいらぬ。妾と美咲がリバフすれば良いだけじゃ」

「あ、そうか! フィリアも天然で邪気なんか無効できるんだね」


「天然という言葉は適切じゃないのじゃが、要は邪気に染まらぬ良き心の持ち主だと心配要らぬのじゃ。沙希や未来、美弥や桜も余程のことでもない限り心配要らぬ。ここにいる者全員、元から耐性が高い良き心の持ち主ばかりじゃ……ある意味龍馬が一番心配じゃが、皆が心のケアをしてくれておるのでそれも大丈夫そうじゃ」


「そっか……じゃあ、やっぱ三田村先輩の件はきっちり断ってくるね。彼も王都に行くつもりのようなので、時々絡む程度にしておくよ」


「それが良かろうの……あやつが悪い男じゃない分、無為に傷つくのは妾も見とうない」


「美咲先輩、それで良いですか?」

「はい。私も自分のことで傷つけたくはないです。彼からどんなにアプローチされても、良き友人以上にはなれませんから」


「ところで龍馬よ。三田村のことより、大影と柴崎はどうするのじゃ?」

「あっ!……」


「嘘! 信じらんない! まさか忘れていたとかじゃないわよね?」


 はい、フィリアに言われるまで忘れてました! 桜さん、そんなに睨まないでください。


「え~~と、婚約者たちの意見を聞きたい」


「まず、あなたはどうなのよ」

「「「龍馬先輩の意見が聞きたいです」」」

「兄様がまずどう思ってるのかが大事です」

「ん、龍馬が好きなのかどうかが問題」


 確かに俺の気持ちが大事だよな~。


「柴崎先輩はありだけど、大影先輩はやっぱなしかな。二人とも魅力的だけど、どうしてもこれまでのやり取りで、大影先輩のウザさが際立っているんだ。今日の車のことだってそうだよね。体調の悪い三井さんのことを思って言ったのは分かるけど、いきなり喧嘩腰なのはちょっとね」


「あなたが相手だと、ついああいう口調になっちゃうって彼女言ってたわ。言った後で後悔してるみたい」

「後で後悔するぐらいなら思いつきで言わないで、一呼吸おいて考えて発言しないとね。俺も人のことは言えないけど、一度発した言葉は相手の記憶に残るし、もう取り消せないんだよ」



 女子の話では、この数日話した限りではどっちも優しい先輩だという結論のようだ。懸念事項としてフィリアがミスをした女神だという事実を心配してくれている。つまり、女子たちはそれ以外で特に断る理由はなく、二人とも受け入れOKだそうだ。



 結局最終判断は俺の気持ち次第だからと、二人のことは任されてしまった。

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