王都街道編 6~9日目

2-6-1 抑止剤の満足度?邪香?

 優ちゃんと再度話し合った結果、今回の騒動もちゃんと報告することにした。

 俺は言わない方が良いんじゃないかと思っていたのだが、『ほうれんそう』は大事だと優ちゃんに言われてしまった。黙っていて、次来た時に何かあった場合に何で言わなかったと責められるのは自分たちだからだそうだ。報告・連絡・相談は最近では時間の無駄という意見もあるようだが、やはり行うべきだそうだ。



「信じらんない! 男ってどうしてこうなの?」

「ん、でもなんとなく分かる。お腹が空くと狂暴になるのは必然」


「そんな奴ら放っておけば良いとも思うんだけど、食事事情で精神的に荒んで、優ちゃんの友人に危害が出る可能性もあるかと思ってね」


「そもそも優ちゃんの友人は、どうして体育館に移籍しなかったの?」

「元は男子寮にいたのですが、彼氏がいるそうなんです。その彼氏の方も男子寮から出るなら、外で会った時はもう敵だと佐竹たちの仲間に言われて、怖くて移籍したいと言えなかったみたいです」


 パラサイト男子と思っていたけど……そういう風に脅されていた奴もいたのか。教員棟の男子は本当のパラサイト系だけど、男子寮の奴は脅されてたのもあるんだな。


「その彼女、佐竹たちに何もされなかったの? 彼氏の前でわざとエッチされたとかじゃないの?」

「なんか、逆に『ブスだからどっか他に行け』とか言われていたそうです。彼氏と一緒ならって言ったみたいなのだけど、彼の方は最初に中級回復魔法の獲得に結構レベルをもらっていたようで、解放してくれなかったようです」


 うゎ~、ブスだから襲われなかったと……。


「ホント死んでからもムカツク奴らね! 全員何もされてないの?」

「なんか2名は毎日のようにいろいろされていたらしいです……可哀想なので詳しくは聞いていません」



 話し合いの結果、パラサイト男子にも事情があったということで、3日に一度ぐらいで余裕があったら食事提供するという結論になった。


「何もトラブルがなければあと4、5日の距離だしね。街道に出れれば道は舗装されているのでペースも上がると思うんだ」

「舗装ってアスファルトとかで整地されてるの?」


「土だけど、馬車が通れるように草木は伐採されて、ちゃんと踏み固めて均されているようだよ」



 自分たちの夕飯だが、例のヤバい鳥……めちゃくちゃ旨い! 夕食に一品追加でソテーで食べたのだが、水炊きが旨そうだと意見が一致した。肉にコクがあるので、良い出汁が出そうだ。


 勿体ないが、カレーにも合いそうだ。異世界の食材は素晴らしい!



 今晩のお相手に今日こそフィリアを誘おうと思っていたのだが……なんか機嫌が悪そうだ。


「え~と? フィリア?」

「其方が沙織や美弥を優先するから、妾はあの日になってしもうたではないか!」


 あの日? ああ~~生理が来たのか。そういえばもうそろそろだって、最初フィリアが来たころナビーが言ってたな。生理中なので機嫌悪いんだな。菜奈も生理中は機嫌悪かったし、ここはあまり刺激しないようにしておこう。


「ごめんよ……ちゃんと埋め合わせはするから」

「約束じゃぞ! 其方の埋め合わせとやらに期待しておるぞ!」


 うっ……なんかハードルが高そうだ。


 桜は昨日で排卵周期も終えたようだ……という訳で、今晩も盛りがついてる美弥ちゃん先生にお願いしよう。

 2日目というか、排卵日当日が一番きついそうなので、頑張ってお相手をする。





 早朝目が覚めると、美弥ちゃん先生とまた目が合う。どうも、今日も先に目が覚めて俺を眺めていたようだ。


「美弥ちゃん先生おはよう。今日も眺めていたの?」

「龍馬君おはよう! 先生こんなに幸せで良いのかな?」


「不幸ならダメだろうけど、幸せなら良いんじゃないか?」

「教師という立場を考えたら、見殺しにした子たちになんか申し訳なくて……」


「もう教師じゃないんだし、ちょっとの差で立場は変わっていたかもしれないんだ。考えても辛いだけだよ」

「そうなんだけどね……」


「一番気に病んでるのはフィリアだろうし、俺たちが幸せ一杯ならフィリアも少しは気が紛れるんじゃない?」

「そうね。うん、みんなで幸せになって、転移ミス自体をフィリアに感謝しなきゃね」




 出発前のミーティングだ。


「今日の昼前には街道に出ます。街道に出たら道が良くなるので、少しは楽になると思います」


 やっと街道かと口々に声が上がる。


「街道を東に向かうのですが、明日通る場所が今回一番危険なエリアです。危険な森を掠めて通る事になるので、何が起きるか分かりません」


「それって狼より危険なの?」

「狼もその危険の中に含まれています。あとはネコ科の魔獣が超危険だそうです。サーベルタイガーとか出たら、この中では数人しか対処できないです」


「対処はできるのですね?」

「ええ、群れない単独行動するタイプみたいですので、探索魔法に引っかかった時点で、対処できる者でこちらから迎撃します」



 簡単に今後の進路の説明をし、本日できたての抑止剤を高畑先生に渡す。


「小鳥遊君、昨日一通り全員分使ってみました」

「えっ!? 山本先生、昨日1日で5本も使ったのですか?」


「ええ、効果のほどなのですが、小鳥遊君の薄めていないモノ>小鳥遊君の薄めたモノ>三田村君のモノ>三月君のモノ>水谷君のモノの順で効果というか、満足度が違いました」


「効果は皆あったのですね?」

「ええ、効果は十分あると思います。ただ満足度が全く違うので……この差は何なんでしょう?」


「効果に影響するのは魔力の質だそうですよ。俺は魔術師系ですが、格技場の者たちは戦闘系のジョブやスキルばかりを選んで獲得しているので、魔力量も少なく質も高くないのでしょう」


「それでですか、納得しました」


 なんか口コミで抑止剤の使用者が増えているようで、俺のモノは余ってないそうだ。薄めていないヤツを使ってみたいという人まで現れる始末で、本来の目的より絶頂薬として流行りそうで怖い。



 三田村先輩が側にやってきて、みんなには聞こえない程度の声で話しかけてきた。


「龍馬、俺のも何人か使ってくれたみたいだな?」

「そのようですね。なんか複雑な気分ですけど、嫌ではないですよね?」


「ああ、正直嬉しい。全員に使用拒否されたら寝込むレベルだった」




 街道に向けて移動中にナビーが声を掛けてきた。


『……マスター、例の邪香の混じった娘なのですが、どうもその中の1人が皆に仲間外れにされているようです』

『虐めか?』


『……いえ、虐めというほどではないのですが、話しかけてもその娘があまり返事をしないものですから、今では誰も話しかけようとしません』


『そりゃ、自業自得だろ……』

『……そうなのですが、これまでにクラス内で虐めを中等部より受けていたものですから、急に普通に話せと言われても無理があるかと……』




 休憩時にうちのグループ内で相談してみた。


「先生、こっちで引き取ったらどうかと思うな~」

「問題児を引き取るのですか?」


「俺もなんか嫌だな……折角良い雰囲気なのに、そんな娘が1人入るだけで雰囲気がガラッと変わっちゃうよ?」

「そもそもその娘はどうして孤立したのかな?」


『ナビー? 分かる?』

『……お待ちください……彼女が中等部一年の文化祭の時が事の発端になっています』


 全てナビーに聞いたのだが、なんだかな~。


「どうも彼女が中等部の一年の文化祭の時にクラスのお金がなくなったそうなんだ。たまたま教室に最後まで残っていた彼女が疑われたそうだ。でも犯人は別にいて、その犯人の娘も盗むつもりはなく、教室に置いたままだと、誰もいなくなった時に盗まれないかと心配して気を利かせて自分が預かっておくつもりで持ち出したそうなんだ。でも教室に戻ったら盗まれたと大騒ぎになっていて、今更預かるつもりで持って出ていたとその娘も言い出せなかったようなんだ」


「あ! その事件知ってる! 各クラスに支給された学際費が、クラス委員長の机の中から盗まれた事件だよね? なに? 冤罪でクラスに盗人扱いされていたの? その実際お金を持って出た娘はそれを知っていてずっと黙っていたってこと?」


 そうか、桜は中等部からいるんだったな。


「そうなるね……でも、今の彼女は腹いせに寮内で実際に物を隠したり、壊したりして仕返しをやっているようなんだ。気持ちは分かるけど、そんなことばっかりやってるから、妬みや僻みが強くなって、今じゃハティが避けるほど歪んだ性根になっちゃってるみたいなんだよね」


「その歪んだ性格って治るの?」

「性格なのでなかなか治らないと思うけど、改善はできると思う。何かの拍子で悪人でも一切悪さをしなくなることあるだろ? 改心したとかいうヤツかな。きっかけがあれば変わると思う」


「龍馬、お主【精神回復】というスキルを持っておったじゃろ? あれを何回か施せば邪気が取れてあっという間に改心するぞ?」


「え? そうなんだ?」

「で、その娘どうするの? 冤罪で捻くれちゃったのは可哀想だけど、不和を招くような娘を敢えて迎え入れるほど、私はお人好しじゃないよ?」


「俺も桜の意見に賛成なんだけどね……」

「兄様は中等部で完全に孤立していていつも1人でしたからね。兄様のようにそれでも平気な人なら良いのですが、捻くれて個人香に悪臭が混じるほどとなると、本当は1人でいるのは結構きついんじゃないでしょうか?」


「龍馬君は凄く良い匂いがするけど……ということは本当に1人でも平気だったの?」

「俺は他校のトラブルに巻き込まないようにと自分から突き放してた方だしね……もし、冤罪で泥棒扱いとかだったら、多分めっちゃ捻くれてるよ」


「ん、蛇龍じゃなくて邪龍って言われてたかも!」

「上手い! 雅に座布団一枚!」


 うっ……あまり受けなかった。雅を抱っこして二人で大人しくしてよ。


「その娘、先生に預けてくれないかな? 精神カウンセリングも少しは勉強してるのだけど……ダメかな?」

「美弥ちゃん先生が面倒見たいの?」


「妾も協力するぞ? 元癒しの女神故、小娘一人ぐらい妾に任せておくのじゃ!」

「ん、フィリア可愛い! フィリアの方が小娘に見える!」


 ない胸を張って任せろというフィリアは、確かに子供っぽくて可愛い。

 美弥ちゃん先生たっての希望で、その娘を引き受けることになった。



 面倒が起きなければいいのだが……。

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