1-1-16 拠点変更?茶道室?

 ゾロゾロと皆で階段を下りて茶道室に引っ越した。

 茶道室は廊下の奥に位置するが、廊下の突き当たりに外に出られる扉があり、そこには非常階段がある。

 最悪そこから逃走もできるだろうから都合が良い。


 引っ越しを終えた後、音楽室から暗幕を全て外し、茶道室の窓に三重に掛けさせて光が漏れないように隙間をなくした。


 皆が作業をしている間に例の三人を隣の華道室に呼び出して避妊処置を行う。


 二人は死ぬほど恥ずかしいというので、俺も彼女たちもお互いに毛布を被り手さぐりだけで処置をした。

 今後のことも考え、亜姫ちゃんにも処置のやり方とコツを教えておいた。


「これで大丈夫なはずだけど一応魔法で調べるね。裸じゃないと駄目だけど今更だしいいよね?」


「本当に今更です! もうお嫁にいけないので龍馬先輩にもらってもらいます」

「うん、そうしましょう! 指を入れられてこねくり回されたのですから当然ですね!」


 結婚とか怖いことを言ってるが、スルーして調べる。


「【ボディースキャン】、あら? 沙織ちゃん肋骨がまだ完治してないじゃないか! どういうことだ?」


「魔力が足らなかったので、まだちょっと痛いですけど、魔力が溜まるまで我慢しています」


「バカ! どうして我慢しているんだよ! こういうのは生死に係わるんだぞ! ちゃんと治せるときに治しておかないと、いざ何かあって逃げる時に、痛みで走るのが遅かったりして皆の足を引っ張る羽目になるんだよ。俺は皆よりレベルが高いから魔力にも多少余裕がある。C班の娘たちに回復魔法を取ってもらった意味は理解してる? 絶対中途半端はダメだよ。今度やったらお仕置きするからね」


「あう、ごめんなさい。以後注意します」


「まぁ、このボディーチェック魔法が上手く機能していることが分かったので、今回はよしとしよう。打撲による皮膚の損傷と、軽い胃の炎症もあるので、ついでに治しておくね」


「胃の炎症ですか?」

「うん。悪化すると胃潰瘍になるやつだね。放っておいても勝手に治るやつだろうけど、折角魔法があるんだから治しておこう」


「はい。ありがとうございます。それで、妊娠の方はもうだいじょうぶなのかな?」

「うん。そっちの心配もないから、安心して良いよ」


 沙織ちゃんは安心したのか、とても良い笑顔を見せてくれた。やっぱ泣き顔よりこっちの方がずっと可愛い!


 彼女に回復魔法を掛け、【アクアフロー】でマッサージをしながら全回復させた。

 この魔法は対象者の魔力の流れを最適化できる。

 効果としては疲労回復の促進、MP・HPの回復の促進、怪我や病気の治癒が行える。


「あわわ! 龍馬先輩気持ち良いです! もう龍馬先輩なしじゃ生きていけない!」


 そんなことを言いながら、マッサージを受けてる間の沙織ちゃんは女の子がしてはいけない顔をしていた。


「次は美加ちゃんの番だ。【ボディースキャン】美加ちゃんは問題なさそうだね。精液の浄化も完璧だし、折れていた肋骨もみんなに治療魔法を掛けてもらったおかげで完治している。バッチリだ!」


「あの、私には沙織ちゃんにしてあげてたマッサージはないのですか?」


「うん? 美加ちゃんはマッサージ治療を受けるほどの酷いダメージはないから必要ないよ? 沙織ちゃんは1時間以上酷い目に遭って

「本当に感謝しています。実際あの時はもう私はダメだと思っていましたから」


「そう……私はマッサージないんだ」

「してほしいの? 少し魔力が停滞しているとこがあるから、希望するならしてあげるけど。年頃の女の子が裸を触られて恥ずかしくないの?」


「そりゃ~恥ずかしいですけど、沙織ちゃん凄く気持ち良さそうだったんだもん……」


「私の個人的な感想ですけど、龍馬先輩に裸を見られたり肌に触れられてもどうってことないと思えるくらい気持ち良いです! もしまたしてくれる機会があるのなら、躊躇なく脱ぎます! もうトップモデルのように恥も外聞もなく躊躇なく脱ぎます!」


「その言い方、モデルさんに失礼だろ」


 それを聞いた美加ちゃんは絶対してほしいと言い張るので、少し魔力が停滞していた腰から肩甲骨付近を中心にマッサージ治療を行った。


「はぁ~凄い気持ちいい~。何これ? 信じられない。一家に一人欲しいよね」

「何言ってんだよ。俺だって疲れてるし、今にも寝ちゃいそうなの我慢してるんだからね。マッサージ機扱いスンナ」


「あわわ! ごめんなさい! そうですよね、ずっと皆の為に奔走してくれてたのに疲れてないはずないですよね」


「でも美少女二人の可愛いおっぱい見れたから問題ない! 眼福だ!」

「うわー! 言い切っちゃいましたよこの人! むっつりより良いですけど、もっとこう他の言い回しはなかったのですか」


「よしこんなもんでいいだろ。大分体が軽くなっただろ?」

「はい、凄くスッキリして軽くなっています。龍馬先輩ありがとう!」


「二人ともオークのことはスッパリ割り切って悲観するなよ。思い出して辛くなって、その時相談相手が誰もいなかったら俺に言え。内に溜めすぎたら、俺みたいに間違った判断とかしてしまうぞ。俺は口は堅いからな。まぁ、俺とかより美弥ちゃんとかの方が良いか……」


「うん、ありがとう。その時はお願いします」


「龍馬先輩? 【アクアフロー】って魔法見かけなかったのですが、どこかにありましたか?」

「これか……俺がオリジナルで開発した魔法だよ。他の人には絶対秘密ね」


「オリジナルの魔法とかできるのですか?」

「十分な魔法知識があれば可能だよ。この魔法は【アクアヒール】【治癒】【魔力感知】【魔力操作】の4つの魔法の複合とマッサージ技術がないとできないけどね」


「成程、4つの複合魔法でしたか。ありがとうございます。納得いきました」

「亜姫ちゃんは魔法のことよく調べてたね? 一覧にないって分かっただけでもすごいよ。でもあの一覧は全てじゃないからね。あれから上にも上位スキルが沢山あるんだ。後で教えてあげるね」


「本当ですか!? はい、聞きたいです!」


「じゃあ、戻ろうか。皆も結果を心配してるはずだ。それと二人の服をどうにかしないとな。流石に寒いだろ?」


「ええ、あの倉庫の中は凄く寒かったです。毛布2枚じゃガクブルだったのですが、皆が貸してくれて何とか耐えてました」


「ごめん気付かなくて。毛布は一人20枚は使えるから安心してくれ」

「そんなにあったのですか! もっと早く言えば良かった……」


 茶道室に戻り、敷布にできる分も含めて大量の毛布を出したのち、今後の俺の意見を言った。


「ちょっと集まって聞いてくれ。水はその空いたペットボトルでまだ上の貯水タンクに残ってる分を飲み水として使ってほしい。2、3日分はあると思う。未開封の俺の持ってるものは長期保存がきくから、ここを出て町に移動する際に使いたい。それと裸の二人の服を用意しないと寒いだろうし、俺の目のやり場に困る。どうしても肌色が見えたら目で追ってしまうから早めに手配してあげたいと思う。皆の着替えもいるだろうしね。それと2時間ほど俺は眠りたい。実は死ぬ気満々で、少しでも苦しまないようにと安定剤を5錠飲んでいて、いま凄く眠いんだ。悪いが隣の華道室でちょっと寝てきていいか?」


「兄様! 二度と自殺なんて馬鹿な考えしないでくださいね!」

「ああ、ホントどうかしていたよ……井口さんの件で余程精神的にイカレてたんだろうな。転校するなり弁護士の恭子さんに相談するなり、いろいろできたのに、その発想すらなかったからな。只々、佐竹と教師たちに一泡吹かせてやりたくてあんな奇策に走ってしまった」


「龍馬君、できたらここで寝てほしいんだけどダメかな? 君がいないと、みんな凄く不安なの。何時あのオークが襲ってくるかもと思うと……」


 皆そうだと言わんばかりに頷いている。


「本当はゆっくり寝たいんだけど……分かった。隅の方で寝るよ。薬が効いてるだろうから、すぐ寝ちゃうだろうしね」


「ありがとう、できるだけ静かにしているわ」


「あ~そうだ。俺が寝てる間にフレンド登録を操作して、生き残りの知人を調べてくれないか? そろそろ襲撃から5時間ほどが経つので、生き残った者でどんな勢力ができているのか気になる。会話してもいいが、こちらの情報はできるだけ出さないでほしい。トラブルの元にしかならないからね。特にここの場所と、食料の話は禁止ね」


「流石だわ……勢力図ね。分かった、皆で色々調べてみるね」



  *  *  *



 菜奈に体を揺すられて目が覚めた。

 寝ている途中で起こされるのは嫌いなのだが、状況が状況だけに仕方がない。


「兄様、ごめんなさい。もう夕方近くになったので起こさせてもらいました。それと皆でトイレに行きたいので護衛お願いします」


「うん? 3時間も寝てたのか……薬のせいでぐっすりだったようだな。トイレだったな、俺も行っておくか」


 現在時刻はPM5:38、11月半ばのこの時期はもうすでに外は薄暗くなっている。

 暗幕を張ってあるここは、発光灯でなんとか明かりを確保している。


 トイレに行った後、屋上に行き、ソーラー充電できている発光灯を全てインベントリに確保した。

 まだ完全でない後から置いた4つも片付ける。置いておいても意味はないからね。



 MAPを見る限り、俺が寝ていた間に大分間引かれてしまってるようだ……オーク自体もほとんどいない。

 巣に獲物として持ち帰ってしまったのだろう。

 白い光点が数カ所あるのは生き残った者たちが集まっているのかな。



 トイレから帰った後、皆からの情報を黒板にまとめることにした。


 ・格技室:剣道部男子5人・女子4人 柔道部男子3人

  空手部男子2人 計14人

   体育館地下の災害保管室から食料確保済み


 ・体育館:体育教師2人 バレー部男子3人・女子5人 

      バスケ部男子4人・女子6人 計20人

   体育館地下の災害保管室から食料確保済み


 ・野球部部室:野球部男子5人 女子1人 計6名

   現在食料なし


 ・男子寮B棟:男子11名 女子5名 計16名

   現在食料なし


 ・女子寮A棟:女性教員3名・女子16名 計19名

   教員棟地下保管庫より女性教員が配給し10日分ほど確保済み


 ・教員棟地下:男性教員8名 女性教員2名

  男子生徒9名 女子生徒13名 計32名 



「たった半日でほぼ壊滅状態じゃないか。戦力的には格技室の奴らが一番ぽいね。柳生さんもやはり生き残っているようだし、あそこは彼女がいるなら大丈夫そうだな。知り合いがいるなら野球部と男子寮の女子に格技室に避難するように教えてあげて。特に男子寮にいる女子は貞操の危機があるってそれとなく教えてあげてほしい。何で男子寮に女子が混じってるのか知らないけど、そこには例の佐竹が生き残っているみたいだし、一番危険だと思う」


「分かったわ。他に何かあるかな?」


「野球部も食料がないと困るだろうし、女子マネ一人は超危ないと思う。たしか可愛いって評判の娘だったよね? 逃げた方が良いと俺は思う。女子寮が一番安全そうだけど、男子は受け入れないように注意しておいてあげて」


「そうね……了解」


「特に男性教員が最近はヤバいからね。理由を付けて入り込もうとするかもだから注意だね。ニュースでもよく教師が捕まってるけど、ここの教師もかなりエロそうなのが揃ってるから注意はしておいた方が良い。後は避妊処置法も教えてあげたら良いと思う」


「予想以上に酷かったのね。私たち、龍馬君のおかげで助かったようなものね。本当にありがとう」


「まだ終わってないよ。ここからもっと悲惨になる。予想以上に生き残りが少ないから一番面倒だった食糧問題は大丈夫そうだね。それでどうしようか? 女子寮に行きたいとか教員棟に行きたい人はいない? 美弥ちゃん先生はここに残って教師の立場は捨ててもいいのかな?」


「龍馬君の言うとおり今はそれどころじゃないだろうけど、今後男子のセクハラはあると思うの。女子寮に逃げた女性教員もきっと身の危険をいち早く察知した人が避難したんだと思う。私はここが一番安全だと思うし、教員としてとか言われても、自分の身を守るためにここをというより龍馬君から離れる気はないから守ってね。今更見捨てないよね? ネ? ネ?」


「決意と覚悟の時に説明したと思いますが、今いるメンバーは菜奈の友人として俺の方から見捨てたり裏切ったりするつもりはないです。嘘もつかないように自殺や恥ずかしいことまで包み隠さず打ち明けています。俺についてくるのは自由です。逆に出て行くのも引き止めることはしないので好きに出て行ってもらっていいですよ。でも一度ここから出た者は部外者として戻ることは許しません。出るならちゃんと覚悟を決めてから出て行ってくださいね」


 どうやら全員ここに残るそうだ。


 何名かは友人が亡くなったことでシクシク泣いているが責める気もない。

 もっと声をあげて泣きたいだろうによく耐えていると思う。


「今から女子寮に行こうと思う。目的は衣類と布団類の確保のためだ。B・C・D・E棟の布団とか亡くなった人の衣類をできるだけ沢山もらおうと考えている。それとA棟に許可をもらえたら、ここにいる者の分を引き取ってきてあげる。A棟の寮の者はいるかな?」


「A・B・C棟は高等部の寮だしね。私と茜は1年生が主体のC棟よ」


「じゃあ、残りは中等部が入ってるD・Eのどっちかか。全員で移動はできないのでAパーティーでレベルを上げながら行くことにする。黒板に自分の入寮している棟と居室番号を書いてくれる? タンスの中身は全部持ってきてあげるけど、これだけは絶対今日持ってきてほしい物とかあったら、メモしといてくれたら取ってきてあげる。明後日には一応皆も寮に連れて行くけど、今回は布団と着替えがメインと思っておいてほしい。沙織ちゃんの熊さんパンツもちゃんと持ってきてあげるからね」


「私、そんな子供っぽいの履いたりしませんよ!」


「そうか? しっかりこの目で確かめてきてあげるからね!」

「今更パンティーぐらいでどうこう言わないですけど、あんまり見ないでくださいね。菜奈先輩監視お願いします」


「任された! 兄様は聖域には近づけさせないので安心して。鞄やバッグに詰めてそれを持ってきてあげるからね」


「Aパーティーに先に言っておく。おそらく女子寮内は酷いことになっていると思う。現場でパニックにならないよう、事前に気構えだけはしておいてくれ」



 A組以外からも息をのむ声が聞こえた。ある程度酷い惨状を想像できたのだろう。

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