1-1-15 方針?2万円?

 今後の方針について話し合いを始め、1時間が過ぎたころにやっと大体決まったようだ。


 まず男は受け入れないと早々に意見が纏まった。嘗て1年前までは料理部にも男子はいたらしい。だが下心のあるイヤらしい視線を受ける為、皆で追い出してからは女子のみの部となったそうだ。


 当時の部長は城崎さんだったらしいが、料理部は今も美人揃いなので結構男子から注目されているようだ。

 その好奇の視線がさらに女子部員たちが男子を敬遠する要因になっている。


 俺が口をはさむと皆それに従いそうなので、話し合いは美弥ちゃん先生に任せていた。


 ・男子は受け入れない

 ・他のパーティーとの連携はしても合併はしない

 ・友人と会話やメールのやり取りはしても良いが、獲得スキルなどのパーティー情報は漏らさない

 ・状況次第で、移籍の可能性がある者はCパーティーとする



 ふぁーとあくびをしながらホワイトボードを眺める。

 そういえば安定剤を5錠も飲んでいるんだよな……少し寝た方が良いのかもしれない。もの凄く眠い。


「どうかな龍馬君?」

「うーん、ちょい質問するね。1つ目のやつだけど俺も男だけどそれはいいのかな?」


「今更でしょ? と言うよりあなたがいないとパーティーとして成り立たないでしょ? 今更見捨てないでよね?」


「男を拒否してどうするの? ずっと拒否するの? もう日本に戻れないんだよ? ずっと独身でいるの? それとも異世界の男と結婚するの?」


 皆、唖然として黙っている。

 少し雰囲気が悪くなったが、みんな目先のことしかまだ見えていないようだ。


「ちょっと意地悪かもだけど、もうちょい掘り下げた質問するね。Cパーティー希望の子たちに質問なんだけど、サポートチームなので戦力的には無力だよね。町に着くまでは面倒をみるつもりではいるけど、いつまで、どこまで俺と一緒に行動するつもりかちょっと知りたい。仮にどこかの町まで連れて行ったとするね。こちらの世界でも生活をするのにお金がいるから、ずっと面倒見てほしいとか言われても俺も困るよね。安全な町で家でも買って、冒険者でもやりながら皆と共同生活も楽しいかも知れないけど、それもいつまでもって訳にはいかないよね? 身も心も捧げて俺に一生ついていきますってなら別だけど……」


 さらに雰囲気が悪くなった。本当に目先のことで精一杯なのだろうな。


「龍馬君、ごめん。そこまで先のことはまだ考えられないわ。多分みんなも今どう生き残るかでいっぱいいっぱいだと思うの。それまで皆を纏めて導いてくれないかな?」


 城崎さんの言い分もごもっともだな。中学生に今すぐ人生の選択を迫っているようなものだ。


「先生もそんな先のことまで今は考えなくていいと思うな。とりあえずオークから身を守れるだけの戦力になった時に次のことを考えれば良いと思うわ。今日がなければ明日もないんだし。私たちは今日をどうやって乗り切るかだけ考えましょ。龍馬君は私たちよりもうチョットだけ先のことまで考えてくれると助かるわ。これまでの行動で、皆もあなたの判断なら従うと思うの」


「美弥ちゃんがちょっと大人の意見を言ってる! ちみっこなので凄い違和感が……」

「先生は25歳なのよ! もう! 皆でバカにして!」


「そんなことを言いながら、ほっぺをぷくーっと膨らませて怒っている姿は俺たちより年下に見えるよね?」


 皆もウンウンと頷いてくれる。更にふくれっ面になったが……美弥ちゃん可愛い。


「もう1ついいかな? 方針の中に入ってなかったから聞きたいんだけど、襲われてる者を見た時どうするんだ? 助けるのか? 見捨てるのか? 助けた場合どこまで面倒を見る気か?」


「一応皆の意見で助けないって話になっているわ。助けてもその後が困るもの」

「城崎さんは簡単に言うけど、結構見捨てるのって精神的にもきついんだぞ? 助けないって心の中で決めてたのに、ついつい沙織ちゃんを助けてしまってたし」


「兄様、沙織ちゃんを助けたのってやっぱり可愛かったからですか?」

「確かにそれもあるけど、オークに襲われてる最中に俺と目が合ったのに彼女は助けを求めないで目を逸らしたんだよ。俺を巻き込まないように、オークに気付かせないように俺から視線を外したんだ。気付いたらつい助けてしまってた」


「私は助けてくれてありがたいのですが、なんかついとか助ける気なかったとか言われると、勝手に野良猫を拾ってきた子供を叱ってるようでなんか凹みます」


「ああ、ごめん! 食糧事情があったからついいろいろと考えてしまうんだよ。正直食堂に行っておばちゃんたちを殴ってでもオークより先に確保しとけばよかったって後悔してる。どうせオークに荒らされるくらいなら、俺が皆に嫌われてでも奪うべきだった。そうすれば少なくても2000食分は確保できたのに」


「全寮制のこの学園の食堂ですからね。冷蔵庫に何か残ってないでしょうか?」

「あいつら真空パックや缶詰の匂いまで嗅ぎつけるぐらいだからな、多分もう無いんじゃないか?」


「そうですか……残念です」



 いろいろな意見が出たが、食料事情があるので自分たちが生き残るために他は見捨てる方針でいくようだ。




「そういえば城崎さんと竹中さんは、高等部の料理部の人たちのことは良いのか? 助けたい人とかいるんじゃないの?」


「同級生なんだし竹中か茜でいいわよ」

「あ、それもそうだね、私も城崎か桜でいいわ。さんづけとか先輩じゃないんだしね」


「分かった。中等部の子たちを名前で呼んでるから、ちょっと慣れるまで恥ずかしいけど、2人も名前で呼ぶことにするね。茜と桜だね……」


「私たち高等部の料理部は進級した時に見学会に3回参加したけど、結局入部はしなかったのよね……」


「あれま、なんで?」

「趣旨が違うって言うか、求めてるものが違うのよ。来年、綾たちが高等部に来たら愛好会をつくろうって話になってたの」


「何が中等部と違うんだ? 趣旨が違うと言われてもよく分からないんだが」

「一言で言うと、高等部の料理部は一般家庭の料理なの。いかに安く美味しく作れるかとかそんな庶民的な部ね」


「それじゃダメなのか?」

「私たちの好みじゃないわね」


「菜奈、桜の説明じゃ今一分からない。俺に理解できるようにもっと詳しくまとめて言ってみてくれ」


「はい兄様! 今日の料理部の作った夕飯のメニューを例に説明します。今日のメインメニューは豚の生姜焼きです。高等部だと、『どこそこのスーパーの特売日でこの豚のお肉安かったのよ、このボリュームなのに一人当たり390円で安く仕上がったわ! 味もそこそこ美味しいでしょ?』 的な会話がなされます。ですが中等部では城崎先輩がどこかから直送させたイベリコ豚が使われ、玉ねぎなんかも淡路島産のものを使用して、涙が出そうなほど美味しいものが食べられます。そこそこ美味しいとかふざけるなです! 今まで食べたことのないぐらい美味しい料理が食べられるのです」


「おお! めちゃくちゃ分かり易かったぞ! 要はイカレタ変人たちの部だな。菜奈、そんなに美味いのか?」


「兄様でも絶句するレベルです。ただどうしても部費が高額になってしまうので、1年生の新入部員も12人最初居たのに今はたった3人しか残っていません」


「高額な部費って、菜奈はいくら払ってるんだ?」

「月に2万円です」


 年額24万円!


「おーい! 桜に茜、ちょっとやり過ぎだろ! 中学生になんて金額払わせてんだよ! そりゃ皆、辞めるよ!」


 2人はプイッと横を向いてしまった。


「美弥ちゃん、顧問としてそこはどうなんだ?」

「部長の長谷川さんと今いる部員たちと話し合ったわよ。でも美味しい物が食べたいの! って言われて。私も最初はどうかと思ってたけど、本当に美味しいのよ……安月給から2万払っても食べたいと思っちゃったの」


「菜奈が食堂で週2回バイトを始めたのは部費の為か?」

「うん、だって凄く美味しいんだもん。兄様に内緒にしてたのは、この部の規則で情報を外部に漏らしたらダメだったので……ごめんなさい」


 そんなに美味しいのか、ちょっと興味あるな。


 話し合いを終え、念のため皆の習得してきたスキルをホワイトボードに書き出してもらった。


 現時点の皆の習得スキルはこうなった。


 Aパーティー

 ・小鳥遊龍馬(高1)魔法剣士

 ・城崎桜  (高1)剣士   【剣術】Lv1【身体強化】Lv2

 ・白石菜奈 (中3)魔法使い 【ファイアボール】Lv1【サンダーボール】Lv3

 ・栗林未来 (中3)ヒーラー 【アクアヒール】Lv2【治癒】Lv1

 ・名取雅  (中1)シーフ  【双剣術】Lv1【身体強化】Lv2



 Bパーティー

 ・森里美弥 (教師)バトルヒーラー 【杖術】Lv2【アクアヒール】Lv1

 ・長谷川綾 (中3)剣士      【剣術】Lv2【身体強化】Lv1

 ・山下美加 (中3)魔法使い   【ファイアボール】Lv2【サンダーボール】Lv1

 ・間宮沙織 (中2)魔法使い【ファイアボール】Lv1【アクアボール】Lv1【治癒】Lv2

 ・中森優  (中2)支援系ヒーラー 【アクアヒール】Lv2【ヘイスト】Lv1

 ・大谷薫  (中1)槍使い     【槍術】Lv1【身体強化】Lv2



 Cパーティー

 ・竹中茜  (高1)調理士   【料理人】Lv2【身体強化】Lv1

 ・有沢みどり(中3)ヒーラー  【治癒】Lv2【アクアヒール】Lv1

 ・山本愛華 (中2)支援    【クリーン】【アクアボール】Lv2

 ・中屋亜姫 (中2)支援    【クリーン】【アクアヒール】Lv2

 ・森田沙希 (中1)支援    【クリーン】【ファイアボール】Lv2



 【小鳥遊龍馬】

  HP:1168

  MP:879

  レベル:9

  種族:人族

  性別:男

  年齢:15

  職業:・・・


 攻撃力:1023              

 防御力:874

 敏捷力:969

  知力:1285

 精神力:742

   運:386

 魅力 :429


   SP:1379

   AP:5


 《スキル》


 《オリジナル魔法》

   特殊支援系

   【インベントリ】【ナビシステム】【カスタマイズ】

   【殺害強奪】【リストア】【無詠唱】【自動拾得】

   【音波遮断】【魔糸】【魔枷】【ホーミング】

   【魔力感知】【魔力操作】【ボディースキャン】【アクアフロー】

   【並列思考】Lv2【多重詠唱】Lv2【高速思考】Lv2

   【獲得経験値増量】Lv10【獲得AP増量】Lv10

   【獲得HP増量】Lv5【獲得MP増量】Lv5

   【周辺探索】Lv1【詳細鑑識】Lv3

   【マジックシールド】Lv3【プロテス】Lv2【シェル】Lv2



 《既存魔法》

   初級魔法

   【ファイアボール】Lv2

   【アクアカッター】Lv2

   【ウィンドカッター】Lv3

   【サンダースピア】Lv3

   【レビテト】


  《生活魔法》

   【クリーン】【ライト】



   戦闘支援系

   【剣術】Lv6 

   【槍術】Lv3

   【隠密】Lv4

   【気配察知】Lv3

   【嗅覚強化】Lv3         

   【聴覚強化】Lv2

   【忍足】Lv3

   【筋力強化】Lv3

   【身体強化】Lv7




 ちなみに菜奈はまだこんなだ。他の者も大差ないだろう。


 【白石菜奈】

  HP:236

  MP:171

  レベル:2

  種族:人族

  性別:女

  年齢:15

  職業:・・・


   攻撃力:153              

  防御力:138

  敏捷力:172

   知力:239

  精神力:274

    運:218

   魅力:396



 《スキル》


 《既存魔法》

  初級魔法

   【ファイアボール】Lv1

   【サンダーボール】Lv3



 菜奈とかなりの差がついてしまったな、後で狩りにでも連れて行くかな。



 料理部が作った夕飯だが、ちゃんと俺の分を残しておいてくれていたようなので頂くことにする。


「うん、冷えて豚の脂が固まって味は悪くはないけどいまいちだな」


 料理部の面々はちょっと悔しそうな顔をしている。


「温かいうちなら本当に美味しいのよ。最高に美味しい生姜焼きだったのに残念だわ」


 一番悔しそうなのは今の発言をした茜のようだ。

 1人だけ【料理人】をとってレベルまで上げている人だ、やはり変わり者なのだろう。


「茜はあまりこういう世界の知識ないんだろ?」

「うん、桜と違って必死で勉強して1組キープしてるからね。ゲームとか小説なんか読む暇なかったわ」


「では、そんな茜にとっておきの情報をあげよう。なんとあのオークのお肉はイベリコ豚より美味しい可能性がある」


「え! ウソでしょ?」

「これ、こういう世界設定では常識。どこにでもいる最下級魔獣のオークだけど、肉だけは豚さん以上に美味しく、庶民の安月給でも手に入る安価で人気NO1候補なのです」


 茜は桜の方を向いて真意を確かめるように見ている……俺のこと信じてないのかよ!


「龍馬君の言ってることは本当よ。この世界のオークはどうなのか知らないけどね」

「女神に聞いたが、やはり美味しいらしい。俺たちが助かって街を目指す際に大事な食糧になるだろうから大事に取っておけとの話だった。町や村でも人気があり、お金がなくてもオークと魔石は買い取ってくれるから収入源にもなるとのことだ」


「そっか、龍馬君はもうその辺のことまで見越しているんだね?」

「一応な、じゃなきゃ20人近い娘たちに指示出せないよ。食べる物もないのについてくるかって言っても飢えるの目に見えてるからね。そんな奴に誰もついていかないだろ? それを思うとどうして食堂襲撃を躊躇してしまったのか今更だけど悔やまれるよ」




 ダメだお腹がふくれると、眠気が一気に襲ってきた。


「ちょっと横の音楽室を見てくる」

「どうするの?」


「ここだとやはり狭いだろ? 4階のフロア全部を拠点にしたいと思ってね。できれば和室の畳がある3階のフロアから上をキープしたい」




 音楽室を見たのだが、広さは十分あるが寝るには寒そうだ。床がコンクリートにビニールのクロスを張ったようなものだと11月半ば過ぎのこの季節にはかなり寒いと思う。そういえば倉庫もコンクリートだな美加ちゃんとか裸だったし寒かったかもしれないな。


 3階に降りて、茶道室に入る。


 クラスで授業を受けられるのだから、当然40畳程のスペースがある。

 ここなら十分に寝られるし、畳なのでコンクリートよりかなり温かい。


 隣の華道教室も見てみるが、こっちも使えそうだ。


 この別館は、特別教室が入ってる。

 1階が調理室と作ったものを食べる試食室、それと資材倉庫。

 2階は書道室と美術室と資材倉庫。

 3階に華道室と茶道室と資材倉庫。

 4階に音楽室と楽器保管部屋と資材倉庫がある。


 俺達が居るのが4Fの資材倉庫なのだがやはり空気は淀むし、狭いし寒い。


 皆と相談だな。




「3階に拠点を移そうと思う、畳の方が温かいし寝るのにも良いと思う」


 皆も賛成のようだが、リスクのことまで考えが足りてないようなので説明する。


「あまり分かっていないようなので補足するけど。ここの方が安全性は遥かに高い。階が下がればそれだけ音も匂いも外に漏れやすくなるし、ここと違って夜間に明かりを付けたら光が外に漏れるので場所を知らせることになる。音に関しては俺の魔法で消せるので心配ないけど、光漏れの対処はまだできていない。それでも3階に行くメリットはあると思うけど、ここより更に注意がいるってことは理解してほしい」



 話し合いの結果、俺達は3階の階段から一番奥の茶道室を拠点にすることにした。

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