1-10-1 雅の刀?美咲の刀?

 出発前日、今日は全体的に皆ゆっくりするよう伝えてある。明日の出立のために英気を養ってほしいからだ。


 料理部員は体育館の皆に夕飯を差し入れるのだと、朝から調理に勤しんでいる。


 優・みどり・愛華・亜姫・沙希ちゃんは格技場のやつらの狩りに午前中は付き合うそうだ。回復魔法だけではなく、多少戦闘ができるようになりたいのだろう。教頭たちの暴言を聞いて、多少危機管理力が上がったみたいだ。良いことだと思う。



 朝食後に俺は雅に捕まった。


「ん! 出発前に武器造ってくれるって言った!」


 そうでした! おねだりしてくる雅はちょっと可愛いな。


「明日出発だから今日しかないか……じゃあ、今から造るか?」

「ん、どうやって作るの? 見てていい?」


「武器を造るところ見たいのか?」

「うん、自分の専用武器ができるところ見たい」


 フィリアと桜に出かけると伝え、グラウンドにやってきた。

 鍛冶場はログハウスに組み込んであるから、家を出すためにある程度広い場所がいる。


 ログハウスを出すと雅が驚いた。


「んんっ! 小屋!? 家? これ魔法?」

「見た目魔法だけど、実際は【インベントリ】内に出し入れしているだけなんだよ。流石にこの質量を【亜空間倉庫】に入れたとか思われたらやばいでしょ? 召喚魔法だってごまかすつもりなんだ」


「ん~、それでも変に思われると思う」



 中に入って雅は凄い凄いと叫びながら走り回って探索していた。


「ん! 龍馬とお風呂に入る! サウナ入りたい!」

「武器を造ってから入ろうか? 鍛冶場は熱いだろうから汗かくしね」


「ん、そうする」

「雅、鍛冶場に入るにあたって、注意事項がある。凄く集中するから俺の邪魔したら駄目だぞ。話しかけたら集中が乱れる。こっちから話しかけない限り、雅は一切しゃべっちゃ駄目だ。守れるか?」


 うん、とうなずきを返してくる。

 元々、毒舌だが無口な娘だ。心配はしていないが、注意はしておく。


「それと、どのくらい時間が掛かるかわからないけど、その間トイレとかの席立ちも控えるように。どうしても我慢できないならそっと静かに出て行くんだ。声はかけないようにね。トイレは先にすませておいてね」


 俺の造った魔道具トイレに驚いていた。

 俺のは使用後の【クリーン】で一発浄化が売りなんだよね。糞尿だけではなく、体や衣服も一緒に浄化でき、使用後のトイレ内の匂いも綺麗になくなる優れものだ。


 鍛冶場に行く前に雅の体をくまなく計測する。体に合った長さにするためだ。

 特に握りには細心の注意をはらった。計測後、柄の握り部分と鞘はナビーに丸投げした。


『ナビー、準備できてるか?』

『……はい。炉の温度も上がり既に2本差し込んで真っ赤に熱しています。すぐに打てますよ』


『ありがとう』


 残念ながら、ログハウスの鍛冶場の炉では、ブラックメタルを融解させるほどの火力が得られない。

 【インベントリ】内のナビー工房にある武器工房の鍛冶場で、基礎となる精錬を行い、不純物を除去してから刀の元になる長さの棒状にしてもらっている。


 後はそれを熱して叩いて、理想の形に整形していくのだ。


 俺は炉の前の椅子に座り、すでに熱せられ真っ赤に焼けた小太刀の原型をペンチの化け物みたいなやつで挟んで引き抜く。金床に乗せ、ブラックメタルの槌に魔力を込め、イメージどおりに仕上がるように想いをのせてぶっ叩く。錬成魔法にイメージをのせる俺独自の製法だ。形を整えながら30回ほどぶっ叩いたら再度炉に戻す。


 今度はメイン武器になる太刀の方だ。こちらはブラックメタルの純度が小太刀の方より高いので、かなり硬い。

 50回連続で叩いて再度炉に戻す。それを交互に繰り返し、刀に俺のイメージを叩き込んでいく。


 叩いては炉に戻すを繰り返し、5回目に小太刀の方がイメージの叩き込みと整形が終える。

 水に浸け一気に冷やし【インベントリ】の工房に預け研磨をしてもらう。


 太刀の方はまだ叩かないといけない。結構な重労働だが、後ろで雅の熱い視線が注がれている。可愛い娘に応援されているんだから頑張らない訳にはいかない。汗だくになりながら必死で叩き続ける。


 20分ほど叩き続けてやっとこちらも研磨にまわせる。研磨の終えた小太刀を取出し錬成魔法で仕上げに入る。その際に付与魔法でエンチャント強化も施す。最後の仕上げに刀の根元に俺作と判るように印を刻んで完成だ。


 一旦【インベントリ】に仕舞って鞘の方にも付与を施す。


 太刀にも同様の作業を施しやっと完成だ。2本同時だったので、3時間もかかった。


 うーん、ヤバい物ができてしまった。正直言うと俺もほしいかも。



「雅、できたぞ! 魔刀【魔食夜叉】(まじきやしゃ)と【魔切般若】(まきりはんにゃ)と命名した。どっちもヤバい」


 雅に2本の刀を手渡す。


「【魔食夜叉】は魔法を喰らう。火・水・風・雷の4属性だけだけど刀で受けることによって魔法攻撃を吸収して無効化できる。そして喰った魔法を任意のタイミングで吐かせることができるのが最大の特徴かな。石や氷のような物理魔法は吸収できないので注意するんだぞ」


 雅の目がめっちゃ爛々として武器を眺めている。


「【魔切般若】は魔法を切る。全属性を切り裂くから上手く扱えば無敵だぞ。最大の特徴は結界まで切れることだ。シールドを張られてもこれで切り裂ける。こちらは物理魔法でもなんでも切り裂けるから、使い勝手がいいはずだ。これで美咲先輩だけじゃなくて雅もシールド持ち相手に特攻がかけられるな」


「ん! 綺麗! どっちも凄い! これ2本とも貰っていいの?」


「勿論だ。雅は二刀流だしな。握りも雅に合わせて以前のモノより細くしてある。それと、どちらも少しだけ雅が使ってたロングナイフより刀身を長くしてあるので慣れるまでは間合いに注意するんだぞ。詳細はこんな感じだ」


 【魔食夜叉】(ミスリル70%・ブラックメタル25%・鋼5%)

  武器特性

  ・火・水・風・雷の魔法を剣で受けることにより吸収できる

  ・吸収した魔法は任意のタイミングで吐き出させることができる


  付加エンチャント

   ・魔法吸収

   ・吸収反射

   ・刀身強化

   ・重量半減



 【魔切般若】(ブラックメタル90%・ミスリル鋼5%・鋼5%)

  武器特性

  ・全属性の魔法を切断できる

  ・結界を切る事が出来る


  付加エンチャント

   ・魔法切断

   ・結界切断

   ・接触切断

   ・重量半減


 鋼が5%入ってるのは、融解した時に金属どうしが混ざりやすくなるからだ。


「ん! 龍馬ありがとう! 大好き!」


 雅に抱きつかれてディープなキスをされた。お子ちゃまなのに、マセてやがる。可愛いからいいけどね。

 頭を撫でてよしよしすると目を細めて気持ちよさげな顔をする。


「ん、刃紋が綺麗……黒い刀と燻し銀の刀。どっちもカッコいい!」


 かなり気に入ってくれたようだ。3時間も叩き続けて汗だくになり、かなり疲労も溜まってしまった。


「ん! お風呂の後、マッサージしてあげる!」


 脱衣所はかなり広く取ってあり、マッサージ台を造ってある。マッサージ台は俯せになっても、鼻が押し潰れないように、顔部分に穴が開いているのだ。流石に汗をいっぱい掻いたのでサウナはなしにした。これ以上汗を流したら脱水症状を起こすからね。


 入浴後の雅のマッサージは最高だった。

 【アクアフロー】を指に纏って指圧してくるのだが、小さな指がツボに刺さるように入って凄く効く。


「雅~上手いぞ~♪ さっきの疲れが全部消えたみたいだ~」


 お風呂で雅と遊んだ後、茶道室に戻ってくる。美咲先輩がきていて、雅の腰の日本刀を目敏く見つける。


「あれ? その腰の後ろにクロスに差しているのって日本刀じゃないですか? この世界にも日本刀はあるのですね?」

「ん! これはさっき龍馬が打ってくれた最強の刀!」


「あはは、雅ちゃん。最強なのは私が持っている、フィリア様が創ってくれたこの神刀だよ」

「ん! フィリアの刀より龍馬の刀の方が凄い!」


 何やら二人の間で譲れない何かのスイッチが入ったようだ。夕食の準備を終えた料理部員がなにやら喧嘩腰の二人を見に集まってきた。


「何をしておるのじゃ二人とも、下らないことで争うでない」


 場を収めにフィリアがやんわりと止めに入る。だがこれが却ってまずかった。


「ん! 下らなくない!」

「そうです! フィリア様の斬鉄剣の方が凄いに決まってます! 神刀ですもの、これが一番です!」  


「ん! 龍馬の刀の方が絶対凄い!」


 なにやら雅は分が悪そうで涙目になっている。


「困ったやつらじゃ、どっちも引かぬならお互いに打ち合ってみればよかろう? まぁ、妾が神力を込めて作り出した斬鉄剣には敵わぬだろうがのぅ」


 あ~あ、とうとう銘が『斬鉄剣』になっちゃったよ。なにせ作製者のフィリアが言っちゃったんだもん。


「ん! 龍馬! 打ち合ってもいい?」


 さっき造ったばかりだ、苦労を知っているので、雅はちゃんと俺に聞いてきた。


『……マスター! ナビーも興味があります! マスターがあれほど念を込めた魔刀が、フィリア様の神力を込めた神刀に劣らないとナビーは信じています!』


『いくらなんでもむちゃだろ? 雅もナビーも変に期待しすぎだ』


「仕方ないな、折られたら直してやるから、遠慮しないで本気で打ち合ってみろ。腕は圧倒的に美咲先輩の方が上だから、折られても気にする必要はないぞ。それと使うのは切断特化に造った【魔切般若】の方だからな」


「ん! 絶対負けない!」


 いや無理でしょ、フィリアが神の時に創った物だよ。神刀だよ、それと比べちゃ駄目でしょ。


 二人は対峙してお互いの太刀を抜き、互いの武器を切るつもりで刀を打ち合った。

 キンッと金属の高音質な音が茶道室に響き渡る。


「「「ああああっ! 折れた!」」」


 そこには勝ち誇ったような薄ら笑いを浮かべ、高々と【魔切般若】を天に突き上げるポーズの雅と、折れた刃先を手に持ち泣き崩れた美咲先輩の姿があった。


『……やりました! 流石ナビーのマスターです! 圧勝です♪』



「嘘じゃろ? 妾の神刀が龍馬の刀に折られたのか?」


 雅は打ち合った刃先の刃こぼれを気にしていたが、暫く眺めていた後にこう言った。


「ん! 刃こぼれ1つない!」


 俺の刀を頭上に掲げ、勝鬨を上げる。


「神の頃に創った物が、龍馬の造ったものに劣るとは……なんて奴じゃ!」


「フィリア様! 明日の出発までに斬鉄剣を直してください!」

「うっ、煽っておいてすまぬのじゃが、妾にはもう神力が使えぬので直せぬのだ。どうしたものかの」


 暫く折れた刃先を持って泣き崩れていた美咲先輩が急に立ち上がった。


「そうだ! 龍馬君、私にも雅ちゃんと同じモノを打ってください! フィリア様のより優れているのですから私もやはりそっちが良いです!」


 それを聞いたフィリアが半べそをかいている。だが仕方がない、腕は美咲先輩の方が遥かに上なのに、雅に一太刀であっけなく折られてしまったのだ。しかも俺の刀は刃こぼれ1つしていない。圧倒的にポテンシャルに差があるのだ。


『ナビーどういうことだ?』

『……フィリア様のイメージしたモノより、マスターがイメージしたモノの方が上だったってだけです』


「兄様! 菜奈も斬鉄剣が欲しいです!」

「龍馬君! 私も欲しいわ!」


 菜奈と桜に懇願されてしまった。



 佐竹たちが気になるが、その前に5本ほど新たに刀を造ることになった。

 だがこれだけは言っておく【斬鉄剣】じゃない! 【魔切般若】だ!

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