1-10-6 婚約者たちの決意?勇者の敵?
残った男子の戦力が心許ないがそれは自業自得だし、そんなことまで俺が配慮しなきゃいけない義理はない。
「残った男のことまで俺が考えないといけない義理はないよな?」
「義理はないかもだけど、あなたがリーダー的存在なのは間違いないでしょ? 考えてあげるのが道理じゃないの?」
また厄介なのが増えた。柴崎先輩だ。
「何よその目! ウザいのがきたって顔に出てるわよ! 失礼な人ね!」
「俺はあくまで中等部別館内でのリーダーであって、各リーダーの取り纏め的なことまで背負い込む気はないです」
「何もしてあげないってこと?」
「では、1つ良い案があります。柴崎先輩がここに残って守ってあげてください。リーダーとしてあなたに重要な案件として指示します」
「何でそうなるのよ!」
「何かしてやれって言ったのはあなたでしょ? 素晴らしい案じゃないですか? 何が不満なんですか?」
「どうして私が残らなきゃならないの!?」
「じゃあ、どうして俺が何かやらなきゃならないの!? 同じじゃないですか? 人に何かしろって言う前に、自分でやってあげたらどうです? 少なくとも、あなたは俺と三田村先輩に救ってもらったでしょ? 次はあなたが誰かを救ってあげたらどうです? 俺は何だかんだ言いながらでも、ここの体育館にいる女子の半数以上を一度は救っています。中庭で襲われていた女子、食堂で襲われていた女子、壊滅寸前の女子寮にいた者、体育館地下で藤井たちに監禁されてた女子、コロニーに捕らわれていた女子、野球部のマネージャーもそうですよね。そして今回の佐竹たちの件も間接的にうちの女子のおかげであなたたちはレイプされずに済んだのです。十分過ぎるほど貢献していると思うのですが?」
「あなた凄いのね、どうせなら男子も救ってあげれば良いじゃない」
「だからいまさっき案を出したじゃないですか? 戦力の上がったあなたが守ってあげてください。いまのあなたならオークごときもう倒せるでしょう?」
「それで私が男子に襲われたらどうするのよ!」
「オークより弱い男に襲われても返り討ちにすればいいじゃないですか。それに柴崎先輩、凄く可愛いんですからどうせなら男たちの夜の面倒も見てあげれば女神のように感謝されて祭られるんじゃないですか?」
凄く睨まれた……。最後のは失言だったけど、俺は野郎共のことまで知らん!
柴崎先輩と大影先輩から顔を背けた先で、井口さんと目が合った。うゎ~彼女何か言いたげだ。いま複雑な気分だろうな。どうこういっても佐竹は彼女にとって初めての男だ。
視線を外せず見つめ合っていると、不意に裾を引かれ視線が外れる。雅が俺を睨んで首を振っている。下手に同情などしてこれ以上彼女に構うな、関わるなという意思が分かり過ぎるほど伝わってきた。
そっと雅の耳元に口を近づけ一言呟く。
「雅ありがとう。でも大丈夫だ。彼女にこれ以上関わらない」
雅は安心した顔を見せて、うんと頷き俺から離れていった。
「仕方がない、俺が残ってやる」
不意に三田村先輩が声を上げた。
「うわ! かっこいい! でもダメです。三田村先輩には殿を努めてほしいと先にお願いしましたよね? そのためにレベル上げを手伝ってあげたのです。ヒーラーを貸し出したのもその為です。草原の狼やハイエナは厄介だそうですので、こっちの主戦力は削れません。本当に守りたい人はこっちにいるのです。これまで人任せで何もしてこなかったパラサイト男子に戦力は回せないです。女子なら可愛げもあるけど男子じゃね」
「本音を言えば、俺も同じ意見だ。男なら体を張って女を守って当然だ。何もしてこなかったのなら自業自得だと思う」
「女を守って当然という意見には賛同しかねますが、オークの群れは削っているので単数相手なら残った者で何とかできるでしょう? 俺たちは命懸けで生き残ったのです。多少は自分たちでリスクを負わせたほうが良いですよ。とりあえず狸と男子寮にコールしてその2つのグループは合併させましょう。話はそれからでしょう?」
「狸? 誰のことだ?」
「中等部の校長のことでしょう? 私が連絡します」
高畑先生の連絡を受けすぐに狸が飛んできた。
「坂下教頭が説得しに行くと言っていたのに殺したのか!」
「説得? 何それ?」
面倒なのでさっきの一部始終の動画を見せた。
「女子を襲おうとしていたなんて……」
ついでに森での卑猥なレイプ話も見せてあげた。
「大谷君はもう少しまともな人間だと思っていたのに……残念だ」
「俺たちは明日出発します。最短で15日後に戻ってきますので、それまでシェルターの中で耐え忍んでください」
「15日か……その日数の根拠は?」
「俺1人なら5~7日ほどの距離に街があると女神に教えていただきました。徒歩で10日、馬なら3、4日だそうです。街道に出るまでの草原エリアが危険なので2日ほど余裕を見ています。おそらくここに戻ってくるのは17日後だと思います。街の領主がとろい奴だと準備で2、3日延長になるかもですが」
「その領主が救援を断ってきたらどうするのだ?」
「この世界の主神が神託で前触れを出しているそうです。柳生美咲先輩が神に選ばれた勇者なのです。この世界は神の加護が本当にあるので、神託に逆らう者はいないそうですよ」
「そうか、分かった。三週間は耐え忍ぶので必ず迎えを寄こしてほしい」
シェルターを完全に閉めれば、魔法でもびくともしないそうだ。爆撃を想定された防空壕の機能を備えているのだ、当然丈夫だよな。
錆武器しか持っていなかったので、錆びてない剣と槍を渡してあげた。
俺がなにかしてあげるのはここまでだ。
狸校長が随分謙虚だが、以前の美弥ちゃんたちとのやり取りを聞いていたので、つけ込まれたり騙されないように気を張っておく。
2時間ほどの話し合いで大体のことがまとまった。男子寮と教員棟が合併し、救援を待つことになった。
暫く全員連れて行けとごねられたが、高畑先生と美弥ちゃん先生が無理だと説得してくれた。
格技場の男子と剣道部女子を伴って調理室の方にやってきた。やっと夕飯が食べられる。殺人を行った俺の嫁たちが心配だが、説明は夕食のあとだと言われている。皆、ちゃんと食べられるだろうか?
人型のオークで多少は生物を殺す行為も慣れたとはいえ、人を殺すのとは訳が違う。俺が吉本を手にかけた時は、食欲が沸かなかった。この夕餉で少しでも気が紛れれば良いけどな。
「いろいろあったけど、今日の夕飯は先日桜と採取のとき遭遇して狩った猪の魔獣の上位種です。このお肉もオークションに懸けられるほどのモノらしいので、存分に味わいましょう。ではいただきます!」
「「「いただきます!」」」
良かった、全く食べないという娘はいなかった。でも箸のすすみは良くないな。
お肉好きの雅ですらあまり食が進んでないみたいだ。穂香だけは美味しそうにバクバク食べている。
格技場の男子は最初気まずい雰囲気に緊張していたが、一口食べた後はワイワイ言いながら食っていた。彼らのおかげで多少場の空気が穏やかになった気がする。こういう時は騒いで嫌なことは忘れて食った方が良い。
今日は前回と違い1時間ちょっとで食事会を終える。この後、皆から話を聞くためだ。
嫁たちの後片付けを免除してもらい、華道室に来てもらった。
「美咲先輩、あなたもかんでたんですか?」
「私は反対したのですけどね……最終的には皆の意思を尊重しました」
「妾も反対したのじゃぞ、でも皆の気持ちも分かるでな」
フィリアが首謀者じゃないのなら誰なのか?
「あれ? フィリアが首謀者じゃないのか? じゃあ、桜なのか?」
「ごめんなさい、私がフィリアちゃんに問いかけたのが発端なの」
美弥ちゃんが発端?
「美弥にこの世界の冒険者とはどういうものかとな……概ね美弥の知識と同じようなものじゃった」
「ん、シルバーランク以上には適正試験があって、その項目の中に殺人が必須事項になってるって聞いた」
「護衛依頼だと魔獣だけじゃなく盗賊が相手になることも多いからね。いきなり殺人はこの世界の住人でもできないそうだから、単独での護衛任務は経験者しかダメらしい。どこかのベテランパーティーについて行って、経験を積んだ者しかシルバーランクはもらえないようになってるみたいだね」
どうやら、俺が冒険者になって美咲先輩の勇者としての旅に同行するって話から、冒険者の話になったようだ。
「先生、皆に人殺しにはなってほしくはないけど、そういう甘い世界じゃないってのも理解しているから、皆の意思に任せたの。みんなで旅に同行して協力し、さっさとこの世界の問題を解決して穏やかに暮らしたいそうよ」
理解はできた、でもな~。
「俺はみんなに殺人という重い枷を嵌めてほしくなかった。できれば俺が建てた屋敷で大人しく俺たちの帰りを待っていてほしい」
「兄様、皆それは嫌だそうです。菜奈も嫌です。菜奈はその旅に連れて行ってくれるみたいですが、残された者は不安と心配で居た堪れないでしょう」
「敵が何かフィリアが言ったんだな」
「うむ、皆の決意は固そうじゃったからのぅ。教えてそれでもついてくると言うのであれば、お願いして力を借りようと思った。妾もさっさと終わらせて皆と屋敷で子育てがしたいのじゃ」
美咲先輩の相手、本来の勇者召喚の目的……邪神の討伐。
相手は曲がりなりでも神なのだ。本音を言えば危険なので連れて行きたくはない。
「龍馬君、気持ちは分かるけど過保護にしないで。私たちにもちゃんと考えがあっての行動なの」
桜に俺の心を見透かされて、先に制された。
「邪神といっても、奴そのものはまだ誕生したばかりなのでとても弱い。邪神は人の心が生み出すのじゃ。定期的にこれまでも約500年周期で誕生しておった。只、今回のは厄介での……邪気を放って相手の邪の心を増幅させて邪に染め上げて従属させてしまうのじゃ。邪に染まると、その者は仲間を増やそうとまた別の奴に邪気を放つ。そうやってねずみ算的に爆発的に増えていき、この3年で4カ国が邪に染まって落ちてしまったのじゃ」
「つまり敵は邪に染まった人間、4カ国分?」
「そうではない。邪気には型があっての。邪神が最初に従属させた、元から邪悪な人間が10人いるのじゃが、そやつらの邪気を浴びて増えた者は、その幹部ともいえる頭を潰せば、そやつらの下にいる配下全てが開放される。一番良いのは邪神そのものを倒せば全て終えるのじゃが、当然気配を殺して隠れて出てこない。守ろうとしてくる奴らもいるので、奴に辿り着くまでにかなりの人を殺さないといけないはずじゃ」
「ん、だからこれは私たちの試練だったの」
「龍馬君、私たちは皆あなたのことが好き。この感情が強い分、佐竹や教頭たちが許せない。この強い憎しみにも近い感情を持っているあいつらさえ殺せないようなら、いくら盗賊だといっても初めて会う奴らはきっと殺せない。まして邪神によって配下にされただけの知らない女子供を殺す事なんかできないと思うの」
「ん、今回話し合いで誰が誰を殺すか決めた。そしてちゃんと殺すことができた人だけ、フィリアの邪神退治に同行していいって決めた」
「殺せなくても良かったの。只、足を引っ張ることになるから、同行はしないしさせないって皆で決めたの。龍馬君に言うと反対するのは分かっていたから、今回はハブらせてもらいました」
桜のハブらせてもらったとの言い方に思うことはあったが、俺の一方的な意見は聞かないっていう、嫁たちの強い意思表示だ。
「で、その試練をクリアしたから邪神討伐にも同行するって言いたいんだね?」
全員が頷いている。やはり数の暴力だ……俺一人が反対しても通りそうにない。過保護にしないでと、逆に怒られそうな雰囲気だ。
一緒にいたい、帰りが何年かかるか分からないので、旅にも付いて行きたいという気持ちは嬉しいんだけどなぁ~。佐竹たちは既に眼中になく、その先を見越した試練の課題に利用されただけのようだ……嫁怖い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます