2-7-3 大事な鞘?テイムスキル?

 猫パンチですっ飛んで行った三田村先輩が帰ってこない……何かあったのかな?


 雅のように牙でなく、前足での猫パンチだったので、シールドがダメージを吸収してくれている。三田村先輩のHPは減っていない。おそらくは爪攻撃ではなく、肉球の部分で叩かれたのだろう。


 ちなみに、トラと比べたらダメだが、赤ちゃんのハティの肉球は気持ち良いくらいヤワヤワだ。




 今回の戦闘で分かったことがある。シールドを張っていても、あまりにも強い攻撃は余波による間接ダメージが入ることが分かった。マジックシールドをあまり過信し過ぎると危険だな。俺たちのように結界を破壊できる武器持ちも他にいるかもしれない。


 ナビーが言うには、竜の牙はシールドも貫通するそうだし、ヤバい奴は他にもいるそうなので気を引き締めよう。



 緊急性はなさそうなので、【クリスタルプレート】のコール機能の方で三田村先輩を呼び出す。


『ん? 龍馬か? 悪い、役に立たなかったな……』

『いえいえ、桜の間に入って、ちゃんと盾になってくれたじゃないですか。それよりそこで何してるんです?』


『吹っ飛ばされて、何本かの木の先端を擦りながらここに落ちたんだが、その際にどこかに鞘を落としたみたいなんだよ』


 刀の鞘がなくなっているのに気付き、それを必死で探していたようだ。今回吹っ飛ばされながらも刀は握って離さなかったようだし、かなり大事にしてくれているようだな。製作者としては嬉しいかぎりだ。



 俺の作った武器は結構ヤバいモノなので、全てにマーキングしてある。

 MAPを見ながら難なく探し当てる。


 【レビテト】でマーキングのある場所に向かって鞘を回収してから三田村先輩を迎えに行く。


「三田村先輩、途中の木に引っかかってました。【レビテト】を掛けますので、空から皆の所に帰りましょう」

「おお、あったか! 良かった!」


 刀を鞘に納め、腰に差し戻す。もっとちゃんとした帯刀用の革紐が要るな。

 街道に戻ると皆がサーベルタイガーに群がっている。


 すっ飛ばされてダメージを負った雅が、トラを見ながら微妙な顔をしている。


「雅どうした?」

「ん、この子従魔に欲しかったのに……でも死んじゃった」


 雅の奴、まだ強い従魔を諦めていないらしい。 


「こいつはダメだよ。王種クラスじゃなきゃ知能が低いので、従魔にしても調教が厄介なだけだよ?」


 従魔にすれば基本主人の命令に忠実だが、従魔の粗相は主人の責任になるのだ。赤ちゃんの頃からテイムして躾けた魔獣ならさほど問題ないが、成獣をテイムしても主人以外の人に懐かず、ふとしたことで危害を加える事件も結構多いそうなのだ。


 そういう場合の責任は飼い主になる。最悪、従魔のせいで殺人犯として奴隷落ちに成る者もいるのだ。雅が理解するまでそのことを説明してあげる。


「ん、分かった。今度ハティの群れに赤ちゃんを貰いに行く!」

「いやいや、そんな簡単に大事な我が子をくれるわけないだろ!」


「ん、なら攫う?」

「ダメだって! 可哀想だろ」


「ん、龍馬だけズルい!」

「ハティは死にかけていて、群れに捨てられた赤ちゃんだったから良いんだよ。ちゃんと群れのリーダーと母親にも許可をもらってきたしな」


「ん! 私も従魔が欲しい! 今度【テイム】のスキルを獲得する!」


 雅は可愛いハティの影響を受けて、どうしても自分の従魔が欲しいようだ。実は雅だけではなく、既に【テイム】スキルを獲得した者が数名いるようなのだ。ハティ、罪作りな子。


 雅がゴネ、注目が集まってるこの際だからと、狼の従魔を得てもハティのようにはならないと皆に説明したが、それでも雅は一歩も引かない。


「分かったよ。今度王種を見つけたら雅にテイムさせてあげるから、それまで待ってろ」

「ん、可愛いのか、カッコいいのが良い。あと、乗れるくらいの奴」


 ハティとサーベルタイガーを指差して、そんな注文を付けてくる。


「熊なんかどうだ?」


 先日ハティが狩った熊の王種を出して聞いてみる。雅は熊の王種を最初はカッコいいと言っていたが、最終的にやっぱりダメとゴネる。


「何でダメなんだ? 乗れるし結構強いんだぞ?」

「ん、こいつに乗るのはなんか嫌! 武器も刀じゃなくて斧か鉞(まさかり)にしなきゃいけない気がする」


「何言ってるんだよ」


 そう言ってみたものの、確かに斧以外却下だな……俺たち日本人には熊に乗る=金太郎のイメージが強すぎるようだ。


「龍馬君、従魔ならやっぱ竜でしょ! 異世界ならやっぱドラゴンライダーは鉄板じゃないかな?」

「馬鹿! 桜、お前そんなこと言っちゃったら……」


「あっ! ごめん……」


 慌てて雅の方を見たのだが、もう手遅れだな。


「ん! フフフ、龍馬! 竜狩りに行こ!」


 おそらく雅は自分が竜の背に乗っている所を想像しているのだろう……目を閉じてにんまり笑っていやがる。

 困ったものだ。桜の失言で厄介なことになった。余計なことを言った桜を睨んだのだが、可愛く舌を出してごめんねって言われたら、怒気が一気に萎んでしまった。可愛いヤツめ! ドキドキが治まらないじゃないか!




 さて、戦利品のサーベルタイガーだ。

 とりあえず、細胞治療で雅が切った牙をくっ付けておこう。

 こういうのはイセエビの角と一緒で、折れてしまったら価値が下がってしまうのだ。


 今回鑑識魔法で折れてる状態時と、修復後を比べてみたのだが、予想通り600万もの差が出た。ならばと、部位欠損になってるこいつのなくなっている右耳を修復しようとしたのだが、ナビーに止められた。


『……マスター、お待ちを! そいつにはいま向ってる商都と王都から懸賞金が懸かっています。右耳がないのがトレードマークになっていますので、修復すると懸賞金が貰えなくなり得られる額がかなり減っちゃいます』


 鑑定魔法で調べると、こいつには『街道の耳無しタイガー』と二つ名がついている。


『懸賞か、そういう場合もあるんだな。それにしても、耳どうしたんだ?』

『……若気の至りというやつですね。若い頃に調子に乗って、森の最奥にいる地竜に挑んでカプッとやられたようです』


 誕生以来敵無しだった為、トラ君は勘違いしちゃったのか。それで、地竜を襲って返り討ちにあっちゃったんだね。



 皆もたっぷり鑑賞したようなので【インベントリ】に収納する。


『……マスター、この魔石が欲しいです! 大きくて上質な火属性です』

『何に使うんだ? 熊の王種の魔石もナビーにあげたのに……』


『……熊は雷属性です。どっちもお屋敷の魔核に使うのです』

『屋敷の魔核はオークキングのを使うって言ってただろ?』


『……中心核はオークキングの無属性のモノを使いましたが、熊の雷属性は主に電気系の箇所に使いました。このトラの火属性は温泉施設や床暖房やエアコンなどの熱源の補助に回します。メインの熱源はオークコロニーの宝物庫で手に入れた火竜のS級ランクの魔石を使わせていただきました』


『そういうことなら使って良いよ。水系はクイーンの魔石で足りるか?』

『……足らない分は牛の魔石とブルースライムの屑魔石を補助にしています。いずれ水属性のA級魔獣以上の魔石をお願いします』


『分かった。じゃあとりあえずは今ある分で何とかなるんだな?』

『……はい。もう仕上げに入っています!』


 あれ? 数日前にもう少し掛かるって言ってたよな? まぁいいか……ナビーに任せておけば良いようにやってくれるだろう。



 さて、さっさと厄介な森を抜けますかね。



「じゃあ、再度出発しましょう!」





 出発して少ししたころ、高畑先生が寄ってきて質問してきた。


「小鳥遊君、一番危険な魔獣は倒しちゃったのでしょ? 少しペースを落としても良いのではないですか?」

「高畑先生、ひょっとしてサーベルタイガーが1匹だけだと思っているのですか?」


「エッ!? あんなのがまだいるの?」

「この餌の豊富な街道周辺エリアは一番強いアイツのテリトリーでしたが、広い森全体にはヤツと同種がまだ30頭ほどいます。トラは群れる種族ではないので大丈夫と思いますが、早く抜けてしまう方が無難です」


「そういうことは、できれば先に言っておいてください」

「対処できる者はともかく、他の娘たちは言うと不安になるだけでしょう? 危険な森だということは何度も伝えていますよね」


「それもそうですね……分かりました。このままペースを維持して、急いで森を抜けましょう」




 それからも何度か魔獣の襲撃があったが、大事に至るほどの敵はいなかった。森を出て、念のために更に10kmほど森から距離を取り拠点を構える。80kmほどの距離を一日で走ったのだ、【身体強化】がMAX状態でもやっぱきつい。みんなヘロヘロだ。お風呂お風呂と騒いでいる……確かに湯船にゆっくり浸かって足の凝りを取りたいものだ。



 抑止剤を飲まなかった女子はかなりきつかったようだが、自分の意思を貫き通して、額に油汗を掻きながらも必死について来た。


「先輩、弱音も吐かず頑張りましたね」


 野球部の元マネージャーさんに声を掛けて、労をねぎらう。


「我儘で飲まなかったんだから、迷惑にならないように頑張ったわ。でも、もう無理! 横になりたい……」


「頑張ったのでこれをあげます。スタミナ回復剤と初級回復剤を飲んでください。性欲は抑えられませんが、体力と疲労が回復するので少しは楽になるはずです。抑止剤を飲んでない他の人もどうぞ」


「「「小鳥遊君、ありがとう!」」」



 ログハウスを出して、俺たちも中に入る。俺もまず風呂だな……サウナに入ろう。


 そう思っていたのだが……。


『……マスター、お屋敷が完成しました!』

『…………』


『……マスター?』

『なんでこんなに早く完成するんだ? もっとかかる計算だっただろ?』


『……え~~と、頑張りました!』

『何をやった! さっさと白状しろ!』


『……あぅ……マスターの喜ぶ顔が早く見たくて、工房内のアバターを3倍に増やしました……テヘペロ』

『なっ! 3倍! お前勝手にやっちゃダメって言っただろ! これから毎日人形たちに3倍もMP喰われるのか!? なにがテヘペロだ!』


『……大丈夫です! 従魔のハティが王種に成ったので、逆に余剰分がマスターに流れ込んでるぐらいなのです!』


 よくよく聞きだすと、ハティの食事分は俺の魔力を消費するが、それと別にハティの魔力の余剰分は共有できるそうで、その分を人形に使ってるので問題はないらしい。


 だが、いくら俺の為でも、勝手にやったことに対しては厳重注意しておく。

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