2-6-6 仮設住居?鉄板焼き?

 現在ログハウスのキッチンとリビングを使って、料理部の面々がホットケーキを焼きまくっている。できたものは、熱いうちに外で待ち構えている女子たちに随時搬送中だ。


 キッチンの魔道コンロは三口しかないので、リビングに5mの長さがある鉄板焼き用の魔道具を出している。

 この鉄板は、お好み焼きやステーキなどを焼きながら食べたいと言ってきた、雅と菜奈のリクエストに応えて作ったものだ。


 当然のように皆には内緒で、10%ミスリルを混ぜて、錆びないし焦げ付かない仕様にしてある。まさかステーキを焼く前にホットケーキに使用するとは思はなかったが、くっつかないと女子には好評なようだ。


 ホットケーキは20cmほどのもので、今日採った蜂蜜がたっぷりかけられている。バターではなく、マーガリンが少し添えられているのだが、それがまた良く蜂蜜に合う。


「龍馬君、御代わりは自由だから欲しかったら言ってね」


 茜が俺に焼いてくれて、御代わりを勧めてくれているのだが――


「うん。でもおやつにしては大きいから、夕飯に響きそうだね」


「龍馬君、今晩この鉄板で牛ステーキが食べたいわ!」

「あ! 私はお好み焼きが食べたい!」

「ん! きのこソテー!」

「菜奈は塩タンを焼いてみたいです!」

「「「塩タン!」」」


 初お披露目だったが、既にこの鉄板は今後も活躍しそうな感じだな。

 5mもあるから全員が座って焼きながら食べられるのだ。ステーキハウスでもここまで大きい鉄板は置いていない。これを使って色々催しもできそうで楽しみだ。


『……作った甲斐があります。皆、笑顔です!』

『そうだな。美味しいモノを皆でこうやってワイワイ食べると、更に美味しく感じるんだよな』


『……そういえば、明日の深夜ぐらいに雨になりそうですが、どうされますか?』

『雨か……秋晴れもそう長くは続かないよな。一応テントは防水仕様なんだけど、雨はどのくらい降りそうなんだ?』


『……ユグドラシルの予測計算では、明日の深夜からお昼頃まで降ると予測されています』

『神のシステムなのに予測なの? 絶対じゃないの?』


『……気象に絶対はないですね。大気というものは常に変化します。3時間以内の気象なら100%の確率で秒単位の予測演算が可能ですが、明日の天気となると、時間単位の予測でも97%に下がってしまいます』


『それでも97%も当たるのかよ。じゃあ、明日の深夜は雨決定だな』

『……明日は凄く寒くなるようですので、何人か今の布団では我慢できない娘がいますね。今でも少し寒いのを我慢しているようです』


『何で我慢するんだよ? 毛布は一杯あるだろ?』

『……毛布は均等に分配しているので、自分だけ多く欲しいとは言い出せないようですね。寒いのは皆一緒ですからね。ただ、中には血行が悪い娘や、低体温な娘もいるので、その娘たちが可哀想ですね。寮では電気毛布を使っていたほどです。朝方は冷え込むので寒いでしょうね……』


 俺たちは冷暖房完備のログハウスでとても快適に過ごしているので、全く気にかけていなかった。我儘でついてきた娘たちでも、一緒に6日も共にすると多少の情は湧く。寒さで震えていると知った限り、知らん顔はしたくない。


 徒歩移動で体力を奪われているのに、寒さでゆっくり寝られないのでは体が持たないだろう。


『う~ん、どうしようか?』

『……王都での暮らし用の、お屋敷がほぼ完成していますが?』


『それはダメだな。間違いなく寄生しようとする奴らが出る。これだけ広いなら一部屋貸せと言ってくるぞ』

『……では、土魔法でまた作っちゃいますか? マスターのレベルも上がって、MPも余裕がありますし、簡易な建造物なら出来るんじゃないですか?』


『土の建物か……複雑なモノじゃなくて、ただテントを設置できる広さの空間があるものなら簡単かな。高さはそれほど要らないな。3mあればいいか? 広さは体育館ぐらいあったら十分だな。男子は入口付近の外に別口で分けるか』


『……分けると収納が不便ですので、同じ建物内に男子用の部屋を作って壁で隔離し、男子用の入口を別に作ってしまった方が良いのではないですか?』


『そうするか。男子部屋は壁で囲って【音波遮断】でも掛けておけばいいかな。この外の土で強度はとれそうか?』

『……ええ、壁の厚さを20cmほどにして強化の付与を掛けておけばオークぐらいなら十分凌げる程度の強度は出ると思います』



 時間のある今日のうちに造ってしまうことにする。明日は危険な森を抜けるので、MPは温存しないといけない。

 今のうちに造って一晩寝れば全回復しているので、明日には全快で森に挑める。


 野営地から少し離れた場所で、【プランクリエイト】で設計図を作る。【ハウスクリエイト】の補助を受けながら、一気に土を魔法で盛り上げイメージ通りに錬成していく。外壁が出来たら、一度【インベントリ】に収納して図面通りにナビー工房で仕上げる。



 1時間ほどで冷暖房完備の長方形の仮設住居が完成した。

 中に間仕切り壁を作り、部屋を4つに分けている。この内壁が建物自体の強度にもなる。

 1つは12畳ほどの男子部屋、ここは入口も別にしてあって、他の部屋に行き来できなくしてある。

 1つは20畳ほどで暖房なしの部屋、暖房が嫌いな者もいるようなので、一部屋構えた。

 1つは30畳ほどの部屋、温度設定を20度にしてある。あまり暖かいと寝れないという者もいるようだ。

 残りの空間を、温度設定を24度にしてある。この温度だと快適に寝られる温度だ。

 念のために空気清浄機能も組み込んでおいた。


『……マスター、床が土だと底冷えします。板を敷きますがよろしいですか?』

『そうだな。それで頼む。板床ならテントは要らないか?』


『……どうでしょう? テントが目隠しになって、ある程度の仲良しグループで纏まっています。テントがあるおかげでトラブル回避ができている面もありますからね』


『それもそうだな。テントは中でも張らせた方が良いかもだけど、高畑先生に丸投げしよう』



 皆の所に行って、声を掛ける。


「ホットケーキを食べてくつろいでいるところ悪いが、一度テントを回収してもらえるかな?」

「小鳥遊君!? 何かあったの?」


「あ、違います高畑先生。別に魔獣が来たとかじゃないので、慌てなくて良いです。明日の深夜に雨が降りそうなので、土魔法で雨が凌げる建物を造ってあげました。明日はかなり冷え込むそうなので、一応魔石を使う冷暖房完備の仮設住居を今さっき土魔法で造ってみました」


「「「暖房!」」」


 かなりの人数が暖房という言葉を聞いて喜んでいるみたいだ。やはりテントじゃ結構寒かったようだな。


「この今の拠点ではスペースが足らないので、少しだけ移動します」


 ログハウスのように魔力を喰う空間拡張とかは使ってないので、体育館と同じぐらいのスペースがいるのだ。


 300mほど移動して、さっき拠点を造るのに土を削った場所を平らに整地して仮設住居を出す。


「「「デカッ!」」」

「龍馬、よくこんなの入るな?」


 しまった、【亜空間倉庫】Lv10でもこのサイズは入らない。ログハウスと同じ召喚魔法だとごまかすか――


「あはは、秘密です。ログハウス召喚と同じ仕様です。いろいろ聞いてくるなら、これは仕舞っちゃいます」

「いや、別に言いたくないなら聞かないけどな……」


「これまでテントが目隠しになって、仲良しグループで分かれていたため大きな問題は起きていません。中でテントをこれまで通り張ることをお勧めしますが、温度設定が部屋ごとに違いますので、その辺は皆で今から話し合って決めてください」


「龍馬、温度を何で分けたんだ?」

「男子の入口はここで、勿論中の部屋は女子と別になっています。窓は一切ありませんので、昼でも照明は自分たちで【ライト】を使ってください。男子の部屋の温度は24度設定です。部屋ごとに温度を変えたのは、暖房が嫌いな者も中にはいるようなので、全く使ってない部屋と、20度の部屋と24度の部屋を間仕切りで分けてあります。好みの部屋で過ごしてもらったら良いです。できればトラブル回避の為に今の割り振りのままテントを張るのをお薦めします。もし部屋の温度のことで班内で揉めそうなら、全部屋24度の一定温度にするのであしからず」


「揉め事回避の為に、最初から全部屋一定にすれば良かったんじゃないか?」

「それは考えましたが、暑がりの娘に無理に温かい部屋はきついと思うのです。寒いのであれば着込めば済みますが、暑いのは全部脱いでも暑いですからね」


「それもそうか……俺たちはテント張らなくても良いか? 男同士だとちょっと狭いとな」

「一応板張りですので、好きにしていいですよ。ない方が広く使えるとは思います。あと、暗幕とカーテンレールを用意していますので、テントでなくても自分たちで間仕切りを作ってもらっても構いませんよ」


 カーテンの間仕切りは皆に喜ばれた。カーテンで仕切ったうえにテントを利用する組もいるようだ。やっぱ仲間内だけのプライベート空間はトラブル回避のためにも大事なようだね。


「小鳥遊君、ありがとうね! 寒いって子結構多かったのよ。毛布は全部貸し出してしまっていたからどうしようもないと思っていたのだけど、これで温かく寝られそうだわ」


「高畑先生、ダメもとでもそういうことはリーダー会議で一応言ってみてください。今回の件は解決できたことですよ? 俺、まだ毛布のストック有りますし。布団も亡くなった人ので良ければ貸し出すこともできました」


「そうなの? はぁ、次回から一応細かな事でも報告するわ。でも、ウザいとか思わないでね? それが心配で言い出せなかったんだから……」


「龍馬が結構辛辣なこと言うからな。言いにくくなるんだよな」


 まぁ、意図してそうしてるからね。何でもかんでも頼られても困るし。


「お風呂は今からこの建物の裏に解放しますので、男子から先に入っちゃってください」

「ありがとう。お湯の入れ替えはこっちでできるようになったので、男子の最後の人が出たことだけ伝えてもらえれば後は私たちの方でやるわ」



 夕飯は俺たち料理部はログハウス内で鉄板焼き大会になった。いろんな食材を焼いて食べた。お好み焼きも久しぶりだったのでめっちゃ旨かった。オーク肉の豚玉最高!


 仔牛のステーキも超旨かった。桜が醤油ベースのガーリックソースを作ってくれたのだ。


「桜、このソース俺の好みだ。凄く美味しい」

「そう? 良かったわ。次回はおろし醤油のちょっとあっさりしたのも作ってあげるわね」


「うん。次回のも楽しみにするよ! 桜は可愛いし、料理も出来て最高のお嫁さんだね!」

「はぅ~、なんて恥ずかしいことを平気で言うの……でも、ありがとう。嬉しいわ」




 菜奈や雅たちにちょっと睨まれたが、おべっかもこの後の3P計画の為なのだ!

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