1-9ー6 全員移動?衝突の気配?

 現在の時刻は午後7時半、8時よりリーダー会議の予定なのだが、桜とのお泊りチャンスは逃せない。


「ねぇ、桜。今日8時からリーダー会議なんだけど、明日にしてもらって、このままお泊りでもいいかな?」


「う~ん。私も最初そのつもりだったのだけど、でも今ならまだ間に合うのよね?」

「そうだね、転移魔法で帰れば一瞬だし」


「本当は思い出作りにお泊りしたいけど、帰ってもらってもいい?」

「どうして? 泊まりたいって気があるなら、俺的にはぜひ桜と1泊したいんだけど?」


「龍馬君は良いだろうけど、私が排卵周期だってこと、みんな知っているのよ? なんかみんなの心の声が聞こえるのよ。『やっぱあの娘も性衝動に負けちゃったんだ』みたいな」


「桜的には変に噂されて、排卵周期の発情に負けてお泊りしてきたみたいな言われ方が嫌なんだね?」

「うん。凄くそういうの嫌だし恥ずかしい。料理部の娘たちなら龍馬君の良さが分かっているからお祝いしてくれるだろうけど、体育館にいる女子の中にはかなりの数で僻みや嫉妬交じりの揶揄があると思う。井口さんのことで、まだ誤解している人も多いだろうしね」


「よし、帰ろう! 俺も桜が変に言われるのは嫌だ。今日は満足できたし、お泊りはもういつでもできるしね」

「ありがとう龍馬君。そういう気遣いがちゃんとできるところも素敵よ」


 外に出てログハウスとマーキングしていたソーラーライトを回収する。


「このログハウスの召還魔法も欲しいな。これ凄いよね」

「ああ、これ召還魔法ってことになってるけど、本当のところは只【亜空間倉庫】から出し入れしてるだけなんだよ」


「え? どういうこと?」

「ほら、俺のは【インベントリ】っていう、重量無制限のオリジナルでしょ? どんなに大きくても関係ないんだよね。でも、将来的に冒険者になって家なんか出してたら大騒ぎでしょ? 少しでも無制限収納のことをごまかすために、出し入れの際に適当にそれっぽい魔方陣を出して、取り出し可能エリアを分かりやすくしただけなんだよ。コピーした桜の【インベントリ】でも、魔方陣は出ないけど、ログハウス自体は収納可能なんだよ」


「え~、そうなの? 試しに保管してみていい?」

「うん。普通に物を出し入れするようにすればいいけど、取り出し時にそっと置くイメージで出してね。じゃないと、衝撃で家が壊れちゃうから」


 川からずれた、少し広い空間で何度か出し入れして桜は満足したみたいだった。


「本当に丸々家が入っちゃうんだね。【インベントリ】凄いチートなんだ」

「知られるとまずいっていうのは分かるよね?」


「うん。冒険者や特に商人に知れたらいい運び屋にされちゃうね」

「国のほうがヤバいと思うよ。戦争時、兵糧の輸送が凄く大事なんだけど、その問題がたった1人で解決しちゃうんだ。腐らないで大量の食糧を確保できるとなると、籠城戦でも負けないしね。隷属魔法で縛ってでも確保したいだろうね」


「うわ~。想像しちゃった。かなりの確率でそうなりそうだね」

「だから、俺のヤバめのスキルを渡す人は、それなりの戦闘力もないとあげられないんだ。最低自己を守れないとね。まぁ、仲間に何かあったら速攻で俺たちで助けに行くけど」


「うん。料理部の娘たちのこと、これからもよろしくね」

「今日コピーしてあげたスキルも、追々説明してあげるからね」


「ええ、お願いします。なんか、教員棟の奴等がきても負ける気がしなくなったわ」

「でも、油断大敵だよ。キング戦の時【王の咆哮】ってスキルで俺一瞬ヤバかったでしょ? ああいうイレギュラーなこともあるんだから、どんな未知のスキルがあるか分からないし、警戒心は常に持っていてね」


「了解です! 今後もいろいろ教えてね」




 転移魔法で華道室に飛ぶ。

 すぐに菜奈がやってきて、俺と桜の二人をジトーっとした目で睨んでくる。


「お帰りなさい兄様……と、盛りの付いた泥棒猫」

「はぅっ……菜奈ちゃんが小姑に!」

 

「こら! 菜奈その言い方は駄目だぞ! 失礼にもほどがある!」

「でも! 菜奈の兄様をそのバインバインで誘惑して!」


「嫉妬も分かるが、自分たちでシェアという選択をしたのだろ? そうやって悪態ついて和を乱すようなことをするなら菜奈は外れてもらうよ?」


「それは嫌です! 桜先輩ごめんなさい。でも、菜奈が16歳になったらちゃんとお嫁さんにして菜奈も愛してくださいね。じゃないとみんな刺して菜奈も死ぬからね!」


「なんで、みんな刺すんだよ! お前は発想が危ないんだよ!」

「だって菜奈だけ死んで、残った娘は兄様と幸せに暮らすとかないし! それならみんな道連れにしたほうがいいもん!」


 怖えーよ!


 困ったちゃんはほっといて書道室に行くと、既に各リーダーが揃っていた。


「遅くなりました、もう集まっていたのですね」


「少し早く来ただけだから気にしないで」

「日も暮れてるのに随分遠出したんだな龍馬?」


「うん、川辺で夕飯を食べてきたんでギリギリになっちゃいました。そうだ、今回格技場の男子にはうちの子たちがレベル上げでお世話になったので、今日狩った猪肉を夜食に持たせてあげますね。スタンプ・ボアの上位種でめっちゃ美味いですよ?」


「おお! いいのか? なんか気前がいいな?」


 おっと、桜との情事でちょっと浮かれているようだ、気を付けよう。


「あの~、うちにはないのかな?」

「流石に体育館には渡せるほどないです。人数絞ってとかになるとトラブルのもとですしね」


「仕方ないか……」


「龍馬先輩、私たちにはないのですか?」

「料理部の分はちゃんとあるよ。前に食べた奴より凄く美味しいから明日の夕飯にでもしようね。桜に渡しておくから、皆で明日の夕飯はちょっと豪華な料理にしよう」


「「「は~い!」」」


「龍馬? 贅沢できるほど余裕ないんじゃないのか?」

「ここを出たら暫く移動が続くので、手の込んだものは作れません。できあいのものと保存食の食事になりますので、豪華な食事は明日が最後です。移動中は暫く我慢ですね」


「そうか、明日の夕飯なんだけど……」


 三田村先輩が言いにくそうにしているが、言いたいことは分かる。だが俺の一存では決められない。茜と桜のほうを見ると……うんと頷いてくれる。皆まで言わずとも察してくれたようだ。


「料理部で、格技場の男子が明日の夕飯に混じるのが嫌な娘っているかな? レベル上げで何人かがお世話になったから招待してあげたいと思うのだけど、嫌って人はそっとメールででも良いから俺に教えてくれる? 匿名で名前とかは出さないから、遠慮しないでね?」


 どうやら、反対者はいないようだ。


「三田村先輩、皆の許可が下りたので格技場の皆と剣道部の女子たちも招待しますね」


「そうか! みんなありがとう! 保存食だけじゃホントにきつくてな。みな喜ぶと思う」


「いいな~、はぁ~仕方ないか。流石に100人以上となるとね」

「高畑先生ごめんなさい。流石にその人数は賄い切れません」


「龍馬君ちょっといい? 肉たっぷりポークカレーなら大丈夫だよ? お米は大量にあるし、カレールウは毎日食堂で出てる定番メニューなので、ストックが大量に保存されていたの。それで良ければ提供できるわよ」


「そうなんだ? でも茜の方で作ってあげるの? それとも材料だけ渡してあげるの?」


「明日の予定で特に仕事がないのなら、料理部で振舞ってあげたいんだけど駄目かな?」

「ああ、全然問題ないよ。材料の残量管理は任せてあるんだし、そっちで問題ないなら、食べさせてあげて。その方が出発準備の気合も入るでしょう」


「ありがとう小鳥遊君、竹中さんも口添えありがとう。おかげで明日は美味しいものが食べられそうだわ」

「どういたしまして。料理部で腕をふるって、持っていきますね」



『念話ってこれで良いのかな? 龍馬君、聞こえてる?』

『桜? どうした?』


『あ、これで良いのね。うん、【インベントリ】だけど茜にもコピーしてあげられないかな? ダメ?』

『そうだね。【インベントリ】はコピー制限50になってるからあげても良いよ。でも、便利だからあげるって訳にはいかないんだよ? こっちは善意のつもりでも、あげたせいで悪人に目を付けられて、危険な目に遭う可能性もあるんだ。さっきも言ったけど、渡す相手に危険があるってちゃんと理解してもらって、尚且つ秘密厳守してくれる娘で、最低限自衛できないとね』


『そうでした。便利だからって渡してたら危険だったね。茜にはあげたいけど、茜の戦闘力じゃ自衛はちょっと厳しいね』


 今の茜はC班の中でも一番戦力が低い。料理スキルとか取ってる変わり者だ。戦力が低い者に、人に狙われるようなスキルをコピーするのは危険が伴う。俺と暫く一緒に暮らすとかなら良いのだが、町について生活が落ち着いたら、主力メンバーはフィリアと美咲先輩を伴って勇者のパーティーとして行動するのだ。ずっとついて守ってはやれない。



「ところで肝心な残留希望者のことですが、誰か残りたいって人はいましたか?」


「いいえ、教頭たちの動画を見てるでしょ。あれ見ていて残りたいと思う人はいないでしょうね」


「龍馬、ちょっといいか? もし今から教員棟に残ってる女子や、男子寮に残ってる女子が体育館の方に移籍したいと言ってきたらどうするんだ?」


「三田村君と同じ意見がうちのほうでもでたわ。小鳥遊君としてはその辺どう考えているの?」


「これまでに何度も危険性は教えましたし、直前になって言ってきてももう今更です。判断が遅いと言うより、馬鹿は足手纏いです。明日言ってきたとして、それからその娘たちのレベルアップなんかやってられませんし、知ったこっちゃないです。俺的には置いて行くの一択しかないです。例外として自分で【身体強化】Lv5を獲得してきた者は連れて行ってもいいですけどね」


「冷たいようだが俺もその意見に賛成だ。格技場の者たちもそういう結論になった」

「うちは100人近くいるので、それでも見捨てていくのは可哀想って意見もあったけど、最終的に放置って結論になってるわ」


「そういう話し合いもしてくれてたのですね。トラブルの元は先に潰しておいた方がいいですから助かります」


「じゃあ、今日のリーダー会はお開きでいいのかな?」

「ですね。特に他に問題がないのなら、今日はこれで終わりです。お疲れ様でした。明日は狩りに出るのは午前中までにして、できるだけ体を休めて英気を養ってください」


「分かった。また三人借りてって良いか?」

「本人たちが良いなら構いませんよ」


「「「行ってきます」」」

「だそうです。護衛のほうよろしくお願いします」



 三田村先輩に夜食の約束をしたが、明日の夕飯にくる話になったので今晩の夜食はなしになった。が、本人は明日料理部の女子と合同のほうが嬉しいようだ。



 会議も終わり、自室の茶道室で寛いでいたら、それまで黙っていたナビーが不快なことを言ってきた。


『……マスター、佐竹たちが女子の出立を聞きつけて、それを阻止したいようです』

『阻止? 止めてどうするんだ? ここにいても先はないだろうに』


『……女子がいなくなることが腹立たしいようです。あまり先のことまでは考えていないようですね』

『どうする気だ? この人数相手に男子寮の男だけではどうにもならないだろ?』


『……マスターさえ排除すれば何とかなると思っているようです。教頭たちに連絡して、マスターを囲んで狙い打つ気なのかもですね。まだ話し合ってる途中なので、どういう計画になるのか未定ですが逐一報告しますね』



 これまで大人しくしていた佐竹たちが、女子がいなくなると知ったとたんに仕掛けてくるようだ。


 どうしたものかな……フィリアや桜たち料理部の娘のおかげで、俺は今とても満たされている。こちらからどうこうする気はないが、向こうから仕掛けてくるというなら容赦はしない。


 少しナビーに監視させ、桜たちに相談しようと思う。

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