1-9ー7 佐竹たちの目論見?嫁たちの目論見?

 各リーダーが帰った後、料理部のみんなに相談しようと再召集をかけた。


「ちょっと聞いてほしい案件が発生したので、再度集まってもらった。いま佐竹たちが女子の流出を阻止しようと教頭たちとコール機能で密談をしているみたいだ」


「兄様はその情報をどこで手に入れたのですか?」

「これは菜奈でも内緒かな。そのうち話してやるけど、いまはまだ駄目だ」


「分かりました。フィリアも知らないのですよね?」

「妾は知っておる。じゃが、前にも言ったとおり女神時分に神眼で見たものは話さぬぞ。プライバシーの侵害というやつじゃ」


「菜奈の秘密はばらしたくせに……」

「なんのことやらさっぱりじゃ」



「で、どうなの? あいつらの目的は女子なの?」


 怖え~~! 桜が殺気の孕んだ声で俺に質問してきた。

 俺一人で解決しようとしていたらきっと後でこっぴどく叱られただろう。

 相談しておいて良かった。以前に佐竹に俺は関わるなと言われていたので、これで良かったのだ。それにいきなり女子を襲ってくる可能性もないとはいえないので、皆に警告しておいた方がいい。


「うん。女子がいなくなったら、純血の地球人がいなくなるとかほざいてるね。自分たちの子供を沢山生ませて、純血の地球人をこの世界に増やしたいらしい」


「何それ? 思考がオークと一緒じゃない! 女を産床ぐらいに考えてるの?」

「男としては佐竹たちの気持ちも、多少分からなくもないけどね」


「兄様、只エッチしたいだけじゃオーク以下だよ」


「男ってどうしようもない生き物ね!」

「まぁ、そうなんだけど、なんか申し訳ない」


「あなたのことを言っているのではないのよ?」


「あの、龍馬先輩と桜先輩の雰囲気がそこはかとなく甘く感じるのは気のせいでしょうか?」

「えっ!? 何言ってるの沙織ちゃん! そんなことないわよ? いつも通りよ!」


「「「怪しい……」」」


「あうっ……もう、仕方ないわね。実は今日正式にプロポーズしてもらっちゃった! とっても素敵だったのよ! ほらこれ見て見て! 凄く幻想的でしょ! 手料理をご馳走になった後、とってもいい雰囲気の星空を見せてもらった後の演出がまた凄いのよ! 私、凄く感動したわ!」


 お~い、桜さん。佐竹の話そっちのけで今日の俺のプロポーズの話を自ら語りだした。

 恥ずかしいとか言ってたのに、プロポーズの件は言いたかったのかよ! 俺のほうが恥ずかしいからもう止めて!


 だが俺のプロポーズは概ね皆からも高評価のようだ。

 皆が桜におめでとうと声を掛けて祝ってくれている。桜もなんだか嬉しそうなので、ちょっと恥ずかしいけどまぁいいか。


 だが、不機嫌になった者も数名いる。その代表者がキレた。


「ずるいのじゃ! 妾の時はなし崩し的に仕方なくって感じじゃった! この差はあんまりじゃ! 妾は其方にやり直しを求むのじゃ!」


 片手を腰に当てもう片方の手の指をビシッてな感じで突きつけて、涙目で睨みながら言ってきた。


 ちょっとその仕草可愛い。


「いや、フィリアにはホント申し訳なかったと思っている。万が一の話だけど、今後なんらかの原因で嫁バトルが勃発したとして、俺に誰か一人を選べという事態が起こったその時は必ずフィリアを選ぶからプロポーズの件は許してほしい」


「それは妾が一番好きということで合っておるかの?」


「今の発言はもの凄くショックだわ!」

「「そうです! あんまりです!」」


 他の婚約者たちがちょっと不機嫌になった。うん、俺ミスったね。

 でも、本心なので仕方がない。


「ごめんよ、皆それぞれ好きなところがあるので順位なんか付ける気はないけど、一人だけという条件を付けたらフィリア一択なんだ」


「兄様はそれほどフィリアが好きなのですか?」

「うん。沙織ちゃんや穂香ちゃんと同じなんだろうね。ただの依存かもしれないけど、俺には絶対フィリアが必要なんだ」


「「「ああ~ね……」」」


 俺の事情を皆知ってるだけに、納得したようだ。つまり命の恩人ってことなんだと思う。依存心からくるものかも知れないが、人が惚れるのに十分な理由だ。 


「もうこの話はお終い! 今は佐竹の話だ! なにやらあいつらの話に進展があったみたいだ」

「「「忘れてた……」」」


 俺はいまナビー経由で奴らをモニターしている。網膜上で右上あたりに奴らの音声付動画をリアルタイムで流して監視しているのだ。奴らの会話を聞きながら、こちらの会話もできるのは、勿論スキルのおかげだ。

 聖徳太子のような生まれ持った才能ではない。【並列思考】と【高速思考】のパッシブの効果なのだ。


「初期の頃は、俺を寮内で殴ってた先輩を含めた7人のPTだったようだけど、現在奴らの主戦力はたった3人。男子寮はこの3人で守ってきたみたいだ」


「「「ええ!?」」」


 ・佐竹 学  Lv29 1stジョブ:剣士   2ndジョブ:アサシン

 ・田中 健二 Lv29 1stジョブ:賢者   2ndジョブ:拳闘士

 ・山本 浩司 Lv29 1stジョブ:魔法剣士 2ndジョブ:賢者


「どういうこと? なんでそんなにレベルが高いの?」


「中庭で行った死体の処理の時、男子寮から派遣されてきた奴らのステータス覚えているか? 皆低かっただろ? 男子寮はこの3人以外は皆低レベルのヒーラーだ。つまり最低限の回復魔法を習得したら、その時点でもう頭打ちにされて、経験値は全てこの3人で独占したんだよ。女子寮より巣に近いんだ。それを凌いだって事は、かなりの数を3人だけで倒したんだと思う」


「強いの? 龍馬君勝てる?」

「何を言っておるのじゃ。桜一人で圧勝じゃぞ? 其方も龍馬からもらっておるのじゃろ?」


「ええ、そっか~余裕なんだね?」

「うん。負ける要素は全くない。だけど奴らは俺たちより自分たちの方が強いと思っているようだ」


「なんで佐竹たちはそう思ったの?」

「田中と山本は俺のクラスメイトで、俺を毎日蹴っていた奴らなんだけど、田中のスキルに【人物鑑定】ってスキルがあるんだよ。奴はこれをLv10にしてある。これを習得する理由はいろいろ考えられるけど、有用な効果として、【隠蔽】を見破れるというのと、相手の手持ちスキルを全て見れるってことかな」


「情報が知られて戦略的に不利になるのね? 他にはどんな効果があるの?」


「妾が答えよう。おそらくそ奴の本心は、女子たちのプライバシー的なことを覗きたかったのじゃろう。Lv10にもなれば、スリーサイズは勿論、処女判定も恋人の有無も、果ては自慰回数まで判ってしまうのでな」


「フィリア、チョット待って。どこからそんな情報が漏れるの? いくらスキルでもおかしいでしょ?」

「フム、この世界の全てを監視しておるユグドラシルシステムから情報が流れるのじゃな。本来【人物鑑定】などのようなスキルは、神官や審問官などのような徳のある高潔な人物にしか与えられぬスキルじゃ。お主らはAPポイントを振れば得られるのでな、悪人でも容易に獲得されてしまうのじゃ」




「本題に戻るよ、前回教頭たちと体育館で揉めた時、最後に俺がやり過ぎちゃったんだよね」

「あ、分かった。Lv63にして脅したのがバレちゃった?」


「まだバレてないけど、100%嘘だと思っているようだね。MMO経験者なら分かると思うけど、雑魚を幾ら狩ってもある一定のレベルを超えたら同じエリアの魔獣を狩っても殆ど上がらなくなるんだ。せめてLv40位にしておけばよかったのに、俺、脅すためにLv63とかにしちゃったからね。この辺の魔獣のことを考えたら絶対ないよね。教頭たちの情報とすり合わせて、俺たちのレベルが嘘だって疑ってるんだよ」


「それで、奴らは何を企んでおるのじゃ?」

「ん、もういい。私が今から行って斬ってくる」


「こら、雅。お前はなんて危ない娘に育ってしまったんだ。お父さんは悲しいぞ」

「ん、龍馬のあほ!」


「イテッ! なんで蹴るんだよ?」

「ん、子供扱いスンナ! 私は龍馬のお嫁さんなの!」


「これ、話が進まぬじゃろ」

「ああ、ごめん。奴らは明日早朝から狩りに出てレベルを30に上げて3rdジョブを獲得して戦力アップを狙っているみたいだ。教頭たち3人もレベル20に成っているようで、佐竹たちが帰ってきたら6人のPTを組む予定みたいだね。泉本の持ってる汎用型の【鑑定】魔法じゃ【隠蔽】は見破れないけど、田中が持ってる対人特化型の【人物鑑定】なら【隠蔽】も解除したレベルが見れるから、その後いけそうなら俺を殺すつもりのようだ。メインは佐竹が持っている暗殺スキルだね。佐竹は俺との戦闘を想定したスキル構成みたいだ。この世界に来た時点で俺に復讐されるかもって自覚はあったようだね。毒やら麻痺やら、持ってるスキルが対人特化だ。【身体強化】も皆、レベル10にしてあるみたいだね」


「レベルが自分より下なら龍馬君を殺す気ってこと?」

「そのようだね。でも、俺が持っているのは【隠蔽】スキルじゃなくて俺オリジナルの【フェイク】ってスキルなんだよね。【人物鑑定】でも見破れない。だって隠しているんじゃなくて表記そのものが嘘なんだもん。なので今から皆のステータスをLv18ぐらいに弄って、個人情報も別のスキルで隠しているような設定にしておくね」


「龍馬よ、わざとレベルを下げて見せるのは、襲わせる気でいるのじゃな?」

「女目的で俺を殺そうとしてくるくらいだ。どこかで決着をつけなきゃ、誰かが奴らの犠牲になるかもしれない。それが、フィリアや菜奈や桜たち、ここにいる誰かだったら俺は死ぬほど後悔する。美咲先輩と使徒として旅に出たときに残った誰かが奴に襲われるかもと思うと、いま此処で決着をつけておきたい。みんなのおかげで、もう私怨で殺そうと思ってるんじゃないんだ。奴の方から仕掛けてくるというのなら迎え撃つ」



「龍馬君、あなたは何もしないで……私に任せてほしい」

「兄様、私たちに任せてください」

「ん、龍馬は手出ししないで」


「くくく、嫁たちがたのもしいのぅ。妾も参戦するぞ! 龍馬は見ておれ!」

「「私もです!」」


「沙織と穂香は無理するでない。妾たちに任せておくのじゃ」

「「嫌です!」」


「仕方ないのぅ。困った嫁たちじゃ」



 う~ん、彼女たちは俺に何もさせないつもりのようだ。それまで黙っていた未来ちゃんと美弥ちゃん先生まで加わってなにやら7人でこそこそ話し合っている。


 どうしたものかな~。


「ミャン!」

「ハティ~~お前は可愛いな~。モフモフで良い手触りだ。りんごジュース飲むか?」


「ミャン! ハフハフ」


 凄く嬉しそうだ。

 尻尾がブンブン振られ、俺の手に尻尾の毛がファサファサ触れて気持ちが良い。

 ああ~癒される。


 ひそひそやってる嫁たちの側で、蚊帳の外にされた俺はハティと戯れるのだった。

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