2-7-4 お屋敷?温泉施設?

 ナビーのお屋敷完成という報告があったのだが……さて、どうしよう。

 正直に言えば、今すぐ見たい! だけど大人数が暮らせるお屋敷を、仲間以外に見せるのは良くない。

 間違いなくパラサイトしてくる奴らが現れる。なんの為に手切れ金として、数百万分をあげたのか意味がなくなってしまう。他人の生活まで面倒見きれないし、そんなことはしたくない。自活して、食い扶持ぐらいは自分で稼いでもらわなくては困る。働かざる者食うべからずだ! 昔の人の良い格言だな。



『……マスター、お風呂凄いですよ! ログハウスはダミーとしてここに出したままにして、少し離れた場所で仲間内だけにお屋敷をお披露目してはどうですか? ジェットスライダーも完備ですよ』


 皆の喜ぶ顔を早く見たいナビーが、俺をお風呂施設で誘惑してくる。



『構想はしたけどマジで、浴場内に造ったのか?』

『……完璧です! 頑張りました!』


 うっ~! 我慢できそうにない。俺は元々夏でも湯船に浸かりたい、大の風呂好きなのだ。水流で滑るスライダーを造らせたのだが、早くみんなと遊びたい!


『分かった。近場でお屋敷を出せる場所を見繕ってくれ』



 1kmほど離れた場所に小高い丘が有り、その向こうに適した所があるそうだ。丁度この位置からは丘の谷間に位置し死角になるそうだ。




 ログハウスのリビングに皆を集める。


「早くゆっくり休みたいだろうけど、ちょっと聞いてくれ」

「龍馬君、何かあったの?」


「事件などのような嫌なことじゃないんだ。むしろ良いことで桜もきっと喜ぶと思う。以前に少し話したと思うけど、王都に行った時に拠点を構えるために土地を購入して建てるか、既にある建売のを探して購入するかって話をしたよね?」


「ええ、覚えてるわ」


「俺たちの拠点用の家を、このログハウス完成時以降に造り始めていたんだけど、さっきそれがほぼ完成したんだ。ログハウスは完全に身内専用だから、内部は空間拡張で弄って広くしてるけど、拠点用の家は外部からの見た目や、来客時に空間拡張のレアな付与魔法とか持っているのがバレないように、できるだけ使用しないで造ってある。つまり、見た目的にもかなり大きくなった。今はこのメンバー以外に教える気もないので、ここでは出せない。だから今から1kmほど離れた場所で、俺たちが王都で住む予定のお屋敷サイズの家をお披露目しようと思うんだけど、あと1km頑張って歩いてくれるかな?」


「「「行く!」」」


 殆どの者が即見たいと言ってくれるが、もうヘロヘロで歩きたくないという者もやはりいる。


「やっぱ80kmも歩いたから疲れてるよね。只、今回造ったのはマジでお屋敷サイズなんだよ。当然お風呂も大きい。その辺の温泉施設なんか目じゃないほど凄いモノが備わっている。俺もまだ確認してないからはっきりとは言えないけど、薬湯風呂・電気風呂・温水仕様のジェットスライダーもある。部屋も完全個室で、一部屋12畳はあるので好きな部屋を各自で選んでくれればいい。個室になるのでゆっくり寝られるだろう」



「「「ジェットスライダー!?」」」


 ナビーじゃないが、同じ手で皆を釣った。結局全員で今から出立だ。

 夕飯用にスープを拠点に配給し、こっそりログハウスを離れる。




「皆にはどうして見せてあげないの?」

「見せたら必ずパラサイトされるよ? いま使っている拠点用施設は、商都のどこかにそのまま残しておいてあげようとは思うけど、お屋敷に他の者を住まわせる気は一切ないんだ。男子なんか見たら間違いなく住まわせろって言ってくるよ。高畑先生も、王都に行く組の家が見つかるまで間借りさせてとか言いそうだろ? で、そのまま出て行く素振りもなく寄生されることになる。しかもそいつらの食事までこっちの負担で――」


「「「成程……」」」


「一緒に旅をして、仲間意識が芽生えている娘たちもいると思うけど、俺は他人の面倒を見る気はないんだ。ちゃんと生活は自活できるだけの資金を先渡ししてあるんだから、それ以上は勘弁だ」


「あの、龍馬先輩……お嫁さんじゃない私はすぐにお屋敷を出た方が良いのかな?」 


 婚約者じゃない愛華ちゃんや亜姫ちゃんが不安げに聞いてきた。


「そういう意味で言ったんじゃないよ。ここにいる者は仲間として見てるから、いつまでもいて良いよ。でも、ちゃんと食い扶持は自分で稼ぐようにね。稼ぐための知恵や方法は、俺と桜が幾らでも持っているから心配いらないよ。そういうのは幾らでもアドバイスしてあげるからね」


「「ふふふ、『もしもフォルダ』ですね!」」

「ウッ! その言い方はちょっと恥ずかしいけど……まぁ、そのとおりだ。あれがある限り、幾らでも稼ぐ方法はある。料理の腕を生かした商売がしたければ、レシピは桜が持っているし、店を構えたいのなら資金援助もしてあげるからね」


「「龍馬先輩ありがとう!」」



 ほどなくして、かなり広めの平坦な場所に出る。


 少し草木が邪魔だったので【ウインドカッター】で刈って周囲を一掃する。

 多少の凸凹は土魔法で平坦にすれば問題ない。



 お屋敷を出すための召喚陣を出したのだが、俺の最初の設計よりかなり大きい……ナビーの奴。


 体育館ほどの魔方陣が展開されているのだ。うちの学園の体育館には、バスケットコート2面と、バレーコート2面がある。つまり、そのサイズのお屋敷ということだ。



 召喚陣が青になった位置でお屋敷を【インベントリ】から取り出す。


『おーい! ナビーちゃん、あんた何やってんの!』

『………………頑張りました』


 召喚陣で出したお屋敷は4階建てで、まさに体育館サイズだった。

 見た目はヨーロッパ風のお屋敷だ。煉瓦と木を上手く使って建てられた洋館だ。だが俺の設計図では、鉄筋造りのかなり丈夫なモノなのだ。地球のコンクリートや煉瓦ではないが、土魔法でそれ以上の硬度がある代物にしてある。


 白を基調としたデカい屋敷が、何もない草原にこれでもかというぐらいにライトアップされている。しかも中の部屋の電気も全てON状態にしてあるようで、何とも煌びやかに魅せている。


『ナビー……見事だ! 勝手に俺の設計を弄ったことを怒ろうかと思ったが、良い仕事だ!』

『……ハイ! 頑張りました! 中も見てください!』


 実際俺以外の女子たちも目をキラキラさせて、ライトアップされた煌びやかなお屋敷を眺めている。下級の魔石に【ライト】の魔法を付与し、それを50個ほどライトアップに使ったようだ。でも、これ街中じゃ使えないだろうな。明るすぎて苦情が出そうだ。



「さぁ、中も凄いそうだから、入ってみよう!」

「凄いそう? 作製者の龍馬君がまるで知らないって言い方ね。こんな凄いお屋敷をいつ造ったのかも不思議でしょうがないんだけど」


 桜や美弥ちゃん、茜たちからも同じような質問がされる。


「そのうち話すから、今は中を見よう……」


 皆に『隠し事多くない?』とか言われているが、全てはまだ話せないよな。




 お屋敷の間取り

  中世ヨーロッパ風鉄筋仕様(見た目だけレンガ造り)の4階建て

  ・1F:厨房・大食堂・リビングルーム・応接室・執務室。メイド用居室6部屋

  ・2F:メイン浴場・応接室・リビングルーム・メイド用居室4室

  ・3F:メインリビングルーム・小浴場・来客用居室30室・メイド用居室4室

  ・4F:リビングルーム・キッチン・客用居室4部屋・仲間用居室20部屋

      メイド用4室・浴場



 俺たちの住むエリアは4F予定だ。4Fにはキッチンをリビング横に併設してある。


 1Fは事務仕事なんかを行う執務室や来客の対応をするための応接室、ダンスパーティーなどができる規模の大広間に、200人規模の食事を賄えるほどの厨房と食堂を造ってある。


 貴族を相手にすることになるだろうと、ナビーが設計時に組み入れるようにとアドバイスしてきたためだ。


 今いる人数だけなら、4Fのキッチンの方が規模的に使い易いだろうと思う。食事は4Fのリビングで摂る予定でいる。


 各階にメイド用の部屋を用意したのもナビーの勧めなのだが、この部屋は使うかまだ未定だ。俺たちは貴族じゃないし、メイドなんかいなくても自分の事は自分でできる。自家でメイドなんか雇っている家なんか、桜の実家ぐらいだろ。



 来客を泊める場合には3Fを利用し、基本4Fの俺たちのいる階は結界で入れないようにしてある。アホ貴族が皆にちょっかいを出さないように配慮したのだ。


 4Fに客用を4室造ってあるのは、王族が万が一泊まることになった場合の為に用意したものだ。流石に王族を自分たちより下の階に泊めるのはマズいとナビーに言われてしまったからだ。


 俺的には王族だからなんだって気もするが、リーダーなのだから、相手を立てるべきところは立てて、トラブル回避はするべきだと怒られてしまった。



 あと、これに地下施設が付く予定だ。


 地下1F:ワインセラー・酒蔵・備品置場

 地下2F:錬金工房・武器工房・服飾工房・陶芸工房



 工房を地下2階にしたのはセキュリティーの為だ。鍛冶場の騒音は【音波遮断】の付与を付けるつもりなので問題ない。火を扱うが、魔石を使った魔道具で換気も万全なので一酸化炭素中毒などの心配もないだろう。



 玄関の外に設置してある【個人認証】のプレートに血を一滴ずつ垂らしてもらう。


「ここもセキュリティーは万全なんだね」

「うん。今は全エリア認証が無い者は入れなくしてあるけど、王都に着いたら3Fまでは開放するつもりでいる。さて、中に入ってみようか」



 大きな玄関を開けたら、吹き抜けのエントランスがあり、豪華なシャンデリアが3つぶら下がって周りを明るく照らしていた。シャンデリアの装飾はクリスタルではなくガラス製だが、なかなか豪華な造りだ。電球ではなく、【ライト】を付与した魔道具のようでかなり明るい。


「龍馬君、厨房見てきていい!」


 桜と茜がすっ飛んで行った。雅とフィリアは風呂場を見に行ったようだ。菜奈は個室が気になるようで4Fの方に駆けて行った。


 皆、気になる場所を探索しに行っている。俺はやっぱ風呂が気になるので、そこに向かう。風呂場は2Fに造ってあるが、男女は分けていない。各階にあるので、来客時は分けても良いかもだが、今は男は俺だけだ。俺の入浴時だけ【使用中】を表示させておけばいいだろう。


 その風呂なのだがデカい!


 2Fの面積の殆どを風呂に使っているのだ。そしてスライダーが4Fの浴場と繋がっていてそこから2Fの浴場にいろんな地点を経由しながら滑り落ちる仕組みになっている。このスライダーは直径150cmほどの透明なパイプになっていて、底面に水を流し滑りやすくしているようだ。



『ナビー、これ外から丸見えじゃないのか?』

『……マジックミラーのようにパイプの中からは見えますが、外からは一切見えないようにしてあります』


『その辺はぬかりなしか、いったいこのスライダー、何メートルあるんだ?』


『……4Fから2Fまでループをしながら約150mほどあります』

『ハッ? 150m? そんな距離をどうやって?』


『……滑り落ちるだけなら20mほどの距離しか得られませんが、高低差を利用したうえで水流で押し上げて戻すようにして距離を稼いでいます』


 外からは分からないようにしてあるが、屋敷の外周も通っているようだ。全てのパイプで外が見えるのではなく、外壁など景色が見えるような場所だけマジックミラーにしてあるそうだ。


 屋敷の中や、外周をグルグル通ってるのに、外からは一切見える場所がない。

 上手く部屋と部屋の間の壁の中や、天井、用具置き場、屋敷の景観を損ねないように死角に造りこんである。



 製作者として一番風呂に入りたかったが、既にフィリアと雅がすっぽんぽんでヒャッハーしていた。



 ある程度見終えた頃に皆を4Fのリビングに集め夕食にする。みんな興奮状態で、お風呂に先に入りたそうにしているが、俺も一緒に入りたいので、夕食後水着着用でみんなで楽しむことになった。


 勝手に先に入っちゃってた二名は皆から白い目で見られていたけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る