1-10-7 心のケア?学園出立?
嫁たちの強い決意は分かった。俺一人がごねてもどうにもなりそうにないな。
「分かった、旅には連れて行くけど同行は1PTまでだ」
「7人までってこと? どうして? レイドPTを組めばいいじゃない」
「大人数での移動は効率が悪い。それに拠点にしたホームを守ってもらいたいので、交代で誰かに留守番をしてもらう。俺は地点登録して転移魔法でどこにでも行き来できるので、その辺は問題ないだろう? なんだったら毎日野営しないで拠点に転移で帰ってきてもいい」
「うわ~、正にチート」
「ん、一般論が通じない……斜め上のことを平気でやっちゃう」
「龍馬よ、皆に早めに【精神耐性】のパッシブスキルを与えてやるのじゃぞ。この辺には邪徒共はいないが何時現れるかわからぬでの」
「ねえ、フィリア? 邪気に汚染されたらどうなるの?」
「体の周りに邪気の黒いオーラが立ち昇り一目で分かるのじゃが、男も女も凶暴になり本性のまま行動を起こすようになる。男は暴力的になり、女を犯すようになったり、窃盗や殺人などを平気でするようになる。女も似たようなものじゃが、妬みや僻み、嫉妬などの心が増幅されて、そういう想いのあった者を執拗に狙って殺すようになる傾向が高いの。心の箍がないのじゃ、知能が高い人間ゆえ行われる暴挙は酷いものじゃ」
「それって邪気から開放された後も大変じゃない?」
「開放といっても死の開放じゃ。一度邪に染まった者は残念じゃがもう助からぬ。死亡という形で救われるのじゃ。せいぜい助けられるのは体から黒いオーラが出始めるまでじゃの」
「汚染された国の子供は殆ど死んじゃったんだね?」
「そうじゃ、子供と年寄りは邪徒からすれば使い道がないからのぅ。働く者もいなくなり、生産性もなくなるので、食料も尽きてやがては全滅じゃ……各拠点の神殿の結界内部で数万人が立て篭もっているが、心身ともにきついじゃろうな」
「そこも食料が尽きたら終わりね」
「それは心配ない。神殿には転移陣があるので、各国の神殿が救援物資を毎日送っておる。だが誰かが開放しに向かってやらねば何時までもその中から出られぬからのぅ。ここと同じように狭い空間内での共同生活で、性犯罪率も上がっておる……できるだけ早う助けてあげたいものじゃ」
ゆっくりしてられないみたいだけど、フィリアはいまは無視しろという。目の前の学園生を優先しろと言ってくる。優先順位を付け、どっちが大事かを間違うなと念押ししてくる。正論なのだが、フィリアが無理をしてないか心配だ。本当ならいますぐにでも救援に行きたいだろうと思う。神殿にいる者はフィリアの信者なのだ……助けたくないはずがない。
「そういえば穂香は随分平気そうよね? 人を殺したのになんともないの?」
沙織ちゃんが親友の穂香に問いかけた。
「うん。意外と平気かな。多分みんなと私とではちょっと価値観が違うとかじゃないかな?」
「う~ん、価値観?」
「俺が言ってやろう。穂香は過酷な環境のあの真っ暗で危険な森の中、たった一人で数日過ごしたんだ。日本人的な甘い考えはもうあの森で捨て去ったんだろうな」
「あの真っ暗な森は怖かった……泣きたくても声も出せないの。だって魔獣が来ちゃうもん。泣けない叫べない、逃げなきゃ匂いですぐ追いつかれちゃうし、散々だった。生きる為に、あの森に甘い考えは捨ててきたの。弱肉強食のあの森では、危険があるなら前もって回避、回避できないのなら速攻で排除しなきゃね」
「素晴らしい! 穂香の考えで良いと思う。でも救いようがある相手なら即排除じゃなくて見逃してやろうね。目の前の空腹に耐えられない子供もいるんだから。空腹で襲ってきた子供まで全て殺して解決じゃ、食事を与えるだけで救える状態の者も殺しちゃうようになるよ」
「そんな鬼畜になってないですよ! ただ生きるために甘い考え方はしないって思っているだけなんです!」
今回の殺害に対しての責は誰にもないという結論だ。俺も理由を聞いた後には彼女たちが佐竹たちを勝手に殺したことを責める気はなくなった。
桜と雅の案を受け、俺たちは荷物をまとめ、今夜のうちに引っ越す事にした。
引越し先は勿論俺のログハウスだ。グラウンドに行って皆の前でログハウスを取り出した。
初見の女子たちは当然驚いていた。外見は可愛いログハウス造りの小屋みたいだが、中に入った女子からわっと歓声が上がった。中は見た目以上に広いからね。
「部屋は個室じゃないけど、全室冷暖房完備で1部屋6人が各個人ベッドで寝られるほどの広さはある。2、3人ほどで1グループになって、各部屋に分散してほしい。トイレは各部屋と1階にある。魔力を使って浄化するので、一度試してみてくれ。お風呂は7人ほどが一度に入れるので部屋ごとで入ってくれれば効率が良いと思う。サウナもあるけど、慣れない人は無理しないようにね。キッチンは見ての通り広めに造ってあるけど、調理室ほど広くないので、怪我をしないように気をつけて使ってほしい」
皆の評判は上々だ。
みんながリビングで部屋割りを決めている間に、俺は先に風呂に入らせてもらう。ちょっと疲れた……やっと佐竹たちの件が片付いたが、いろいろと感慨深い。
湯船で目を瞑って感傷に浸っているとハティが入ってきた。
「ミャン!」
「お! ハティ一緒に入るか? よしよしおいで~♪ 湯船に入る前に体を洗おうな~♪」
雅が入ってきた。
そりゃそうか、ハティは扉を自分で開けて入ってこれない。連れてきた人がいるのだ。
「雅も入るのか?」
「ん、入る……」
ハティを洗ってやったら雅も洗ってくれと甘えてくる。勿論シャンプーもリンスもすべてやってあげた。
いま湯船にハティと雅と俺とで浸かっているのだが……いつもなら雅は胡坐を掻いた俺の膝にすっぽり収まり、背中でもたれかかるようにしてくるのだが、今回はコアラのように正面から対面座位の形に座って俺の胸に顔を埋めしがみついている。
やっぱ子供なんだよな……佐竹を殺したときは平気そうに振舞っていたが、本当は凄く不安で怖かったんだろう。皆の前では見せないが、こうやって俺には口に出さなくても素直に態度で甘えてくる。
可愛いやつだ。
「雅、今日は頑張ったな。でも今後は無理して人は殺さなくていいからな? そういうのは俺と美咲先輩に任せておけば良いんだぞ」
「ん、でも美咲先輩は私よりお人好し。もっと傷つく」
「彼女は良いんだよ。最初に覚悟をして自らこの世界に踏み込んだのだから。彼女だけは傷つくのも仕方ないことなんだ。でも俺たちと違って美咲先輩は強い心、いや強い信念かな? そういうのをちゃんと持っているからそうそう心が病んだりしないんだ。悪意や邪に染まらない存在、それが美咲先輩なんだ。だから集団じゃなくて彼女一人がわざわざ異世界から選ばれたんだ。俺たちはフィリアの失敗で巻き込まれたけど、みんなの前では言えないが俺は感謝しているぐらいだ。おかげでこうして雅とお風呂に入ってイチャイチャできるしね」
「ん、私もフィリアに感謝してる。みんなには内緒だね。龍馬にこうやって甘えられるのもフィリアのミスのおかげ」
「フィリアのミスのおかげとか本人の前では言えないしね。フィリア自身は申し訳ないと思っているのだから」
そろそろ出ようかなと思っていたら、桜が入ってきた。あ、この体勢はヤバい。桜に誤解されないかな?
と、思っていたのだが、桜がバスタオルを外した時点で別の案件が持ち上がった。
「ん! アホ! 龍馬のアホ! 凄くこれは失礼! 私が抱きついてるのに全く反応しなかったのに、桜の裸を数秒見ただけで反応して!」
はい、桜の裸体は素晴らしいです! 数秒で臨戦態勢に入っちゃいました! 準備万端! いつでも出陣可能であります!
「そう、確認しにきて良かったわ。大丈夫だとは思っていたけど、龍馬君のロリコン疑惑が浮上して、見てこいという意見が出たので覗きにきたの。ちょっと二人の入り方が気に入らないけど、反応してないならいいわ」
「桜、雅はいつもはこんなにべったりじゃないんだぞ。今日は多分いろいろあったんで、凄く甘えたかったんだと思うぞ?」
「ん! ここをそんなにして、いらない解説スンナ! アホ!」
はい、雅のお尻に当たっちゃってます……ごめんなさい。
「さぁハティ、のぼせる前に出ようか?」
「ミャン!」
「あら? せっかく来たのにもう出ちゃうの?」
「桜がいると、ここが反応しちゃって我慢できなくなっちゃうからね。あはは……」
本音を言えば、雅を追い出して桜に飛びつきたい……桜の体はエロいです。昨晩と違い、【ライト】の魔法で明るいので隅々まで見えちゃってます。やっぱ綺麗です! ピンク色です! 桜色です! プルンプルンしています!
「ん! 龍馬がエッチィ! 皆にチクッてやる」
お風呂を出て、ハティを乾かしてリビングに行ったら、マジで雅がチクッていた。
「兄様は桜先輩の裸を見た瞬間発情するのですね」
「妾にはすぐ発情せなんだのに……やはり胸なのか?」
他の娘たちの視線が痛い。
下手にしゃべると墓穴を掘りそうなので、ハティに夕飯時に作ってあげたミックスジュースを出してやる。
「龍馬先輩、ハティちゃん、そろそろお皿でもいいかもです。歯が生えてきていますので、哺乳瓶は卒業ですね」
最近は何かと忙しかった俺より、沙希ちゃんが世話してくれることが多い。それにしてももう歯が生えてきたのか。やっぱ普通と成長速度が違うな。その割りに体はちょっと大きくなった程度なんだよな。この種の成体は、普通の狼よりかなり大きい。ハティはいま小型犬くらいしかない。服の中にまだ収められる程度だ。小さい方が可愛いけど、変な障害が出ないといいな。
「兄様、今日は一緒に寝てください」
菜奈の発言とともに、嫁たちが俺の居室に押しかけてきた。今日は特別だ、俺も吉本を殺したとき得体の知れない不安でその夜眠るのが怖かった。俺やフィリアを含めた数名に睡眠導入効果のある個人香を持った者がいる。一緒に寝ることで不安も多少改善され、ぐっすり寝ることができるだろうという意図もある。
今日はベッドではなく、床に布団を敷いて皆で雑魚寝した。場所とりで揉めたが、なんとも嬉しい揉め事だ。アニメやラノベのようなハーレム気分を味わいつつ、皆で眠りに付いた。
明日はいよいよ出発だ、朝は早い。
翌朝皆ぐっすり眠れたようで顔色も良い。
俺は同じ部屋で他人と一緒に寝るのは嫌なくちだが、希望するなら暫く一緒に寝てあげようと思っている。
リビングで皆と朝食を食べ、体育館に向かう。体育館には生き残った全校生徒が集まっていた。
どうやら居残る者たちも見送りに来てくれたようだ。
校長が代表して声をかけてくる。
「気をつけてな。3週間は食いつないで耐えて見せるが、必ず迎えを寄こしてくれ」
「分かりました。ルートは分かってますので迷子になって遅れるということはありません。渡した調味料でオークぐらいは塩コショウで味付けするだけでも美味しく食べられますから、狩りも少しは行ってくださいね」
「その辺の話し合いもできている。周辺の弱い魔獣を狩って多少は戦力の底上げも行うつもりだ」
男子に見送られて山を下る……逆だろパラサイト男子ども! と思ったが、何も言わなかった。
居残り組
・男性教師6名・女性教師1名・男子生徒16名・女子生徒6名 合計29名
出発組
・女性教師5名・女子生徒100名・男子生徒11名 合計115名
数字だけを見れば、『たった30人、男子も連れてってやれよ』と思うかもしれないが、何もしてこなかったパラサイト男子が悪い。
周辺の魔獣もそれほど残っていないし、のんびりしてたら食料が尽きる。
ここを出る方が危険度は高いが、残りたくないという女子の意見を聞き入れたのだ。死んでも文句言わないと言ってるが、死人が出たらまた問題行動を起こしそうな奴が数名いる。
いろんな意味で警戒はしておくが、危険な旅になりそうだ。
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お読みくださりありがとうございます。
一章終了です。
街を目指して、やっと学園を出ます。
龍馬君だけ先行して町に行き、転移魔法で迎えに来れば?
と、いう意見もありますが、それでは物語が成立しないので突っ込まないでくださいねw
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