2-9-11 今後の予定?仲間以上、彼女未満?

 体育館組の拠点に行き、今後のことを伝えようと思う。これまでにも何回か話はしているのだが、皆が集まってゆっくり話せるのも今晩が最後だしね。



「え~、いよいよ明日の夕刻には商都に到着します。危険な魔獣に何回か襲われましたが、無事死者が出ることもなく辿り着けそうです」


「小鳥遊君、明日の道中は危険はないのですか?」


「ええ、絶対という訳ではないのですが、定期的に街の騎兵が巡回して討伐するそうですので、街に近いほど危険な魔獣は少なくなるそうです。俺たちが街道に出た地点ほど危険な魔獣もいないし、遭遇頻度もそれほど多くはないそうです」


「油断はできないでしょうけどそれなら大丈夫そうね」


「で、今日皆に集まってもらったのは、街に到着してからのことです」

「私はある程度聞いてるけど……そうね、あなたの口から直接皆にも伝えておいてくれると有難いわね」


「はい、そのつもりできました。俺たちのパーティーは商都で2日ほど滞在したのち、柳生先輩を伴って王都に出発します。目的は王都にいる国王への謁見と、神殿にいる聖女に会うためです。聖女はこの世界の神の声が聴ける存在で、神託という形で啓示をもらっているそうです。勇者である美咲先輩の今後の指針が立つので、急ぎ向かう必要があると考えています」


「あの!? 置いてきた学園の者はどうなるのですか?」


 1人の生徒が聞いてきた。話したことのない人だが、友人でもいるのか心配そうな顔をしている。


「王都の聖女様経由で、商都の神殿に明日俺たち勇者一行が辿り着くという知らせがいっているそうです。今日、明日中に救出隊が編成され、明後日の朝には出立できるように準備がされるようですので心配は要りません。救出部隊の道案内に、格技場の男子が数名行ってくれることになっています」


「私が行こうと思っていたのですが、小鳥遊君に止められてしまいました」

「高畑先生には、ここの人たちの面倒を見てもらわなきゃなりませんから駄目ですよ。まぁ、本来そんな義務も責任もこの世界に転移した時点で一切ないのですけどね」


 まともな大人が見守ってやらなきゃ、この世界の貴族や商人の食い物にされる。高畑先生には、皆の監視も含めて以降も頑張ってもらわないとね。


「あ、それとこの拠点は商都の空き地にそのまま置いていくつもりですので、自分の滞在先が決まるまで自由に利用してもらって結構です。ただし、トイレやお風呂に使ってる魔道具は他者に口外しないようにお願いします。この世界にも商標登録の制度があるようですので、俺がする前に誰かに先を越されてしまうと腹立たしいですからね」


「拠点を置いて行ってくれるのは有難いですね」


「小鳥遊君、私も王都の方に行きたいのだけど、一緒に連れて行ってくれないですか?」

「「「あ! それなら私も!」」」


 この人、確かバスケ部の2年生だったかな。1人の発言に20人ほどが便乗してきた。


「前にも言いましたが、俺たちがあなたたちに同行するのは商都までです。以降は自分たちで行動してください。あなたたちがどこに居を構えるのも自由ですし、どんな仕事に就くのも自由です。でも、悪意ある人が沢山いるってことを自覚しておいてください。気付いたら奴隷にされていた、娼婦になっていたということのないように気を付けないといけません。この世界は日本のように安全ではないです。裏通りに入れば、海外のスラム並みに危険だと思って、必ず数人で行動してくださいね」


「そこまで心配してくれるなら、王都まで連れて行ってくれてもいいじゃない……」


「はっきり言って足手纏いです。うちのメンバーだけなら今の何倍もの速度で移動できるのです。急ぐ理由も話しましたよね? 現在進行形で、ある島国が邪神の配下に占領されてしまっています。結界のある神殿内に避難した人の救出が急務ですし、邪神側に島からの移動手段ができたらこの大陸に攻め込んでくるのです。今の俺たちのレベルでも不安要素があるので、王都で美咲先輩とレベリングしてから救出に向かわなきゃいけないので、急ぐのです」


「そんな知らない人たちより、学園生の救出が先じゃないの?」


 この娘も話したことのない人だ。俺に対して不満がある娘は、道中1回も話しかけてくることはなかった。


「それはあなたの価値観が基準なのでしょ? 俺からすれば学園にいる者も、島の神殿にいる者も大差ないです。むしろ学園に残ってる者は、努力すればあの辺の魔獣なんか蹴散らせるのに、何もしていない分知ったこっちゃないです。俺が助ける義理も道理もないですね。死にたくなければもっと生き足掻くべきです。人任せでなんとかしてくれるまで待つだけなら、何もできない、何も知らない幼児と同じでしょ? まぁ、本当に幼児なら優先的に助けに行きますけど」


 こういう発言をする俺に不満があるんだろうな。嫌われても良いつもりで言っているのだから、良いんだけどね。これ以上何か言ってくる者はいないようだ。


 オークの巣にあった、盗賊団の武器や現金は高畑先生に大方渡してある。当然ミスリルやオリハルコンなどが混じっている良品は俺たちが持っている。実力のない者に渡しても勿体ないだけだし、流石に命がけで手に入れた良品を無償で渡す気はない。



「じゃあ、明日商都に着いたら、小鳥遊君たちとは今後一切関わるなってこと?」

「いえ、そこまでは言いません。でも、一切当てにしたり頼ったりしないでください。その為に事前にお金をあげたのですから、頑張って自活してください。アドバイスぐらいはしてあげますが、俺たちは今後邪神関係でいろいろ忙しくなりますし、あなたたちに構っている余裕はないです。一日無駄に過ごせば数千人単位で人が死ぬのです。くだらないことで相談するようなことはしないでくださいね。この世界のことは俺より詳しい現地の人に自分たちで聞いてください」


 俺の言い分に不満顔な人も結構いたが、恋人や彼女でもないのに生活面まで当てにされても困る。パラサイトなんか一切させる気はない!




 さて、大影先輩と柴崎先輩を外に連れ出した。


「凄く悩みましたが、お二人と付き合うことはできません。ごめんなさい!」


「そう……」

「えっ!? 大影さん? 私は嫌よ! 龍馬君、どうしてダメなの? あなた、婚約者たちが認めるならいいって言ったわよね? 皆、認めてくれてる筈だよね?」


 確かに柴崎先輩が言うように、皆は認めてくれているようだ。では、どうして断るのか……幾つか理由はある。


 フィリアのこともそうだし、大影先輩のお口のせいで仲間内でトラブルになりそうなのも心配だ。でも最大の理由は、今いる娘たちで俺は既に十分満足しているからだ。これ以上嫁を増やしても、俺は満足できても嫁たちが満足できなくなるような気がする……俺は1人しかいないのだ。


「いくら一夫多妻が認められている世界だからといっても、彼女たちを満足させる数には限度があると思うのです。二人っきりの時間がほしいと言われても、数が多すぎたらその時間も確保できなくなります。一人に構い過ぎれば、他から不平不満がでるでしょうし、その日によってどうしても今日は甘えたい、構ってほしいって娘もいると思うのです。只一緒にいるだけでイイっていう娘なら話は別ですが……そう簡単なことじゃないですよね?」


『……あ! マスター、大影が生きる気力を失いつつあります! 柴崎の方はどうあっても諦めきれないという思いが強くて、どうして良いか分からず感情が溢れそうです。人の感情というモノは強くて危険で、脆いものですね……』


『参ったな……生きる気力って……自殺とかしそうってこと?』

『……流石に自殺まではしないと思いますが、無きにしもあらずって感じでしょうか。あまり良い精神状態ではありません』


「大影先輩? 大丈夫ですか?」

「フラれたのに大丈夫なわけないでしょ。でも、覚悟はしていたの……あなたに会うたびに、何故か言い過ぎちゃって。今日だって……ううっ……ぐすっ……」


 うわ~とうとう泣き出してしまった。泣かれるのは覚悟してきたが、自殺とかは勘弁してほしい。


『……マスターは、別に二人を嫌ってる訳じゃないのですよね? 要はフィリア様のことが心配なのでしょう? 嫁が多すぎるとあまり構ってあげられないというのは理解できますが、そんなのは付き合い始めた最初の頃だけですよ? 年を重ねるごとに恋愛感情は冷めていきます。そうなった時に有効なのが子供の育児とかなのです。子供がいるだけで、子供を介して色々なイベントが発生し、マンネリした日常が解消されるのです。嫁が多くて困るのは最初のラブラブモード時だけです。それをいかに上手く凌ぐかってことです。子供ができたら、マスターなんか大きな子ども扱いされて、家に居ると邪魔だから狩りでもしてきなさいと放り出されるようになるのが落ちですね』


『なんか身も蓋もないな。でも邪魔とか言われて掃除機で追い立てられているようなドラマは見たことあるな。フィリアのことは柴崎先輩は問題ないと思うけど、大影先輩はどうだろう』

『……それっぽいことを聞いてみてください。ナビーが内心を覗いてみます』



「お二人に少し質問です。もし俺の飼ってるハティがミスした女神の化身だったとしたらどうします? 許せますか? 許して一緒に暮らせますか?」


「「えっ!? そうなの!?」」


 俺はそれに答えずに、少し二人の心を傷つける質問をした。


「どうなのです? 女神のミスでこの世界に転移したせいで、男子数人にレイプされたり、オークの巣に持ち帰られ、孕むまで犯され続けたことを許して一緒に暮らせますか?」


「龍馬君……それは少しズレた質問よ?」

「そうね……大影さんが言うように、質問がおかしいわよ」


「あの、どう言うことです?」


「確かにこの世界の女神のミスで転移されちゃったのは腹立たしいけど、私がバスケ部員に強姦されたのは、自分にも非があると思っているわ。勿論一番悪いのは彼らの方だけど、あなたも言っていたでしょ? 私が言葉の暴力で彼らを追い詰めちゃったから……口は災いの元とよく言ったものだわ。私の軽はずみな発言のせいで、後輩の1年生まで巻き込んじゃって……優やあなたから注意されていたのに、男子に対して不用意過ぎたのは自分のせいだと思っているわ」


 大影先輩は自分のせいで体育館組が崩壊したと、ずっと責任を感じていたのか。


「転移ミスは女神様のせいだろうけど、オークに捕まったのは自分のせいだと思っているのよ? あんなに足が遅い相手に捕まっちゃうなんて、いま思い出しても悔しいわ! 私、身体能力には自信があったのよね……過信して、油断して捕まったのは自分のミス! ちゃんと逃げ切った人も一杯いるのに、私が選択を誤ったから捕まっただけ! 責任転換して女神様を恨むことはないわよ。酷い目に遭って日本に帰りたいと思ってる人には悪いけど、むしろ女神様にはミスしてこの世界に転移してくれてありがとうって言いたいくらいよ。剣と魔法のある異世界召喚なのよ? 同類のあなたなら分かるわよね?」


 柴崎先輩は間違いなく俺と同じ側の人種だな……やっぱこの人好きだな~。


『……マスター、フィリア様の件に関して、柴崎は全く心配要りません。大影も帰れないということに対しては怒りはあるようですが、レイプ自体は自己責任だと思っているようです。おそらく事実を知って怒ることはあっても、大丈夫ではないでしょうか? 元々優しい良い娘たちです』


『よし、決めた!』


 散々考えて出した答えだったが、本人を目の前にするとどうしても勿体ないと思ってしまった。


「柴崎先輩、【身体強化】の時の件はともかく、凄く話が合って一緒にいると楽しいです」

「ええ、私も楽しいわ。龍馬君、お願い! すぐに結婚してくれとか言っているんじゃないの! 少しで良いから、お付き合いしてから決めてほしいの」


「そうですね、2つ年上だけど、柴崎先輩なら上手く付き合えそうな気がします」

「龍馬君、私はやはりダメなのかな?」


「俺も人のこと言えないですが、大影先輩はもっと考えてから喋る努力をしてもらえますか? 桜とか茜が結構気が強くて、揉めそうっていうのがあって、さっきはお断りしたのですよ。『口は禍の元』自分でも分かっているようですが、大影先輩は新たな火種を外から持ち込みそうで……」


「私、男子以外では一切暴言は言わないのよ。龍馬君が絡むとつい……気を付けるから、私とも付き合ってください」


「龍馬君……言いにくいんだけど、大影さんなんかより城崎さんの方がずっと怖いわよ? 私たちなんか、1分もしないうちに言い負かされるよ?」


 確かに……うちのグループで、桜と茜と美弥ちゃん先生に逆らっちゃまずい気がする。あ、普段大人しい未来も意外と怖いな……つい昨日言い負かされたうえに、誘惑されて関係を持っちゃったし。


「婚約者っていうのじゃなく、暫く俺たちの仲間として一緒に生活してみますか? 皆と上手く馴染めるようならお付き合いを始めるってことでどうでしょう?」


「その感じだと、いま居る婚約者の方が私たち二人より大事ってことだね。確かに大影さんも私もいろいろやらかしちゃってるしね。私はそれでも嬉しいわ。だって諦めきれないもん……あなたほど気が合いそうな人は多分この世界にはいないわ」


「私も仲間に入れてもらえるだけでも今は嬉しいわ……」


「お二人の好意に対して、こんな曖昧な返事で申し訳ないです。俺はお二人に気はあるのですけど……不安要素があるので躊躇っているのです。なので、とりあえず一緒に生活してみましょう」


「「はい。よろしくね」」


「共同生活するに於いて、幾つかルールがありますので守ってくださいね」


 1、自分勝手な行動はしないで、必ず何かあったら相談して決める

 2、こちらの拠点内のルールに従う

 3、奴隷がいるが、見下したりせず、扱いは皆と同じように接する

 4、感情的にならず、少し考えてから発言する


「あの……4番って、私限定で今決めたよね?」


「あはは……でも、俺や桜や茜なんかも結構言い合いしたりするから、そんなに肩ひじ張らなくても大丈夫だとは思うのですが、念の為です。2番については、お風呂の順番や秘密厳守とかそういう細かいことですので、後で皆に聞いてください。ルールと言っても常識的なことばかりなので、特に不満はないと思います」


「「分かったわ」」


「じゃあ、明日引っ越してもらうので、今晩中に荷物整理と、友人にお別れを済ませておいてくださいね」


「龍馬君、友人と全く会えなくなるの?」

「いえ、お二人はレベルが低いので、当面は非戦闘員のC班で拠点維持に努めてもらいます。C班は王都で資金調達班として何か商売でもしてもらおうと考えていますので、王都内で自由に会うことは可能ですよ」


「それならいいわ、全く会えなくなるのは寂しいからね」


 結局二人のことは保留にした。煮え切らないが、振るのはいつでもできる。大影先輩とは意見の食い違いでよくぶつかるが、仲間思いで良い人なのは知っている。決して失恋を苦に、死なれたら寝覚めが悪いとかで保留にしたのではないからね!


 夕飯までにはまだ時間があるので、一度盗賊たちを見に行ってくるかな。野営の見張りをかってでてくれた格技場の男子数名を連れて、盗賊たちのいる拠点に向かうのだった。

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