1-3-8 龍馬緊縛?沙織の告白?

 食事を終え、後片付けが終わった後に全員華道室に来ている。これから俺を使ってフィリアがなにやら検証実験をするらしい。


「そうだ、未来ちゃんさっきはごめんね。ちょっと痛かったでしょ?」

「あ、はい。強めの静電気ぐらいでしたので大丈夫ですよ。でも、どうして回復を止めたのですか?」


「ちゃんと自分の暴言を理解して、謝るまでは痛みも必要だと思ったんだ。あまりの怒りで、【身体強化】MAXなのをうっかり忘れていて、かなり強めに入っちゃったので俺もびっくりしたけどね。もし全力でやっちゃってたら首がもげてたと思うとゾッとするよ」


「どちらにしても暴力はダメです。言葉で言えば分かることです」


「そうだね、菜奈もバカじゃないんだから叱れば済む話だった。俺のことで暴走して、仲間のことを全く配慮しなかったから余計に腹が立ったんだよ。まぁ、暴力はやっぱダメだから気を付ける」


「はい、そうしてください」




「さて龍馬よ、この椅子に座るのじゃ」

「フィリア、先に何するか教えてくれないか?」


「其方が沙織の匂いを嗅いだらどうなるかの検証実験じゃ」

「え! 沙織ちゃんの匂い嗅いでいいの?」


「なんじゃ、やたらと嬉しそうじゃの?」

「まーね、その件については俺も凄く興味がある。でも俺には【嗅覚強化】のスキルがあるから他の人と同じに考えちゃだめかもな。俺の実験結果を他の拠点には回せないぞ?」


「ふむ、そうじゃの。じゃが龍馬の反応が分かればよい。ここの男は其方だけじゃからの。じゃあ早速始めるか。【魔糸】と【魔枷】は其方にも使えるのかの?」


「そこまで強力な拘束はダメだよ。鉄の鎖とかも禁止だね。拘束するとしても、俺の力で切れない程度のものにしてくれな」


「なぜじゃ? 万が一を考えたら、できるだけ頑丈にするべきじゃろ? 検証やってて其方が暴走して、全員犯されましたとか、笑い話にもならぬぞ? まぁ、そこまで狂うほどの設定は神の方もしておらぬがの」


「ナイフで切ってすぐ脱出できる程度じゃなきゃダメだ。ここにいつ佐竹たちが来るかもわからないし、なにより今日一日何も行動を起こしてこなかったオークが気になる。夜襲の可能性もあるので、あまり丈夫過ぎるのもダメだろ?」


「ふむ、それもそうじゃの。そうじゃ! 其方が自殺をしようとしてた時のロープが丁度良い。あれを出すのじゃ」


 【インベントリ】から首吊り用に買ったロープを出して渡すと、フィリアは手際よく俺を椅子に縛りあげた。


「あのフィリアさん、何でそんなに手慣れているのでしょうか?」


「兄様なんかエッチですね」

「ん! 荒縄で龍馬の緊縛縛り! フィリア凄い! 緊縛師みたい!」


 菜奈は何やら興奮して鼻息が荒いし、雅はフィリアの手技に魅了されている。


「よし、このくらい縛れば大丈夫じゃろ。どうじゃ? 【身体強化】の恩恵で抜けられそうか?」

「いや、ここまで上手く拘束されたらまず抜け出せないだろ。人の力で切れるような軟なロープでもないしな」


「ふむ、じゃあ始めるかの? 脱がせなくても龍馬のじゃと服の上からでも分かるだろうから、このまま始めるとするかの」


「ん? あ! あーーーっ!!」


 皆を見たら真っ赤な顔をして俺から視線を外した。


「このロープ外してくれ! もう死ぬ! すぐ死ぬ! 今死ぬ! あーーーっ!!」


「これじっとするのじゃ。何を今更慌てておるのじゃ。分かっておって見せたのじゃないのか?」

「違うよ! 井口さんのことに気がいってて忘れてたんだよ! あーーもう死にたい……」


 そうなのだ……あの動画には佐竹たちが事を終えた後に、俺の人生最悪のスペシャルイベントが記録されているのだ。この学園で誰もが知っている『白石龍馬全裸勃起廊下引き回し事件』それが無修正で映っている。


 皆の顔を見れば分かる……皆たっぷり俺のを鑑賞して、脳内メモリーに記録している顔だ。そうでなければ顔を真っ赤にして俯いたり、俺から視線を逸らさないだろう。皆にフル勃起状態で泣きながら廊下を引き回されたのを見られてしまった……もう死にたい。


「誰か今すぐ俺を殺してください、もう生きていたくないです」

「ダメじゃなこれは。沙織、其方の胸で抱いて、ちと匂いを嗅がせてみるのじゃ」


「あぅ、皆の前ではちょっと恥ずかしいです!」

「そのようなことを言ってる場合じゃないのは龍馬を見て分かるじゃろ。沙織も龍馬協定に入ったのじゃ。今、尽くさないでいつ恩を返すんじゃ。恥ずかしがってる場合じゃないぞ」


「そうですね、やります!」


 沙織は椅子に縛られて身動きが取れない龍馬の頭を抱きしめて、自分の胸で抱くように包み込んだ。

 後ろで菜奈が涙目で見ているが、流石に今の俺の状態を見て止めに入ることはなかった。俺は沙織ちゃんの胸に抱かれて覚醒する。


「沙織ちゃんありがとう……いい匂いだ。スンスン、それにとっても柔らかい」

「あぅ、言わないでください。凄く恥ずかしいんですよ。でも好きな人を抱けて凄く幸せです」


「え! 沙織ちゃん俺のこと好きなの!?」

「はい! 皆の前で恥ずかしいですけど言っちゃいます! 大好きです! だから死ぬとか言わないでください! 皆の前で公開告白です! 私も今、凄く恥ずかしい思いをしています! あんなの、オークにレイプされるのと比べたらどうってことないですよ!」


「龍馬よ、少しは落ち着いたかの? 取り乱しおって……これでは検証できぬではないか。其方の精神力は紙装備じゃの。すぐに壊れおる」


「悪かったよ。はぁ~、恥ずかし過ぎて逃げ出したいのに縛られててそれもできない。どんな羞恥プレイだよ」


「ん! フィリアは凄い緊縛師!」

「どんな生活してたら、雅みたいなそんな濃いキャラになるのか俺は知りたいよ」


「兄様、また死にたいと言いました。菜奈は不安で胸が一杯です。今晩から菜奈も兄様と一緒に寝ます。もう今後一切兄様が一人でいる時間はないと思ってください。常に菜奈が一緒に行動して監視しますね」


「いや待ってくれ、ちょっと取り乱しただけだから! 皆を残して無責任に死んだりしないから安心してくれ」

「自殺未遂の前科のある兄様です。一度は信じましたが、さっきの兄様の行動で菜奈はもう信じないです。信じられるようになるまでは、菜奈は常に一緒に行動します」


 こいつ本気だ! う~~菜奈の愛が重い……やってしまったな~どうしよ。


「あの~フィリアちゃん、菜奈先輩……今、これまでの私の人生の中で、一番勇気を振り絞って龍馬先輩に告白したのですけど……なに邪魔してくれちゃってるんですか!?」


「あっ! 沙織ちゃんごめん! でも……う~~っ!」

「そうであったの。じゃが龍馬よ、返事を今すぐするのを禁じる」


「何でですか! 返事はできるだけ早く聞きたいですよ!」

「沙織はダメじゃのぅ、分かっておらぬ。恋は盲目と言うが、正にそれじゃな。今すぐ答えを求めればごめんなさいに決まっておろうが。まだ沙織と知り合って3日じゃぞ。龍馬じゃなくてもごめんなさいじゃ。良くてお友達から始めましょうじゃの。其方のことを以前から知っておったのなら別じゃが、逆にOKと即答してくる奴は、体が目当ての奴か、なにか良からぬ性癖の持ち主じゃろうから警戒がいるぞ」


「そうですね、その場の勢いで玉砕するところでした」

「一応元、慈愛の女神様と呼ばれておったからのぅ。ふっふっふっ、妾に任せるのじゃ。龍馬よ、沙織のことは好きか嫌いでなく、告白を嬉しく思ったかそうでないかだけ答えよ」


「そりゃ、凄く嬉しいよ。こんな美少女に告白されたのは初めてだしな。それと、慈愛の女神とか言ってるけど、お前恋愛経験ないだろ? 大抵の男なら沙織ちゃんの告白に即答でOKすると思うぞ。付き合ってみないことには何も始まらないんだからね。とりあえず容姿を見て好みなら第一印象で告白を受けるのが普通だぞ。沙織ちゃんなら、高確率でOKだろう。付き合ってみてダメなら別れればいいんだしね。残念ながら俺にはそんな機会なかったけど」


「うっ……童貞のくせに小生意気なことを……まぁ、菜奈によって其方宛のラブレターは全て排除されておったからのぅ。告白の前に未然に阻止されておったのじゃ」


「フィリア! 言っちゃダメ!」


「どういうことだ?」


「クククッ、菜奈率いる龍馬のファンクラブの女子が其方の通ってた中等部には4名おったのじゃ、その娘たちが龍馬が登下校する前に下駄箱やら机の中をくまなくチェックしておったからの。見つけたら即回収して中身を読み、当人を呼び出して撃退しておった。どうしても引かぬ者を取り込んでできたファンクラブじゃから、やることが菜奈同様ドン引くような行動が多い者ばかりじゃったがの」


 中学時代にそんなにモテていたとは知らなかった。女子との会話すらあまりないので、全く気付かなかった。


「ん! 兄妹じゃなかったら、ストーカー被害で訴えられるレベル! 菜奈、恐ろしい娘」


「菜奈ちゃん、普通の良い娘と思っていたのに」

「桜、そんな目で菜奈を見ないでやってくれ。気持ちは分かるけど、こんな痛い子でも俺にとっては可愛い妹なんだ……こんな痛い子でもね」


「兄様、なぜ二度も強調して言うのですか! それに沙織もいつまで私の兄様を抱きしめているのですか! もういい加減離しなさい!」


 無理やり菜奈は服を引っ張って、俺から沙織ちゃんを引き剥がしてしまった。


「あっ! 良い匂いが!」


 つい口走ってしまい、菜奈に凄く睨まれた。


「フム、少しは効果が出ておるようじゃが、この分だと大丈夫そうじゃの」

「ああ、ずっと嗅いでいたいと思うけど、襲いたいと思うほどじゃない」


「うーん。龍馬よ、正直に言うのじゃぞ。昨晩一人で精を抜いたのかの? 大事なことゆえ嘘はダメじゃぞ」

「うっ……ハイソウデスネ」


 美少女に囲まれてるのに、フィリアの奴、なんて恥ずかしい告白させるんだ!


「兄様、まさか井口の動画で……」

「それはない!」


「はい、信じます。ないですね」


「俺のハードディスクの中身、遺書と告発関係以外、全部消しちゃったからね。この世界で有用な情報も一杯溜めこんでたのにな」


「龍馬君、有用な情報ってなに? あなたは異世界に転移することを事前に知っていたってこと?」


「そうじゃない。言うの凄く恥ずかしいけど、『もしもフォルダ』ってのを作って、そこにインターネットで検索して引っぱったいろいろな情報をしこたま溜め込んでいたんだ」


「もしもフォルダ?」

「………………」


 桜が追求してくるが、厨二全開なので言うのはちょっと恥ずかしい。


「兄様は、もしも異世界に召喚、もしくは転移されたときの『もしも』を想定して、パソコンや携帯のメモリーにかなりの情報を溜めこんでいたのです。医療に関する知識や手押しポンプや温泉の掘り方、火薬や銃、ダイナマイト、ヤバいのでは原爆やサリンの作り方まで、どこから調べてきたのか怪しいですが、いろんな想定でいろんな情報を集めていました。それが『もしもフォルダ』です」


「なんで菜奈が知ってるんだよ、何重にもパス設定でロックしてあったのに」

「フフフ、愛の力です!」


「嘘コケこのストーカー!」

「そして兄様がこの学園に来る前の時点の、全PC内部のバックアップデータがこの外付けハードディスクに」


 菜奈は自分の【インベントリ】から一台のハードディスクを取り出した。


「まさか俺のデータがあるのか!?」

「はい、兄様がここの学園に来る前の、中3の時の物ですが、全てそのまま保存してあります」


「良くやった菜奈! このデータがあればいろいろ出来るぞ! 中世レベルでの道具技術で、温泉掘れるような方法なんかも入ってる。このハードディスク内の情報だけで、この世界一の金持ちは確定だな! 俺の厨二臭い行動を笑いたければ笑うがよい! 我は何を言われようが勝ち組じゃ! ワッハッハ!」


「兄様、口調がおかしくなってますよ」

「ん! やってることは厨二臭いけど、結果だけ見れば凄い勝ち組! 流石龍馬!」


 俺の発言を聞いて、皆、若干引いていたが、桜だけが目を輝かせて急に立ち上がった。


「私も恥ずかしいけど言うわ! 同じような考えで、私のパソコンの中にもかなりのデータがあるわ。私のは食に関する情報がメインね。食べられる野草やキノコ、味噌や醤油の作り方、塩の精製なんかの情報とかよ」


「エッ!? 桜! まさかあなた、中等部の頃にやったあれって、異世界を意識して自作味噌作ったとかじゃないわよね?」


「ちょっとは意識してた……兎や猪の捌き方を学んだのも、もしも急に異世界とかに跳ばされても即行動できるように――う~~恥ずかしい!」


「あなた、そんな妄想しながらお味噌作ってたの……」

「だって、昔から神隠しや、異世界っぽい化け物の話や神話とかにそれっぽいのあるじゃない? ひょっとしたら本当に異世界転移とかあるんじゃないかって思ってもおかしくないでしょ! う~~やっぱり恥ずかしい!」


 茜の指摘に、桜は顔を真っ赤にして手で隠している。とても可愛い! それに、俺と同じような考えの奴が他にいたことが凄く嬉しい。


「同志桜よ! 恥ずかしがることはない! 俺たちは勝ち組だ! 二人で組めば稼ぎまくった金で国が数個は造れるぞ!」


「龍馬よ、椅子に縛られた状態で言っても締まらぬぞ」

「検証はもういいだろ? 解放してくれ」


「そうじゃの、溜まっておらぬのならあまり参考にならないしのぅ。暫く其方は禁欲してもらうからそのつもりでな。沙織が排卵周期を抜けたら、次は桜でやるとするかのう。良いな桜、皆の為じゃ協力いたせ」


「うーん、分かった。恥ずかしいけど協力する」


「え~~っ、禁欲って……嫌だよ~」

「せいぜい5日ほどじゃ、我慢いたせ」


「まぁそのくらいならいいけど。10日とか長いのは嫌だぞ」

「性欲真っ盛りな思春期の少年にそのような可哀想なことはせぬ、安心致せ」


「分かった。ならいいよ」

「今晩から監視の意味もかねて、妾と菜奈と雅の3人もここで寝るからの」


「フィリアちゃん、私も良いのですよね?」

「沙織は今はダメじゃ、排卵周期を抜けるまでは待つのじゃ。下手したら其方の方が龍馬を襲いかねん」


「仕方ないですね……はい、我慢します」 



 俺は椅子からやっと解放されたが、数日間の禁欲をさせられることになってしまった。

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