女神様から同情された結果こうなった

１－３－９ 沙織の恋の行方？体育館騒乱？

　椅子から解放されたのはいいが、俺は沙織ちゃんが気になってしょうがない。

　あのなんともいえない排卵周期中の芳しい香りのせいもあるが、誰が見ても美少女と言える娘に告白されたのだ。気にならない方がおかしい。

「沙織ちゃん、告白してくれてありがとう。フィリアは慈愛の女神とか得意げに言っていたけど、あれ極論だからね。信じちゃダメだよ。男は沙織ちゃんクラスの美少女の告白なら、大抵喜んでOKすると思うよ。でも、流石に知り合って殆ど会話もしてない娘なのに３日めで即OKとなると、フィリアの言うとおり下心があるような奴だと思うから注意してね」

「下心って具体的にどんなことですか？」

「よく知りもしないのにOKとか……まず好きとかいう以前に、可愛い沙織ちゃんとただエッチがしたい体目当てが考えられるね。見た目だけで判断したってことだからね。後は可愛いからとりあえずキープとか、可愛けりゃ何でもいいとか、沙織ちゃんにとってあまりいい結果になると思えないよね」

「うーん、でも付き合ってみてからの判断で良いのではないですか？　付き合ってから断られるなら仕方ないですけど、付き合う前から特に理由もなく交際を断られるのは、好きな方からすれば嫌です。男の子がエッチなのは個人差こそあっても全員そうなのでしょ？　最初は体目的でも女の子の方でその辺は上手くあしらえば良いのではないですか？　関係が深まる前にすぐ求めてくるような嫌な感じの人なら、今度はこっちからやっぱごめんなさいすれば良いのではないでしょうか？」

「おお！　沙織ちゃんの方が、フィリアなんかよりずっと経験豊富な恋愛マスターみたいだね！」

「何言っているんですか！　私、誰とも付き合ったことないですよ。恋愛マスターとか変な称号与えないでくださいよ」

「あはは、でも沙織ちゃんが言うように、付き合ってみないとその人の良さも分からないよね」

「あの、やはり今付き合ってくださいって言ったら、ごめんなさいですか？」

「答えを今すぐって話ならそうなるね。俺、フィリアに一生かけて恩返しするって言っちゃってるからね。少なくても、フィリアがこの世界で人間として自立生活できるようになるまでは世話するつもりだ。妹の菜奈もいるし、あいつの兄様ラブもちょっと頭が痛いとこだけど、どうしても引かないようなら何か考えてやらないとね。無下にはできないよ。沙織ちゃんに変に気を持たせて長く待たせた後にごめんなさいは流石に気が引けるから、こんな美少女の告白もう二度とないだろうけど、どう考えても勿体ないけどやっぱごめんなさいかな」

「あう、フラレちゃいました……」

「じゃから待てと言っておるじゃろうが。龍馬よ、妾と菜奈がおらなんだらOKなのじゃろ？」

「……そうだね。正直見た目は排卵周期中のとっても良い匂い嗅いじゃってる今は、すぐにでも押し倒したいレベルで好みなんだよね。性格もまだあまり分からないけど、あのオークの時、俺を巻き込まないようにしたこととか凄く良い印象しかないしね。断る理由はないよね」

「妾たちのことはおいといて、町に着くまでは沙織をよく見て観察するのじゃ。今のこの落ち着かぬ状態じゃ、恋愛どころではないじゃろうからの」

「だよな、沙織ちゃんもそれでいいか？　何年も待たせるのはあれだけど、せめて町に着くまで待ってほしいかな。やっぱすぐ断るのは勿体ないぐらい好みなんだよね」

「そう言ってくれるだけでも嬉しいです！　いくらでも待てますので、その間に好きになってもらえるように頑張ります！」

　くっ～～やっぱこの娘可愛いよな～。

「実に良い娘じゃの。沙織よ、心配せず妾にまかせておれ」

　なぜか第三者のフィリアがやたらと介入してくるが、俺に初めて恋人候補ができた。沙織ちゃんは可愛いからめちゃくちゃ嬉しい。

「龍馬君、どうしても気になることがあるからちょっと聞いていい？」

「なんです美弥ちゃん先生？」

「中庭での一件だけどね。あれほど龍馬君は自分の手の内を晒すのを嫌っていたのに、どうして皆の前なのにスキルを使ったのかなって思ったの。しかも無詠唱で同時に４つ魔法を放ったよね？　それってかなりの情報開示だよ。感情に任せて咄嗟にやったと思えないからどうしてかなって？」

「それは私も感じたわ。龍馬君、私も聞きたい」

「ん、変だった」

「フィリアなら分かるか？」

「ということは、やはり理由があるのね？」

「正直妾にも分からぬが……ひょっとしたらという考えはあるの」

「へー、聞かせてくれるかな」

「佐竹への牽制？　違うかの？」

「正解！　俺の想定では牽制よりもっと陰湿で悪質な意味があるんだけどね」

「どういうこと？」

「みなで考えてみてよ、教頭にやったことも同時に踏まえてね」

「あ！　うわ～……龍馬君黒いね！」

「えと、兄様どういうことですか？　菜奈にも教えてください」　　

「俺は皆が見てる前で、わざと残虐に教頭の目玉をくり抜いたんだ。圧倒的な戦力差の後に、俺はかなり恨んでますよアピールだ。佐竹たちや俺の担任や無視してきた教師たちは今頃どう思っているだろうね？」

「あ！　龍馬君真っ黒じゃない。それで教頭先生にあんな残虐にしたの？」

「だね。今頃次は自分かもってプレッシャーで思い悩んでくれれば俺の思惑通りなんだけどね。美弥ちゃん先生的に見てどうこの作戦？」

「正直可哀想なくらいかな。佐竹君はともかく、龍馬君の担任の先生は恐怖で今頃胃がキリキリしているんじゃないかしら」

「でも皆との約束通り、これ以上は俺の方から仕掛けないから安心して」

　その時、何人かの【クリスタルプレート】がメールやコールの通知を知らせたのか、各々メールを見たりコールに出たりしている。何かあったのだろうか？

　皆の様子を窺ってると、俺の【クリスタルプレート】にもメールが届いた……バスケ部の高井からだ。

　文面を見て俺は愕然とした。

　内容はこんなだ、『先輩たちがおかしくなった、白石助けてくれ！　止めに入ったけど俺も切られてもう動けない。真っ先に止めに入った江口はキャプテンに殺された！　先輩たちが女子を何人も襲っているんだ！　早く来てくれ！』これが高井からのメールだった。

　この【クリスタルプレート】は凄く高機能で、わざわざ手入力しなくても、頭で思い浮かべた文面がすぐに文章化される。【クリスタルプレート】を出さなくても、網膜上でも確認できるのでメールならこっそりバレないように送信できる。

「龍馬君！　バスケ部が女の子を襲ってるって連絡が来たの！　どうすればいい!?」

「美弥ちゃん先生に来たメールはどう書いてたんだ？」

「バスケ部の藤井君が、バレー部の１年の女の子を皆の前でレイプしてるって！」

「他に詳しい情報を持ってる人いるか？」

「龍馬先輩、今、私の【クリスタルプレート】が体育館にいた女子とコール機能で繋がっています！」

「オープン通話にしてもらえるか？」

「はい、どうぞ！」

「小鳥遊という者です。少し聞かせてほしいが、いいですか？」

『はい！　早く助けてあげて！』

「今、そっちはどういう状況です？　話せる状態なら、何がそっちで起こっているのかできるだけ詳しく教えてほしい」

『分かりました。今、私たちは教員棟に向かっているところです。ブスはいらないと言って、女子20人が体育館から放り出されました。でも放り出された私たちは被害に遭わなくて内心ホッとしています。中に残された女子がどんな目に遭ってるかと思うと……』

「えっ！　どうしてそうなったのか、経緯は説明できる？」

『中庭の弔いが終わって帰ってきてから、バスケ部員たちは凄く機嫌が悪かったのです。夕食の時に女子バレー部の２年のキャプテンが藤井君にこう言ったのがきっかけでした。「女子寮と料理部は白石君が大きな猪を狩ってきて、キノコと一緒に鍋に煮込んで美味しい夕飯を食べたそうよ。あなたも白石君を見習って、何か美味しいお肉を狩ってきてよ」と言ったのです』

「あちゃー、きっかけは俺かよ。中庭の一件も引きずっての暴挙か……」

『それでバスケ部の奴らはますます機嫌が悪くなり、そのうちバレー部女子とバスケ部の口論になっちゃったのです。元々この２つの部は、体育館のコートの権利で何回も揉めててあまり仲良くなかったのですが、口論中に１年の女子が藤井君の「ちび」という暴言に怒って殴っちゃってからことが深刻化しました。彼女はバレー部で一番背が低いのを凄く気にしていたので当然だと思うのですが、それに逆切れして藤井君がその娘を殴り返して吹っ飛んだのです。倒れた拍子に制服だった彼女のスカートがまくれて下着が見えてしまったのですが、倒れた先の近くにいた３年のバスケ部の先輩が興奮して、その娘を「こいつなんかめちゃくちゃいい匂いがするぜ」とか言いながらいきなり抱き付いたりしだしたのです』

「その抱き付かれた１年の女子って、ひょっとして排卵周期に入っていた？」

『そうです。それで止めに入った江口先生とバレー部男子数名がバスケ部男子と揉み合いの喧嘩になって、そのうちにバスケ部の藤井君が剣を抜いて……先生が切られて殺されちゃいました。高井君もまさか殺すと思ってなかったようで止めに入ったのですが、殺されないまでも高井君もかなり深手を負ったみたいです。一緒に止めに行ったバレー部男子も何人生き残っているか今は分かりません』

「じゃあ現状体育館にいるのは何名だ？」

『バレー部女子２人、バスケ部女子２人、白石君が助けて連れてきた女子９名、バスケ部男子４人？　体育教師の吉本先生？　バレー部男子？です』

「自信なさげなのは生存が怪しいってことだね？　体育教師の吉本は江口が助けようとしてた時何してた？」

『誰か見てないか皆に聞いてみます――――……何もしてなかったみたいですね。少し離れたとこからじっと見ていただけのようです』

「そうか、ありがとう。一度皆と相談してみるよ。助けに行くとなったら殺し合いになるだろうから、相当の覚悟がいるので俺だけの判断で勝手に決められない」

『分かりました。なるべく早く助けてあげてください。助けに行くなら私たちの中からも何名か行けますので声を掛けてください』

「ん？　そういえばどうしてその場でバスケ部男子を倒してしまわなかったんだ？　女子だけでも３０人以上いるんだから、バスケ部男子３人相手にするなら楽勝だっただろ？」

『女子は全員生活魔法か回復魔法しか持っていないのです。攻撃スキルは全部男子が担当でした。オークたちとの直接戦闘は男子がやってくれていたのです。不意打ち気味に江口先生とバレー部男子がやられちゃったので、どうしようもなかったのです。３名魔法職の女子がいますが、近くにいる女子も巻き込んじゃうので何もできませんでした』

「そういうことか。うちの女子たちは男子に襲われる可能性を想定して、初期から積極的に戦闘をこなして強さを求めてレベルアップをやってたからね。桜なんか目の色変えてたよ」

『城崎さんも料理部の娘たちも全員可愛いですからね。ブスだから出ていけって言われる私たちじゃ、襲われる可能性なんか考えもしていなかったです。あははは……』

「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだ……なんかごめん」

『別にいいですよ。気にしないでください。「怪我したり痛い思いをする可能性がある前衛は、俺たち男子がやってやる」とかかっこいいことを言われて、自衛手段を放棄していた皆にも責任がありますから。初日にそういう危険もあるから気を付けるようにみどりが注意してくれてたのになぁ～』

「君はみどりちゃんの知り合いか？」

『はい、同じクラスです。あの、私たちもそっちに行っちゃダメですか？』

「ごめん、皆を養えるだけの自信がないので受け入れはできないんだ」

『やっぱりダメですか。みどりにもそう言われたので仕方ないですね。みどりいいな～』

「真紀ごめんね。真紀だけ受け入れるとかすると、他の人に反感とかかっちゃって、他の部員にまで迷惑が掛かるの」

「うん、分かってるって。私も料理部辞めなきゃよかったな～ってちょっと思っちゃっただけ。気にしないで」

　真紀という娘は、元料理部だったらしい……部費が高くて１年の時に３カ月で辞めたそうだ。

　みどりちゃんの通話を切ってから皆とどうするか話し合うことにした。